43.決戦前
帝国の年前は、新年の宴に向けて大抵の家が大忙しになる。新年の宴には、皇帝を含め年若い皇子たちも出席し次代を担うものを見定められる場でもある。
「最終調整に参りまして正解でしたわ。前よりもお痩せになられて調整が必要ですわ」
「そこまでかしら」
伯爵家で離縁されてからこれまで必要以上に食べたりしなかった上に散歩やエイダーとの遠乗りで痩せてきていた。それでも一般的な帝国の婦人たちに比べれば太っている。
「確かに前は、お腹も出ていて本当に太っておりましたがくびれが出てきて最近流行りのコルセットで締めれば目立ちません。何より痩せても大きいままの胸元は才能ですね」
「あまり減らなかったわね」
貞淑な性格スレンダーな体型が好まれるのでエルメスは真逆だった。
「それがいいんですのよ。侯爵様の好みは存じませんが、華奢な人よりエルメス様のような方のような人がいいという男性がいらっしゃいます」
「そう言う人もいるのね」
エイダーの見た目の好みについて話したことはなかったなと思う。知識や性格を褒められても見た目については言われていない。
デブと言われて離縁されたと言ったから気にして言ってないのかもと思う。でも好きになった人物にもっと好かれたいと思う。
「それにあたくしとしては、エルメス様はシンプルでゴージャスなので新しいデザインを思いついて楽しいわ。がりがりに痩せてると何かアクセントをつけないと地味なのですよ」
「がりがりに痩せているのは、体に良くなさそうね。とはいえ私は、まだ太いですが」
エルメスは、コルセットを脱ぐとまだ出っ張っているお腹をツンツンする。この出っ張りがなければコルセットももう少し楽だろうに。
「エルメス様、大丈夫ですわ。新婚になればきっと痩せますから。おほほっ」
ミラーは、意味深な顔でドレスを回収し出て行った。
「相変わらずお元気な方ですね」
「エイダー。忙しいのじゃなくて?」
年末と年始は、一部を除いて仕事をしない。家族や恋人と年を越して新しい年を迎えるためだ。だからその前後はとても忙しい。
「領地は、ともかく王都で出来ることが少なくてですね。それにオンラードがエルメスともっと時間を作るべきだと仕事を取り上げられた」
「あらあら主人の仕事を奪うなんて有能な執事ね。なら有意義なお休みをしないと」
近くのソファーに二人で座り、テーブルの上に置いてあったお茶を淹れた。何を話そうかと思い先ほどのミラーとの会話を思い出す。
「エイダーの好みの女性ってどんな方かしら」
エイダーは、質問の意図がわからないと言いたげに首をかしげた。
「初恋も結婚相手もエルメスなのに好みを聞かれるのはなぜなのでしょうか。まさか心変わりを疑っていますか。絶対にありえませんよ」
「ここまでよくしてもらってエイダーを疑うなんてないですわ。私、そのもっとあなたに好かれたいと思って」
「なるほど、でも僕の好みはエルメスなのでそうですね。気が強くて、相手を思いやれる優しさがあって、時々自信なさげな顔をしているのが可愛い女性ですね」
「見た目の話ですわ」
「どんなエルメスも好きですが健康でいてくれれば。納得していなさそうですね。それなら僕の好みを知るためにドレスを色々着てみましょうね」
ドレスを着てみるのは、とても楽しいがとても疲れる。エイダーにも色々着せないと割に合わない。
「同じ数だけエイダーも着て下さい。私も見たいので」
そもそもエイダーは、倹約家で服が少なすぎる。そういうところも好きだし、エイダーが派手な方ではないからどんな服を着ても映えると思う。
「そうですね。これから二人で公式行事に出ることが増えるでしょうから楽しみですね」
扉が勢いよく開けられてミラーが入ってきた。それと同時にまた着替えるためエイダーが外に出されたのだった。




