表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けの星の黙示録【R15】  作者: アレクサンドル・スケベスキ
第七章 スタルディア星王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/148

第112話 ドラゴン・ジェミナ

―――時は少し遡り、

スタルディア星王国:ナットフィヤルの村にて。


■地図:ナットフィヤル

挿絵(By みてみん)


リオンヘルム領の都市:ベラトルムを陥落させたブラン・ブルスターは、

500の兵を率いてナットフィヤルの村へ押し寄せていた。


目的は一つ。

気に食わない同胞の貴族、

ウィリアム・イスフィヨルドを従わせる為だ。

まぁ、タウルガルドへ戻るついでに、

顔を拝みに来たと言ってもいい。


ウィリアムは自分と同じケルティア人だが、

ノルド人のイスフィヨルド家に入った婿入りした身。

殺してしまっても構わないが、

彼が率いる射手座騎士隊(ステラ・サジタリウス)は利用価値がある。


従属の意を示さないなら、

ウィリアムを殺し、領地を簒奪する。

従わないノルド人など、当然皆殺しだ。


辺鄙なナットフィヤルの村で珍しく

二人の貴族が相対したのはそんな理由であった。


―――――――――――――――――――

・ブラン・ブルスター

 └人間族:ケルティア人:♂:46歳

 └星王国南部〈侯爵〉

 └牡牛座(ステラ・グランデ)騎士団(・タウルス):総帥


・ウィリアム・イスフィヨルド

 └人間族:ケルティア人:♂:44歳

 └ネイザンバレー「伯爵」

 └射手座騎士隊(ステラ・サジタリウス):総帥

―――――――――――――――――――


ブランの前に紅茶が出されるも、

興味もないと言わんばかりに無視し、

ブランはさっさと本題を切り出した。


「雪解けと共にブラスデンへ侵攻する。

 射手座騎士隊(ステラ・サジタリウス)も従属しろ」


湯気の立つ紅茶を鼻先へ寄せ、

香りを確かめるように静かに息を吸った。


「サジタリウスはとうに解体したよ。

 騎士隊長が旅立ってね………

 それより、ヨルゲンはどうなった?」


「ヨルゲン・リオンヘルムなら死んだぞ?

 間違いない。この俺が首を跳ねてやったからな」


ウィリアムは眉ひとつ動かさず、

紅茶をひと口含んでから応じた。


「何故だ…我々は栄誉ある帝国士官学校の第一期生。

 同じ釜の飯を食った仲間じゃないか」


帝国士官学校だと?

また古い話を持ち出してきたものだ。

あの屈辱の日々が、胸の奥で沸々と蘇る―――


帝国士官学校の第一期は年齢もまばらで、

14歳~20歳までが同学として扱われた。


名門ブルスター家の名に恥じまいと、

俺は必死に食らいついた。

剣も学問も、寝る間を削って磨いたものだ。


だが、どれだけ努力しても成績は三位止まり。


ウィリアムとヨルゲン。

二つ下のこいつらに、どうやっても及ばなかった。


あの頃、どう足掻いても届かなかった背中だが、

今はどうだ?――勝者はこの俺だ。


「ああ、そういえば士官学校時代、

 お前ら二人でイルサを取り合っていたよな?

 最終的にはノルド人同士でヨルゲンの嫁に落ち着いたが…

 まさか、お前がノルドの女と結婚したのは

 イルサの影を追っての事か?」


初めてウィリアムの手が止まった。

紅茶の表面がわずかに揺れ、

場の空気が明らかに変わったのだと感じた。


その様子を見て、ブランの口元はにやりと歪む。

長年の刺が、ようやく相手に届いたのだ。


「安心しろ、イルサはまだ生きているぞ。

 1人息子になっちまったエイレルを殺すと伝えたら、

 娼婦のように腰を振っていたぞ。

 イルサがベッドの上でどんな声で鳴くのか教えてやろうか?」


ブランがさらに下卑た話題へ踏み込もうとした瞬間、

ウィリアムがその言葉を遮った。


「友よ―――

 これ以上、みっともなく堕ちるのは止めてくれ。

 いくら悪魔とお茶会を開く私でも、

 これ以上は胃がもたれる」


それを聞いたブランは、

椅子を押しのけるように立ち上がり、

紅茶のカップを傾けてウィリアムの頭へと注いだ。

そして、そのままゆっくりと低い声で語りかけた。


「そうか。では本題に戻ろうか。

 俺はノルド人に寛容な方でね。

 選択肢を二つも用意しているぞ?

 死ぬか、奴隷となるかだ。…どうするウィル?」


ブランの最後通告に、場の空気が一気に張りつめた。

三人の"王"達が、揃ってブランへ殺気を向けたのだ。


《拳王》セバスチャン

《弓王》シオン・イスフィヨルド

《弓王》シグルド・イスフィヨルド


さぁ全面戦争に入ろうかというところで、

二人の貴族の前に、一人の男が音もなく姿を現した。


【弓聖】ロイド・ボーウェン


目隠しをしたその男は、

静かに膝を折ると、深々と頭を下げた。

そして、腹の底から(おごそ)かな声を響かせた。


「私が、再び射手座騎士隊(ステラ・サジタリウス)を率いましょう。

 そして、行動を持ってブルスター家への忠誠を証明いたします」


”弓聖”にして”オリハルコン級冒険者”…

時代の頂点に立つ男が、この俺に頭を下げている。

ブランは喉の奥から勝ち誇った笑い声を響かせた。


――俺以上の勝者など存在しない。


高笑いのすぐ傍で、ウィリアムがぼそりと呟く。


「すまない…君の誇りを踏みにじった」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


―――そして現在。

スタルディア星王国:都市タウルガルド。


ブラン・ブルスターは下半身の刺激に目を覚ました。

王都アウルヘイムから連れて来た専属の性奴隷、

ダリアによる朝の奉仕だ。


「折角いい夢を見ていたのに、何をしとるか!!」


そう怒鳴りつけて、ダリアをぶん殴った。


折角、夢の中であのナットフィヤルでの栄光を思い出していたのに…

それをこの売女が台無しにしやがって。

まぁ、朝の奉仕を命じたのは俺なのだが。


朝の体操替わりにダリアを一通り叩きのめす。

軽く汗を流すと、まだ息子が収まっていないことに気付いた。


「おい、ケツ向けろ」

「ふぁい」


ダリアは顔を腫らしながらも従順にお尻を差し出す。

こんな時でも秘部はしっかりと濡らしている。

ノルドにしては良くできた女である。


ブランは、腰を振りながらある計画に思いを寄せていた。

息子の興奮が冷めやらぬのも仕方ない。


――王位簒奪を失敗したあの日から、この一ヶ月…

何度も軍議を繰り返し、練りに練った計画が、遂に始動するのだ。


その名も、"マグナ・タウルス(大いなる牡牛)"計画。


息子を死に追いやった憎きブラスデン騎士団を壊滅させ、

ブルスター家で王国を建国するという完璧な計画だ。


この計画は、キックオフからゴールに至るまで、

三つのフェーズに分かれている。


■マグナ・タウルス計画:概要

―――――――――――――――――――

・第一フェーズ:"ドラゴン・ジェミナ"

 空白地帯の掌握。

 ドラコニス山脈を北と東から侵攻し、

 空白地帯に補給路を敷設する先行作戦。


・第二フェーズ:"コルヌア・エンベロープ"

 対ラエルノア魔法教団。

 東から主力侵攻に加え、別働の二隊が

 北・南の両面から同時に圧迫する

 "角の包囲"作戦。


・最終フェーズ:"タウルス・エクリプス"

 対ブラスデン騎士団。

 徐々に東から圧力を掛けていき、

 補給路を断ちながら西へと追い詰める浸食作戦。

―――――――――――――――――――


おや?

そういえば、一つ重要な点が抜けていたな。


この計画が成功した暁には誰が王に?

親父か?いや……それはおかしいだろう。


そもそも、俺が中心となって打ち立てた計画だ。

あのいつも口だけ出す親父は、

そろそろ死ぬだろうと思って大人しく従っていたが、

中々死にやしない。もういっそこの手で殺っちまうか?

………と言うことは、俺が"王"に?


ブランは、想像する未来に興奮し、腰を速めていく。


いやいや……待て!ブラン。

冷静になるんだ。クールにだ。

こんな時こそ、足元をだな……

……"王"の先の"皇帝"も見えて来るのでは?


ブランは荒い鼻息を立てながら、

思いっきり腰を振る。フィニッシュは近い。


見えるっ!見えるぞっ!!

平民共が俺を見上げ、万歳を繰り広げている光景がっ!!


「ブラン・ブルスター皇帝陛下万歳っ!!」


ブランは雄叫びを上げながらダリアの中で果てた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「二人とも、並べ」


ブランは椅子から腰を上げながら、低く声を発した。

威厳に満ちた声で呼ばれたのは、二人の息子であった。


―――――――――――――――――――

・ネイサン・ブルスター

 └人間族:ケルティア人:♂:19歳

 └ブランの息子、次男、男爵。

 └牡牛座(ステラ・グランデ)騎士団(・タウルス):団長


・パトリシオ・ブルスター

 └人間族:ケルティア人:♂:8歳

 └ブランの息子、四男、男爵。

 └乙女座騎士隊(ステラ・ヴィルゴ):隊長

―――――――――――――――――――


「今日、この日をもって

 マグナ・タウルス計画は始動する。

 まずは第一フェーズ…"ドラゴン・ジェミナ" だ」


低く重厚な声が、部屋に響き渡る。

作戦始動の宣言に、一人は肩を強張らせ、

もう一人は口元を吊り上げ、ようやく来たかと自信を見せる。


沈黙が落ちる中、ブランの視線は、

緊張を隠しきれない息子――ネイサンへと向けられた。


「ネイサン、ここからはお前一人で指揮を執れ」


牡牛座(ステラ・グランデ)騎士団(・タウルス)の団長に任命したものの、

ベラトルム陥落まで指揮を執っていたのはブランであった。


さすがに大一番を子牛に任せることはできない。

試しに、いくつか判断を訪ねてみたが、

ネイサンから返って来るのは消極的な判断ばかり。


これはもうダメかもしれんと言うことで、

刺激を与えるために四男も同席させた。


王になりたくば、戦場を任せなければならない。

いつまでも戦場を駆けまわっていては、

栄光は掴めないのだ。


「……はぃ……父上」


だが、ネイサンから返って来た返事は、

いつも通りの自身の無い、まるで女みたいな弱々しい声。


ネイサンよ…いつまで子牛のままなのだ。

ここは発破をかける意味でも、脅しておくか。


「ネイサン…第一フェーズで失敗するようなことがあれば、

 星王国にお前の居場所は無いと思え」


そうは言ったが、第一フェーズで失敗などありえない。

散歩みたいなものだからな。


ネイサンは、ビクッっとしたかと思えば、

そのまま硬直してしまった。


そんな兄を押しのけるように、

四男、パトリシオが声を上げる。


「大丈夫ですよ、父上。

 ()()()()に頼らずとも、

 私がいるではありませんか」


「おお~、そうだなパトリシオ。

 お前には期待しているぞ」


そう口では褒めて見せたが、

本心ではパトリシオに期待していない。


確かに、周りより頭は回るのだが、

その僅かな優位性を鼻にかける癖が致命的だ。

自分を神か何かと勘違いしている。


これまで何度も叱って来たのだが、

説教でさえねじ曲がった解釈をし、

いくら叱っても治らないのだ。


ならば逆の発想だ。いっそ持ち上げてやり、

自らの慢心で転ぶのを待つ方が早い。


だが、まぁ…

この場で、()()()()と口にする時点で

先は知れている。寿命は短いだろう。


ちなみに、三男はと言うと既に見切りをつけている。

危なっかしすぎて中央になど置いておけない。


今は遠く離れたイスニア要塞で国境警備をやらせているが、

この計画が終わったら殺すつもりだ。

ブルスター家の中で、あいつは居なかったものとする。


……


ブルスター家の未来は、

次男のネイサンに委ねられているのだ。

士官学校では成績は優秀なんだ。

あとは気質さえ…気質さえ備われば…っ!!


「よし、では始めろ」


そう言い放つと、ブランは手をひらりと振り、

二人の息子を部屋から追い出した。

扉が閉まる音が静寂を落とす。


ブランはゆっくりと顔を上げ、

部屋の奥――薄闇に潜む気配へと視線を向ける。


「話は聞いていたな。頼むぞ三人共」


牡牛座(ステラ・グランデ)騎士団(・タウルス)

―――――――――――――――――――

・ブレナン

 └人間族:ケルティア人:♂:52歳

 └次男ネイサンの従士、軍師


・エルドリン

 └人間族:ケルティア人:♂:32歳

 └エルドリン騎士隊:隊長


・ケルヴィン

 └人間族:ケルティア人:♂:29歳

 └ケルヴィン山岳隊:隊長

―――――――――――――――――――


「「はっ!心得ております」」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


外では、都市を挙げた出征式の準備が進んでいた。


既に、牡牛座(ステラ・グランデ)騎士団(・タウルス)3,000、

乙女座騎士隊(ステラ・ヴィルゴ)400が整列を終えている。

その光景は、まさに圧巻だった。


後は、団長であるネイサンが一声かければ、

全ては動き出す―――が、しかし


「あ…ぁのぅ、作戦、か、開始…です」


ネイサンの頼りない声は風にかき消され、

騎士たちは互いに顔を見合わせて戸惑う。


ブランは深く肩落とし、長いため息をついた。

それから無言でネイサンの横へ歩み寄ると、隣に並び立つ。


ゆっくりと右手を掲げると、

ざわついていた騎士たちの視線が次々と吸い寄せられていった。

空気が張りつめ、風の音さえ遠のいていくようだ。


頃合いを見計らい、ブランはその手をぐっと握りしめる。

そして次の瞬間、腹の底から響くような声で檄を放った。


(たけ)牡牛(おうし)栄光(えいこう)!」


――それは、全軍を震え上がらせる号令であった。

ブルスター家の代名詞、全軍突撃の号令。


この号令を聞いた者は、

咆哮を上げて敵陣へと突っ込み、

敵を一人残らず倒すまで決して戻らない。

そう叩き込まれている。


生きて栄光を掴むか、

死してなお栄光を掴むか。

そのどちらかしか許されない。


「「オオオオオオ!!!」」


全軍が一斉に咆哮を上げた瞬間、

空気が震え、地面が低く唸りを上げる。

大地そのものが揺らいでいるのだ。


(たけ)牡牛(おうし)栄光(えいこう)!!」

(たけ)牡牛(おうし)栄光(えいこう)!!」


突撃の号令は次々と連鎖し、

出征を見守る者たちまでもが声を合わせる。

咆哮は、うねりを上げながら都市全体へと広がっていく。


そして――

総勢3,400名の軍勢は、地ならしと共に進軍を開始した。

進軍だけで窓ガラスがひび割れ、花瓶は倒れる。

その轟音は、立ちはだかる全てを薙ぎ払わんと響き渡った。


■地図:侵攻経路

挿絵(By みてみん)


―――星暦993年 3の月

マグナ・タウルス計画:第一フェーズ、

……"ドラゴン・ジェミナ" 発動。

ブクマ・評価いただけると大変助かります(>ㅅ<)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ