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負けヒロインはお隣さんではなくお上さん


 ぴっ、ガー、とスライドドアを俺の新たな根城に再び戻ってきた俺は速攻でドアを開けあの空間から逃げ出す。

仕方ないじゃん、親に弄られ可愛い女の子に褒められるそんなことをされて恥ずかしくない男なんていないだろう。


「…………大人しく黙々と作業しよ」


どうせあの空間から逃れても、この後の引越し作業中もあの感じだと続くだろう。ならばもう一切話を気にせず、作業をしようと心に決めた俺は車の後ろのドアを開けさっき買ってきたものを手に持てるだけ持って家の中に向かうのだった。


「ちょっと湊川君待ってよー!」


後ろから水瀬の声が聞こえて来るがここは無視だ。先ほど俺をおちょくった罰だ、これくらいのささやかな反抗は許してほしい。


「あーいう、拗ねてるところは相変わらずね貴方に似てるわね奏」


「そー言われると、喜んでいいのかいつも分からないな」


「あら、私意外と貴方の拗ねてるところ好きよ。子供ぽくて」


「………喜べないな」


海斗は琴葉の奏と似ている点を言われても全く嬉しく、それどころか自分に似てしまい申し訳ないと奏と小鳥を見ながら思うのだった。



「湊川君」


(ええと、これはそこにしまって。これはそこの引き出し)


「みーなーとーがーわーくん」


(よし、ここは終わったかな次はカーペットを敷くか)


「奏くん」


(確か、まだ車の中にあった気がするな。取りに行くか)


「そーうーくん!」


「グハァ!」


水瀬を無視しながら作業をしていたのだが、今回は思いっきり俺に真っ正面から飛びついてきて流石に反応せざるを得なくなった。


「水瀬いきなり突撃はやめろ危うく頭を打つとこだったぞ」


「もぅ、ようやく反応してくれた!流石に私も申し訳ないと思ってるけどあそこまで無視されると悲しいんだよ!?」


「悪かったよ、でも流石にあれは誰だって拗ねるわ」


「反省します……でも私は奏くんに無視されて傷つきました。なので頭なでなでを所望します」


水瀬は少し申し訳なさそうな顔をうかべるながら謝ると、今度はすぐに拗ねたような顔になり俺の胸に顔を埋めてきた。


「はぁ、分かったよ」


俺も少しやり過ぎたとは思うので彼女の願いを叶えることにした。

そっと水瀬の頭に手を置き優しく撫でる。最近彼女の頭を撫でる機会が多いせいか、何の抵抗もなくナチュラルに頭を撫でられようになった。


「えへへ///」


しばらく撫でていると水瀬が、嬉しそうな声を上げる。

こうやって頭を撫でていると犬を可愛がっているかのような錯覚に陥る。このまま喉も撫でてやろうかと少しだけ思ったり思わなかったりする。

だが、そろそろ辞めないと他の人に見られてまた弄られそうなので俺は手を止めた。


「これくらいで良いか?」


「少し足りない……けど私の家の方も荷物を運ばないといけないから許す」


「そういえば俺流れで水瀬の家の引越しを手伝うみたいなこと言ったけどここから近いのか?」


「ふっふっ、よくぞ聞いてくれたね!?奏くん何と私の家はこの上だよ!」


水瀬は待ってましたと言わんばかりに元気になり俺の手を取って玄関を出て階段を登ると、俺に上の階のネームプレートを見せた。

そこには水瀬と名字が書かれており、俺は驚愕した。


「これ、マジ?」


「マジだよ!だから、これからはご近所さんとしてよろしくね」


そう言って彼女は部屋の中に一度入り、綺麗に包装された物を取ってきて俺に渡した。


「はい、引越しのご挨拶」


「あぁ、これからよろしく。俺も後で渡すよ」


俺はこの急展開に頭が追いつかず、無難な返事を返すのだった。

おいおい、ここまで運命の神様に負けヒロインが愛されてるとは、予想外すぎるだろと俺は思うのだった。




お上さんって何か変ですね。

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