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124.光天ノ外套

 俺はハクを見据えてロウガを構える。ハクはゆっくりと両手に持つナイフを構える。ただ、ハクの存在感が薄くなっているためやり辛い。


「しっ!」


 そう思っていたら、まさか真正面からハクは攻めてくる。ナイフで躊躇無く俺の喉を狙ってくる。だが、狙ってくる場所がわかるなら対処もしやすい。


 俺は迫り来るナイフをロウガで弾き、連続で突きを放つ。ハクは見た目通りスピード重視の攻撃を繰り出してくる。ナイフを受けた感覚も軽かった。だけど


「ちっ!」


 ハクの魔法の真骨頂はやっぱり影の中を移動できる事だろう。存在感を薄くする能力と合わせて目の前で消えた様に見える。速いとかではなく、ただ消える様に感じるのだ。そして周りは住宅街で建物が多く、今日の夜は雲ひとつない。


 月明かりが遮るものなく輝いている為、そこら中に影がある。この中の何処からハクが出てくるのかがわからない。そしてこの影は


「やっぱり!」


 地面から部屋の中と同じ様に影の棘が突き出てくる。ハクの魔法によって全ての影がハクの武器となる。なかなか厄介だな。俺は大軍と戦っている様なものだからな。


 地面から飛び出る棘を俺は走って避けるが、避けた先から再び突き出てくる。いつ何処から出てくるかわからないものほど厄介なものは無い。察知系も出てくる瞬間まで反応しないし。


「やっ!」


 うおっ! まさか、影の棘からハクが出てくるとは思わなかった。その中も移動出来るのか。俺は連続で繰り出してくるナイフをロウガで受ける。


 喉を刈ろうとナイフを振り、心臓を突こうとナイフを突き出す。どれも当たらないのなら、避けられない様に手足を攻撃してくる。そして逆にこちらが攻撃しようとすると、ハクは影の中へと逃げ込み、影での攻撃をしてくる。


「……本当にやり辛い」


 そして、ハクの速度が少しずつ上がっていっている。影の中を移動する度に。これも何かの能力なのだろうか。


『レイ様わかりました』


 影の中から出て攻撃しては、再び影に入るを繰り返すハクを、受け流しながら攻撃する機会を伺っていたら、頭の中にライトの声が響く。戦闘が始まる前にライトにお願いしていた事がわかったみたいだ。


「それでどうだったんだ?」


『ハク様にかけられている魔法は、どれも闇魔法で、ファントムペインとバーサクレイブです。

 ファントムペインによって、ハク様のトラウマを呼び起こしたのでしょう。それだけでも普通の人間なら発狂してしまいます。

 あの魔法は、どの傷を呼び起こすか選べるものではなく、過去に受けた傷全てを思い出させます。その分、数分ほど対象者に触れないといけないなどのデメリットもありますが……』


 ……そのデメリットも、ハクを育てていた奴からすれば簡単にできただろうな。


『そしてバーサクレイブは、対象者の意思に関係なく、戦わせるための魔法です。ファントムペインと同じデメリットはありますが、効果は見た限りです』


 目を虚ろにして、俺にナイフで切りかかってくるハク。……自分の意思に関係なく戦わされる。……辛いだろうな。……痛いだろうな。


「ライト。断ち切る者でいけるか?」


『大丈夫です。どの様な魔法がかかっているかはわかりましたので。ただ……』


「ああ、ハクを捕まえなければな」


 影の中を縦横無尽に駆け巡るハクを捕まえるのは相当困難な事だ。影を無くせば良いのだが、それはそんな簡単には出来ない。それなら


「ライト、アレをやるぞ」


『わかりました。魔力をいただきます』


 そしてライトはおれから魔力を吸収していく。いつ何処から出てくるかわからないハクを捕らえるにはこれしか無い。俺はハクの攻撃を避けながらライトの魔力が溜まるのを待つ。


 時折出てくるハクの顔を見ると、表情はマントで隠れてわからなくて、俺の思った感じだが、かなり苦しそうだ。無理矢理戦わされている上に、トラウマを呼び起こされているんだ。かなり辛いだろう。


『いけます、レイ様!』


「わかった、発動!」


 そう思っていると、ライトの声が頭の中へと響く。そして俺は直様発動する。ハクを止めるための魔法を。


「光魔法、光天ノ外套(コウテンノガイトウ)!」


 俺がレベル9の光魔法、光天ノ外套を発動させた瞬間俺の背中が光り輝く。そして現れたのは、俺の体を包む白く光り輝く魔力のマントだ。ハクの様に頭まで全てを覆うマントでは無く、軍服のみたいに肩からかける様なマントだ。


「っ!」


 俺がレベル9の魔法を発動したのがわかったのか、ハクは影の中から出てきて、俺から距離を取る。俺を警戒するハクとは逆に俺は構えを解く。


「何処からでもかかって来い」


 その姿を見たハクは、怒りの様な声を上げるが、突っ込んでくる様な真似はしてこない。本能的に危険と察知しているのかもな。それなら


「来ないなら、こっちから行くぞ!」


「っ!」


 俺はハク目掛けて駆け出す。その事に驚いたハクは影の棘を大量に地面から飛び出させる。目に見えるだけで数百は下らないだろう。後ろから、そして建物から出てくる分も含めれば数えるのも面倒な程だ。だけど、俺には関係ない。ロウガを構える事なくそのまま突き進む。


 そして、幾百もの影の棘が俺に突き刺さる……とハクの目には見えるだろう。だが


「蹴散らせ」


 おれの背にある光天ノ外套が全ての影の棘を防ぐ。光天ノ外套とぶつかった棘は、貫く事が出来ずに折れて消滅する。次々と迫り来る影の棘を、光天ノ外套は近い順から防いで行く。俺は突き進むだけで自動で。


 これが俺が新しく考えた光魔法『光天ノ外套』だ。


 この魔法は七魔将のギルガスの魔法を参考にした。ギルガスの魔法『黒腕の巨装(ヘカトンケイル)』はギルガスの魔力探知の範囲に入った敵を自動に追撃する腕を何十と出していた。俺はそれを参考に新しい魔法が作れないかと考えた。


 そして2ヶ月前のゴブリン討伐だ。あの時、雷装天衣を使えば倒せていただろうが、他のみんなを巻き込む可能性もあった。だからと言って1人で突っ込んでも、途中で体力が持たなかっただろう。


 そこで考えたのがキャロの障壁だ。あれに近い物を常時発動すれば大軍の中を攻めても耐えられると。そしてライトと試行錯誤する事で出来た魔法が『光天ノ外套』だ。


 能力は俺の魔力探知、気配察知に反応した攻撃または敵を自動防御、自動迎撃をする。もちろん俺の意思で動かす事も出来、この魔法で攻撃する事も可能だ。


 ゴブリン討伐の夜にこっそり抜け出した時は、この魔法を使うと、立っているだけで全滅させる事が出来た。ゴブリンたちは勝手に攻めてくるし、攻めなくなっても俺の感知の範囲内に入れば自動で攻撃してくれる。まあ、距離が遠くなる分魔力消費が多くなるのだが。


 ただ、この魔法の欠点が、自動モードにしていると、範囲に入るもの全てに反応する事だ。だからもし味方が近くにいれば、自動で迎撃してしまう。今は感知の範囲を半径5メートルほどに抑えて発動している為、なんともないのだが、遠くにいる場合は使えなくなる。これも今後の課題だな。


 その上絶対防御というわけでもなく、俺の魔力以上の攻撃は、突破されるだろう。……良し。次の棘が最後だな。俺はそのまま突っ込む。


「!!!」


 影の棘が突き刺さり死んだだろうと思った相手が、影の棘を突き破り現れたので、ハクは驚きの表情を浮かべる。あの状態でも驚くんだな。


 俺はその隙を見逃さずに、光天ノ外套をハク目掛けて伸ばす。ハクは影に逃げようとするが


「逃がすか! ライト!」


 俺はかなりの魔力を入れたライトを発動する。これにより辺り一面が真っ白になる程、目を開けておくのが辛くなる程の光を放つ。黒い影も全て白に染まる。


 俺は目では見れないが気配察知と魔力探知でハクの居場所を探す。ハクは目を抑えてその場から動かない。そして


「……捕まえたぞハク! ライト『断ち切る者』を!」


『了解しました!』


 光天ノ外套でぐるぐる巻きにしたハクを俺の側まで引き寄せ抱き締める。そしてそのままライトが断ち切る者を発動する。ぐっ! 今回の魔法はかなりきつくかかっているのか、ライトが持って行く魔力の量が多い。そしてハクも苦しいのか雄叫びを上げる。


「ああ、ああぁぁぁああ!」


「ぐっ!」


 あまりの苦しみにハクも暴れる。その時に脇腹にナイフが刺さるが、今はそんな事を気にしている暇はない。そして


 パリンッ!


 と何かが割れる音がするのと同時にハクの力が抜けて行く。……かなりぐったりしているが大丈夫だろうか? 俺の目も少しずつ慣れてきて目を開けるとそこには


「お、にぃ……?」


 ぐったりとしながらも俺をしっかりと見ているハクが俺の腕の中にいた。


「気分はどうだ?」


「あた、ま、い、たい」


「そうか。俺が看病してやるから今日はゆっくりしろ」


 俺がそう言いハクの頭を撫でてあげると、ハクは嬉しそうに頷き、そのまま眠ってしまった。


 戦いの音が止んだからなのか、家からエアリスたちがやって来て、王宮からは兵士たちが走ってくる。みんなには色々と話さなければならないが、今はそんな事よりハクを見て上げないとな。

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