歓迎の調べ ~選ばれし道の序曲~
1. 騒がしき歓迎と異能の真実
期末テストが終わり、校庭から聞こえる部活動の声に夏休みの足音が重なる放課後。
陽翔は少し緊張した面持ちで「娯楽研究会」の扉の前に立っていた。
(……いざ入部するとなると、急に足が重くなるな……)
意を決してドアノブを回した瞬間——。
パァン! パァン! パァン!
けたたましいクラッカーの音が響き、色とりどりの紙吹雪が舞い散った。
「先輩! 入部おめでとうございますっ!!」
「ようこそ、SAPT同好会へ。待っていたぞ、君」
「……おめでとう」
視界が晴れると、三人が手作りの『陽翔くん入部おめでとう!』という可愛らしいメッセージプレートを掲げていた。そしてその奥には、なぜか鮮やかな戦隊ヒーローのジャケットを羽織り、腕組みをして仁王立ちする大暮先生の姿があった。
「……え、あの……こんな大げさな歓迎会、しなくても……」
期末テストが終わった直後、茜にSAPT同好会へ入部することを伝えた時のこと。
『……そうなんだ。陽翔ちゃんがやりたいこと見つけたなら、私は嬉しいよ』
茜はいつものように優しく微笑んでくれたが、その瞳の奥にはどこか拭いきれない寂しさが滲んでいた。
そして、かつて椿から投げかけられた言葉が脳裏をよぎる。
『お前、本当にただ流されて大学に行くだけでいいのか?』
ただトラウマから逃げ続けるだけの自分に別れを告げるため、陽翔は自分の意志で部室の扉を開けたのだ。
部室のテーブルの上には、ケンタッキーのフライドチキン、山盛りのポテトチップス、大容量のジュースやお菓子が所狭しと並べられていた。
「これでついに5人揃った! これより異能戦隊『異能ジャー』が本格始動するぞ! 君の戦隊服ももう用意してあるが、早速着てみるか?」
「え……い、遠慮しておきます……」
(陽翔、ドン引きのギャグ顔で後ずさりする)
「遠慮なく食べてくれ。今日は君のために用意したんだ」
「先輩の隣、ゲットです!」とぴったり距離を詰めて座り、その横では魔那美が無言のまま怒涛の勢いでお菓子を口へ放り込んでいる。
「魔那美さん……! 俺の分も少しは残してください……!」
賑やかな宴がひと段落した頃、大暮先生の表情がすっと引き締まり、重要な事実が明かされた。
この街にはまだ発見されていない「最後のSAPT(SA)」が存在すること。そして、敵は異形であるAG(agressor)だけでなく、並行世界からの不法侵入者や、利害関係で対立する異星人なども存在しているということ。
「……この戦いは、一体いつになったら終わるんですか?」
「……AGを統べる『根源の存在』を倒さねば、終わらんな」
2. 覚悟の確認と能力の境界
歓迎会が終わり、片付けをしながら翠が静かに陽翔に問いかけてきた。
「どうして急に心変わりした? あれほど頑びなに拒んでいたというのに」
「……この前の戦いで、自分が何もできないのを思い知らされたからです。……せめて、自分の身くらいは自分で守れるようになりたくて」
翠はどこか温かい眼差しで微笑み、目を細めた。
「それだけではない気がするが……まあいい。他人の胸の内に野暮な深入りをするのは無粋だな。……ところで、君の異能について詳しく確認させてくれ」
「ただの手品ですよ……」
陽翔が少し自虐的に笑うと、翠は即座に真剣な面持ちで打ち消した。
「違う。君はもう、立派な『AS(特殊能力者)の眷属』の一人だ」
そう断言され、陽翔は一瞬、複雑そうな表情を浮かべた。(まだ自分の力を『手品』以外の特別なものとして受け止めきれていない様子)
翠里が「ところ、君の異能の詳細について確認させていただきたいのだが―」と言うので皆で能力について確認しあう
「有効範囲は視界に収まる約20mくらいまでですね。いつも感覚で使ってるから、きっちりじゃないですけど……」
「20mか。意外と短いな」
翠が腕を組む。
「はい。しかも重いものほど負担が大きくて……」
「スズメ程度なら転移できるんだったわよね」
魔那美が口を挟む。
「でも、猫や人間ほどの大きさになると難しい、と」
「そうなんです。それと、一度使うと30秒くらい休まないと……連続で使おうとすると、めまいがするんですよ」
「なるほど。連発もできないか」
翠が考え込む。
「あと、発動する前に数秒くらい念を込める必要がありますよ~」
結愛がトライテールをいじりながら付け加えた。
一通り情報を共有しあった後、翠里が本から目を落としながら
「今のままでは実戦での使い勝手が悪い。だが覚醒したばかりだ、伸びしろは十分にある。どうだ、私の元で特訓してみないか? 最低限の護身魔術なら仕込んでやれる」と言う
「だめですっ! 委員長の魔術なんかより、うちの暗殺術を教えた方が絶対に役に立ちますよ!」
二人がバチバチと陽翔を奪い合い始めた結果、「東洋魔術と護身暗殺術を並行して学ぶ」という妥協案に落ち着いた。毎週日曜、近くの総合公園で特訓を行うことになる。
「休日までこの賑やかな面々に振り回されるのか……」
日常のルールとして、普段は「娯楽同好会」として放課後を自由に過ごして良いこと(安全確保のため可能な限り顔を出すことが推奨される)、ただし不定期で開かれる「緊急会議」には必ず出席することが決められた。
大暮先生、翠、魔那美、結愛と連絡先(スマホの電話番号)を交換する。
「AGや敵対勢力、怪しい人間を見かけたら、どんな小さなことでも必ず連絡するように」
「わかりました」
3. それぞれの夢と、重なる足音
片付けも終わり、全員が「そろそろお開きにするか」と立ち上がる。
「じゃあ、俺はそろそろ帰ります……」
部室を出る間際、陽翔は「あの……受験勉強もあるので、そっちを優先させてもらえると助かります」と申し出た。
「うむ。学生の本分は勉学だからな。ちなみに陽翔、どこの大学を目指しているんだ?」
「誠峰大学です」
「ふむ、そこそこ堅実な中堅大学だな。今の君の成績なら十分合格圏内だ」
「逆に委員長はどこを目指してるんだ?」
「私は将来、検事になりたくてな。一応、帝東大学を目指している」
「て、帝東って……あの最難関の!? 委員長は実家の東洋魔術を継ぐんじゃないのか?」
「もちろん魔術師としての道も続ける。だが、治安を守るためには法的な観点からも世の役に立ちたいと思ってな」
翠は凛とした表情でそう語り、「陽翔は、将来なりたいものは決まっているのか?」と問いかけた。
「俺は……まだ決まってなくて——」
「結愛の旦那さんとかどうですか!?」
「いや……遠慮しておきます(汗)」
(主人公、即座にギャグ顔で突き放す)
「わたしは……部屋で……ねっころがっていたい……」
と隣で魔那美がボケを入れる。
和やかな笑いに包まれながら、部活はお開きとなった。
◇
帰り道、夕闇が迫る街並みを歩きながら、陽翔は茜に電話をかけた。
「今日、正式に入部したよ。……土曜日は今まで通り、一緒に勉強会できるように時間作るから」
『うん、わかった。でも……あまり無理はしないでね』
電話越しに聞こえる茜の声はどこか心配そうだった。きっと、陽翔の過去のPTSDのことや、無理をしていないかを気遣ってくれているのだろう。
「それじゃ、また明日」と告げて電話を切った後、陽翔は止まり、初夏の夜風が吹き抜ける空を見上げた。
「……この前みたいに、何もできない自分は……もう嫌だ」
ぽつりと呟いた言葉には、過去を乗り越え、大切なものを守るために歩み出した少年の、確かな強さが宿っていた。
夜風が少しずつ熱を帯び、本格的な夏の訪れを告げる―




