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夜明けの星の黙示録【R15】  作者: アレクサンドル・スケベスキ
第七章 スタルディア星王国編

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第123話 強襲:イスニア要塞

翌朝、俺はイーリアの声で目覚めた。


「アレク、そろそろ……あっ!」


その一瞬の沈黙で、すべてを悟った。


(しまった)


視線を横にずらすと、フィーラが全裸のまま、

幸せそうに寝息を立てている。

俺は慌ててフィーラを叩き起こすと、

急いで着替え始めた。


「きゅ、急に開けてごめんなさい!

 でも、みんな待っているから早く準備してね…」


戸口の向こうでは、

イーリアが真っ赤になって固まっている。


「おう、わかった。すぐ行く」


そうだった。

今日は、イーリアと乙女座騎士隊(ステラ・ヴィルゴ)の騎士たちの間で、

"星約の儀"を執り行うのだった。


どうりで、朝からイーリアが張り切っているわけだ。


(……もうそんな時間か。

 昨夜はハッスルし過ぎたようだな)


――昨夜の反省会、

いったん俺の預かりとしていた

325人の捕虜の処遇についても話し合ったのだが、

議論の末、彼らは丸ごとイーリアの配下に組み込むことにした。


同郷同士で固まった方が、

指揮系統にせよ生活面にせよ、何かと摩擦が少ないだろうという判断だ。


とはいえ、昨日まで刃を交えていた相手と

「今日から仲間です」と言われて、

すぐに割り切れる者などいない。

胸の奥にわだかまりが残るのも当然だ。


そこで、騎士の誓いの儀式である“星約の儀”を行うことにした。


皆の前で忠誠を宣言するという、

儀式的な手続きなのだが、この世界には

"言葉は行動を変え、行動は運命を変える"という格言もある程、誓いの言葉には重みがある。


これから同じ旗の下で行動を共にする以上、

外すことができない、重要な手続きらしい。


……


「待たせたな。始めてくれ」


テントを出ると、朝の冷たい空気が肌を刺す。

その中に、整然と並ぶ姿が目に入った。


乙女座騎士隊(ステラ・ヴィルゴ)の騎士たち、およそ30名。

その背後には、冒険者たちが静かに列を成している。

皆、緊張した面持ちでこちらを見つめていた。


騎士たちが一歩前に進み出る。

イーリアの前で膝をつき、アランが代表して宣誓を始めた。


「我が剣、我が命、我が名誉を、あなたに捧げます」


イーリアはわずかに肩を強張らせながらも、

しっかりと彼らを見据え、宣誓を受け止める。


「その忠誠、確かに受け取った。

 共に歩もう。汝に栄光あれ」


声は少し硬いが、誠実で、凛としていた。


本来であれば、このあと主君が騎士の肩に剣を当て、

騎士のジョブを任命して終わるのだが、

スタルディア星王国では、"騎士に任命するのは同性のみ"という慣習があるため、

あくまで皆の前での宣誓までに留める。


ともあれ、これで儀式は完了だな。

次は俺の番だ。


俺はアイテムボックスから宝箱を取りだし、

地面にドカッと置いてみせた。

中身の重さを誇示するような鈍い音が響く。


そして、皆に聞こえるよう声を張り上げた。


「お前ら、これは()()()()祝い金だ。

 俺様について来る限り、

 今までより少し色を付けて給金を払ってやる。

 アラン…この金はお前が責任もって分配しろ」


ざわり、と冒険者たちの列が揺れる。

驚きと期待が入り混じった空気が広がった。


――これはフィズルの画策だ。

昨日、パトリシオ・ブルスターから取り上げた金額は、

およそ500万Rb(ルビー)。日本円にして5億円に上る金額だ。


俺としては、

カナンの皆で山分けしてしまおうとしたのだが、

フィズルにそれはあまり賢くないと止められた。


彼女によれば、そのまま乙女座騎士隊(ステラ・ヴィルゴ)を養う為の

予算とする方が効果的だそうだ。


というのも、投降した乙女座騎士隊(ステラ・ヴィルゴ)は、

ほとんどが冒険者である。

金払いが悪いとなったら逃げ出しかねない連中だ。


逃げるにしても、国まで帰ってくれればいいのだが、

厄介なのが、ここらで山賊に転じられるパターンだ。

この支払は、そういったリスクを減らす為の

いわば"治安維持の必要経費"ってわけだ。


もう一つ。俺が支払うことで、

アランらが反旗を翻すリスクを抑える狙いもある。


乙女座騎士隊(ステラ・ヴィルゴ)をイーリアの下に付けると、

俺→イーリア→騎士→冒険者という指揮系統のピラミッドが出来るのだが、

これがカナンの本隊より数が多い。


騎士たちが冒険者を引き入れて反旗を翻せば

大打撃を受けかねないのだ。


そこで、俺と冒険者間で主従関係を結ぶことによって、

騎士たちに上下から圧力を掛ける。


――金は、時に剣より強し。


そういった理由から、

俺と冒険者達の主従関係を誇示するために、

彼らのひと月分の給金に相当する100万Rb(ルビー)をボーナスとして配ることにしたのだ。


「おおお!」


給金を受け取った冒険者達に歓喜が広がる。

ともあれ、これでひと段落だな。


さそり座騎士隊(ステラ・スコルピオ)の様子を見て来る。

 イーリア、後は任せたぞ」


「いってらっしゃい。お気を付けて」


イーリアに見送られながら、俺は魔力を練り上げた。

空間が歪み、別の空間が現れる。


"ワープ"


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


■地図:蠍座騎士隊(ステラ・スコルピオ)

挿絵(By みてみん)


転移した先は、先日の偵察で見つけた、

蠍座騎士隊(ステラ・スコルピオ)が襲撃していた村の近く。


(運用資金は根こそぎ奪ってやったが、

 さて、どうなったか…)


慎重に足を進めると、

鼻を刺すような焦げ臭さが漂ってきた。


風向きが変わるたび、

焼けた布と木材の残り香が重く押し寄せてくる。


そして視界に入ったのは、

かつてテントが並んでいたであろう場所に、

黒く崩れ落ちた残骸。


灰と化した布切れが、

風にあおられてひらひらと舞っていた。

人の気配はまるでない。代わりに、

冷たくなった死体がいくつも転がっている。


(―――こうなったか)


殺し合いが起きたのだ。

死んでいるのは荒くれ者が大半だが、

その中に騎士や従士の装備を身につけた者も混じっている。


足跡の乱れ方からして、蠍座騎士隊(ステラ・スコルピオ)

反乱を起こした荒くれ者たちを抑えきれず、

混乱のまま急いで撤退したのだろう。

そして、奴らが向かう先といえば、一つしかない。


(さて、どれぐらい減ったかな♡)


"ワープ"


■地図:イスニア要塞

挿絵(By みてみん)


イスニア要塞へ転移すると、城壁の上に、

まだ蠍座の旗がはためいているのが見えた。


ただ、偵察の時とは様子が異なるのは、

要塞の門へと続く地面に、

深くえぐれた馬の轍 が幾重にも刻まれており、

入口付近には、急ごしらえの木材のバリケードが積まれている点だ。


(まさかあいつら、ここまで追い詰められたのか?)


数を把握するべく、"探知魔法"を放つ。

淡い波紋が広がり要塞の内部をなぞると、

反応が返って来た。


相変わらず反応がぼやけているが、

それでも数のおおよそは掴めた。


(200~300って所か。

 随分減っちまったな……可哀そうにw)


口元がわずかに歪む。

蠍座騎士隊(ステラ・スコルピオ)に悲劇が訪れた事を確認し、

俺はイスニア要塞を後にした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


――グレイリッジ


朝食を取り終えた兵たちは、テントを畳み、

荷をまとめ、移動の為の準備に勤しんでいた。


あちこちで布の擦れる音や木箱の軋む音が響いく中、

喧騒の片隅で、スタルディアの女たちは緊急女子会を開いていた。


―――――――――――――――――――

・イーリア・アレオス・スタルディア

 └人間族:ノルド人:♀:16歳

 └ユリアナの娘、王女。

挿絵(By みてみん)


・オリヴィア

 └人間族:ノルド人:♀:17歳

 └ヴァルキュリヤ近衛騎士隊、『剣豪』。

挿絵(By みてみん)


・フィーラ

 └人間族:ノルド人:♀:16歳

 └ヴァルキュリヤ近衛騎士隊、『導杖』。

挿絵(By みてみん)


・ヨル

 └人間族:サウル人:♀:20歳

 └暗刃侍従衆、『拳豪』。

挿絵(By みてみん)

―――――――――――――――――――


意を決したイーリアが、

胸の前でぎゅっと拳を握りしめ、声を上げる。


「フィーラ!」


そして一度深呼吸し、間をおいてから言葉を続けた。


「アレクとのこと…その…おめでとう。

 祝福するわ」


「……」


場に気まずい沈黙が流れる。フィーラは一瞬、

どう返すべきか迷ったように目を伏せたが、

変に誤魔化すと余計に拗れると判断して、素直に口を開いた。


「……遊びよ」


「ええ!?」


乙女に、衝撃走る。

あのフィーラが、まさかの不良堕ち。


イーリアは助けを求めるように、

年配であるヨルの方へ視線を向けた。だが、

ヨルはさっと目をそらして我関せずの態度を貫く。


!?


もうフィーラを救えるのは近衛の先輩しかいないと、

オリヴィアの方に視線を向ける。

しかし、オリヴィアもさっと逸らす。


!?


「というか、みんなアレクに抱かれているわよ…

 私たちの年代だったら普通の事ね」


「えええ!?」


人生最大の衝撃が、乙女を貫く。


"普通"というのは、フィーラの強がりであったが、

蝶よ花よと大切に育てられていたイーリアにとって、

世間の事情など知る由も無い。

そもそも、男女の間で何が行われているのかすら、まだ曖昧なのだ。


(ヨルさんが抱かれている事に気付かないなんて、

 どんだけ鈍感なのよ、イーリア…)


フィーラは心の中で深々とため息をついた。

その時だった。


「おう、戻ったぞ。

 みんな集まれ、作戦会議だ」


背後からアレクの声がして、女子会は解散となった。

イーリアは頭から湯気を立てながら、

ふらふらとアレクの元へ向かっていった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ペンドラゴンのテントに

リーダー陣が次々と集まってきた。


外では和気あいあいと兵たちが移動準備に

追われているが、この場だけは静かで、

妙に張り詰めた空気が漂っている。


これから、今後の方針が話し合われるのだ。

―――――――――――――――――――

・フィズル・ペンドラゴン Lv.67

 └妖精族:ノーム:♀:22歳


・イーリア Lv.51

 └人間族:ノルド:♀:16歳


・ラグナル Lv.57

 └妖精族:ドワーフ:♂:131歳


・カラドク Lv.62

 └人間族:ケルティア人:♂:40歳


・タリオン Lv.72

 └エルフ族:ウッドエルフ:♂:120歳

―――――――――――――――――――


フィズルが広げた地図の上に、

俺は指先で円を描くように示しながら、

先ほど得た情報を共有した。


蠍座騎士隊(ステラ・スコルピオ)は今、イスニア要塞にいる。

 数は200から300ってところだ」


フィズルが目を細め、感心したように頷く。


「ずいぶん数が減りましたね」


「ああ、運用資金を奪ってやったかな。

 中々楽しそうな事になっていたぞ」


軽口をたたくと、張り詰めていた空気がわずかに緩む。

俺達は500、向こうは300。


――勝てる。


勝利への確信が、じわりと広がる。

そんな中、タリオンが静かに口を開いた。


「では、私もパトリシオ・ブルスターから得た情報を

 共有させていただきます」


タリオンの説明によると、

ブルスター家は騎士団の他にも、

各都市の〈大隊長〉を筆頭とした"都市大隊"という武力を保持しているらしい。


〈大隊長〉というのは、

〈都長〉が任命できるジョブの事だな。

「隊長」を10人任命でき、配下の兵士や訓練兵まで含めると最大3,000人規模の勢力になる。


とはいえ、彼らは騎士のように外で戦う部隊ではない。

あくまで都市を守るための、

衛兵や門番を中心とした治安維持部隊だ。


それで、パトリシオによると、

ブルスター家が抑えている都市と戦力は次の通り。

―――――――――――――――――――

・王都アウルヘイム:マドラク・ブルスター

 └都市大隊:5,000


・都市タウルガルド:ブラン・ブルスター

 └都市大隊:3,000


・都市ベラトルム:ルート・ブルスター

 └都市大隊:2,000

―――――――――――――――――――


(こう聞くと、キッツいなぁ)


数字だけを並べられると、

改めてブルスター家との戦力差に絶望する。

だが、その横でイーリアが眉をひそめた。


「…随分大きな数字ですね。特に

 王都アウルヘイムの5,000というのは大分怪しいです」


……確かにそうかもしれん。

仮に、月給3,000Rbの兵士を5,000人維持するとして、

掛かる金は月に1,500万Rb…

円換算にして15億円も出ていく計算になるのだ。


これに加え、消耗する武器や装備、

宿や食事まで面倒見るとすれば、維持費は更にかかる。


ブルスター家の財力はよく知らんが、

都市の営みが成り立つのか疑問がのこる。


パトリシオが数を盛っている可能性はある。

だが、これでブルスター家の総戦力の輪郭はほぼ見えたと言ってもいいだろう。


■地図:スタルディア星王国:戦力予想

挿絵(By みてみん)


地図を囲む空気が重く沈む中、

イーリアが小さくため息をつき、口を開いた。


蠍座騎士隊(ステラ・スコルピオ)の数は減りましたが、

 イスニア要塞に引きこもってしまった以上、

 我々も一度カナンへ引き返し、

 準備を整えるほかありませんね。

 攻城戦に素で挑めば、防衛側の3倍以上の戦力が必要になりますから」


「何を言っとるんだ。イーリア。俺様がいるだろ」


「え?―――」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


■地図:イスニア要塞

挿絵(By みてみん)


「くそがぁあああ」


イスニア要塞の一室に怒号が響き渡った。

蠍座騎士隊(ステラ・スコルピオ)を率いるエドワード・ブルスターは、

机を蹴り飛ばさんばかりに荒れていた。


―――――――――――――――――――

・エドワード・ブルスター

 └人間族:ケルティア人:♂:16歳

 └ブランの息子、三男、男爵。

 └蠍座騎士隊(ステラ・スコルピオ):隊長

―――――――――――――――――――


景気付けに村を略奪し、女をレイプしていた所、

いつの間にか陣を燃やされ、しかも金まで盗まれていた。


ブチギレて雇い集めた糞どもを皆殺しにしようとしたが、逆に反撃を受け、返り討ちに遭う始末。


それでこのざまだ。残った兵隊は僅か250。

――さすがに、この件を親父に知られるのはまずい。


にっちもさっちもいかなくなったエドワードは、

叔父であるルート・ブルスターに救援の使者を送った。


親父とは違い、叔父は常に味方だった。

――今回も何とかしてくれる。

そう信じるしかなかった。


エドワードは祈るような気持ちで、

ベラトルムへ救援の使者を送り出した。

もはや、叔父ルート・ブルスターからの返答を待つほかに道はない。


……


イスニア要塞の見張り台。

まだ冷たい風が吹き抜ける中、見張り番がふと目を細めた。


城壁の下――

黒馬に乗った一人の男が、ゆっくりと城門へ向かって来る。


ベラトルムからの使者かと思ったが、

見慣れない装束である。

見張り番は城壁の上から身を乗り出し、声を張り上げて尋ねた。


「所属と名を名乗れ!」


「カナン星約機構、盟主

 ――アレク・ペンドラゴンだ」


「……?」


所属も名前も聞いたことがない。

見張り番は眉をひそめ、さらに問いただした。


「要件を言え!」


「この要塞を貰いに来た」


その瞬間だった。

男は、何もない空間から巨大な金棒を引き抜いた。


―――――――――――――――――――

★ 大金棒 【大激震(だいげきしん)

└打撃+100 / ☆破砕+80 / ★衝撃波+100

―――――――――――――――――――


「……え?」


見張り番が声を漏らした直後、

轟音とともに衝撃波が走り、城門は粉々に砕け散った。


「何事だ!?」


要塞内が一気に騒然となり、

兵たちが慌ただしく駆けつけてくると、

皆が城壁の下を見下ろしたその時――


「投降せよ!繰り返す!

 武器を捨て、投降せよっ!!」


「!?」


突如、背後から声が響き、兵たちは驚いて振り向いた。

そこには、見知らぬ軍勢がずらりと並んでおり、

いつの間にか城壁の上は完全に制圧されていた。


さらに、空間が裂けるように開いており、

そこから次々と見知らぬ兵たちが雪崩れ込んで来るではないか。


理解が追いつく前に、

武器を捨てて投降するほか、道はなかった。

そして混乱は、要塞内で同時多発的に発生した。


「投降せよ!繰り返す!

 武器を捨て、投降せよっ!!」


「なんだ!?どこから入って来た!?」


叫び声が飛び交い、混乱が広まる。

兵たちは次々と武器を落として投降していく。


こうして、蠍座騎士隊(ステラ・スコルピオ)は戦う前に敗れた。


―――星歴:993年 3の月 下旬

イスニア要塞、陥落。


アレク・ペンドラゴンの名が、

この日を境に金星全土へ響き渡ることになる。

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