45.いらないそうですわよ
エルメスが言い切ると乾いた拍手が会場に響いた。この場で最も尊いスルファム帝国皇帝が、玉座に座り見下ろしている。
「素晴らしい夫婦愛だ。あぁ、まだ婚約だったな。アフェクシオン侯爵」
アフェクシオン侯爵とエルメスは、皇帝へ臣下の礼をした。皇帝が婚約を認めているという姿勢のためだろう。
「私が話を聞きたい者たちが揃っているようだな。まずコレール伯爵、お前は本日行った授与式が不服だったと聞いている」
「そのようなことはございません」
青ざめた顔と言いますが本当に人の顔は青くなるのですわね。ジャンの顔は、青ざめ目をさまよわせている。帝国で皇帝の決定は、絶対である。
「そう思ってくれるか。ならばコレール伯爵家が侯爵家になることはない、という判断も理解してくれるな。金獅子賞もないな」
ジャンは、戸惑っているようだが離縁後に税収が減ったことが原因の一つという。
「侯爵家だったから税収が上がったのではないですか。侯爵家には権力があります」
「権力だけで金が手に入るなら我が家は、国一番の富豪だぞ。そうだろう臣下たちよ」
珍しく同意出来る冗談が聞こえ各所から笑い声が聞こえる。エルメスもつい笑いたくなるが、気を抜けば皇帝の思う壺かもしれない。ジャンを見れば顔が真っ赤いなっている。
「今伯爵領がどうなっているのか理解出来ていないようだ。君の領地で一揆が起きたと連絡がきた。この始末どうつけてくれるのか」
「領兵を直ちに招集し鎮圧を」
一番使ってはいけない方法をなぜとろうとするのか。そもそもエルメスと話した中に民の生活について言及したのに理解出来ていないのか。
「ほうほう、それで原因をそのままにしてまた同じことを繰り返すのか。ここまで愚かだったとは、先代コレール伯爵の苦労が偲ばれるな。それを補助するためのエルメス嬢だったのに本当に救えない」
皇帝は、出来の悪い生徒でも見るように肘掛けに頬杖をつきながらため息を吐いた。
「ですが私は、騎士団長として成果を出しているはずです」
「お前は、まだ何も成果を出していない。軍人が成果を出すということは戦場で勝つということだ。まだ乙女のお前は成果があるといえるのか」
乙女が意味するのは初陣を経ていないということだろう。確かに近年は、戦がなく平和な時が続いていた。それもコレール前伯爵の武勇と人格、皇帝の逆らう者に対する容赦しない冷酷さ故でしょう。
エルメスは、昔面白い言葉を聞いたことに気がついた。
「確かに最近は、情勢が安定していますから戦争がありませんわね。あれだけ人に俺は体をはる仕事だと言っておいてしたことがないとは思いませんでしたわ」
ジャンは、もう言葉すら出せなくなってきた。軍人それも騎士団長となるくらいに体格が良いのも関わらずとても小さく見えた。
「不服そうだな。ふむ、金銭感覚を磨くために辺境砦に行ってもらおうか。ちょうどあそこに騎士団長を移動させたかったから行ってこい」
「辺境!?」
「五年頑張ったら考えてやってもよいぞ」
皇帝は、ジャンが辺境を嫌がっているのを見て面白がっているように見える。エイダーが皇帝は、意地が悪いと言っていたが本当のようだ。
そして喜んでいるが考えるというだけで戻すとは言っていない。
「本当ですか」
「あぁ、考えといてやる」
「辺境に異動拝命します」
ジャンは、どうしようもない夫だったが一度決めたら曲げない所だけはエルメスも認めていた。前伯爵には、よくしてもらっていたから最後に一言。
「コレール伯爵、引き際は大事ですわよ」
哀れすぎて一言言えば馬鹿にするような顔をされた。騎士でなくなれば辺境から逃れられるのに。
「それくらい知っている」
これより後のジャン・コレール伯爵は、歴史上から姿を消した。辺境の任務中戦死したとされているが、字面の通りかあまりの待遇のキツさに逃げ出したかで意見が割れている。
ジャンの後に騎士団長となったのが、次の皇帝となったナルソスの腹心で副騎士団長だったためナルソスの策略とも言われている。




