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DRAGON SEED  作者: みーやん
二十一章
22/31

地下神殿の秘密

主な登場人物


ロナード…漆黒(しっこく)の髪に紫色(むらさきいろ)双眸(そうぼう)特徴的(とくちょうてき)な、傭兵(ようへい)業を生業(なりわい)として居た魔術師(まじゅつし)の青年。 落ち着いた雰囲気(ふんいき)の、(じつ)年齢(ねんれい)よりも大人びて見える美青年。 一七歳。


エルトシャン…オルゲン将軍(しょうぐん)(おい)で、新設(しんせつ)された組織『ケルベロス』のリーダー。 愛想(あいそ)が良く、柔和(にゅうわ)物腰(ものごし)好青年(こうせいねん)。 王国内で(ゆび)()りの剣の使い手。 二一歳。


アルシェラ…ルオン王国の将軍(しょうぐん)オルゲンの娘。 カタリナ王女の命を受け、新設(しんせつ)される組織に渋々加わっている。 一六歳。


オルゲン…ルオン王国のカタリナ王女の腹心(ふくしん)で、『ルオンの双璧(そうへき)』と(しょう)される、幾多(いくた)戦場(せんじょう)活躍(かつやく)をして来た(ろう)将軍(しょうぐん)。 魔物(まもの)退治(たいじ)専門(せんもん)の組織『ケルベロス』を、カタリナ王女と共に立ち上げた人物。


セシア…ルオン王国の王女、カタリナの親衛隊(しんえいたい)の一員で、魔術(まじゅつ)に長けた女魔術師(まじゅつし)。 スタイル抜群(ばつぐん)で、人並(ひとな)み外れた妖艶(ようえん)な美女。


レックス…オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)()えていた騎士(きし)見習(みなら)いの青年。 正義感(せいぎかん)が強く、喧嘩(けんか)っ早い所がある。 屋敷(やしき)の中で一番の剣の使い手と自負(じふ)している。 一七歳。


カタリナ…ルオン王国の王女。 病床(びょうしょう)にある父王に代わり、数年前から(まつりごと)を行っているのだが、宰相(さいしょう)ベオルフ一派(いっぱ)所為(せい)で、思う様に政策(せいさく)が出来ずにおり、王位を(おびや)かされている。 自身は文武(ぶんぶ)に長けた美女。 二二歳。


サムート…クラレス公国(こうこく)に住む、烏族(からすぞく)の長の妹サラサに(つか)える烏族(からすぞく)の青年。 ロナードの事を気に掛けている(あるじ)(ため)に、ロナードの様子(ようす)時折(ときおり)、見に来ている。 人当たりの良い、物腰(ものごし)(やわ)らかい青年。


デュート…元・トレジャーハンターの少年。 その経験(けいけん)をかわれ、ケルベロスに加わる。 飄々としていて(つか)みどころのない性格。 一七歳。


メイ…オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)(つか)えていた元・騎士(きし)見習(みなら)いの少女。 レックスとは幼馴染(おさななじみ)。 (みずか)志願(しがん)してケルベロスのメンバーに加わる。 ボウガンの名手(めいしゅ)。 十七歳。


シャーナ…元・傭兵(ようへい)で槍を得意(とくい)とする猫人族(マオぞく)の女性で、ケルベロスのメンバーの一人。 面倒(めんどう)()の良い、姉御(あねご)(はだ)


アロイス…クラレス公国(こうこく)領主(りょうしゅ)の弟。 ロナード達『ケルベロス』に魔物(まもの)退治(たいじ)依頼(いらい)をした人物。


トータス…クラレス公国(こうこく)領主(りょうしゅ)をしているラスター伯爵家(はくしゃくけ)当主(とうしゅ)。 酒と女性に目が無く、散財(さんざい)し、堕落(だらく)した生活を送っており、自分本(じぶんほん)()政策(せいさく)ばかりする為、(たみ)からの評判(ひょうばん)もすこぶる悪い。


ベオルフ…ルオン王国の宰相(さいしょう)で、カタリナ王女に代わり、自身が王位に()こうと(たくら)んでいる。 相当(そうとう)な好き者で、自宅(じたく)別荘(べっそう)に、各地(かくち)から集めた美少年美少女を(かこ)っていると言われている。


ラシャ…クラレス公国に住む烏族(からすぞく)の長。 (かつ)てはクラレス公国の三羽烏(さんわからす)の一人として、その手腕を振るっていたが、現代(げんだい)領主(りょうしゅ)からは(けむ)たがられ、里に追いやられている。


サラサ…サムートの(あるじ)でラシャの妹。 従姉(いとこ)息子(むすこ)であるロナードの事を何か時に掛けている。


セネト…エレンツ帝国の出身で、とある理由からロナードを助けに現れた、炎の魔術を得意とする少年。


カリン…イシュタル教会に(やと)われている、()獣使(じゅうつか)いの少女。 アルシェラと同じロリータファッションが大好きなぶりっ子。


ラン…猫人族(マオぞく)の女性で、カリンの相棒(あいぼう)の槍使い。


 ロナード達は、クラレス公国(こうこく)領主(りょうしゅ)、ラスター伯爵(はくしゃく)の弟アロイスの策略(さくりゃく)により、ラスター伯爵家(はくしゃくけ)地下(ちか)(ろう)()らえられたアルシェラ達を(すく)(ため)屋敷(やしき)侵入(しんにゅう)していたのだが……。

投石器(とうせきき)だって?」

(もど)って来たセネトたちの話を聞いて、シャーナは戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら(つぶや)く。

正気(しょうき)かよ」

レックスも、顔を引きつせる。

「こんな事をする(やつ)と言えば、弟のアロイスしか思い付かんが……」

ラシャも苦々(にがにが)しい表情を浮かべながら言う。

「中には、ラスター伯爵家(はくしゃくけ)兵士(へいし)たちや、アイツの兄貴(あにき)も居るっていうのにかい?」

シャーナは、『信じられない』といった様子(ようす)で言った。

「アロイスにとって、兄のトータスは邪魔(じゃま)(もの)でしかありません。 この()に、我々と共に(ほうむ)()ろうと言う魂胆(こんたん)かも知れません」

サムートが淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言った。

「アイツやったら有り得るわ」

ランが、苦々(にがにが)しい表情を浮かべ、呟く。

「外は、アロイスの私兵(しへい)が、外へ出て来たオレたちを射殺(いころ)そうと、弓を手に取り囲んでるスよ!」

デュートは、気付かれぬ様、(まど)から外を(のぞ)き込んだ時、ズラリと兵士(へいし)たちが弓を手に、待ち(かま)えているのを見て言った。

最悪(さいあく)だ」

セネトが、青い顔をして呟く。

「どうすんだよ?」

レックスは、(あせ)りの表情を浮かべながら、ロナード達に問い掛ける。

 そう言っている間にも、投石器(とうせきき)から打ち出された大きな岩が、次々と屋敷(やしき)に落ちて来ていて、先程(さきほど)からずっと、轟音(ごうおん)と共に屋敷(やしき)が大きく()れ、(かべ)天井(てんじょう)(くず)れそうになっている。

「……付いて来い」

ロナードが、落ち着いた口調で、仲間たちに言うと、

何処(どこ)にだよ?」

「そっちは、入って来たのとは反対……」

レックスとメイが、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、ロナードに問い掛ける。

地下(ちか)(ろう)から、外へ()ける道がある」

ロナードは、落ち着いた口調で答えると、それを聞いて、レックスやメイ達は戸惑(とまど)う。

「何でそんな事をアンタが知っとるんや?」

ランが、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、ロナードに問い掛ける。

「お前等も死にたくなければ来い」

ロナードは、落ち着いた口調で返すと、(きびす)を返し、エルトシャン達が()らえられていた地下(ちか)(ろう)の方へと歩き出した。

 アルシェラやメイは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、(たが)いの顔を見合わせながらも、ロナードの後を追う事にした。


 出口を求め()け込んだ地下牢(ちかろう)には、囚人(しゅうじん)たちも沢山(たくさん)居たが、看守(かんしゅ)兵士(へいし)たちは彼等(かれら)を放って、自分たちだけ先に逃げ出してしまった後だった。

「助けてくれ!」

「ここから出してくれ!」

(たの)む」

牢屋(ろうや)に閉じ込められていた囚人(しゅうじん)たちがも、上の異変(いへん)に気が付いている様で、自分たちの前を行くアルシェラ達に向かって、(てつ)格子(ごうし)()しに必死(ひっし)(うった)えて来る。

 彼等(かれら)の声に、メイは後ろ髪を引かれる想いに()られ、ふと、足を止めると、

「コイツ等に、(かま)っている場合かでは無いだろ」

先を行っていたセネトが振り返り、冷やかな口調(くちょう)でメイに言った。

「でも……。 助けなければ、この人達は生き()めになってしまいますよ」

メイは複雑(ふくざつ)面持(おもも)ちで、セネトに向かって言うと、

「勝手にしろ。 ()(そこ)なっても知らないぞ」

セネトは溜息(ためいき)をつき、そう言い返すと、クルリとメイに背を向ける。

「デュート。 アンタ、(かぎ)を開けられるかい?」

シャーナは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、デュートに問い掛ける。

「出来なくはないスけど、一々、針金(はりがね)で開けてたら時間が掛るスよ」

デュートが戸惑(とまど)いながら、シャーナに言うと、

「オレ、(かぎ)を取って来るぜ。 さっき通った看守(かんしゅ)の部屋にある(はず)だろ?」

レックスがそう言うと、先程(さきほど)、自分たちが通り過ぎた、看守(かんしゅ)たちの部屋へ(いそ)いで(もど)る。

「お人好(ひとよ)(ども)が!」

その様子(ようす)を見て、ラシャが苛立(いらだ)った口調(くちょう)でそう言うと、身構(みがま)える。

(はな)れていろ」

中に居た囚人(しゅうじん)たちにラシャがそう言うと、囚人(しゅうじん)たちは(あわ)てて、扉の側から(はな)れる。

 ラシャが、大きく片手(かたて)()ぎ払う様な仕草(しぐさ)をすると、緑色の風の(かたまり)が現れ、(てつ)格子(ごうし)で出来た(ろう)の扉が、音を立てて吹っ飛んだ。

有難(ありがと)う。 有難(ありがと)う」

(おん)に着るぜ。 お(じょう)ちゃん」

中に(とら)われて居た囚人(しゅうじん)たちは、口々にメイ達に礼を述べると、逃げる()てがあるのか、地上へと駆け出して行った。

 そうやって、デュートの(かぎ)()けと、ラシャが力任(ちからまか)せに牢屋(ろうや)(やぶ)りをしたお(かげ)で、中に居た囚人(しゅうじん)たちが全員、外へと解放(かいほう)された。

「はあはあはあ……。 も、持って来たぜ」

あるだけ持って来たのか、沢山(たくさん)鍵束(かぎたば)を手に、レックスが戻って来た時には、(すで)(ろう)の中の人達が、助け出された後であった……。

「ごめん。 レックス。 それ、もう()らないみたい」

メイが、申し訳なさそうにレックスに言うと、

「ええーっ。 そりゃねぇぜ」

レックスは(いき)を切らせ、その場に座り込み、投槍(なげやり)気味(ぎみ)に言った。

()らん時間を掛けよって」

ラシャが、ムッとした表情を浮かべ(つぶや)く。

「手伝ってくれて、有難(ありがと)うございます」

メイはニッコリと笑みを浮かべ、ラシャに(れい)()べると、

「ふん」

ラシャは、()(くさ)そうにそう言うとプイと、メイから顔を()らすと、その様子を見て、ロナードは可笑(おか)しそうにクスッと笑った。

「アンタさ、何だかんだ言って、結構(けっこう)、良い(やつ)だね」

シャーナがニヤリと笑みを浮かべ、ラシャに言うと、彼はジロリと彼女を(にら)む。

(いそ)ぐぞ」

ロナードが、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、アルシェラ達に言った。

 (しばら)く行くと、行き止まりになっていた。

「何だよ。 何もねぇじゃねぇか!」

レックスが不満(ふまん)そうに、ロナードにそう言うが、彼はその声を無視(むし)して、ペタペタと(かべ)(すみ)を手で(さぐ)り始める。

 (かべ)は、切り出した灰色(はいいろ)の石が、隙間(すきま)なく()み重なって作られていたが、(かべ)(すみ)の石が、(かす)かに動いたので、ロナードは(おもむろ)にそれを後ろへと押す。

 すると、(いし)同士(どうし)()り合って動く様な音を立て、目の前の(かべ)がゆっくり、横へと動き始めた。

(かく)し扉……」

それを見て、セネトは(おどろ)きを(かく)せない様子(ようす)(つぶや)いた。

「マジかいな……」

ランも、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら(つぶや)く。

 何故(なぜ)、ロナードがその様な事を知っているのか、一部の者を(のぞ)き、(みんな)不思議(ふしぎ)だった。

 どう言う仕掛(しか)けになっているのか、両側の(かべ)(くぼ)みに置かれたランプが、手前から順に、ボッボッボッと音を上げ、次々と明かりが(とも)されていく。

「行くぞ」

ロナードは、落ち着き払った口調(くちょう)で、後ろに居るアルシェラ達に言った。

 中は、思った以上に広く、地下(ちか)通路(つうろ)は、天井(てんじょう)も床も、先程(さきほど)(かべ)と同じ石が使われ、強固(きょうこ)な造りであった。

 屋敷(やしき)の中から外へ逃げ出す(ため)の、脱出用(だっしゅつよう)通路(つうろ)の様であった。

(すご)いスねここ。 自分らが通って来た地下(ちか)(どう)とは別に、こんな立派(りっぱ)通路(つうろ)があるなんて」

デュートは、辺りを見回しながら(つぶや)いた。

「何や。 アンタたち、一向(いっこう)見掛(みか)けへん思うたら、地下(ちか)(どう)を通って侵入(しんにゅう)したん?」

ランが戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、(おもむろ)にレックスに問い掛ける。

「ああ。 ロナードがガキの頃、兄貴(あにき)と遊んでいた時に見付けた地下(ちか)(どう)を通って来た」

レックスがそう言うと、

「はぁ……。 何やアンタ、地元(じもと)の者やったんかいな」

ランは、軽く溜息(ためいき)を付いてから、ロナードに問い掛けると、

「ああ」

ロナードは短く答える。

「それでも、ここは元々、大公(たいこう)さまのお屋敷(やしき)だろ? お屋敷(やしき)の中からの(かく)通路(つうろ)を何でアンタが知ってるんだい?」

シャーナが、疑問(ぎもん)に思っていた事を、ロナードに(たず)ねると、

「そうスよ。 屋敷(やしき)の中の事も知ってる風だったス」

デュートも、不思議(ふしぎ)そうにロナードに言う。

「両親が屋敷(やしき)(つと)めていたんだ。 それで、たまに入る事があった」

ロナードは、微妙(びみょう)な間を置いて、淡々(たんたん)とした口調で答えた。

(なる)(ほど)。 そう言う事スか」

それを聞いてデュートは、納得(なっとく)した様子で言う。

「アンタ、ホンマにええ所のボンボンやったんやな? せやないと、いくら親が屋敷(やしき)(はたら)いてても、大公(たいこう)さまのお屋敷(やしき)になんか上がらせて(もら)えへんで?」

ランが、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言うと、

「一応、クレーエ伯爵家(はくしゃくけ)の人間だ」

ロナードは、淡々(たんたん)とした口調で返す。

「そうやったんか。 そりゃ、えらい失礼(しつれい)したな。 若様」

ランは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言ってから、

「せやったら何で若様、教会に追われてるん? 何やらかしたんや?」

不思議(ふしぎ)そうに問い掛ける。

「別に……やらかした訳では……」

ロナードは、困った様な表情を浮かべながら答えるが、

「教会の孤児院(こじいん)から脱走(だっそう)したス」

デュートが、ヘラヘラと笑いながら答えた。

「は? いや、十分にやらかしとるやん!」

それを聞いて、ランはギョッとした表情を浮かべ、ロナードに言った。

「まあ、逃げ出したくなる気持ちは、分からなくも無いわ。 毎日毎日、お祈りお祈りって、ホントつまんない所よ。 実際(じっさい)、毎月の様に(だれ)か逃げ出してたしね」

それまで、(だま)って話を聞いていたカリンが、肩を(すく)めながら言うと、ロナードは複雑(ふくざつ)な表情を浮かべる。


「どうやら、出口の様です……」

先を行っていたサムートが、(かす)かに向こう側から、明かりが差し込んでいる事に気付くと、落ち着いた口調でロナード達に言った。

 外から、(なま)(あたた)かい風が吹き込んできていて、それに乗って、何処(どこ)からか遠くで音楽が聞こえ、人々の話し声などが聞こえてくるが、周囲(しゅうい)には何も無かった。

 アルシェラ達は、アロイスの私兵(しへい)たちが、待ち(かま)えて居る可能性(かのうせい)があるので、外の様子(ようす)に注意しつつ、順に地下(ちか)(どう)を出る。

 見ると、大きな(へい)(そび)え立っており、右手には土手(どて)があり、星空以外は真っ暗であったが、左手の方は(かす)かに街の明かりが見えた。

「は~。 やっぱ、外が一番エエな」

ランがそう言いながら、大きく伸びをした瞬間(しゅんかん)突然(とつぜん)何処(どこ)からか弓矢が飛んで来た。

「!」

ランは思わぬ攻撃(こうげき)に驚き、後ろに居たカリンや、レックス達も弓矢が飛んで来た方へと目を向ける。

地下(ちか)(どう)を知り尽くしていた事が裏目(うらめ)に出たな。 ユリアス。」

若い男の声と共に、土手(どて)の向こう側に(ひそ)んで居たと思われる、武装(ぶそう)した兵士(へいし)たちが、松明(たいまつ)の明かりに()らされながら、武器を手に、ロナード達の前に姿(すがた)を現した。

 兵士(へいし)たちの後ろには、馬に乗ったアロイスが不敵(ふてき)な笑みを浮かべていた。

「アロイス! アンタ、ウチ()まで生き()めにする気やったんかいな!」

アロイスの姿を見るなり、ランは(いか)りの表情を浮かべ、そう叫んだ。

「何だ。 お前等(まえら)一緒(いっしょ)だったのか。 つまらん。 仲良(なかよ)(ころ)し合い、(くず)れた瓦礫(がれき)の下に()もれてしまえば良かったものを。 (まった)く。 余計(よけい)手間(てま)を掛けさせてくれる」

アロイスは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、ランに向かって言った。

「ふざけんな! テメーが死ねよ!」

それを聞いてカリンがブチ切れで、怒鳴(どな)り返す。

折角(せっかく)(こころ)(やさ)しい(わたし)が、母親が()えた場所で(ほふ)ってやろうとしたのに、生きて出て来るとは、なかなか薄情(はくじょう)だな? ユリアス 死ねば良かったものを」

アロイスは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、ロナードに言った。

(だれ)が大人しく死ぬか。 このクズ野郎(やろう)。 (ころ)してやるから、(おれ)の前にさっさと()りて来い」

ロナードは、ムッとした表情を浮かべ、強い口調(くちょう)でアロイスに言い返すと、彼は、少し(おどろ)いた様な表情を浮かべた。

「はっ! (しばら)く合わない内に、随分(ずいぶん)と口が悪くなったじゃないか。 (だれ)だったかな? 半べそかきながら、母親のドレスの(すそ)(かく)れていた(やつ)は」

アロイは、馬鹿(ばか)にした様な口調でロナードに言うと、それを聞いて、一緒(いっしょ)に居た兵士(へいし)たちも、馬鹿(ばか)にしたように声を上げて笑う。

「あの野郎(やろう)……」

彼らの態度(たいど)に、レックスが(ひたい)青筋(あおすじ)を浮かべ、(うな)る様な声で呟く。

「アイツ等の脳天(のうてん)に、矢をブチかましてやりましょう!」

メイも、不愉快(ふゆかい)さを(あら)わにし、強い口調で言う。

同感(どうかん)だ」

セネトも、(いか)りの形相(ぎょうそう)で言うと、素早(すばや)身構(みがま)える。

「ラン。 カリン。 そいつ()仲良(なかよ)く死にたく無ければ、今すぐ、そいつ等を(ころ)せ」

アロイスは、土手(どて)からロナード達を見下ろしながら、一緒(いっしょ)に居た二人に向かって言った。

 それを聞いて、メイやレックスは、(あわ)てて二人の方へと目を向ける。

「アンタ、頭に虫が()いとるんとちゃうか?」

(だれ)が、自分を(ころ)そうとした(やつ)の言う事なんか聞くか! マジ、ふざけんなよ!」

ランとカリンは、怒りを(あら)わにして、アロイスにそう怒鳴(どな)り返してから、

「マジ、あいつブッ(ころ)そう!」

カリンが、物凄(ものすご)真剣(しんけん)な顔をして、アロイスを指差(ゆびさ)しながらロナード達に言った。

 それには、ロナードやエルトシャンは、思わず苦笑(にがわら)いを浮かべた。

「死にさらせや! ワレぇ!」

ランはそう言うと、物凄(ものすご)跳躍力(ちょうやくりょく)で、土手(どて)の上に居るアロイスの頭上へ飛び、槍先(やりさき)を彼の頭に向け、急降下(きゅうこうか)する。

 その攻撃(こうげき)に、アロイスは(あわ)てて()け、思い切り乗っていた馬から(ころ)げ落ちた。

「気でも()れたか! ラン!」

顔を青くして、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、スッ()けた自分の(また)の間に、(やり)を突き立てて立っているランに言った。

「せやから、(あたま)可笑(おか)しいんは、そっちやと、言うとるやろうがっ!」

ランは、地面に()(ささ)さっている槍を引き抜くと、そう叫びながら、頭上で勢い良く槍を振り回す。

「あわわわ……」

アロイスは、(なさ)けない声を上げながら、地面を()う様にして、(あわ)ててランの(そく)から(はな)れる。

「ペットちゃん。 アイツら全員、食べちゃって良いわよ!」

カリンも素早(すばや)(じゅつ)(とな)え、この前とは別の、長い(ひげ)を有した大型のヒョウの様な魔物(まもの)召喚(しょうかん)する。

「な、何をしている! (わたし)を助けろ! (かか)れ!」

アロイスが兵士(へいし)たちに向かってそう叫び、ロナードたちへの攻撃(こうげき)を命じた瞬間(しゅんかん)……。

風牙烈風(ふうがれっぷう)!」

彼等(かれら)の頭上から、サムートとサラサの声が(ひび)いて来て、物凄(ものすご)い突風と共に土手(どて)の上に(かま)えていた、アロイスの私兵(しへい)たちが一瞬(いっしゅん)で吹き飛ばし、兵士(へいし)たちは後方の川の中へ水飛沫(みずしぶき)を上げ、次々と落ちてしまった。

「なっ、な、なにぃ!」

アロイスは突然(とつぜん)出来事(できごと)に、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、絶叫(ぜっきょう)に近い声を上げながら、(いそが)しく辺りを見回す。

「こちらですよ」

アロイスは、頭上から声がしたので、彼は自分の頭上を見上げると、闇夜(やみよ)(まぎ)れる様に、サムートとサラサが(つばさ)(はね)ばたかせ、両腕を胸の前に組み、アロイス達を見下ろしていた。

「くっ……。 忌々(いまいま)しい烏共(からすども)がっ!」

サムート達の姿(すがた)を認めたアロイスは、表情を(ゆが)め、叫ぶ。

「それだけでは、無いわよ!」

セシアがそう叫んだ瞬間(しゅんかん)、川の水が大きく盛り上がり、まるで意志(いし)を持った様に土手(どて)に居た、アロイスの私兵(しへい)たちを飲み込んで行く……。

(わたくし)たちの不意(ふい)を突いてやったと思って居たところ申し訳ないですけれど、(わたくし)存在(そんざい)失念(しつねん)していた様ですわね?」

セシアは、片手(かたて)で自分の髪を払いつつ、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら、アロイスに言った。

「セシアさん!」

「ナイス!」

メイとレックスが嬉々(きき)とした表情を浮かべ、彼女に向かって言った。

 地下(ちか)(どう)から出て来たロナード達に、先制(せんせい)攻撃(こうげき)をする(はず)が、アロイス邸の兵士(へいし)たちはあっという間にに(そう)(くず)れになりつつあった。

「おい! お前たち何をしている! 早く立て直せ!」

アロイスは(あせ)りの表情を浮かべ、川の中に落ちてしまった、自分の所の兵士(へいし)たちに向かって、そう怒鳴(どな)り付ける。

形勢(けいせい)逆転(ぎゃくてん)だな。 アロイス」

何時(いつ)の間にアロイスに(せま)っていたのか、土手(どて)の上にロナードが上がって来ており、剣を手に、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で彼に言った。

「ま、ま、ま、待ってくれ。 これは、兄のトータスが言い出した事で、(わたし)仕方(しかた)なく……」

アロイスは、(あわ)てふためきながら、ロナードにそう弁明(べんめい)するが、

阿呆(あほう)なお前の兄貴(あにき)が、こんな事を思い付くものか」

ロナードは、冷ややかな口調(くちょう)で、アロイスに言い返す。

「わ、わ、わ、分かった。 (あやま)る!。 謝るからどうか勘弁(かんべん)してくれ!」

アロイスは(あわ)てふためきながら、自分を(にら)み付けているロナードにそう懇願(こんがん)する。

「この()(およ)んで見苦(みぐる)しい。 騎士(きし)ならば騎士(きし)らしく、(いさぎよ)()れ!」

ロナードは、冷ややかな口調(くちょう)で言い放つと、アロイスに向かって思い切り、剣を振り下ろした。

「げきゃ―――っ!」

ロナードが振り下ろした剣が顔面に直撃(ちょくげき)しそうになり、アロイスは、(なさ)けない声を上げながら、(あわ)てて()けようとして、手元を(すべ)らせ、体勢(たいせい)(くず)し、背中から勢い良く水飛沫(みずしぶき)を上げ、川の中に落ちた。

「たすたすたす……」

(よろい)を着たまま川の中に落ちたので、鎧の重みで浮かぶ事が出来ず、アロイスは手足をバタバタと動かし、必死(ひっし)に水面から顔を出して、近くに居た兵士(へいし)たち助けを求める。

「……」

それを見て、ロナードはポカンと口を開け、呆気(あっけ)にとられる。

「だっさ」

自業自得(じごうじとく)やな」

カリンとランも、(あき)れた表情を浮かべ、冷ややかな視線(しせん)をアロイスに向けながら(つぶや)く。

 アロイスの私兵(しへい)たちは、その大半(たいはん)が川の中に落ち、総崩(そうくず)れとなり、(あるじ)のアロイスも見事(みごと)に返り()ちに()ってしまった(ため)、彼らは、(よろい)の中から大量(たいりょう)の水と川魚(かわざかな)を出しながら、(おお)(あわ)てでその場から撤収(てっしゅう)し始めた。

「ザマーミロ!」

全身(ぜんしん)水浸(みずびた)しになり、バチャパチャパ、チャプチャプと音を立て、具足(ぐそく)から水を出しながら、重そうに歩く兵士(へいし)たちを見て、レックスは勝ち(ほこ)った様に、ケラケラと笑いながら言った。


「ったく……。 結局(けっきょく)、ウチ等は何しに来たんか、分からへんな」

ランは、拍子抜(ひょうしぬ)けした様子で、溜息(ためいき)を付きながら、手に持っていた槍を背中に背負(せお)う。

「ホントよ」

カリンも、『はあ』と溜息(ためいき)を付きながら言う。

「アンタたちがその気なら、相手をしてやっても良いんだよ?」

シャーナが不敵(ふてき)な笑みを浮かべ、そう言ってラン達を挑発(ちょうはつ)するが、

冗談(じょうだん)。 そんな元気、ウチ等にある訳ないやろ」

ランは苦笑(にがわら)いを浮かべ、肩を(すく)めながら言った。

「もう(つか)れたから、適当(てきとう)宿(やど)を見付けて、()るわ」

カリンも、全くやる気が無さそうに、肩を(すく)めながら言う。

「そうかい」

シャーナは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言う。

「ま、もうウチ等が、アンタを(つか)まえる様な命令が来ん事を(いの)っとるんやな」

ランは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、ロナードに言う。

「そうだな……」

ロナードは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言う。

「ほな」

カリンは、片手(かたて)を挙げてそう言うと(きびす)を返し、カリンと共にゆっくりとした足取りで、街の方へと去って行った。

「はぁ……。 一時はどうなるかと思った」

緊張(きんちょう)の糸が切れたのか、セネトがそう言いながら、その場にヘタリ込んだ。

「ホントよ。 とんだ目に()ったわ」

アルシェラも、ゲンナリとした表情を浮かべながら言う。

「お前が言うな! お前が!」

ラシャは、イラッとした表情を浮かべ、強い口調でアルシェラに言う。

「そうですわ。 元はと言えば、アルシェラ様がお店に立ち()らなければ、こんな事にはならなかったと言うのを分かっていて、(おっしゃ)っていますの?」

セシアも、苛立(いらだ)ちを(かく)せない様子で、ジロリとアルシェラを(にら)みながら言う。

「え~? そんなの(たん)なる偶然(ぐうぜん)でしょ~?」

アルシェラは、自分の所為(せい)だとは微塵(みじん)も思って居ない様で、その様な事を平気で言い放った。

 それには、同胞(どうほう)(ころ)されたラシャの堪忍(かんにん)(ぶくろ)()が、切れた。

(ころ)してやる!」

怒りの形相(ぎょうそう)で言うと、アルシェラに(つか)み掛ろうとするので、側に居たサムートとエルトシャンが、(あわ)ててラシャの腕を(つか)んで止める。

「落ち着いて下さい。 (おさ)

サムートは、(あせ)りの表情を浮かべ、自分たちを引き()りながら、(いか)りの形相(ぎょうそう)でアルシェラに()め寄るラシャに言う。

「え。 なに? (こわ)いんですけど」

ラシャが、(おに)の様な形相(ぎょうそう)で自分に(せま)って来ているので、アルシェラは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、そう(つぶや)くと、ドン引きする。

「ラシャを(あお)るな。 アルシェラ」

ロナードは、ゲンナリした表情を浮かべ、(ひたい)片手(かたて)()えながら、他人事(ひとごと)の様にしているアルシェラに言った。

「……(なぐ)っても、良いだろうか」

アルシェラの態度(たいど)を見て、サラサも(こら)えきれなくなり、(いか)りに(こぶし)(ふる)わせ、(ひたい)青筋(あおすじ)を浮かべながら(つぶや)いた。

「いやいやいや……」

「ちょい()ち!」

彼女の発言を聞いて、近くに居たデュートとシャーナが(あわ)てて、彼女を(なだ)める。

「アル。 君、ルオンに帰ったら、今回の事に対する反省(はんせい)(ぶん)(てい)(しゅつ)して(もら)うからね」

エルトシャンは、『はあ……』と、溜息(ためいき)を付いてから、アルシェラに言うと、

(あま)すぎるぞ!」

ラシャが、不満(ふまん)に満ちた表情を浮かべ、エルトシャンに言う。

面倒(めんどう)くさ~。 大体、アタシが何したつて言うのよ」

アルシェラは、不満(ふまん)に満ちた表情を浮かべ、口を(とが)らせながら言うと、それを聞いて、ロナードの堪忍(かんにん)(ぶくろ)()が切れ、表情を(けわ)しくした。

「ちょっと待て! 暴力(ぼうりょく)駄目(だめ)だ! 暴力(ぼうりょく)は!」

それに気が付いたセネトが、(あわ)てて二人の間に入り、ロナードに向かってそう言って(なだ)めようとする。

退()け!」

ロナードは、自分の前に立ち(ふさ)がるセネトに向かって言うと、乱暴(らんぼう)に手で彼を押し退()けようとする。

駄目(だめ)だ!」

セネトは、必死(ひっし)にロナードの両腕を前から(つか)み、アルシェラの方へ進めない様に()()る。

「何やってるのかしら……」

その(すき)にロナード達の側から(はな)れ、メイとレックスの側へ来たアルシェラは、ロナード達を見ながら、ボソッと(つぶや)いた。


 その後、ロナード達はラシャたちの手を()り、烏族(からすぞく)の里に到着(とうちゃく)し、数人に分かれ、宿泊(しゅくはく)する部屋を()し与えられ、彼らは思い思いに、夕食が出来るまでの時間を過ごしていた。

「ロナード。 少し……良いか?」

セネトは(おもむ)に、ソファーの上に座り、()導書(どうしょ)を読んで居たロナードに声を掛ける。

「どうした?」

ロナードは顔を上げると、不思議(ふしぎ)そうにセネトに問い掛ける。

「いや、ちょっと、ここでは話せない事なんだ」

セネトは、申し訳なさそうにしながら、ロナードに言うと、

「分かった」

ロナードは、読んでいた()導書(どうしょ)を閉じると、それをソファーの上に置き、お落ち着いた口調でセネトに言うと、立ち上がった。

「静かな場所があるから、そこで話そうか」

ロナードは、落ち着いた口調でセネトに言うと、彼は神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで(うなず)き返し、ロナードの後に続いて、部屋を出た。

「どうしたんスか?」

床の上に座り、ブーメランの手入れをしていたデュートは、その手を止め、(となり)で剣の手入れをしていたレックスに問い掛ける。

「さあ……」

レックスも、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら返す。

 セネトは、ロナードの後に続いて行くと、何時(いつ)の間にか外に出ていて、所々に足元に明かりがともっているだけの、真っ暗な場所に出た。

 どうやら、そこは中庭(なかにわ)らしく、(ほの)かにカンテラの明かり(とも)されて、高山(こうざん)植物(しょくぶつ)だろうか……セネトが見た事も無い花が風に()れていた。

 日が暮れて、闇夜(やみよ)支配(しはい)する空には、街中(まちなか)よりも空気が()んでいる所為(せい)か、何時(いつ)も以上に沢山(たくさん)の星が(かがや)いている。

 ロナードは(おもむろ)に、近くにあった石で出来たベンチの上に腰を下ろし、

「それで、話と言うのは?」

静かにそう問い掛けてきた。

何故(なぜ)地下(ちか)神殿(しんでん)へ行きたいのか……。 その理由を話そうと思ったんだ」

セネトは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言うと、

「確かに。 何も理由を知らないままなのは、(おれ)もどうかとは思う」

ロナードは、落ち着いた口調で言った。

地下(ちか)神殿(しんでん)へ行くのは、『シード』の破壊(はかい)をする為だ」

セネトは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言うと、

「シード?」

ロナードは小首を(かし)げ、問い掛ける。

「これは、(ぼく)たちが単にそう呼んでいるだけで、地域(ちいき)種族(しゆぞく)、時代によって、その呼び方は様々(さまざま)だ。 そもそも、魔力(まりょく)と言うのは、世界中を循環(じゅんかん)しているのは、知っているよな?」

セネトは、落ち着いた口調で言うと、

「ああ。 そのお(かげ)で、(おれ)たちは魔術(まじゅつ)を使える」

ロナードは(うなず)き返し、淡々(たんたん)とし口調で答えた。

「世界中の(いた)る所に、その入り口と出口の様なモノがあって、そこに(まれ)魔力(まりょく)だまりが出来て、それが結晶(けっしょう)したもののを、一般(いっぱん)()(せき)と言うんだが、それが何百年と言う年月を()て、莫大(ばくだい)魔力(まりょく)()め込んだ化け物みたいなの結晶(けっしょう)が出来る事がある。 それを(ぼく)らは魔力(まりょく)の種、『シード』と呼んでいる」

セネトは、少し事務的な口調で、簡潔(かんけつ)にロナードに説明をする。

(なる)(ほど)。 ()(せき)魔法(まほう)(けん)などに使われるから知っていたが、シードは知らなかった。」

ロナードは、真剣な面持(おもも)ちで呟く。

「知らなくて当然(とうぜん)だ。 さっきも言った通り、長い年月をかけて作られるもので、見付かる事自体が(まれ)だからな。 (ぼく)もまだ、お目に掛った事は無い」

セネトは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言った。

「その希少(きしょう)なシードを見付けて、どうするんだ? そもそも何故(なぜ)、探している?」

ロナードは、真剣(しんけん)な表情を浮かべ、自分が疑問(ぎもん)に思った事をセネトに問い掛けた。

「教会が集めているんだ。 (くわ)しい理由は分からないが……」

セネトは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、重々しい口調で語った。

「教会が?」

ロナードは、戸惑(とまど)いながら問い掛ける。

「ルオンでクーデターを起こす(さい)、その力を兵器(へいき)として使う可能性もある」

セネトは、真剣(しんけん)な表情で語る。

「クーデター……」

ロナードは、神妙(しんみょう)な表情を浮かべる。

「その引き金となるのが、オルゲン将軍(しょうぐん)の死……と言う訳だ」

セネトは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで答える。

「……将軍(しようぐん)が亡くなれば、王女は、戦力的(せんりょきてき)にもそうだが、何よりも求心力(きゅうしんりょく)を大きく()がれる事になる。 中には、それを理由に宰相派(さいしょうは)寝返(ねがえ)る者も出で来るだろう」

ロナードは、片手(かたて)を自分の(あご)の下に()え、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで呟いた。

「そう。 今までは、微妙(びみょう)なバランスで保たれていた力関係が、将軍(しょうぐん)が居なくなる事で、大きく崩れてしまう」

セネトも、真剣(しんけん)な表情を浮かべて言う。

戦力(せんりょく)は兎も角、求心力(きゅうしんりょく)となると……。 流石(つすが)(おれ)では(おぎな)えない」

ロナードは、片手(かたて)(ひたい)()え、『はあ……』と溜息(ためいき)を付くと、そう言った。

「そうだな。 下手(へた)に出しゃばると、新たな火種(ひだね)を生みかねない」

セネトは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言うと、

「お前……(おれ)素性(すじょう)を知って……」

ロナードは表情を強張(こわば)らせ、思わず、セネトを見る。

「心配するな。 (だれ)かに話す様な事はしない」

動揺(どうよう)している様子のロナードを見て、セネトは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言う。

「……」

ロナードは、『信じて良いのだろうか』と言う、微妙(びみょう)な表情を浮かべて、セネトを見ている。

()(かく)、最初に話したシードの破壊(はかい)、手伝ってくれるよな?」

そんなロナードの視線(しせん)を受けつつも、セネトはニッコリと笑みを浮かべ、ロナードに言った。

「それは……(かま)わないが……」

ロナードは、戸惑(とまど)いながら言う。

「どうした?」

ロナードの様子を見て、何か心配そうにしているので、セネトは(おもむろ)に問い掛ける。

「いや……そんなエネルギーの(かたまり)の様なモノを破壊(はかい)して、大丈夫(たいじょうぶ)なのかと……」

ロナードは、不安そうな表情を浮かべ、セネトに言う。

「正確には、『破壊(はかい)』ではなく、『吸収(きゅうしゅう)』だ。 ぶっ(こわ)しては流石(さすが)周囲(しゅうい)が消し飛ぶ」

セネトは、落ち着いた口調で言うと、ロナードは戸惑(とまど)いの表情を浮かべる。

吸収(きゅうしゅう)するには、膨大(ぼうだい)魔力(まりょく)を一時的に受け入れる(うつわ)が必要だ」

そんなロナードに、セネトは落ち着いた口調で説明をする。

成程(なるほど)。 それで(おれ)出番(でばん)と言う訳か」

話を聞いて、ロナードは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで呟く。

「そうだ。 お前の体を媒体(ばいたい)に、異界(いかい)に住む幻獣(げんじゅう)たちに、シードを食ってもらおうと言う訳だ。 幻獣(げんじゅう)は、魔力(まりょく)が大好物だろう?」

セネトは、ロナードに説明をした後、にっこりと笑みを浮かべた。

理屈的(りくつてき)には、出来そうだが……」

ロナードは、(しばら)く考えてから、ポツリとそう呟いた。

「一度で無くても良い。 何度かに分けけて、教会が入手するより先に、シードを消失(しょうしつ)させれば良い」

セネトは、真剣(しんけん)な表情で、ロナードを見据(みす)えながら言った。

「……分かった。 やってみよう」

少し考えてから、ロナードは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで答えた。

(たのも)もしいよ」

セネトは、ニッコリと笑みを浮かべながら、ロナードに言った。


成程(なるほど)ねぇ……」

シャーナは、両腕を胸の前に組み、シミジミとした口調で呟く。

 ロナードは、セネトから聞いた話をその後、女子たちに()し与えられている部屋で、シャーナたちに話し、彼の話を聞いて、一同は何とも言えない、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべている。

「シード……そんな物が存在(そんざい)するなんてね……」

エルトシャンは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら呟く。

「けど、アイツがシードを集めるのは、(ほか)に理由があるかもよ? それこそ、兵器(へいき)転用(てんよう)する気なのかもよ?」

シャーナが、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言うと、

「それは否定出来(ひていでき)ないですけれど、オルゲン将軍(しょうぐん)を助けて(もら)対価(たいか)なのですから、(ことわ)る事は出来ませんわ」

セシアは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら言い返す。

「まあねぇ……。 人一人の命には代えられないけど……」

シャーナも、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら言う。

「どの道、大陸鉄道(たいりくてつどう)は使えないのだから、彼の言う地下(ちか)神殿(しんでん)を通るしかないよ。 そのついでと思えば、良いんじゃないかな?」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)苦笑(にがわら)いを浮かべながら、シャーナ達に言う。

「そう言う事に、しておこうかね」

シャーナは、軽く溜息(ためいき)をついてから、『仕方(しかた)がない』と言った様子で返した。

「それより、そろそろ部屋に戻った方が、良いのではなくって?」

セシアがふと時計を見て、ロナードとエルトシャンに言った。

「そうだな。 セネトがそろそろ風呂(ふろ)から上がって来るかも知れない」

ロナードはそう言うと、座っていたソファーから腰を浮かす。

「そうだね」

エルトシャンもそう言うと、椅子(いす)から立ち上がる。

「まあ、セネトの事は、アタシとセシアが注意して見ておくよ」

シャーナが、落ち着いた口調で言うと、

「分かった。 (たの)む」

ロナードはそう返すと、エルトシャンと共に部屋を後にした。

「……とは言え、そんな(うら)がありそうな感じではないけどねぇ……」

シャーナは、肩を(すく)めながら言うと、セシアも真剣(しんけん)面持(おもも)ちで頷き、

「少なくとも、ロナード様を助けたいと言う気持ちに、(いつわ)りは無いように思えるわ」

「そうですよね。 ロナード様の事、好きみたいですから」

メイも、これまでのセネトの言動(げんどう)を思い出しながら、言う。

「まあ、今は様子を見るしかないよ」

シャーナは、落ち着いた口調で言うと、セシアとメイは(そろ)って(うなず)いた。


「ああん! もう嫌になりますわ!」

不意(ふい)に、前方でデュートと共に、トラップの解除(かいじょ)をしていたセシアが、声を上げる。

「まだか……」

両腕(りょううで)を胸の前に組みながら、ラシャが、苛立(いらだ)った口調でセシアに言う。

「そう(おっしゃ)るのなら、ご自分でなさったら?」

セシアはムッとして、針金(はりがね)をラシャに向かって差し出す。

「そうカリカリするんじゃないよ。 セシア」

シャーナが、苦笑(くしょう)しながら言うと、セシアは、ムッとした表情を浮かべたまま、

「腹も立ちますわよ! こんな複雑(ふくざつ)なトラップを作って! 少しは、解除(かいじょ)するこっちの身にもなって欲しいですわ!」

「でも……解除(かいじょ)されたら困るから複雑(ふくざつ)なんじゃあ……」

メイが戸惑(とまど)いつつも、思わず、セシアに言う。

(ド正論(せいろん))

シャーナは心の中で呟くと、苦笑(にがわら)いを浮かべる。

「その通りですけれど……。 でも、腹が立ちますもの」

セシアは、ムッとした表情を浮かべながら、メイに言い返すと、渋々(しぶしぶ)と言った様子でトラップと向き合う。

「なぁ。 これなんだ?」

何時(いつ)の間に移動(いどう)したのか、トラップの解除(かいじょ)必死(ひっし)にしているデュートの(そば)に来たレックスが何かに気付いて、そう言うと(おもむろ)にそれに手を伸ばす。

「え。 ちょっとレックス! 何でも(さわ)わら……ああっ!」

デュートが(おこ)って、レックスに言っているにも関わらず、彼は、人の忠告(ちゅうこく)も聞かず、『押して下さい』と言わんばかりにある、如何(いか)にも(あや)しげなボタンを押した。

 すると、彼の足元の床がカパっと開き、レックスはそのままストンと、その穴に()い込まれる様に落ちる。

「レックス!」

(そば)に居たデュートが(あわ)てて手を伸ばし、穴に真っ逆さまのレックスの腕を(つか)むと、それを見て、ロナードとエルトシャンが駆け寄り、危うく穴に落ちかけたレックスの体を引き上げる。

「うへぇ……。 あぶねぇ。 あぶねぇ……」

レックスは、(ひたい)に浮かんだ冷や汗を、手の(こう)(ぬぐ)いながら呟く。

「『あぶねぇ。あぶねぇ』って……。 君、これで落とし穴に()まるの何度目?」

エルトシャンが、(あき)れた表情を浮かべ、レックスに言うと、

「んなもん、一々数えてねぇし」

レックスは、五月蠅(うるさ)そうな表情を浮かべ、言い返す。

 つまり、自分が覚えていない(ほど)、落とし穴に落ちたと言う事だ……。

馬鹿(ばか)じゃないのか? お前」

ロナードが、ゲンナリした表情を浮かべながら、レックスに向かって言うと、彼はカチンと来る。

今更(いまさら)、それを確認するまでも無いだろ?」

シャーナは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、ロナードに言うと肩を(すく)める。

「オレはだな、セシア達の手伝いをしようかと……」

レックスがムッとして、シャーナに言い返すと、セシアが冷やかな視線(しせん)をレックスに向けながら、

迷惑(めいわく)ですわ! (ほか)のトラップが作動(さどう)したらどうしますの? お願いですから、後ろで大人しくして居て!」

苛立(いらだ)った口調で言うと、急に彼女の腹の虫も一緒(いっしょ)になって抗議(こうぎ)をした。

 セシアは(はず)ずかしくなり、自分の腹を押さえ、顔を赤くする。

休憩無(きゅうけいな)しじゃキツイだろ? 一息(ひといき)つかないかい?」

シャーナは、苦笑いを浮かべながら、セシアにそう声を掛けると、

「そうですわね……」

セシアは、恥ずかしそうに顔を赤らめたまま、そう返した。

 メイは、持って来た携帯用(けいたいよう)のポットを焚火(たきび)にくべてお湯を(わか)かし、香りの良い紅茶を茶こしに入れ、ティカップにお湯を(そそ)ぎ、セシアに差し出す。

有難(ありがと)う」

セシアは礼を()べると、メイから差し出されたカップを受け取り、紅茶の香りを楽しむ。

「良い香り……」

セシアは口元を(ほころ)ばせ呟くと、カップに注がれた紅茶を啜る。

 その様子を見て、ロナード達もその辺の床の上に座り、お茶を飲んだり、床の上に体を横にしたりと、思い思いに休憩(きゅうけい)を始めた。

(まった)く。 どうなってるスかね? これ」

デュートはそう言いながら、朝早く起きて、烏族(からすぞく)の里の女たちが作って持たせてくれた、サンドイッチを頬張(ほおば)る。

 デュートの(となり)で、サンドイッチを口に運んでいたロナードは、何気(なにげ)に、周囲を見渡(みわた)す。

 緑色の(かべ)と床、自分たちの目の前に立ち(ふさ)がる、重厚(じゅうこう)で、ちょっと押したくらいでは動きそうにない巨大(きょだい)な石の扉……。

 壁には、色取り取りの塗料(とりょう)塗料(とりょう)で、何か、儀式(ぎしき)をしている様子が描かれ、その様な絵が延々(えんえん)と続いている。

 石の扉の前にも、赤茶色の塗料で書かれた人々、そして、扉の中央には、黒の塗料(とりょう)で縁どりされた、向かい合った二匹の緑色のドラゴンの姿がある……。

(そう言えば、向こうにもドラゴンの石像が二体あったな)

ロナードはそう思いながら、自分たちが、この扉の前へ来る以前、自分がその二体のドラゴンの前を通った時の様子を思い出す……。

 天井(てんじょう)(とど)きそうな(ほど)の、巨大なドラゴンの姿を(かたど)った石像(せきぞう)が二体、背中合わせに立っていた。

(あの石像(せきぞう)は、背中合(せなかあ)わせだった……。 けれど、この石の扉に描かれたドラゴンは向い合っている……)

ロナードは、心の中で呟く、そしてハッとすると(おもむろ)に立ち上がる。

「どうかしたか?」

(そば)に居たセネトが、不思議(ふしぎ)そうな顔をして、ロナードに声を掛ける。

「そうか! 分ったぞ!」

ロナードは、嬉々(きき)とした表情を浮かべ、思わず叫ぶ。

「分ったって、何が?」

エルトシャンが、不思議(ふしぎ)そうにロナードに声を掛ける。

「この扉を開ける方法をだ!」

ロナードがそう言うと、それを聞いた仲間たちが、一斉(いっせい)に彼の方を見る。

「どう言う事ですの?」

セシアが戸惑(とまど)いながら、ロナードに問い掛ける。

「この扉の壁画(へきが)がヒントだったんだ」

ロナードはそう言うと、石の扉に描かれた壁画(へきが)指差(ゆびさ)す。

「? どう言う事だよ?」

レックスが、小首を(かし)げながら、ロナードに問い掛ける。

「ここに来る前、巨大なドラゴンの石像(せきぞう)があっただろう? (おぼ)えてないか?」

ロナードが言うと、セシア達は、少し前の自分たちの事を思い出す。

「そう言えば……。 馬鹿デカイのがあったな」

ラシャがそう呟くと、ロナードは(うなず)きながら、

(おれ)記憶(きおく)が確かなら、その石像(せきぞう)背中合(せなかあ)わせだった(はず)だ」

「言われてみれば……。 オレ、右側を通ったスけど、オレの方を見ていた気がするっス」

デュートがそう言うと、ラシャが眉間(みけん)(しわ)を寄せながら、

「それで? その石像と、この壁画(へきが)、一体何の関係があると言うんだ?」

ロナードに問い掛けると、彼は壁画(へきが)指差(ゆびさ)しながら、

(おれ)推測(すいそく)だが、あの石像(せきぞう)をこの絵の通りに向かい合わせにすると、この扉が開く仕組(しく)みかもしれない」

真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、一同に向かって言うと、

「あのな……。 あんなデカイのをどうやって動かすっ言うんだよ?」

レックスが、(あき)れた様な表情を浮かべ、ロナードに言い返した。

「向こうを良く調べたら良いんじゃないスか?。 何処(どこ)かに、スイッチがあるかも知れないスよ?」

デュートがそう言うと、ラシャも(うなず)きながら、

「これだけ、このフロアの中を探し回っても、ちっとも扉は開かないんだ。 ロナードの(せつ)(あなが)ち、外れでは無いかも知れん」

「そうですわね。 調べてみましょう」

セシアはそう言うと、(おもむろ)に床から腰を上げる。

「行ってみるか」

セネトもそう言うと、床の上から腰を上げ、立ち上がる。

「そうだね」

シャーナもそう言うと、立ち上がり、レックスも渋々(しぶしぶ)と言った様子で立ち上がる。

 そうして、ロナード達はひとつ前のフロアへ戻ると、フロアの中央に置かれた、二体のドラゴンの石像(せきぞう)を見上げる。

「やっぱ、無理なんじゃね?」

レックスは、石像(せきぞう)を見上げながら呟く。

 石像(せきぞう)の周囲をチェックしていたセシアが、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、

「この台座……。 長く動かした形跡(けいせき)はありませんけれど、何だか動きそうね」

カンテラを片手(かたて)にそう呟くと、反対側の石像(せきぞう)をチェックしていたデュートも、

「こっちも、動きそうな感じス!」

その言葉を聞いて、アルシェラは思わずロナードの方を向き、

「すっごぉい! ()えてるじゃない! ロナード」

嬉々(きき)とした表情を浮かべ、声を(はず)ませながら言った。

「で、どうやって動かす?」

ラシャが、両腕を前に組みながら、仲間たちに問い掛ける。

「……いっちょ、押してみっか?」

レックスが、(おもむろ)にそう言うと、

「そうだね。 駄目(だめ)で元々で(ため)してしてみようよ」

エルトシャンもそう言うと、レックスと共にがいきなり石像(せきぞう)に手を回し、押し始めるのを見て、ロナード達は(あせ)る。

「お、おい……。 (さわ)って大丈夫(だいじょうぶ)なのか?」

セネトが戸惑(とまど)いながら、二人に声を掛けると、

「ちょっとだけど、動いてるスよ!」

それを近くで見ていたデュートが、石像(せきぞう)の下を指差(ゆびさ)しながら言うと、その言葉を聞いて、ロナードとセネトも、思わず加勢(かせい)に加わる。

「ぐぬぬぬぬっ!」

「ぐおーっ!」

エルトシャンとレックスが、血管(けっかん)が千切れそうなほど叫びながら、必死(ひっし)石像(せきぞう)を押す。

「動けぇ!」

セネトもそう言いながら、必死(ひっし)石像(せきぞう)を押す横で、

「くそ! 何でこんな事をオレが!」

加勢(かせい)に加わったラシャも文句(もんく)を言いながら、懸命(けんめい)石像(せきぞう)を押す。

頑張(がんば)って下さい! 動いていますよ!」

メイがそう言うと、それまで見ていたシャーナとデュートも、ロナード達と向かい合わせになり、引っ張る。

 そうして、力任(ちからまか)せに動かすと、突然(とつぜん)石像(せきぞう)が勢い良くスライドした。

「どわっ!」

「うわっ!」

ロナード達はそう言いながら、(いきお)(あま)って、次々と床の上に倒れる。

 二体の石像は、奥のフロアにある石の扉に描かれた絵の通り、向かい合わせになると、奥のフロアから、何かとても重たい物が動く様な音が、地響(じひび)きと共に伝わって来た。

 方角的に、奥の扉が開いた様であった。

「やった!」

「奥の扉が、開いきましたわ!」

デュートとセシアの声を聞いて、床の上に倒れ込んでいた、レックスたちが一斉(いっせい)に顔を上げる。

「お……。 重いよ……」

不意(ふい)に、自分たちの下から声がしたので、レックス達は(あわ)てて目を向けると、エルトシャンが自分たちの下敷(したじき)きになって、藻掻(もが)いているではないか。

 彼等(かれら)(あわ)てて、エルトシャンの上から退()く。

「何か、カチッとか音がしたよ」

人一倍(ひといちばい)、耳の良いシャーナが(おもむろ)にそう言う。

「それって……。 何処(どこ)かにスイッチがあったという事なんじゃ……」

メイが、おずおずとそう言うと、

(だれ)だ? 石像(せきぞう)を動かせ言った(やつ)は」

無駄(むだ)労力(ろうりょく)消費(しようひ)した事を知ると、ラシャはゲンナリした表情を浮かべながら言う。

 すると仲間(なかま)たちは一斉(いっせい)に、レックスの方を見る。

「な、何だよ……。 大体、オレがそう言っても、(だれ)も反対しなかったじゃねぇかよ」

レックスが、自分を白い目で見る仲間たちに向かって、ムッとした表情を浮かべながら言った。

「……馬鹿(ばか)戯言(ざれごと)を本気にした、アタシ達って一体……」

シャーナが、ゲンナリした表情を浮かべて呟く。

「ま、結果(けっか)オーライって事で」

レックスは苦笑いを浮かべながら言うと、気まずい空気に()えかね、逃げる様に扉が開いた奥の部屋へと向かう。

「あ、ちょっと……」

トラップをチェックする(ため)、先に行っていたデュートが思わず、レックスに声を掛けるが……。

「へ……?」

レックスは間抜(まぬ)けな声を上げ、ふと自分の足元を見ると、大きな落とし穴が口を開けていた。

「……(おそ)かったか……」

後を追い掛けて来ていたロナードが、片手(かたて)を額に当て、溜息(ためいき)混じりに呟いた。

「いぎゃああああ~っ!」

レックスは(なさ)けない声を上げ、ストンと深い落とし穴へと落ちた。

「え……」

「また?」

レックスの悲鳴(ひめい)を聞いて、携帯用(けいたいよう)のポットなどを片付(かたづ)けをしていたセネトとメイが、思わず声がした方へ目を向けながら、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、呟く。

馬鹿(ばか)だ」

ラシャがポツリと呟くと、側に居たシャーナは特大の溜息(ためいき)を付いてから、

「だね」

大丈夫(だいじょうぶ)かなぁ……。 レックス」

デュートが心配そうに、レックスが落ちた穴を(のぞ)き込む。

(まった)く。 世話(せわ)を掛けさせる(やつ)だ」

ラシャがそう言いながらやって来ると、レックスが落ちた、落とし穴の前に歩み出る。

「気を付けろよ。 ラシャ」

ロナードが、心配そうな表情を浮かべながら、ラシャに声を掛ける。

「下で串刺(くしざ)しになっているかも知れないが、まあ一応(いちおう)、拾って来てやるか」

ラシャはそう言うと、自慢(じまん)(つばさ)を広げ、レックスが落ちた穴へとゆっくりと降りて行く。

「やれやれ……。 馬鹿(ばか)は死なないと治らないらしいね」

レックスが落ちた穴を見下ろしながら、シャーナは肩を(すく)めながら言う。

「って言うか、レックスの場合、一回くらい死んでも多分(たぶん)馬鹿(ばか)なのは治らないんじゃないかな……」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言う。

 随分(ずいぶん)と穴が深いのか、なかなかラシャが戻って来ない……。

「でも、その馬鹿(ばか)の人生も、今さっき終わりましたけれど……」

セシアは、そう冷たく言い放つ。

 どうやら彼女は勝手に、レックスが死んだとの判断(はんだん)を下した様だ。

 すると、彼女の予想(よそう)(はん)して、レックスの声が穴の中から聞こえて来た。「すまねぇ……」

ラシャに、両腕を(かか)えられる様にして、レックスが姿を現した。

 (さいわ)い、かすり傷程度で、元気そうなので、ロナード達は(そろ)って安堵(あんど)の表情を浮かべる。

「お前、いい加減(かげん)に学習したらどうだ?」

セネトが、(あき)れた表情を浮かべながら、レックスに言うと、

五月蠅(うる)せぇな! んな、ビクビクしながら進んでられるかよ! 烏王(からすおう)が居るんかだから、落ちたって拾ってもらえば良いだけじゃねぇかよ」

レックスがそう言い返すと、それを聞いたラシャが、プチンと堪忍袋(かんにんぶくろ)()が切れたのか、折角(せっかく)、自分が引き上げたと言うのに、思いっ切りレックスの(しり)蹴飛(けと)ばし、先程(さきほど)、彼が落ちた穴に落とした。

「どあああっ!」

レックスは(なさ)けない声を上げ、とっさに、側に()れ下がっていたシャーナの自慢(じまん)尻尾(しっぽ)(つか)む。

「うぎゃ~っ!」

尻尾(しっぽ)を強く(つか)まれ、シャーナがフロア中に(ひび)(わた)る様な悲鳴(ひめい)を上げる。

 とっさに、シャーナの尻尾(しっぽ)(つか)んだお(かげ)で、穴の中に舞い戻らずに済んだレックスは、落ちかけた、片足を床に上げながら、(うら)めしそうにラシャを(にら)み、

「テメェ! 何しやがる!」

怒鳴(どな)り付けると、

「それはこっちの台詞(せりふ)だよ! 良くもアタシの尻尾(しっぽ)を!」

シャーナは(つか)まれたのか、余程痛(よほどいた)かったらしく、両目に()っすらと(なみだ)を浮かべ、自分の尻尾(しっぽ)の生え(ぎわ)(さす)りながら、レックスに怒鳴(どな)り返す。

「わりぃ。 わりぃ。 つい」

レックスが、苦笑(くしょう)しながらそう言うと、シャーナは物凄(ものすご)(うら)めしそうな表情を浮かべ、彼を(にら)み付けている。

「もう、レックスじゃなくて、『トラップほいほい』って名前にしちゃおうか」

エルトシャンが、軽く溜息(ためいき)を付いてから、意地(いじ)の悪い笑みを浮かべながら言うと、

「んなっ……。 なに勝手に(みょう)な呼び名を付けてんだよ!」

レックスはカチンと来て、声を(あら)らげながら、エルトシャンに言い返す。

「この呼び名が嫌なら、もう少し気を付けて進もうか?」

エルトシャンは、(ひたい)青筋(あおすじ)を浮かべながら、ニッコリと笑みを浮かべ、レックスに言った。

「わ、分かったよ……」

レックスは、不名誉(ふめいよ)な呼び名で呼ばれるのが嫌なのか、不満(ふまん)そうな表情を浮かべながらも、そう返した。


「……どうやら、ここが一番奥の様だな……」

ラシャは、辺りを見回しながら、そう呟いた。

 だだっ広い空間に、中央に四方に巨大(きょだい)な石の(はしら)(さら)にその中心には祭壇(さいだん)がある。

 何かの儀式(ぎしき)でもしそうな場所だ。

「……それらしい物は無いですね……」

メイも、辺りを見回しながら言うと、セネトは祭壇(さいだん)の方へと駆け寄り、一頻(ひとしき)り周囲を見回すが、何もない事を知り、

「そんな……」

ガックリと肩を落とし、その場にヘタリ込む。

「……もしかすると、本来は、この祭壇(さいだん)の上にシードが(まつ)られていたんじゃないのか?」

祭壇(さいだん)を調べていたロナードは、祭壇(さいだん)の上の中央が丁度、何か球状(きゅうじょう)の物を収められる様に、微妙(びみょう)(くぼ)みがある事に気付き、そう指摘(してき)した。

「だったら、もう教会に持って行かれた後って事かな?」

エルトシャンが、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら言う。

「いや、それは多分無いと思うわ。 最近、ここに人が立ち入った形跡(けいせき)が無いですもの」

セシアが、淡々(たんたん)とした口調でそう言うと、デュートも(うなず)きながら、

「そうス。 (だれ)かが先に入ってたなら、トラップが全部生きてるのは可笑(おか)しいスよ」

「だとしたら……別の場所にある……とか?」

メイは、辺りを見回しながら言うと、

「その可能性はありますわね。 調べてみますので、(みな)邪魔(じゃま)にならない様な所に避難(ひなん)して下さいな。 どんなトラップがあるか分からないので」

セシアが、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言うと、デュートは、ウンザリした様な表情を浮かべ、

結局(けっきょく)、最後の最後まで、オレ等はフル活動(かつどう)って事スか……」

そう言うと、渋々(しぶしぶ)と言った様子で、近くの(はしら)などを調べ始めた。

 

「はあ……。 こんな所で手詰(てづ)まりだなんて……」

セシアは、深々(ふかぶか)溜息(ためいき)を付くと、(つか)()てた様にその場に座り込む。

「あ~あ~。 あともう少しなのに。 何でこう、見付からないスかぁ」

デュートも、やや投げやり気味で、辺りの(かべ)を調べながら呟く。

「おいおい。 勘弁(かんべん)してくれよ。 こんな所で一泊(いっぱく)とかよぉ……」

レックスが、セシアとデュートにそう言うと、二人は(そろ)って(うら)めしそうに彼を(にら)む。

「大体、(だれ)所為(せい)で、こんなに時間が掛ったと思ってるんだい!」

シャーナはイラッとした口調で言うと、勢い良くレックスの(しり)蹴飛(けと)ばす。

(まった)くだ。 こんな息苦(いきぐる)しい、(ほこり)っぽい所など、早く引き上げたいと言うのに……」

ラシャも、ウンザリした様子でそうぼやいている横で、ロナードは、壁画(へきが)(だま)って見ている。

五月蠅(うる)せぇ! (だれ)かみたいに、(だま)って壁画(へきが)でも見てろ!」

レックスはムッとして、シャーナとラシャにそう言い返す。

「あれ?」

自分が持っていたカンテラの明かりが消えたので、マッチで火をつけ、明かりを灯そうとした時、マッチの(けむり)が、自分たちが入って来た所からとは別の方向へ、逃げていった事に気付いたエルトシャンは、不思議(ふしぎ)そうに呟いた。

 彼の行動の一部始終(いちぶしじゅう)を見ていたセネトが、

「マッチと蝋燭(ろうそく)を借りても?」

そうエルトシャンに言うと、

「あ、うん」

エルトシャンはそう言うと、自分の服のポケットからマッチと、予備(よび)蝋燭(ろうそく)を取り出すと、それをセネトに手渡した。

 彼は、蝋燭(ろうそく)に火を灯し、先程(さきほど)、マッチの(けむり)が逃げた方へと歩み寄ると、風が吹いている訳では無いのに、蝋燭(ろうそく)の火が大きく()らめいている事に気が付いた。

「ここから……風が?」

セネトはそう言いながら、突き当りの壁の方へ近付くと、先程(さきほど)よりも(さら)に大きく、蝋燭(ろうそく)の炎が()らめく。

「……何か、そこにあるスかね?」

それを見ていたデュートは、そう呟いた。

「調べてみましょう」

セシアが、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言うと、デュートは(うなず)き返し、

「早く見つけろ。 こんな陰湿(いんしつ)な所に居るのも、いい加減に()きたぞ」

ラシャは不機嫌(ふきげん)な様子で、デュートとセシアに向かって言った。

「ホントだよ。 ま、取り合えずルオンに帰ったら、ここに居る(みんな)に、迷惑(めいわく)を掛けたお()びに酒奢(さけおご)る事! 良いね! レックス」

シャーナが、レックスに言うと、彼は不満(ふまん)そうな表情を浮かべ、

「何でオレが!」

納得(なっとく)がいかない様子で、シャーナにそう言い返した。

「お前が一人で、迷惑(めいよく)を掛けているだろうがっ!」

ラシャが怒って言うと、エルトシャンが意地悪(いじわる)な表情を浮かべ、

「まあ、安月給(やすげっきゅう)の君の財布(さいふ)じゃ、直ぐに、中身は無くなっちゃうだろうけどね」

「んなっ……。 冗談(じょうだん)だろ?」

レックス(あせ)りの表情を浮かべ、エルトシャンに言うと、ロナードは苦笑(くしょう)しながら、

「ラシャは酒豪(しゅごう)だからな。 冗談(じょうだん)抜きでお前の財布(さいふ)の中身が全部、無くなるかもな」

「オレと飲むと、人間のお前たちが、真っ先に(つぶ)れると思うぞ」

ラシャが、淡々(たんたん)とした口調でレックス達に言う。

「タダで酒が飲めるなら、(ぼく)も喜んで参加(さんか)するぞ」

セネトもニッコリと笑みを浮かべ、レックスに言うと、彼はゲンナリとした表情を浮かべる。

可笑(おか)しいスねぇ……。 どうなってるスか?」

デュートはそう言いながら、眉間(みけん)(しわ)を寄せて、突き当りの壁を念入(ねんい)りに調べていると、突然(とつぜん)、何の前触(まえぶ)れも無く、壁の一部がクルリと回転したので、デュートが前のめりになって、壁の向こうへ消えてしまった。

「デュート!」

それを見てロナードは(あわ)てて、デュートが消えた壁の辺りを勢い良く()ると、壁が回転し、デュートに続いて壁の向こう側へと行く。

 大人が何とか二人、入れそうな(ほど)(せま)い空間で、デュートは、入り口近くにペタンと床に座り込んだまま、何かに視線(しせん)釘付(くぎづ)けになり、何処(どこ)か、(ほう)けた様な表情を浮かべ、見入っている。

「デュート。 大丈夫(だいじょうぶ)か?」

ロナードは、デュートに声を掛けると、

「ロナード……。 これなんスか?」

デュートはそう言うと、自分の目の前を指差(ゆびさ)す。

 ロナードはふと、デュートが指差す方へと目を向ける。

 そこには、石の蜀台(しょくだい)の様な物の上に両手大の玉が、台から(かす)かに浮かんだ状態(じょうたい)で、緑色の美しくも(あや)しく、不思議(ふしぎ)な光を放っていた。

 その美しさに、ロナードも思わず息を()む。

「これ……。 もしかして、セネトが言ってる『シード』じゃないスか?」

デュートは何処(どこ)か、その宝玉(ほうぎょく)魅入(みい)られた様に呟くと、その(あや)しく、不思議(ふしぎ)な緑色の光を放つ、宝玉(ほうぎょく)に手を伸ばした瞬間(しゅんかん)、その不思議(ふしぎ)宝玉(ほうぎょく)は強い光を放ち、側に居たロナード達を(はじ)き飛ばした。

 そして、何処(どこ)からか、ズーンとこの神殿全体(しんでんぜんたい)()るがす程の地響(じひび)きがした。


「ええっと……。 これは夢か何かですかね?」

メイは、恐怖(きょうふ)に顔を引きつらせながら、側に居たセネトに問い掛ける。

残念(ざんねん)ながら、夢か何かでは無さそうだ」

セネトは、苦々(にがにが)しい表情を浮かべながら、床が(ふる)える(ほど)の音を立て、自分たちに(せま)って来ているそれを見上げながら言い返した。

 エメラルドの様に(きら)めく、(かた)そうな緑色の(うろこ)……。

 簡単(かんたん)に、人間の肢体(したい)を引き()きそうな(するど)(つめ)

 彼らの前に突如(とつじょ)として、緑色の(うろこ)を持つ二体のドラゴンを前に、彼らは(みな)、息を()み、恐怖(きょうふ)に顔を引き()らせている。

「じょ、じょ、冗談(じょうだん)だろ?」

レックスは、恐怖(きょうふ)で顔を引き()らせながら、思わず呟いた。

 二体のドラゴンは、その真紅(しんく)双眸(そうぼう)で、レックス達を見据(みす)えており、やがて首を(もた)げると、大きな口を開こうとする。

 その口の間からは、熱気(ねっき)と共に赤い炎が()らめく。

「うぎゃーっ!」

シャーナは思わず悲鳴(ひめい)に近い声を上げ、(あわ)てて(きびす)を返して、その場から逃げ出す。

 セシアがとっさに氷の魔術を繰り出し、ドラゴン達の口から勢良(いくおいよ)く繰り出された、炎の玉を相殺(そうさい)する。

(みんな)、無事?」

セシアは、自分の後ろに居る仲間たちに、背中越(せなかご)しに問い掛ける。

「な、なんとか……」

メイは、恐怖(きょうふ)のあまり腰が抜けたのか、ペタンと床の上に座り込んだまま、青い顔をして言う。

「ど、どうすんだよ? これ?」

恐怖(きょうふ)で顔を引き()らせながら、レックスはセシア達に問い掛ける。

「話が通じる相手とは、思えんな」

ラシャが、表情を(けわ)しくして言うと、それを聞いたメイとレックスの顔から血の気が引く。

 そんな事を話している間にも、二体のドラゴンは、建物(たてもの)(くず)れ落ちそうな巨大な地響(じひび)きを立てながら、レックス達に近付いて来る。

「死にたくな~い! (だれ)か助けてぇ!」

アルシェラは恐怖(きょうふ)のあまり、そのばにヘタリ込み、泣きながら悲鳴(ひめい)に近い声を上げる。

(みんな)、無事か!」

不意(ふい)何処(どこ)からか、ロナードの凛々(りり)しい声が(ひび)いた。

「ロナード……。 お前、その顔はどうした?」

(かく)し部屋から飛び出してきたロナードは、(ほお)などに、鋭利(えいり)な物が(かす)ったで出来た様な傷があった。

「大した傷じゃない」

ロナードは、落ち着き払った言う。

 その後ろに、ロナードと同じ様に怪我(けが)をしているデュートが、二体のドラゴンたちを前に腰を抜かし、青い顔をし、ガクガクと(ふる)えている。

「どうなっている?」

ロナードは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、二体のドラゴンを見上げながら、仲間たちに問い掛ける。

僕等(ぼくら)も、どうなっているのか……」

エルトシャンは、困惑(こんわく)(かく)せない様子で答える。

「……腹を(くく)るしか無い様だ……」

ロナードは意を決したように、表情を(けわ)しくして呟くと、腰に下げていた剣を抜く。

「その様だね……」

シャーナも、(ひたい)から(したた)る冷や汗を手の(こう)(ぬぐ)いつつ、背中に下げていた槍を手にした。

「来るぞ!」

ラシャの(けわ)しい声が、辺りに(ひび)く。

 ロナード達は素早(すばや)く、振り下ろされた、ドラゴンの前足の一撃(いちげき)()ける。

 前足が振り下ろされた床が、見事に陥没(かんぼつ)している。

「お、(おそ)ろしい破壊(はかい)力だな……。 こんなのまともに()らったら、即死(そくし)ものだぞ」

セネトが、(くぼ)んでいる床を見ながら、ゴクリと息を()み、冷や汗を浮かべ、顔を引き()らせながら呟く。

「このっ!」

果敢(かかん)にも、ロナードがドラゴンの後ろ(あし)に剣を振り下ろすが、まるで物凄(ものすご)く硬い石にでも、剣をぶつけた時の様な音を立てるだけで、ドラゴンの脚部(きゃくぶ)には傷一つない。

「……流石(さすが)(かた)いな……」

ロナードは、剣が少し刃こぼれしているのを見て、表情を険しくして呟く。

(ねら)うなら目だ! それが駄目(だめ)なら、上から切り付けるのではなく、(うろこ)の間に()す様にして刃を入れろ!」

ラシャが、表情を(けわ)しくして、ロナード達にそうアドバイスする。

流石(さすが)は年の(こう)。 伊達(だて)年長者(ねんちょうしゃ)って訳では、無い様だね」

シャーナがそう呟いてから、雄叫(おたけ)びを上げると、巨大な猫の姿に身を(てん)じる。

僕達(ぼくたち)が注意を()きつける。 セシアは(すき)を見て強力な魔術をぶつけて。 ロナードは急いで召喚術(しょうかんじゅつ)を」

エルトシャンは、剣を手にし、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでロナード達に向かって言う。

「エルトシャン!」

セネトがハッとした表情を浮かべ、思わず声を上げる。

 ドラゴンの口から、風の魔術を圧縮(あっしゅく)した様な緑色のブレスが、エルトシャン達に向かって繰り出される。

 セシアがとっさに土の魔術で大きな(かべ)を作ると、ドラゴンが吐いたブレスを相殺(そうさい)するが、側に居たエルトシャンがその勢いで弾き飛ばされる。

 それを見て、シャーナが素早(すばや)く動いて、大きな猫の身体を(てい)して、すっ飛んで来たエルトシャンの体を受け止める。

「ごめんシャーナ。 大丈夫(だいじょうぶ)?」

シャーナの体がクッションになったお(かげ)で傷一つなく、自分の下敷(したじ)きになっているシャーナに声を掛ける。

「セシア! 相手(あいて)が風の属性(ぞくせい)だとしたら、土の魔術が有効(ゆうこう)かも知れない」

ロナードは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでセシアに言う。

「分かったわ」

セシアはそう言うと、魔術を詠唱(えいしょう)して、(する)(とが)った岩の(やいば)(いく)つか作り出す。

 シャーナ、エルトシャン、ラシャの三人は、それぞれの角度(かくど)から、同じドラゴンに向かっていく。

 だが、ドラゴンはその巨体(きょたい)似合(にあ)わない動きで、両方の前足を使って、シャーナとエルトシャンを払い飛ばし、後方から技を繰り出そうとしたラシャを尻尾(しっぽ)で払い飛ばす。

「くそっ!」

シャーナは、素早(すばや)く身を反転(はんてん)させ、床を勢い良く()ると、弾丸(だんがん)の様に思いっ切り、ドラゴンの片目(かため)()い付いた。

 ドラゴンは悲鳴(ひめい)を上げ、目に()い付いたシャーナを必死(ひっし)に払おうとする。

「シャーナ! (はな)れて!」

セシアが叫ぶと、シャーナは、ドラゴンの眼球(がんきゅう)(するど)い前足の(つめ)を突き立てる様にして離脱(りだつ)すると、間を置かず、セシア魔術で繰り出した、無数(むすう)の岩の(やいば)をドラゴンに繰り出す。

 物凄(ものすご)い勢いで、セシアが繰り出した、無数(むすう)の岩の(やいば)はドラゴンに直撃(ちょくげき)し、魔術をまともに食らったドラゴンは、巨大な身体を横たえる。

「やったか?」

もう一匹のドラゴンの注意を()きつけていたセネトは、それを見て呟く。

「トドメだよ!」

そう叫び、シャーナが倒れているドラゴンに、(おそ)い掛かろうとすると、

「危険だ! シャーナ!」

身を起こしたエルトシャンが、何かに気が付いた様な表情を浮かべ、とっさに叫ぶが、シャーナがドラゴンに飛び掛かった途端(とたん)、倒れていたドラゴンが素早(すばや)く頭を上げ、シャーナに向かって口からブレスを吐いた。

「ぎゃあああっ!」

シャーナをまともに食らったシャーナは、火達磨(ひだるま)なり、床に転がる。

「シャーナさん!」

それを見て、駆け付けようとしたメイに、ドラゴンの尻尾(しっぽ)(むち)の様にしなり、彼女を(おそ)う。

「メイ!」

レックスがとっさに、メイを前へ突き飛ばし、自分も(いきお)(あま)って転がる。

 間一髪(かんいっぱつ)、ドラゴンの尻尾(しっぽ)は、床の上に倒れ込んだ、二人の頭上をかすめる。

大丈夫(だいじょうぶ)か?」

レックスは、素早(すばや)上半身(じょうはんしん)を起こすと、側に倒れているメイに声を掛ける。

「あ、有難(ありがと)う……」

青ざめた顔をしながらも、メイはそう返すと、(いそ)いで立ち上がり、(ひど)火傷(やけど)を負い、力無く床の上に倒れているシャーナの側へと駆け出す。

「メイ。 これを使え!」

もう一体のドラゴンの攻撃(こうげき)()けつつ、セネトが腰に下げていたポシェットから、液体(えきたい)が入った小瓶(こびん)をメイに投げ(わた)した。

 メイは(あわ)てて、投げ(わた)された小瓶(こびん)を受け取る。

回復(かいふく)ポーションだ」

セネトはそう言いながら、ドラゴンの攻撃(こうげき)()ける。

「セネトさん!」

それを見て、メイは顔を青くして叫ぶ。

「早くしろ!」

セネトは(かろ)うじて、ドラゴンの攻撃(こうげき)()けながら叫ぶ。

「シャーナさん。 飲めますか?」

メイは(いそ)いで小瓶(こびん)の栓を抜くと、そう言いながら倒れているシャーナの体を起こし、彼女の口元に小瓶(こびん)の口を近づける。

 シャーナは(かろ)うじて、それを口に含んで飲み込むと、彼女の体が青く光り、全身の火傷(やけど)(うそ)の様に消えていく……。

 それを見て、メイとレックスはホッとした表情を浮かべる。

(おん)に着るよ」

シャーナはそう言うと、レックスの手を借りながら、ゆっくりと立ち上がった。

 そうしている間に、倒れて居たドラゴンは立ち上がり、エルトシャンと一騎打(いっきう)状態(じょうたい)になり、素早(すばや)い身のこなしで、ドラゴンの攻撃(こうげき)をエルトシャンは()けながら、剣を繰り出すが、(はがね)の様に(かた)(うろこ)(はば)まれる。

「くそっ!」

傷一つ付かないドラゴンの皮膚(ひふ)を見て、エルトシャンは苦々(にがにが)しい表情を浮かべながら呟く。

「だったら、これでどうだ!」

ロナードはそう言うと、素早(すばや)(かみなり)幻獣(げんじゅう)『ケツァール』を召喚(しょうかん)し、ケツァールはすぐさま、口から(かみなり)(おび)をドラゴンに向かって放出(ほうしゅつ)する。

 流石(さすが)に、(はがね)の様に強靭(きょうじん)(うろこ)(かみなり)は通すらしく、ケツァールの攻撃(こうげき)真面(まとも)に食らったドラゴンは、(はげ)しく体を痙攣(けいれん)させ、皮膚(ひふ)を焼く様な(にお)いが立ちこめる。

()いてるみてぇだ」

それを見て、レックスが呟く。

(かみなり)はいけるよ!」

シャーナは嬉々(きき)とした表情を浮かべ、仲間に向かって叫ぶ。

 ケツァールの雷撃(らいげき)真面(まとも)に食らったドラゴンは、そのまま、全身から白い(けむり)を上げながら、大きな巨体を床の上に横たえる。

「もう一体だ!」

ドラゴンの一体が倒れたのを見て、ロナードは、ケツァールに向かって命じる。

 ロナードの命令を受け、ケツァールが(かみなり)を体に(ため)めていると、倒れていた(はず)のドラゴンがカッと目を開き、物凄(ものすご)い勢いでロナードに向かって尻尾(しっぽ)を横に振った。

「!」

ブンと物凄(ものすご)い勢いで、何かが空気を切る音に、ロナードはハッとして振り返った途端(とたん)、ドラゴンの尻尾(しっぽ)(むち)の様にしなり、ロナードの腹に直撃(ちょくげき)し、それを真面(まとも)に食らったロナードはそのまま、数メートル後ろに吹き飛ばされ、壁に体を(はげ)しくぶつけ、そのまま、ズルズルと壁に沿()う様にして、グッタリと床の上に倒れ込み、動かなくなってしまった。

「ロナードっ!」

それを見て、エルトシャンが悲鳴(ひめい)に近い声を上げ、(あわ)てて動かなくなったロナードの下へ駆け寄る。

「この野郎(やろう)っ!」

ラシャは巨大(きょだい)(からす)に身を(てん)じ、(いか)りを(あら)わにして、ロナードに一撃(いちげき)見舞(みま)った、シャーナに片眼(かため)(つぶ)されたドラゴンに(おそ)い掛かる。

 二匹は互いに物凄(ものすご)い声を上げながら、互いに(から)まり合う様にして、お互に食い付いたり、(つめ)で相手を攻撃(こうげき)し合う。

 床の上に、何方(どちら)のものか分からないが、血が飛び()ちり、(からす)の羽が(いく)つも近くに()う。

「エルト……」

ロナードは苦痛(くつう)に満ちた表情を浮かべ、思い切り()き込み、(かす)かに口から血を流しながらも、駆け付けたエルトシャンに、(かす)れた声で呼ぶと、何を思ったのか、彼が手にしていた剣の刃先(はさき)(つか)んだ。

「なっ……」

それを見て、エルトシャンは戸惑(とまど)いの表情を浮かべるが、ロナードが何か(つぶ)いた次の瞬間(しゅんかん)、彼の剣が(かみなり)()び、青白く光り出した。

(たの)む……」

ロナードは、エルトシャンにそう言うと、スッと意識(いしき)を失った。

「……(まか)せて」

エルトシャンは表情を(けわ)しくし、立ち上がると、気を失って床の上に倒れているロナードを見下ろしながら言った。

「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……」

デュートがそう言いながら、何処(どこ)からか(あらわ)れて、気絶(きぜつ)しているロナードを引き()りながら、突き当りの壁の向こうの、(なぞ)宝玉(ほうぎょく)があった(かく)し部屋の方へ、彼を引っ張っていく……。

「早く。 早く!」

デュートと一緒(いっしょ)(かく)れていたアルシェラが、気絶(きぜつ)したロナードを引っ張って来ているデュートに向かって叫ぶ。

(アイツ等! あんな所に(かく)れて!)

それを見たセネトは、戦闘(せんとう)が始まった途端(とたん)、居なくなった二人に対して(いきどお)りを覚えつつ、その怒りをぶつける様に、もう一体の健在(けんざい)のドラゴンに向かって、魔術で繰り出した無数(むすう)の炎の(たま)をぶつける。

「人間を……(なめ)めるな!」

ロナードによって、(かみなり)(おび)びた剣を手にしたエルトシャンが、そう叫びながら駆け出すと、大きく跳躍(ちょうやく)し、ドラゴンの前足に向かって思い切り剣を突き立てると、ドラゴンは悲鳴(ひめい)を上げ、エルトシャンが突き立てた剣を払い落とそうと(あば)れまわる。

「セシア!」

セネトがそう叫ぶと、セシアは魔術を詠唱(えいしょう)し、ドラゴンの足元を氷漬(こおりづ)けにする。

「くたばれ! この野郎(やろう)!」

セネトは、ありったけの魔力(まりょく)を注ぎ込んだ、巨大(きょだい)な風の(やいば)をドラゴに向かって放った。

 彼が放った風の(やいば)は、エルトシャンが突き()した剣が(ささ)さったままの前足を、見事に切り落とした。

「いけるよ!」

(ふたた)び巨大な猫に身を(てん)じたシャーナはそう叫ぶと、大きく跳躍(ちょうやく)すると、ドラゴンの目玉に食らい付き、剣を回収したエルトシャンも、健在(けんざい)なもう片方の前足に剣を突き立てる。

 二人に同時に攻撃(こうげき)され、身動(みうご)きが取れない所に、

「二人とも退()いて!」

セシアがそう叫ひ、その声を聞いて二人は(あわ)ててドラゴンから(はな)れると、セシアはありったれの力を振り(しぼ)り、特大の雷をドラゴンの頭上に見舞った。

 落雷(らくらい)が落ちた時の様に、鼓膜(こまく)(やぶ)れそうな(ほど)物凄(ものすご)轟音(ごうおん)が辺りに(ひび)き渡り、神殿全体(しんでんぜんたい)を大きく()らした。

 セシアの魔術を見舞(みま)われたドラゴンは、プスプスと全身から(けむり)を上げ、床の上に倒れた。

「早く! 首を落とせ!」

魔力(まりょく)を使い果たし、動けないセネトが、エルトシャン達に向かって叫ぶ。

「レックスっ!」

セシアは、自分の(となり)で戦いに見惚(みほ)れていたレックスに向かって叫ぶと、彼はハッとする。

「お嬢様(じょうさま)! (じゅう)()して下さい!」

デュートと共に身を(かく)しているアルシェラに向かって、メイが強い口調でそう言いながら、手を差し出す。

 ボウガンの矢がドラゴンの皮膚(ひふ)には(ささ)さらないので、それ以上の威力(いりょく)が見込めそうな(じゅう)を使って攻撃(こうげき)しようと、メイは考えたようだ。

 アルシェラは、メイの有無(うむ)も言わせぬ迫力(はくりょく)圧倒(あっとう)され、(あわ)てて自分の腰に下げていた(しゅう)弾丸(だんがん)手渡(てわた)した。

「そこに居て下さい」

メイは、表情を(けわ)しくしたまま、アルシェラにそう言い残すと、ドラゴンを()(ため)、その場から駆け出した。

(シャーナさんみたいに、目を(ねら)おう)

メイは、心の中でそう(つぶや)きながら、(じゅう)弾丸(だんがん)を詰める。

「こんにゃろう! 起きて来んな!」

レックスはそう言って、両手に持っていた剣で、ドラゴンの首を切り落とそうとするが、(かた)い岩に向かって剣を叩きつけた様な感触(かんしょく)と共に、両手が(しび)れる。

(なんつぅ(かた)さだ)

レックスは、(しび)れている自分の手を見ながら、心の中で呟く。

退()いて!」

エルトシャンがそう言って、レックスを押し退()けると、両目を閉じ、大きく深呼吸(しんこきゅう)をすると、渾身(こんしん)の力を込めて剣をドラゴンの首に向かって振り下ろした。

 (かた)(うろこ)と、その下にある皮膚(ひふ)()り付けた感触(かんしょく)と共に、自分が振り下ろした剣がパキッと音を立てて折れ、それが(ちゅう)回転(かいてん)し、折れた刃先(はさき)が近くの床の上に音を立てて転がった。

 物凄(ものすご)い量の血飛沫(ちしぶき)が飛び()り、近くに居たレックスやエルトシャンの体に()り注いだ。

 首を叩き落とす事は出来なかったが、首の大きな動脈(どうみゃく)を切った様で、そこから噴水(ふんすい)の様に血が()き出し、ドラゴンがビクビクと(はげ)しく体を痙攣(けいれん)させて、横たわったまま動けなくなっている。

「はあ、はあ、はあ……」

大量の返り血を浴びながら、折れた剣を(にぎ)()めたまま、エルトシャンは荒々(あらあら)しく肩で呼吸(こきゅう)を繰り返す。

「や、やった感じですか?」

アルシェラから()りた(じゅう)を手に、駆け付けて来たメイが、(おもむろ)にエルトシャンに問い掛ける。

「分からない……」

返り血を(ぬぐ)いつつ、エルトシャンは息を切らせながら返す。

()(かく)、コイツ等が動き出す前に、ここから急いで(はな)れよう」

人の姿に戻ったシャーナが、エルトシャン達に言うと、彼らは(うなず)き返し、魔力(まりょく)を使い果たして動けなくなったセネトをレックスが背負(せお)い、セシアをエルトシャンが(かか)える格好(かっこう)で、その場からの離脱(りだつ)を始めた。

「クソが! やっとくたばりやがった」

そう言いながら、人の姿(すがた)(もど)り、全身の(ひど)怪我(けが)を負い、血塗(ちまみ)れになっているラシャが、自分と取っ組み合いをしていたドラゴンを見ながら、悪態(あくたい)をつく。

「エルトぉ……」

デュートと共に(かく)れていたアルシェらが、ゆっくりと歩み寄って来て、おずおずと声を掛けて来た。

「ロナードは?」

エルトシャンは(おもむろ)に、デュートが引き()って行ったロナードの事を問い掛ける。

「ここス」

デュートが、ロナードの上半身(じょうはんしん)を引き()りなずらやって来て、そう声を掛けて来た。

(あつか)いが、(ざつ)

「いや、お前、それは無いだろ……」

デュートに、ボロ雑巾(ぞうきん)の様に引き()られてきているロナードを見て、エルトシャンとセネトは思わずそう言った。

(ひど)いな……」

ドラゴンが繰り出した尻尾(しっぽ)真面(まとも)に食らい、気絶(きぜつ)しているロナードを見下ろしながら、ラシャは(つぶや)くと、身を(かがめ)め、ロナードをゆっくりと抱き上げた。

肋骨(あばらぼね)の二、三本、やられてるかも」

ロナードが吹っ飛ばされるのを見ていたシャーナは、気の毒そうにそう言った。

流石(さすが)に……このままルオンへ抜けるのは(きび)しそうだ。 一旦(いったん)、里へ戻ろう」

ラシャは、自分も含めて、ボロボロになっている仲間たちを見て、そう言うと、彼らは一様(いちよう)(うなず)き返した。

「そう言えば、目的の『シード』はどうなったんです?」

セネトに肩を()しながら、徐に仲間たちに問い掛けると、

「そ、それが……」

デュートが、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、口籠(くちごも)らせる。

「消えちゃったの!」

アルシェラが、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら言うと、

「なっ……。 消えた?」

それを聞いて、セネトは驚愕(きょうがく)の表情を浮かべ、思わず声を上げる。

「うん」

アルシェラは真顔(まがお)でそう言うと、頷いた。

「そんな……」

セネトは、茫然(ぼうぜん)とした表情を浮かべ、呟く。

「確認するスか? 本当に無いスけど」

デュートが(おもむろ)に、ショックを受けている様子のセネトに言う。

「いや、良い……」

セネトは、意気消沈(いきしょうちん)と言った様子で、弱々(よわよわ)しい声で返した。

 その様子に、アルシェラがほくそ笑んだのをメイは偶然(ぐうぜん)目撃(もくげき)してしまった。


 烏族(からすぞく)の里の近くに戻ると、周辺を空から巡回(じゅんかい)警備をしていた里の男たちと出会い、彼らの手を借り、何とか戻った時には、(すで)に夜になっていた。

結局(けっきょく)、目的の『シード』は消失(しょうしつ)(わたくし)たちは、あれだけ大変な目に()ったのに、大した収穫(しゅうかく)は無かったという事になりますわね」

セシアは、淡々(たんたん)とした口調で言うと、

()まない……」

セネトは、シュンとした表情を浮かべ、申し訳なさそうにセシア達に言った。

「いや、あのドラコンがくたばったのなら、(ほね)(きば)(うろこ)とかを回収(かいしゅう)して売れば、結構(けっこう)な金になるし、(きば)加工(かこう)したら武器に、(うろこ)防具(ぼうぐ)にもなるよ」

シャーナが、落ち着いた口調で言う。

「はあ? それを取りにまた、あそこまで行くのかよ?」

レックスが、物凄(ものすご)(いや)そうな表情を浮かべながら言う。

(ぼく)の剣が折れてるし、無暗(むやみ)に近づかない方が良いんじゃないかな……」

エルトシャンも、気乗(きの)りしない様子で言って居ると、ラシャが部屋に入って来た。

「あ……。 ロナード様はどうでしたか?」

メイが、心配そうにラシャに問い掛けると、

薬師(やくし)の見立てでは、右腕の骨折(こっせつ)と、肋骨(あばらぼね)も二、三本やられてるらしい。 咄嗟(とっさ)に風の魔術で壁を作って(ふせ)がなければ、即死(そくし)だったそうだ。」

ラシャは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、重々(おもおも)しい口調で語る。

「おお。 すげぇ反射(はんしゃ)神経(しんけい)……」

レックスは思わず、感嘆(かんたん)の声を上げる。

(しばら)くは、動けんだろう」

ラシャは、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべながら言う。

「あの……。 シャーナさんに使った回復(かいふく)ポーションって、もう無いんですか?」

メイは徐に、セネトに問い掛ける。

()まない。 あれは、中級だからそんなに回復力が強いヤツでは無いんだ。 (きず)火傷(やけど)には効果(こうか)が見込めるが、骨折(こっせつ)までは……」

セネトは、申し訳なさそうに答えた。

無理(むり)を言うもんじゃないよ。 ポーションは治癒(ちゆ)魔術(まじゅつ)と同じ効果(こうか)が見込めるけど、中級だってとても高価(こうか)なんだ。 そんな簡単(かんたん)に手に入る物じゃないんだよ」

シャーナは、真剣な面持ちでメイに説明する。

「そうだったんですね……」

メイは、申し訳なさそうに言う。

「そんな高価(こうか)な物を惜しみなく使わせてくれた事には、感謝(かんしゃ)しているよ。 じゃなきゃ(あぶ)なかった」

シャーナは、(おだ)やかな笑みを浮かべながら、セネトに礼を述べると、

(いく)高価(こうか)でも、人の命には代えられない」

セネトは、少し()(くさ)そうにしつつも、ボソリと言った。

「アンタ、良い子だね」

シャーナは、()れ臭そうにしているセネトに対し、ニッコリと笑みを浮かべながら言うと、彼の頭を片手でワシャワシャと()で回した。

「シードの事は、残念(ざんねん)でしたね……」

メイは、気の毒そうにセネトに言うと、

「本当に消失(しょうしつ)したのか? あの二人の内の何方(どちら)かが(ぬす)んだ可能性(かのうせい)は?」

ラシャが、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで指摘(してき)する。

「そう言えば、あの二人は何処(どこ)へ行ったの?」

セシアは、アルシェラとデュートの姿が無いので、仲間たちに問い掛ける。

(ひま)だから、里の中を見て回るんだってよ」

レックスは、苦笑(にがわら)()じりに言うと、

(まった)く……。 ロナード様の事が心配ではないのかしら」

セシアは、(あき)れた表情を浮かべなが呟く。

(ぼく)は、あの二人の言葉を信じた訳では無いが、二体のドラゴンを召喚(しょうかん)した所為(せい)で……とも考えられる。 あまり、事を大きくしない方が良いかも知れない」

セネトは、落ち着いた口調で言う。

「セネトさん……」

セネトの言葉に、メイは複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、他の者たちは何か言いたそうな顔をしている。

「オレが、二人を()め上げてやつても良いが?」

ラシャが、淡々(たんたん)とした口調で言うと、それを聞いて、メイとレックスが恐怖(きょうふ)に顔を引きつらせる。

「それは流石(さすが)にちょっと……」

エルトシャンが、困った様な表情を浮かべながら言う。

(うたが)わしいと言うだけで、そこまでするのはどうかと……」

セネトも、気乗(きの)りしない様子で言う。

「でも、大事な物なんだろう?」

シャーナがは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、セネトに言うと、

(ぼく)は、シードが()しい訳じゃない。 教会の手にさえ(わた)らなければ、それで良いんだ」

彼は、落ち着いた口調で答えた。

「ふむ……。 まあ、あの二人の行動には、注意して見ておくべきだな」

ラシャは、両腕を胸の前に組み、淡々(たんたん)とした口調で言う。

「そうですわね。 (おう)()に戻ってから、(だれ)かに売る可能性もありますし」

セシアも、真剣な面持ちで言う。

「はあ……。 ホントにアルには頭痛(あたまいた)いよ……」

エルトシャンは、片手を(ひたい)()え、ゲンナリとした表情を浮かべながら呟く。

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