226.魔神大戦 正体
「行くぞ! 魔神バロン!」
俺はバロンに向かって駆け出す。しかし、バロンはニヤニヤと笑みを浮かべたまま玉座から動かない。
「ふん、まずは私をここから動かしてみろ」
舐めやがって。そういう事なら遠慮無くやらせてもらう。
「ライトニングスピア100連!」
俺はバロンに向かって雷の槍を連続で放つ。それを見てもバロンは避けるそぶりを見せずに、腕を下から上へと縦に振るだけ。
すると、地面から黒い物体が現れる。ドロドロとした人型のナニカ。ジークたちが残った部屋から溢れ出て来た魔兵に似ているが、あれとはまた雰囲気が違う。それが5体。
「ドッペルゲンガー。いけ」
バロンの指示で、手を様々な武器に変えて雷の槍を打ち落す。そのまま俺へと攻めて来た。まずはこいつらを倒せってか?
それにしても、こいつら武器自由すぎるだろ。剣に槍に戦鎚、弓矢に両手を鎌とか。カマキリかよ! だけど、そんな事を気にしている暇はない!
「どけぇ! ライトニングボルテックス武器付与! 雷撃の滅槍!」
剣を振りかぶってくるドッペルゲンガーを避け、ガラドルグの効果で威力の増した雷撃の滅槍をぶつける。ドッペルゲンガーは剣で防ごうとするが、剣ごと貫く。
その後ろから矢を放ってくるドッペルゲンガー。隙をついたつもりだろうが、既に予知眼でわかってるんだよ。
俺は振り向かずそのまましゃがんで避けて、空間魔法、ワープを使う。俺の視界の範囲を移動できる短距離空間魔法だ。俺は弓のドッペルゲンガーの背後に飛び、首? らしきところにガラドルグを突き刺す。
横から槍をついてくるのを体を逸らして避け、上から戦鎚を振り下ろしてくる。俺は後ろへ跳んで避けるが、戦鎚のドッペルゲンガーはそのまま振り下ろした。そして巻き込まれる弓のドッペルゲンガー。槍のドッペルゲンガーは俺と同じように避けたが。
そして、目の前からは、両手を鎌に変えたドッペルゲンガーが。左の鎌で切りかかってくるのをしゃがんで避けて、下から切り上げてくる右の鎌をバク転で躱す。こいつ、他のドッペルゲンガーより動きが良い気がするんだが。
両鎌のドッペルゲンガーは更に追撃をしてくる。俺の両横からは戦鎚と槍のドッペルゲンガーも。ちっ、こんな奴らに構っていられないんだよ!
「うっとおしい! 光天ノ外套!」
俺の背には光り輝く外套が現れ、一気に戦鎚と槍のドッペルゲンガーに向かう。戦鎚のドッペルゲンガーは受け止めようと踏ん張り、槍のドッペルゲンガーは外套を避けようとするが、当然そんな事はさせない。
戦鎚にぶつかりドッペルゲンガーは耐えようとするが、耐え切れずに吹き飛ぶ。そのまま外套で押し潰す。槍のドッペルゲンガーも避けるが、今の光天ノ外套は俺が操作している。だから延々と後を追う。
そして、避け切れずに外套がドッペルゲンガーの腕を捉える。そのまま槍のドッペルゲンガーの体に外套が巻き付き、地面に叩きつける。
「ーー!」
両手鎌のドッペルゲンガーは、その間も攻撃をしてくるが、全て外套が弾く。その間に俺はガラドルグに魔力を溜める。外套が両鎌を捕らえると同時に
「黒雷の激槍!」
黒雷を纏う槍が両鎌のドッペルゲンガーを貫く。貫いた瞬間、ドッペルゲンガーに黒雷が迸り、これでもか、というぐらい焼く。
ボロボロと崩れ落ちるドッペルゲンガーの成れの果てを横目に、バロンの方を向く。奴はまだ玉座でニヤニヤとしている。
「どうだ。立つ気にはなったか?」
「いや、まだまだだな。ようやくスタート地点に立ったぐらいだ。次はこいつだ。来い、グラディエル」
グラディエルだと? グラディエルって、前の部屋で師匠と残っているはずだが? まさか、師匠が!?
そう考えている間に目の前に漆黒の魔法陣が現れる。そして、中から出て来たのは一本の大剣だった。あれがグラディエル? ただの剣では? しかし次の瞬間
ギョロ
と、大剣の鍔の部分で目が開いた。な、何だあれは? バロンは再びドッペルゲンガーを召喚して、その大剣を持たせると、大剣から魔力が吹き出し、ドッペルゲンガーに取り憑いて行く。その中から現れたのは、漆黒の鎧を着た魔王だった。
◇◇◇
アレクシア視点
「それでは行かせて頂きましょうか」
目の前に立っているモノクルを付けた男、アゼル。私はツインベルの感触を確かめるように握り直す。
アゼルは私に向かって駆け出す。速い! レイから事前に聞いていたけど、たしか、あのナイフは切られても傷は付かないけど、痛みだけは走るのよね。気をつけないと。
アゼルは迷いなく私の首を狙ってくる。私は体を逸らして避けるけど、反対の手に持つナイフで切りかかってくる。私はそれを右手のツインベルで受け止め、そのまま後ろに跳ぶ。それと同時に
「ウォーターカッター!」
水魔法を発動。牽制ぐらいにはなるはず。そう思ったけど、アゼルはそのまま進んできてナイフで切ってしまった。
「甘いですね。その程度では私は止められませんよ!」
くっ、アゼルのナイフをツインベルで受け止めるけど、少しずつ押されてくる。そしてナイフが肩に掠る。その瞬間
「痛っ!」
肩に痛みが走る。切られた感触は無いけど、ただ痛みだけが体に感じる。本当に厄介ね!
だけど、私も負けられない。ナイフを受けながら私は水魔法、ウォーターバレットを放つ。当然この程度はアゼルには効かない。ナイフで切られるだけ。だけど、その間に私はアゼルに接近する。
左のツインベルで切りかかる……と見せかけて、右の横薙ぎ。アゼルは焦った様子もなく受け止めるけど、左のツインベルの切りかかりをそのまま突きに変えて放つ。
左のナイフで反らしながらアゼルは切りかかってくる。それを私はしゃがんで避けて、足払いをする。アゼルは跳んで避けるところを両方のツインベルで突く!
だけど、ツインベルを足場にして避けてしまった。なんて身軽なのよ!
「さあ、振り出しですね」
私に向かってニヤリと笑うアゼル。あの笑顔が腹立つわ。