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夜明けの星の黙示録【R15】  作者: アレクサンドル・スケベスキ
第七章 スタルディア星王国編

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第114話 ポイズン・ピル

翌朝、寝室には昨夜の喧騒が嘘のような

重たい静寂が沈んでいた。


ベッドの上で、干乾びて横たわるアレクと、

どうしていいか分からないといった様子で

オロオロとしているイヴ。


見かねたリーシャが深いため息をつき、

アレクの腕をそっと持ち上げた。


指先で脈を探り、眉にしわを寄せ、

短い沈黙の後、それを告げる。


「……ご臨終です」


「ええ!?」


アレクの物語、ここに完結――


と思いきや、

干乾びた男の指先がピクリと動く。


「うぅ…ここは?…一体…」


「冗談よ」

「もうっ!リーシャ!」


イヴが涙目で喜びの声を上げると、

凍りついていた寝室に、ようやく人の気配が戻ってきた。


アレクは半分ミイラのような状態で、

艶々の肌を輝かせる二人をぼんやり眺める。


(昨晩……何が…)


昨晩の事を懸命に思い出そうとするも、

ダメだ。よく思い出せない。


そうだ、今日は北へ軍隊の偵察に行くんだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


―――神聖ロザリ法王国:クルキス城塞付近


■地図:クルキス城塞

挿絵(By みてみん)


クルキス城塞の城主との会合を終えた軍師のブレナンが、

牡牛座(ステラ・グランデ)騎士団(・タウルス)に帰還した。


マグナ・タウルス計画の策定に際し、

ロザリから補給物資が提供される運びとなっており、

その約束の確認を終えた所である。


ここからは本隊は海沿いに西へ向かい、

ガルフ・バウを目指す。


本計画のフェーズ1、"ドラゴン・ジェミナ"遂行に当たり、

牡牛座(ステラ・グランデ)騎士団(・タウルス)が編成した人数は3,000。

制圧も含まれるが、補給路施設に寄せた顔ぶれとなっている。


主力となる騎士:500、

歩兵となる従士:1,200、

雇われの傭兵:200、

補給を担う商人:300、

工兵を担う職人:300、

随伴任務をこなす冒険者:300、

そして、癒しと祈りを司る教会従事者:200。


町が一つ、列を成して移動しているようなものだ。


その列の中心には、

牡牛座(ステラ・グランデ)騎士団(・タウルス)の顔役たちが身を連ねる。


牡牛座(ステラ・グランデ)騎士団(・タウルス):主要人物

―――――――――――――――――――

・ネイサン・ブルスター

 └人間族:ケルティア人:♂:19歳

 └ブランの息子、次男、男爵。

 └牡牛座(ステラ・グランデ)騎士団(・タウルス):団長


・ブレナン

 └人間族:ケルティア人:♂:52歳

 └ネイサンの従士、軍師


・エルドリン

 └人間族:ケルティア人:♂:32歳

 └エルドリン騎士隊:隊長


・ケルヴィン

 └人間族:ケルティア人:♂:29歳

 └ケルヴィン山岳隊:隊長

―――――――――――――――――――


軍の中央、ひと際目を引く装飾馬車の中で、

ネイサン・ブルスターは古びた戦記に没頭していた。


50年前――

人間族 と 獣人・妖精族連合が激突した大戦。

"ヴィーナス・クルセイ(第一回金星十字軍)ダーⅠ"。


”偉大な牙”ガルフ、

"赤髭" グリム・アースベアード――

歴史を彩った名だたる戦士達が神敵として登場する。


この戦記は、後に"雷帝"と呼ばれる

”覇王”アレオス・スタルディアを称える物語でもある。

ゆえに、人間側に都合よく脚色されている節があるのだ。


その直後に体系化が始まった帝国戦闘教義と照らし合わせて、

当時の戦いを想像するほかない。


"敵を知らずして進むは、闇を走るに等し"

"略奪は毒なり"

"糧道の先に盛衰あり"


帝国戦闘教義の最古の諫言である。

先人たちは、戦いの中で何を見たのだろう?

そして僕たちに何を残そうとしたのだろうか?


そんなネイサンの様子を気にしたのか、

騎士隊長のエルドリンとケルヴィンが馬を寄せた。


「心配いりませんよ、若。

 ガルフ・バウは跪いて我々を迎えるでしょう」


「まぁ、飯が合うかが唯一の心配事ですなw」


しかし、ガルフ・バウが見えてきたころ、

二人の思惑は外れることになる。


……


「は?」


斥候が血の気が引けた様子で駆け付けて来ると、

信じがたい報を告げて来た。

ブルスター家の使者は全員殺害され、

ガルフ・バウは宣戦布告を発したのだという。


「…布陣しましょう」


団長ネイサンが腰を据える方針を示すと、

騎士隊長のエルドリンとケルヴィンは、

救いを求めるように軍師へと視線を向けた。


軍師ブレナンは、遠くに点在する監視砦をじっと見つめ、思案にふける。


■ガルフ・バウ:接近

挿絵(By みてみん)


そして静かに肯定した。


「まぁ、いいでしょう」


その声色はどこか含みを帯びていた。


(騎士隊長の二人が言いたいことは分かる。

 軍隊は膨大な食料を消費する。

 無暗な布陣は悪手だ……

 だが、あの監視砦、嫌な配置をしておる…)


ブレナンは、軍とは補給線の上に配置されるものだという考えを持っていた。

監視砦を横切り、ガルフ・バウへ侵入すること自体は難しくない。

だが、その先が死地であるかを測りかねていた。


彼はしばし沈黙した後、

やがてネイサンへ向き直って進言した。


「幸い、ロザリからの補給路もあります。

 様子見も悪くありませんが…

 ご当主様からの期待もございます。

 3日でカタを付けますぞ」


それを伝えたのち、ブレナンは牡牛座(ステラ・グランデ)騎士団(・タウルス)

二つに分けて布陣する案を提示した。


見通しのいい丘陵の伐採場後に本隊を2,000、

ガルフ・バウ近くの村に先遣隊を1,000。


■ガルフ・バウ:布陣

挿絵(By みてみん)


ネイサンが頷き、これを承認する。


「あ、そうだ。略奪は禁止します」


唐突に付け加えられた一言に、

ブレナンと二人の騎士隊長は一瞬だけ顔を見合わせ、

すぐに姿勢を正して答えた。


「ええ、心得ております」


三人は揃ってネイサンから数歩離れ、

周囲に聞こえぬよう声を潜める。


「………あまり目立つようにはするな」


「はいw」


これまで代理で牡牛座(ステラ・グランデ)騎士団(・タウルス)を率いた当主、

ネイサンの父ブランは略奪を推奨して来た。


それが、ネイサンに変わった途端、

それも遠征先で禁止となれば兵の間に余計な不満を生むだけだ。


ネイサンはまだ帝国士官学校を卒業しておらず、

実戦経験も乏しい。

戦場のリアルを知るのはこれからだ。


(私が上手くやらなければ)


軍師ブレナンは胸の内でそう呟き、

小さく息をついた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


―――ガルフ・バウ付近:従属村


ケルヴィン騎士隊長が率いた先遣隊の1,000名は、

予定通り村へ向かうと、あっという間に村を掌中に収めた。


っというのも、村人たちは、

軍勢の影が見えた途端に蜘蛛の子を散らすように逃げ去り、

先遣隊が足を踏み入れた頃には、村はもぬけの殻となっていたのだ。


荒らされていない寝床、手つかずの食料。

それらを丸ごと手に入れた先遣隊には自然と楽観ムードが漂う。


「見ろよ!新鮮な肉に魚…

 それに酒まであるぞ!俺達当たりだな!!」


彼らが携行してきた兵糧といえば、

硬いライ麦パンに粥、それに干し肉といった保存食。

腹は満たせても、心までは満たせない。


だからこそ、現地で手に入る“新鮮な食料”は、

兵たちにとって何よりのご馳走となる。


「あの…一杯どうです?」


ケルヴィンが、手に入れた酒を片手に、

隊に名を連ねる大物へと慎重に声を掛けた。

その声音には、気遣いとわずかな緊張が混じっている。


射手座騎士隊(ステラ・サジタリウス)

―――――――――――――――――――

・【弓聖】ロイド・ボーウェン

 └人間族:ケルティア人:♂:31歳

 └射手座騎士隊(ステラ・サジタリウス):隊長


・《弓王》シオン・イスフィヨルド

 └人間族:ケルティア人:♂:28歳


・《弓王》シグルド・イスフィヨルド

 └人間族:ノルド人:♂:26歳

―――――――――――――――――――


話しかけられたロイド・ボーウェンは、

呼びかけに対して軽く首を振る。


「いえ、我々に気遣いは結構」


それだけ告げて、部下へ短く命じた。


「お前ら、決して手を付けるなよ」

「はっ!」


そして彼らは、距離を置くように静かに離れていった。

手に入れた新鮮な食料に目もくれず、

黙々と弓具の手入れに没頭している。


どうやら、馴れ合うつもりは無いらしい。

射手座騎士隊(ステラ・サジタリウス)は先遣隊の中でもどこか浮いた存在となりつつあった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


―――ガルフ・バウ

戦時下のガルフ・バウに、妙なざわめきが広がる。

この町では滅多に見ないエルフが、二人も現れたのだ。


■"暴風"のイルシエラ

挿絵(By みてみん)


■"灼熱"のカリシエラ

挿絵(By みてみん)


「べっぴんだな。誰か声かけて来いよ」


「ありゃー"禍災姉妹(かさいしまい)"じゃねえか?」


「やめとけ、やめとけ。

 あの姉妹が暴れたらガルフ・バウが消し飛ぶぞ」


人垣の中央がゆっくりと割れると、

一人の老人が前へ進み出る。


「ネイヴィンじゃ。

 町長のタイラスより、指揮を任せられておる」


その声に応じてカリシエラが答えた。


「ラエルノア魔法教団所属のカリシエラと、

 こちらは姉のイルシエラだ。

 主の命を受け、馳せ参じた」


ネイヴィンは、驚きと期待を隠すように目を細めた。


「魔法教団の最高火力が援軍とはな……

 援軍、感謝する。ワシについて参れ」


……


■監視砦:ルプス・カストラ

挿絵(By みてみん)


ガルフ・バウ東の監視砦――"狼の領域"。

その拠点に、この町の防衛を担う面々が顔を揃えた。


■ガルフ・バウ防衛隊:主要人物

―――――――――――――――――――

・ネイヴィン

 └指揮官:ケルティア人:♂:69歳


・フェンリカ

 └黒狼の牙:ウェアウルフ:♀:24歳


・スカエルヴァ

 └ルベル=オーガ:オーガ:♀:24歳


・オリガ

 └ルベル=オーガ:オーガ:♀:19歳


・"暴風(ぼうふう)"のイルシエラ

 └ラエルノア魔法教団:ハイエルフ:♀:67歳


・"灼熱(しゃくねつ)" のカリシエラ

 └ラエルノア魔法教団:ハイエルフ:♀:67歳

―――――――――――――――――――


監視棟の頂上に立ち、

目下に広がる牡牛座(ステラ・グランデ)騎士団(・タウルス)の布陣を見渡しながら、

ネイヴィンが状況を説明する。


「丘陵の伐採場跡に布陣したのは本隊じゃろう。

 村には、別部隊が入ったようじゃ。

 その数、およそ千―――」


淡々と説明するネイヴィンに、

フェンリカが堪えきれず詰め寄る。


「おい!村が襲われているんだぞ!

 救援に行かなくていいのかよ!?」


「安心せい。村人ならとっくにタイラスが避難させておるわい。

 あれは儂の部隊のもんじゃ」


!?


ネイヴィンは続ける。


「村だけじゃないぞ。

 隊商も3隊向かわせておるわい」


その意図を察したスカエルヴァが呟いた。


「…服毒作戦か」


「ああ、"ポイズン・ピル"という」


――ポイズン・ピル:

自らの食料に毒を盛り、敵に奪わせる服毒作戦。


"魔女の花"ベラドンナの根を煮詰め、

トロパンアルカロイドを含む毒液を抽出する。


それを薄め、食料の中心部へと染み込ませれば、

光の魔法(ルクス・マギア)でも浄化されにくい汚染された食糧が出来上がる。


副交感神経に作用するこの毒は、

微量では喉の渇き、空腹感、高揚感を誘い、

接種量が増えれば吐き気、幻視、錯乱をもたらす――


「3度目じゃ……

 ルプス・カストラの前に敵が布陣するのはこれで3度目。

 これまでの歴史で、敵が城門に手をかけたことは無い」


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