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42.共に生きていくために

「エルメス様、お元気そうで嬉しいわ」

「あなたもね。マーシャ様。あら少しふくよかになったかしら」

「あら失礼ね。と言いたいけれど私やっと母親になれるのよ。ずっと相談にのってくれた貴女のおかげなんだから」


 お腹を押さえて微笑むマーシャを見て彼女が欲しかった赤ちゃんが来てくれたのだとわかった。


「きゃー、おめでとう。いつなの」

「後半年後よ。ついこの間まで具合が悪くてとてもお茶会に出れなかったけれどやっと落ち着いたの」

「それは、よかったわ。まだ子どもは、いないけど母親の先輩である姉もいるし商会のいい商品があるし任せて頂戴」

「ほどほどにして頂戴。旦那が驚いちゃうわ」


 そう言って笑うマーシャは、とても幸せそうだ。伯爵家の時の私なら幸せを願うと同時に羨ましく思っていただろう。でも今なら私も幸せだから素直に幸せを願える。


「大事な友人を祝いたいのよ。とーっても嬉しいわ」

「私は、初めて会った時みたいに明るくて綺麗なエルメスが戻ったみたい。伯爵家でどんどん辛そうだったから」


 お互いにお互いの環境を心配していたようだ。


「侯爵様の所に行ってしまって寂しいけれど伯爵よりずっと良さそうでよかったわ」

「えぇ、エイダーは、私のことを大事にしてくれるし尊重してくれるの」


 エルメスは、思い出すだけで胸が温かくなるなんて我ながら重傷ねと思った。


「本当に惚気ねー。ところでただお茶会に来たわけではないんでしょう? なに企ててるの」

「企画していると言って欲しいわ」


 そこへお茶会の主催である前公爵婦人が来た。一度挨拶は済ませており時を見てもう一度接触するつもりだったので都合がよい。


「楽しんでいるようですわね。ファブレ子爵夫人、シュルプリーズ子爵令嬢」

「えぇ、エルメス様にずっと相談していたことが叶いまして。とても博識ですのでつい色々聞いてしまうのですわ」

「なるほど、そうですか。私も息子を産むまで大変でしたからわかりますわ。ところで侯爵と婚約なさったと聞いたけれど本当かしら」


 前公爵婦人の言葉で騒がしかったお茶会が静かになった。


「さすがですわ。つい先日にアフェクシオン侯爵と縁がありまして婚約いたしましたの」

「そうですの、あの由緒正しい侯爵家が」

「立場やこれまでの経歴も異なりますがだからこそ、お互いを理解しようとするよき相手だと思いましたわ。その中でよいものがあったのでカダルカ前公爵婦人にお勧めしたいものがありましたの」


 給仕に外で待機している侍女から受け取って持ってこさせた。元の布は単調な染めであるものの鮮やかな刺繍が一面に刺されている。


「アフェクシオン領で作られたストールですわ。絹のような色合いの婦人の髪色ならばきっと映えると思いますの」

「これは派手な色ね。でも上品にも見えるわ」


 婦人がドレスにストールを羽織ると空間が華やいだようだった。


「羽織ってもよいですが被ってベールのようにしてもよいですわ。南はここよりさらに日差しが強いのでそういう風に使っていましたわ」

「確かに異国情緒があっていいわ。といっても同じ帝国領ですがね」


 言葉では冷静な言い方をしているが、目は楽しそうにストールを眺めている。


「ねぇ、エルメス。私もストールが気になるわ」

「マーシャは、これがよいんじゃないかしら」


 いくつか良さげなストールを買い込んでいたので挨拶代わりに渡していく。本来ならば皇族の女性に渡したいが現在、皇妃も皇子たちの婚約者もいない。だからこそ影響力が強い公爵の母であるカダルカ前公爵婦人に渡す必要があった。


「カダルカ前公爵婦人、そちらはアクフェシオンとの友好の証としてお渡ししますわ」

「あらそれではありがたくいただきましょう。歳をとるとこういう色合いは避けがちだけれど気に入ったわ」


 カダルカ前公爵婦人は、一瞬周辺を確認するとエルメスに囁いた。

 

「皇帝は、躾が行き届いた犬を好みますの。でも小賢しい狐は、お嫌いなのでそうそう手放すようですよ」


 それだけいうと要はないとばかりに会場から去って行った。




「ということがありましたのよ。たぶん皇帝は、ジャンを始末するつもりってことね」

「狐が嫌いという話では?」

「狐は、ジャンを指す隠語ですわ。皇帝へ従順に尽くした犬は、前伯爵」


 エイダーは、頭は悪くないが帝国の社交会の隠語や作法を知らないところがある。そういうところは、エルメスが得意とするので今後は支えたい。


「なるほど、では新年の宴で因縁のあるエルメスと邂逅させ失言を出させたいという所ですか。ついでにアフェクシオンの弱みを握れれば尚良しと」

「そうでしょうね。ジャンは、皇帝にとって不要とされてもおかしくないでしょう」


 英雄の父をもつ騎士団長ということしか長所がない。特別秀でたものもなく肩書だけで偉そうなので様々な方面から恨みを買っている。それに皇子の一人が軍事面に秀でていると聞いている皇帝の権威を考えるなら将軍を皇子に据えたいというのもあるだろう。


「そう考えるとつくづく周りが見えないひとだったのねあの人」

「元夫ですか」

「えぇ、父親のように従順で謙虚なら、切り捨てるとされにくかったでしょう」


 なんなら皇子に優秀な英雄の息子をつけたほうが箔が付く。そうしたいと思えないとされたのなら我が強いか皇族のためにならないとされたと想像に容易い。


「皇帝も皇子も恐ろしいほどに論理的で短期間で成果をだそうとしているわ。いいえ、これからもっと世界は目まぐるしく変わる」


 皇子が海に興味を示し積極的に外交や取引が行われることになる。きっと嵐のような時代がくる足音がエルメスには聞こえていた。


「世界は、変わっても僕は領地とエルメスを愛します。それだけは憶えていてください」

「誠実さ故でしょうけど嘘でも私だけと言って下さっていいんですのよ」

「嘘を重ねるより聡い貴女には、本当の言葉を贈りたいんですよ。僕は」


 エイダーは、エルメスの手をとり見つめるのだった。


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