最終 変わらず愛しているわ
「アフェクシオン侯爵様、お力をお貸しください」
「僕にお貸し出来る力などありません。シェイライア嬢」
エルメスの前にいるのは、ジャンと決別した新年会で出会った少女だった。あれから月日が過ぎて少女は、立派な貴族女性となっている。
「近い未来に帝都で皇帝を降ろす反乱が起きます」
シェイライアの言葉があまりに衝撃的過ぎるためエルメスは、表情を隠すのに苦労した。反乱が起きかねないほど民衆が飢えているのを知っていた。しかし起きると断言出来るのは、シェイライアが反乱を起こす側だということだった。
「食料不足におちいっている帝都を救いたいのです。コーセル国と戦うのではなく助けを求めなれば民は飢えたまま。皇帝は乱心しています」
「皇族と繋がる一族である僕にそんなことを言って無事に済むと思っているのですか」
アフェクシオンの起源を考えれば皇帝よりに思われてもおかしくはない。それに皇帝は、アフェクシオンの節目を祝っているため親密だと話されている。
「私が憧れたアフェクシオン夫妻は、領民を大事に豊かにしています。難民も領地に落ち着いて生活するなら領民でしょう」
シェイライアが握る手には、以前会った時になかったペンだこが見えた。それに若さのきらめきに力強さがある。
エイダーが大きなため息を吐いた。
「反乱の収束後は、誰が帝国を治めるのですか。軍系の第二皇子、もしくは経済に強い第三皇子。芸術で民を魅了する第四皇子ですか」
「いいえ、私たちは第五皇子の主導で動いています。ですが第五皇子は、帝位につかず併合していった国を自治区とし議会制にすると言っておりました」
「第五皇子が?」
第五皇子は、優秀な兄に埋もれている皇子であり、皇帝が貴族でない女性との間に出来た子どものため地位が低い皇子だった。エルメスも一度会ったことがあるもののまるで人形のようだと評価していた。
それに議会制にするというのは、賛成出来るが古い貴族が頷くはずがない。
「私も対面で話すまで疑わしく思っていました。でも優秀で行動力があり隠さなければ命の危険があったのだと思います」
「そうですのね。ですが議会制というのは思い切りが良すぎですわね」
宗教国家である隣国が議会制だが、宗教の元皆平等を掲げるからこそ成り立っている。反乱を起こし貴族を減らすなら優秀な平民を入れる見込みがある。
「それと皇帝派は、理由をつけてコーセル国と開戦予定でいます。勝てば属国として食料を得られます」
「無謀ですわ。あの国と距離があります」
「かつて賢者と呼ばれ魔法を使う国でもありますね。今でも戦場を一変する魔法を使うとか」
始めてナルソスに会った時は、もっと慎重に事を勧める少年だったというのに青年となると無謀になるのは何故なのか。それとも皇帝となり指摘する人物がいなくなってしまったのかもしれない。
知っている人が転落していくのに手を差し出そうと思えないのは、薄情かもしれない。でも大事なものが増えたエルメスには、身内と領地の方が大事だった。
「僕の家門に徴兵も舟の手配の要請がないのが変ですね」
「そうなのですか?」
シェイライアは、軍事についてわからないらしい。エルメスも詳しく知らないが、アフェクシオン家の歴史書に皇帝に徴兵されたと書いてあった。
そして何よりコーセル国へ攻めるには遠く他国へ跨る陸路か海路しかない。
「何か策があるのでしょう。それでも国が荒れない方法で食料対策をしていただきたいですね。まだここは砂漠に飲まれていませんが」
イムカンの様子を見に神獣ワアドが訪れたときがある。その時にワアドは、帝国見限ったのでこの地を去るのでイムカンを迎えに来たのだった。イムカンも付いて行ってしまうのかと寂しく思っていたが残ることに決めたとワアドに伝えられた。イムカンは、ワアドのような大きさになっていたがエルメスに母親に甘えるようにすり寄っていた。
虎の表情は、理解出来ないがワアドの声音に我が子が離れるのを惜しんでいるのがわかった。だからイムカンは、アフェクシオンで楽しく暮らしている。もしかしたら最後の母心でアフェクシオン領に何かをしてくれたのかもしれないとエルメスは思っていた。
「難民の受け入れだけでよいのですか。反乱するには人手がいるでしょう」
「戦う者がいないので不要です。帝都の兵も皇帝の兵も大半以上が反乱に参加し皇帝を無力化すると返答しています。これが証拠です」
「ジャノルド侯爵家のグリフィルート殿ですね。帝国の大将がそちら側ですか。本気ですね」
「はい、ここで動かなければ駄目ですもの。私は、私が出来る最大の伝手と手段で戦争を回避したいと考えています。そのための反乱ですもの」
争いを回避するための争いを始めようとしているシェイライアたちを愚かだというものもいるだろう。しかし領主という立場では、何も失わず戦わず守れるようなものではない。
「それならばこれをお渡ししますわ。シュルプリーズ商会に預けている私の資産を引き出せます。一筆書いておきましょう」
「そんなものがあるのですか」
「移動先での先立つものや薬その他にも色々入用でしょう」
それにどこでどんなものに使ったかわかれば動向がわかるのでエルメスとしても悪いものではない。
「ありがとうございます。大事に使います」
そこからシェイライアは、難民たちの移動のために帝国へとんぼ返りした。
「エイダー、帝国はどこに進むのかしら」
「わからない。でも僕達は変わらず領民を守る。それに子どもたちもね」
ラルフとローレンという双子の男の子が生まれていた。ラルフは活発でローレンは、優しい性格をしている。ディーンをお兄ちゃんと呼び元気に遊んでいる。
「皇帝主催のパーティーで何か起こるかもしれませんから気をつけないといけないね」
「帝国中の貴族が集まる建国祭で何か起こすでしょうか」
などとエイダーと話していたのだが、パーティーでコーセルの姫が第二皇子と交戦しているのを見てため息が出た。第四皇子が演舞ということにしたらしいが無理がある。
そしてパーティー終盤に第五皇子は、港からのコーセルの姫を逃がしたいと提案したのでエイダーが了承した。
「以前聞いていた印象と違うわね」
「大事な人が出来てなりふり構っていられないんですよ。僕達も巻き込まれないうちに領地へ帰りましょう」
「えぇ」
それから少ししてコーセル国との戦争が始まったが第五皇子の反乱で収束した。その後訪れたシェイライアから聞いたところ、コーセルの姫が亡くなってしまったと聞いた。御伽噺のようにうまくいかないのかと思ってしまう。
「今後は、皇帝ではなく民衆から選ばれた議員を選びそこからさらに国を象徴する人物を選ぶことでまとまりました。つきましてエイダー様とエルメス様を議員に推薦されたので議員になりませんか」
エイダーとエルメスは、互いに顔を見合わせた。エルメスの予想と希望通りなら同じ思いのつもりだ。
「辞退します。アフェクシオン領ではなくなってもここは大事な場所ですから」
「エイダーの言う通り私たちはここで頑張ることに決めたのよ」
大事な子どもたちと家人や友人がここにいる。何よりエイダーがこの場所を気に入っていた。
「そうですか。お二人がいれば心強かったのですが仕方ないです」
シェイライアは、残念そうにしていたがその後議員に選ばれた後に大統領に選出されて忙しくしている。
「自治権は、無くなったけれど旧アフェクシオン領の調整官になれてよかったわ」
目線の先には、今日もエイダーのくれた白薔薇が咲いていた。
長いことお付き合いいただきありがとうございました。これにて完結ですがそのうち後日談や外伝など更新出来たらと思います。




