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40.取引というのは毎回上手くいかないのよ

 席に着けばテーブルいっぱいに料理がいっせいに運ばれてきた。通常一品ずつもってくるものをいっぺんに出したようだ。


「楽にして欲しいが秘匿して欲しい内容だからな。こういう風にしてもらった」


 文句などないだろう?と言いたげな視線を送られる。一体何を話そうというのか。


「なにこれからの話は、俺にとってもお前たちとっても悪い話じゃない」

「遠い親戚と話すには仰々しいですね」

「アフェクシオンの人間は、情を優先するようだからね。お前たち結婚したいのだろう」


 食事に毒など入れてないと言いたいのかナルソスは、皿に手をつけた。それを見て同じようにエルメスたちも料理に口をつける。


「皇帝は、俺とシュルプリーズとの婚姻を望んでいる。帝国は、充分大きくなり力でひれ伏せさせる時代が終わりつつある。これから必要なのは国を富ませる財だ」

「シュルプリーズが裕福なのは、事実ですわ。ですが皇族に迎えるのは突飛過ぎるのではないですの。子爵家ですよ」

「もちろん、だが側妃として子爵家の令嬢が嫁入りするというのはいくらでも前列がある」


 かつて手塩にかけて肉質を良くした牛肉だというのに美味しく感じない。状況が特殊過ぎて料理が美味しくないのか、毒か、吐き気がするような内容か。


「エルメスは、渡しません」

「他の男に惚れ込んでいる女をとるほど女に困っていない。それに俺は、嫁の財がないと生きていけないなんて状況を望まない」

「意外ですわね。皇家は、そうやって拡大してきたのに」

「それは、嫁実家の力であって皇家の力ではない。はぁ、だから皇家は食い物にされるのだ。俺が要求するのは、俺が反逆した時に出兵拒否すること。他の家門は、兄弟が交渉している」

「アフェクシオン以外の有力貴族は、王子達の外縁でしたね。僕には、兄弟も親戚もいませんし」


 エルメスが知る限りアフェクシオンは、疎まれていたから皇族に嫁に行った者がいない。だからこそ交渉材料がなく扱いにくいと思われているとみてよいようだ。


「有力貴族さえ動かなければ父に忠誠を誓うものなど烏合の衆だ」

「それだけではなく。港が欲しいのですよね。力で抑えないなら貿易でと考えていると」

「その通り。凡庸な振りをしていてもさすが侯爵家当主」


 ナルソスが拍手するが褒めていない。


「大陸内で交易を開拓出来る国がもうない。グロース国は、仮想敵国だしな」


 グロース国は、東の端にあるスルファム帝国と真逆の西にある国。かつてエルフが建国し魔法使いの国と言われていたが、世代が進むにつれて魔法が衰えていると聞いた。しかし、一年前にスルファム帝国が派兵したところ先祖返りした王族の魔法で壊滅させられたと聞いている。


「旧時代の遺物に負けているのは、ひとえに資金力や知識の違いと踏んでいる。新しい知識と素材を他の大陸から得る必要がある」

「言いたいことはわかります。しかし新しく開拓するのにも初期投資がいりますわ」

「それぐらいわかっている。だが皇帝がいまのままでは、帝国はゆっくりと首を絞められる。帝国が飢えるのはお前たちの本意でもないだろう」


 ナルソスの言い分は、とてもよくわかるが商人や貴族として条件を付け加えたい。


「殿下、短期で終わらせられる自信がお有りなのですわよね。戦は、儲かりますが疲弊します。人が死に、心も死ぬ。一度壊れた心は容易く治りません」


 エルメスにとって伯爵家での生活は、戦のようなものだったかもしれない。負ければ領地を手放し領民たちが惑うことになる。それを避けるためにずっと行動してきた。

 ナルソスは、不思議そうにエルメスとエイダーを見ていた。真剣に話しているのに温度感が違う。


「頭脳は頭脳、労働力は労働力として使えばいいだろう。動ければよい」

「そんな、…そんなことって」

「エルメス、皇室はそういう所なんです。殿下、出兵をしないことをお約束します。ですが先にそちらがお約束をお守りください」

「仕方ないな。それくらいはおおめにみよう」

「では失礼いたします」


 エイダーは、エルメスを連れて出た。エルメスは、ナルソスの言葉が信じられなかった。


「どうしてエイダー」

「皇室は、力が全てでね。有用とされないと処分される」

「そんな。処分なんて」

「でも殿下は、きっとわかってくれると思います。兄弟たちを気にかけることが出来るようでした」


 確かに現皇帝には、五人の皇子がいる。それぞれ突出した才能があり新聞にもよく書かれている。唯一第五皇子は、幼いためか話題に出ない。


「さて、食事の途中に出てしまいましたが何か食べませんか。どこかに入っても良いですし。御者に頼んで屋台の食べ物もいいですよ」

「屋台の食べ物は、背徳的ですわね。いただきたいですわ」


 貴族の令嬢としてありえないが、昔両親や姉と屋台料理を食べたことがある。貴族として幻滅したいま無性に食べたい。


「では帰りましょう」


 思うところがあり何度も言葉を重ねても変えられないものがある。でもそれでもエルメスの手が届く範囲は守れるようにしようと思うのだった。


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