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無駄使いするデブといいましたか?いいえ必要経費ですわ  作者: 猫田33


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44.節穴に無駄遣いするデブなどいわれてもね

 エルメスが大勢が出席する宴に出席したのは、伯爵家にいたとき以来のため緊張していた。それでも前と違い隣には、共に手をとり歩いてくれる人がいる。深呼吸すればエイダーに手を軽く握られ見上げると微笑まれた。建国のパーティがどんなに大きなパーティでもこの人がいれば大丈夫。


「さぁ、行きましょう」

「はい」


 会場に入れば噂話をしている様子の人がちらほら見受けられる。でも前よりも進む足が軽い。


「僕、君とこういうところを歩けるのが思ったより楽しいです。場違いだと思って来たくないことが多いんですが」

「そうなのですの? とても堂々としていたのでそう思いませんでしたわ」

「年上として余裕な顔を見せたい時もあるんですよ。侯爵はここらへんですね」


 そこからは、さらに高位の貴族たちが並び皇帝が挨拶をしたあとパーティが始まった。華やかで豪華な装飾は、大陸のほぼ半分を治めている帝国の威光を示す意味合いもあるだろう。

 だから様々な立場の人物が多くいる。そう元夫ジャンのような。


「なぜ貴様がここにいる」

「あら、ごきげんよう。元旦那様。私、アクフェシオン侯爵の婚約者になりましたの」


 エルメスは、隣に立つエイダーの腕に手を回しジャンに見せつけた。自分で動くときはなんともないのにエルメスが腕を掴んだだけでびっくりするのはやめてほしい。お互い好き合って婚約したのに慣れていないようではないか。

 しかしエイダーの動揺など気にならないほど目を丸くしてエルメスの顔を見ている。痩せて頬や顎の輪郭が変わったが何をそこまで驚いているのだろうか。


「婚約者だ…と? 痩せて様変わりしても我が伯爵家から侯爵家の財産を食いつぶす気になったということだな」


 鼻息荒くにやにやした醜悪な顔を隠そうともせず話し続けるジャンが滑稽だった。


「とんでもありません、エルメス嬢に来ていただいてから赤字気味だった財政が黒字になりました」


 侯爵家の財政が黒字化するほどのことが出来ただろうかと考えていると、エイダーがエルメスに微笑んだ。


「黄金の女神を拝見出来るならきっと彼女に似ているでしょう」

「エイダー、それは言い過ぎよ」


 黄金の女神とされる女神は、存在しないが幸運や知恵を授ける存在には黄金の女神がいると言われる昔話がある。

 ジャンが足をこつこつと足を鳴らして苛立っているのがよくわかった。



「ところで姉からコレール伯爵領の状態がよろしくないと伺っていたのですが、宴に出る余力がおありなのかしら」

「なぜそれを」


 ジャンは、顔を真っ青にさせている。本当に貴族なのかと疑いたくなるほど顔色と態度に感情が出ている。


「私の生家は、国有数の商会であるシュルプリーズ商会ですわよ。私と離婚後にシュルプリーズ商会を領地から締め出したようですが、商人の情報を甘く見ないでくださいませ」

「まさか一揆の主犯はお前か。この毒婦」


 エイダーが拳に力を入れたのを手で制した。吠えるだけの犬に手を出す必要もない。


「あらあら領地が貧しいのに見栄ばかりはる方に言われたくありませんわ。あなたは騎士団長として稼いでおりましたが、あなたの見栄と屋敷の維持費で全てなくなって領地にかけられるお金がありませんでした。だから貧困で犯罪が多かったのですよ」

「そんな馬鹿な。そんなわけがない」


 何に驚くことがあるのでしょうか。執事長経由で帳簿を渡していたのに見ていなかったのだろうか。騎士団長としての給与は、王都の屋敷の維持で精いっぱい。領地は、国からの補助と税収で工面する必要があるのはわかったはず。

 しかし帳簿を見ていないならジャンの馬鹿さ加減の理由がわかるわね。


「若い騎士を連れて華を愛でに週三日行って奢るなんてことをすればなくなるのは道理ですわ。確かにイベリスは、可愛らしいですが身請けの約束までしてしまうとは」

「なぜそれを知っている」

「イベリスがいる娼館の主のマドンナは、私の知己ですわ。普段決してそのようなことは話さないのですが、私が不憫過ぎると泣きながら話されましたわ」


 王都でお茶会に参加していたが昔からの知り合いにも会って情報収集していた。マドンナは実際泣いていないが、見える範囲の男性だけでもマドンナのファンらしくジャンを睨みつけているのが見えた。


「私は、貧しい伯爵領のため領地資源の見直しと販売方法の強化をしておりましたのよ。昔こそ大粒のルビーやサファイアが出ておりましたが今は小さいものばかり。でもデザイン次第ではとても美しいですわ」


 宝石の大きさが富の象徴なのは変わらないが小さい宝石と欠けた宝石も趣があり美しい。若い御婦人を中心に小さい宝石を使った繊細なデザインが浸透してきている。


「特に牛の質がよろしかったので牛の料理法の宣伝や開発も行っていましたわね。最近では、牛肉はコレール領と言われるほどでしたが知らないでしょう? 食べ飽きたと仰ってましたもの」

「確かに食い飽きたが、みんな似たようなものだろう」

「まぁぁ、牛肉は日常的に食べられませんわ。ましてコレール伯爵に出されるような牛肉は、下級貴族ではお祝いごとでなければ食べられませんわ」

「そんなわけ……ない」


 ジャンの牛肉を食い飽きたなど豪勢過ぎる悩みだ。貧困に困った時期があっただけにとても腹立たしい。


「嘘ではありませんわ。高いからこそ価値があるのですが、高額すぎても買い手がつきません。だから伯爵領の牛の販売が伸び悩んでおりましたわ。それに商品は、常に改良が必要ですのに財政が現状維持で精一杯。私が指示していなかったら一昨年発生した牛の疫病で全滅でしょうね」

「牛の疫病?」

「コレール伯爵、知らないのか。牛が次々と眠るように死ぬ奇病で原因がわからないため、それに罹った牛は、食べないようにと触れが出ていたはずだが見ていないのか」


 疫病も報告していたのに知らないらしい。何も邪魔されず快適だったが何も知らないとは思っても見なかった。エルメスは、手に持っていた扇子を思わず強く握ってしまった。


「まぁ、そうだろうな。我が領地でも問題になった疫病が、コレール領で猛威を振るわなかった原因を調べていた。それでエルメスが指示した疫病対策で広がらなかったと報告されてどれだけ驚いたか」

「まぁ、知ってらしたの?」

「もちろん。だからこそコレール伯爵が離縁したと聞いて、一番大事な薔薇を持って急いで求婚しました」


 本日贈られた白薔薇は、エルメスの髪飾りになっている。そして同じ薔薇がエイダーの胸元にもあり、宴の灯りを受けて柔らかな色合いの色味を見せている。


「しかしそいつが金を生む以上に浪費するのは問題じゃないのか」


 エルメスは、ジャンの情けなさに大きなため息をついた。


「先ほどの話を聞いていましたか。新しいものを作るには資金がいるのですわ。駄目だと言われたので仕方なく食費の名目で出していたのですわ。これで答えになったかしら」

「だがそれらの話は、伯爵領での話だろう。侯爵領の主な産業は、穀物と海洋貿易。違う分野なら完全にお荷物になっているんだろう」


 馬鹿に付き合うのにも飽きたが人が多い宴なのでアフェクシオンでこれから大々的に行う商売の宣伝をしましょう。


「一流の商人というのは、価値がないものを価値あるものにするのですよ。アフェクシオン侯爵領の新事業の開発として海産物の販売をしましたの。魚だけでなく海藻や、そのほかの珍味などね」


 魚の鮮度が落ちやすいもののシュルプリーズ商会が関われば輸送手段が増える。海産物専用車や馬を使用しない輸送方法の開発に踏み出した。

 エルメスがアフェクシオン侯爵領で過ごし痩せていき売れると確信させた。


「それらの食べ物を食べておりましたらこの通り痩せましたの。エイダーは喜んでくれたわ、とても健康的になったって。おわかり? 自分の保身や見栄のためではなく私の心配をしてくれた。そんな人を愛さないわけがないわ」


 離縁してくれてありがとうというのは癪なので、エルメスは今幸せだと笑顔を見せた。



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