47.白薔薇と共に
「この日が来るまで長かったわ」
「そうですね。婚約から結婚となったら内乱に突入しましたし。内乱が治まったら旦那様が投獄されたり。そういえばオンラード様の婚約騒ぎもありましたね」
「あらサージュの出産が抜けているわ。今日は、ディーンはご機嫌かしら」
婚約のために帝都に行ったあの時、サージュは妊娠していた。そしてその時の子どもは、すくすくと成長している。
「ディーンは、朝からご機嫌ですよ。エルメス様のベールボーイをするんだとカルノーに自慢していましたわ」
「あらそれではとても綺麗な花嫁にならなければね」
「間違いなくエルメス様は、お綺麗です。あら」
元気なノックに返事を言えばカルノーとサージュの息子ディーンがいた。
「エルメスしゃま、おじかんだっておじいしゃまが言ってまちた」
「伝言ありがとう。ディーン」
「ほらディーン、ここを持って。途中までお母さんと一緒ですけど扉に入ったら教えた通りにするのよ」
心配するサージュの顔は、完全に母の顔だ。エルメスもそのような顔になるのだろうか。
「やぁ、エルメス。父親役は、俺でよかったのかな」
祭典用の服に身を包むのは義兄のグッチだった。
「私にとって義兄さんは、第二の父ですわ。あの時、姉と私を助けてくれてありがとうございます」
「こちらこそ綺麗で賢い奥さんと同じく綺麗で賢い娘を持てて光栄だ。さぁ、行こう」
グッチに差し出された腕を取り会場へ足を進めた。
「「おめでとう!」」
白薔薇がヴェール越しでも舞っているのが見える。ひらりひらりと回り落ちるのは、とても美しい。たくさんの祝いの言葉と共にエイダーの前へと立った。
「あぁ、夢みたいです。初恋の人を妻に出来るなんて」
「結婚は、二度目ですが今が一番幸せですわ」
「ならもっと幸せになってもらわないと」
エイダーがそういうなら本当にそうなりそうだと笑みが溢れる。そうしていると横から咳払いが聞こえた。
「いい加減、進めてもいいか」
ナルソスは、前皇帝を引きずり落とし皇帝に治まった。皇帝は、帝都のどこかに幽閉されているらしい。
「はい、陛下お願いします」
「では始める」
結婚の誓いの制約者は、通常目上の者が行う。年長者で長年エイダーの執事をしていたオンラードに頼むつもりだったのだが、ナルソスが行うと直筆の書面を送りつけてきた。
エイダー曰く、侯爵家との仲の良さを広めてかつ侯爵家より立場が上だと周知させるためだということ。新皇帝は、地盤固めに忙しいらしい。
「エルメス」
エイダーがエルメスのヴェールを上げた。明るく見通しが良くなった視界は、エイダーの微笑みがよく見える。
「誓いを」
誓いの品は、帝国が周辺諸国を併合したため様々になっている。指輪や腕輪、財産目録の場合もある。エルメスとエイダーが選んだのは、侯爵家の白薔薇だ。エイダーは、クッションに乗せられた白薔薇を手に取るとエルメスの髪に挿した。
「君の黒髪に白薔薇がよく合いますね。白薔薇の虹の虹彩が君の表情みたいです」
「そういうあなたの繊細で豊かな心が白薔薇に出ているのでしょう」
エルメスは、エイダーの胸元へ白薔薇を挿した。最後に婚姻書に記名し、晴れて夫婦となった。
領民にも喜ばれたが振る舞い酒と料理に喜んでいたのかもしれない。それでもエルメスとエイダーは、領民が怯えず笑えていることに満足していた。




