クッションづくり
午後からはハクの毛を使って、ひとりと四匹分のクッションを作ることにした。ゆうに五人分を作れるほどの毛が抜け落ちたのだ。余った毛は行商人に売ってもいいかもしれない。モフモフのハクの毛は、冬は暖かく夏は風通しがよいとのことで、重宝されるのだ。
部屋の中央に敷かれたカーペットの上に座り、針と糸を持つと作業を開始した。
裏返したウール生地のまわりを調子よく縫ってゆく。これでも生まれてこのかたずっとメイドをしていたのだ、裁縫はお手の物。
とはいえ厚手のウール生地を、ハク用の大きなサイズも含めて五個も手縫いするのでは、さすがに指先が痛くなってきてしまう。もっと便利な道具があればいいのにな、などと思う。
好奇心旺盛で賢いコメがモフモフの身体の隙間から小さな足を覗かせて、布をちょんちょんと触る。縫い終えた布が押し寄せてくるのがおもしろいようで、ぺたっと片足で踏んでしまう。
「あ、だめだよコメ、布が動かなくなっちゃう」
手を止めると、「くぅん」と鳴いてコメは真っ黒でつやつやの瞳でこちらを見上げた。まるで、わかった、と言っているかのようだ。
ハクはカーペットの上に寝そべって規則的にしっぽを振っている。しっぽがカーペットに当たるたび、ぱたんぱたんと音がする。
シラタマは部屋の隅に山盛りになっているハクの毛に、頭から突っ込んで遊び始めた。コムギがふわふわの毛の一片を前足でつついている。
「ああっ、散らかるからやめて」
私は慌てて裁縫の手を止め、シラタマを抱え上げた。モフモフと小さく動いたあとシラタマはおとなしくなり、ぺろぺろと私の頬を舐め始めた。
「もうっ、そんなことでほだされないんだから!」
なんて言いつつ、私はシラタマのかわいい仕草にメロメロだ。
コムギも足元に寄ってきたので、二匹まとめて抱え上げる。モフモフと腕の中で動く二匹は最高に温かい。二匹を部屋の真ん中のカーペットの上に着地させると、ハクがくぅんと鳴いたので頭を撫でてやる。
「ありがとうハク、ハクのおかげであったかいクッションが作れそうだよ」
そうしている間にコメが針に興味を示したので、危ないと思いこちらも持ち上げる。ハクはおとなしくしていてくれるが、妖精たちが三匹も気ままに動き回るので、なかなか作業が進まない。それでも時間はたっぷりあるし、みんなとってもかわいいので、叱るなんてことは到底できないのだ。
「ほら、カバーができたよ」
三辺を縫い、残りの一片は開けておき、クッションカバーが五つ完成した。ひとつは他の倍の大きさがある。ハクのぶんだ。
「できた」という言葉に反応したのか、みんながぱっとこちらを向いた。期待に満ちたまなざしを向けられて、カバーを掲げて見せてやる。
白くてウール生地のもこもこは、これだけでも十分あたたかそうだ。それでもさらにこの中に暖かいハクの毛を入れるのだから、考えただけでぽかぽかだ。
ちなみのこのウール生地も、行商人からお礼でもらったもの。
私が買うのはもっぱら、畑で獲れた野菜と交換できる酪農品や調味料など、ちょっとした食品の類なのだ。
次はこれに、名前を刺繍してゆく。白い彼らとクッションに映えるように、紅の糸を使って、今度は手作業。ハクもコメ、シラタマ、コムギたちも、興味深そうに私の手元を覗き込んでいる。
「危ないから、触らないでね」
そう言うと、それぞれわんと返事する。本当にお利口ないい子たちだ。
名前を刺繍し終えると、次は毛を詰める段だ。
コムギがとてとてと走ってきて、カバーの端を咥えた。催促するようなその仕草に応えて部屋の隅へ五つのカバーを持っていき、ハクの毛を詰め始める。気付けばみんな、私の周りに寄ってきていた。
コメが前足でハクの毛を集め、一握りの山を作ってくれる。
「ありがとう、コメ。助かるよ」
「わんっ」
それに倣ったのか、ハクも毛の山から口で一抱えを運んできてくれる。
私はハクが運んできてコメが作ってくれた山を、次々とカバーの中に詰めてゆく。やがて、ハクの毛でぱんぱんになったクッションが五つできた。残った辺を縫い、抱き締めてみると熱を発するかのように温かい。
コメ、シラタマ、コムギにそれぞれのクッションを渡してあげると、前足でふみふみしたり、抱き付いて転がったり、うたた寝を始めたりしてめいめい遊び始めた。
「あとはハクのぶんだね」
ハクは立ち上がり、しっぽをぱたぱたと振っている。
さて、この中にモフモフの毛を詰めなけば。カバーが大きいから、ちょっと難しいかも。
そう思っていると、カバーの対角線側の端を、ハクがぱくりと咥えてくれた。これで大きなカバーを大きく開くことができる。
「ありがとうハク、えらいね。これであったかいクッション作れるね」
生地を咥えたままでハクは、わふと小さく返事した。
カバーに毛を詰めていると、コメ、シラタマ、コムギが寄ってきた。それぞれに毛を咥えて運んできてくれる。ハクのぶんのクッションには大量の毛が必要だから、とっても助かる。
「ありがとう、みんな。優しいね」
「きゃんきゃんっ」
こうして、ハクのクッションも完成した。ハクに渡すと、待ちわびていたかのように、ぽふっとその上に臥せた。
「きゅうーん……」
頭をつけて、ごろごろと喉を鳴らしている。犬だったらごろごろ言うと病気が心配だが、聖獣のハクは気持ちいいときにこうやって鳴く。
「ふふ、気に入った?」
「わふっ」
頭を撫でると、赤い舌を出してぺろっと手を舐めてくれる。
「よかったあ」
コメ、シラタマ、コムギも自分のクッションを持って集まってくる。私も自分のクッションを抱いて、頬ずりしてみる。ウールのカバーは暖かいし、中ではハクの毛が発熱しているように温かい。
「みんな、おそろいだね」
「わん!」「きゃん!」「くぅん」「わふっ!」
みんなで声を合わせて笑い合った。
──本当に、幸せだなあ。メイドとして苦労していたことが嘘みたい。明日も明後日も、ずっとこんな日が続くといいな。
そう思っていると、ハクがぺろっと頬を舐めてくれた。膝の上にはコメ、シラタマ、コムギも乗って来てくれる。
「わ、定員オーバー!」
そう言って私は笑い出す。私は間違いなく、世界一、幸せだ。
【連載化!】作者がお話を気に入ったため、このまま連載として続きを書いていくことにしました!のんびり更新していきますので、ぜひ覗いてみてください。毎週金曜日19時に更新予定です。




