地下神殿の秘密
主な登場人物
ロナード…漆黒の髪に紫色の双眸が特徴的な、傭兵業を生業として居た魔術師の青年。 落ち着いた雰囲気の、実年齢よりも大人びて見える美青年。 一七歳。
エルトシャン…オルゲン将軍の甥で、新設された組織『ケルベロス』のリーダー。 愛想が良く、柔和な物腰な好青年。 王国内で指折りの剣の使い手。 二一歳。
アルシェラ…ルオン王国の将軍オルゲンの娘。 カタリナ王女の命を受け、新設される組織に渋々加わっている。 一六歳。
オルゲン…ルオン王国のカタリナ王女の腹心で、『ルオンの双璧』と称される、幾多の戦場で活躍をして来た老将軍。 魔物退治専門の組織『ケルベロス』を、カタリナ王女と共に立ち上げた人物。
セシア…ルオン王国の王女、カタリナの親衛隊の一員で、魔術に長けた女魔術師。 スタイル抜群で、人並み外れた妖艶な美女。
レックス…オルゲン侯爵家に仕えていた騎士見習いの青年。 正義感が強く、喧嘩っ早い所がある。 屋敷の中で一番の剣の使い手と自負している。 一七歳。
カタリナ…ルオン王国の王女。 病床にある父王に代わり、数年前から政を行っているのだが、宰相ベオルフ一派の所為で、思う様に政策が出来ずにおり、王位を脅かされている。 自身は文武に長けた美女。 二二歳。
サムート…クラレス公国に住む、烏族の長の妹サラサに仕える烏族の青年。 ロナードの事を気に掛けている主の為に、ロナードの様子を時折、見に来ている。 人当たりの良い、物腰の柔らかい青年。
デュート…元・トレジャーハンターの少年。 その経験をかわれ、ケルベロスに加わる。 飄々としていて掴みどころのない性格。 一七歳。
メイ…オルゲン侯爵家に仕えていた元・騎士見習いの少女。 レックスとは幼馴染。 自ら志願してケルベロスのメンバーに加わる。 ボウガンの名手。 十七歳。
シャーナ…元・傭兵で槍を得意とする猫人族の女性で、ケルベロスのメンバーの一人。 面倒見の良い、姉御肌。
アロイス…クラレス公国領主の弟。 ロナード達『ケルベロス』に魔物退治の依頼をした人物。
トータス…クラレス公国の領主をしているラスター伯爵家の当主。 酒と女性に目が無く、散財し、堕落した生活を送っており、自分本位の政策ばかりする為、民からの評判もすこぶる悪い。
ベオルフ…ルオン王国の宰相で、カタリナ王女に代わり、自身が王位に就こうと企んでいる。 相当な好き者で、自宅や別荘に、各地から集めた美少年美少女を囲っていると言われている。
ラシャ…クラレス公国に住む烏族の長。 嘗てはクラレス公国の三羽烏の一人として、その手腕を振るっていたが、現代の領主からは煙たがられ、里に追いやられている。
サラサ…サムートの主でラシャの妹。 従姉の息子であるロナードの事を何か時に掛けている。
セネト…エレンツ帝国の出身で、とある理由からロナードを助けに現れた、炎の魔術を得意とする少年。
カリン…イシュタル教会に雇われている、魔獣使いの少女。 アルシェラと同じロリータファッションが大好きなぶりっ子。
ラン…猫人族の女性で、カリンの相棒の槍使い。
ロナード達は、クラレス公国の領主、ラスター伯爵の弟アロイスの策略により、ラスター伯爵家の地下牢に捕らえられたアルシェラ達を救う為、屋敷に侵入していたのだが……。
「投石器だって?」
戻って来たセネトたちの話を聞いて、シャーナは戸惑いの表情を浮かべながら呟く。
「正気かよ」
レックスも、顔を引きつせる。
「こんな事をする奴と言えば、弟のアロイスしか思い付かんが……」
ラシャも苦々しい表情を浮かべながら言う。
「中には、ラスター伯爵家の兵士たちや、アイツの兄貴も居るっていうのにかい?」
シャーナは、『信じられない』といった様子で言った。
「アロイスにとって、兄のトータスは邪魔者でしかありません。 この期に、我々と共に葬り去ろうと言う魂胆かも知れません」
サムートが淡々とした口調で言った。
「アイツやったら有り得るわ」
ランが、苦々しい表情を浮かべ、呟く。
「外は、アロイスの私兵が、外へ出て来たオレたちを射殺そうと、弓を手に取り囲んでるスよ!」
デュートは、気付かれぬ様、窓から外を覗き込んだ時、ズラリと兵士たちが弓を手に、待ち構えているのを見て言った。
「最悪だ」
セネトが、青い顔をして呟く。
「どうすんだよ?」
レックスは、焦りの表情を浮かべながら、ロナード達に問い掛ける。
そう言っている間にも、投石器から打ち出された大きな岩が、次々と屋敷に落ちて来ていて、先程からずっと、轟音と共に屋敷が大きく揺れ、壁や天井が崩れそうになっている。
「……付いて来い」
ロナードが、落ち着いた口調で、仲間たちに言うと、
「何処にだよ?」
「そっちは、入って来たのとは反対……」
レックスとメイが、戸惑いの表情を浮かべながら、ロナードに問い掛ける。
「地下牢から、外へ抜ける道がある」
ロナードは、落ち着いた口調で答えると、それを聞いて、レックスやメイ達は戸惑う。
「何でそんな事をアンタが知っとるんや?」
ランが、戸惑いの表情を浮かべながら、ロナードに問い掛ける。
「お前等も死にたくなければ来い」
ロナードは、落ち着いた口調で返すと、踵を返し、エルトシャン達が捕らえられていた地下牢の方へと歩き出した。
アルシェラやメイは、戸惑いの表情を浮かべ、互いの顔を見合わせながらも、ロナードの後を追う事にした。
出口を求め駆け込んだ地下牢には、囚人たちも沢山居たが、看守の兵士たちは彼等を放って、自分たちだけ先に逃げ出してしまった後だった。
「助けてくれ!」
「ここから出してくれ!」
「頼む」
牢屋に閉じ込められていた囚人たちがも、上の異変に気が付いている様で、自分たちの前を行くアルシェラ達に向かって、鉄格子越しに必死に訴えて来る。
彼等の声に、メイは後ろ髪を引かれる想いに駆られ、ふと、足を止めると、
「コイツ等に、構っている場合かでは無いだろ」
先を行っていたセネトが振り返り、冷やかな口調でメイに言った。
「でも……。 助けなければ、この人達は生き埋めになってしまいますよ」
メイは複雑な面持ちで、セネトに向かって言うと、
「勝手にしろ。 逃げ損なっても知らないぞ」
セネトは溜息をつき、そう言い返すと、クルリとメイに背を向ける。
「デュート。 アンタ、鍵を開けられるかい?」
シャーナは真剣な面持ちで、デュートに問い掛ける。
「出来なくはないスけど、一々、針金で開けてたら時間が掛るスよ」
デュートが戸惑いながら、シャーナに言うと、
「オレ、鍵を取って来るぜ。 さっき通った看守の部屋にある筈だろ?」
レックスがそう言うと、先程、自分たちが通り過ぎた、看守たちの部屋へ急いで戻る。
「お人好し共が!」
その様子を見て、ラシャが苛立った口調でそう言うと、身構える。
「離れていろ」
中に居た囚人たちにラシャがそう言うと、囚人たちは慌てて、扉の側から離れる。
ラシャが、大きく片手で薙ぎ払う様な仕草をすると、緑色の風の塊が現れ、鉄格子で出来た牢の扉が、音を立てて吹っ飛んだ。
「有難う。 有難う」
「恩に着るぜ。 お嬢ちゃん」
中に囚われて居た囚人たちは、口々にメイ達に礼を述べると、逃げる宛てがあるのか、地上へと駆け出して行った。
そうやって、デュートの鍵開けと、ラシャが力任せに牢屋破りをしたお陰で、中に居た囚人たちが全員、外へと解放された。
「はあはあはあ……。 も、持って来たぜ」
あるだけ持って来たのか、沢山の鍵束を手に、レックスが戻って来た時には、既に牢の中の人達が、助け出された後であった……。
「ごめん。 レックス。 それ、もう要らないみたい」
メイが、申し訳なさそうにレックスに言うと、
「ええーっ。 そりゃねぇぜ」
レックスは息を切らせ、その場に座り込み、投槍気味に言った。
「要らん時間を掛けよって」
ラシャが、ムッとした表情を浮かべ呟く。
「手伝ってくれて、有難うございます」
メイはニッコリと笑みを浮かべ、ラシャに礼を述べると、
「ふん」
ラシャは、照れ臭そうにそう言うとプイと、メイから顔を反らすと、その様子を見て、ロナードは可笑しそうにクスッと笑った。
「アンタさ、何だかんだ言って、結構、良い奴だね」
シャーナがニヤリと笑みを浮かべ、ラシャに言うと、彼はジロリと彼女を睨む。
「急ぐぞ」
ロナードが、淡々とした口調で、アルシェラ達に言った。
暫く行くと、行き止まりになっていた。
「何だよ。 何もねぇじゃねぇか!」
レックスが不満そうに、ロナードにそう言うが、彼はその声を無視して、ペタペタと壁の隅を手で探り始める。
壁は、切り出した灰色の石が、隙間なく積み重なって作られていたが、壁の隅の石が、微かに動いたので、ロナードは徐にそれを後ろへと押す。
すると、石同士が擦り合って動く様な音を立て、目の前の壁がゆっくり、横へと動き始めた。
「隠し扉……」
それを見て、セネトは驚きを隠せない様子で呟いた。
「マジかいな……」
ランも、戸惑いの表情を浮かべながら呟く。
何故、ロナードがその様な事を知っているのか、一部の者を除き、皆、不思議だった。
どう言う仕掛けになっているのか、両側の壁の窪みに置かれたランプが、手前から順に、ボッボッボッと音を上げ、次々と明かりが灯されていく。
「行くぞ」
ロナードは、落ち着き払った口調で、後ろに居るアルシェラ達に言った。
中は、思った以上に広く、地下通路は、天井も床も、先程の壁と同じ石が使われ、強固な造りであった。
屋敷の中から外へ逃げ出す為の、脱出用の通路の様であった。
「凄いスねここ。 自分らが通って来た地下道とは別に、こんな立派な通路があるなんて」
デュートは、辺りを見回しながら呟いた。
「何や。 アンタたち、一向に見掛けへん思うたら、地下道を通って侵入したん?」
ランが戸惑いの表情を浮かべ、徐にレックスに問い掛ける。
「ああ。 ロナードがガキの頃、兄貴と遊んでいた時に見付けた地下道を通って来た」
レックスがそう言うと、
「はぁ……。 何やアンタ、地元の者やったんかいな」
ランは、軽く溜息を付いてから、ロナードに問い掛けると、
「ああ」
ロナードは短く答える。
「それでも、ここは元々、大公さまのお屋敷だろ? お屋敷の中からの隠し通路を何でアンタが知ってるんだい?」
シャーナが、疑問に思っていた事を、ロナードに尋ねると、
「そうスよ。 屋敷の中の事も知ってる風だったス」
デュートも、不思議そうにロナードに言う。
「両親が屋敷に勤めていたんだ。 それで、たまに入る事があった」
ロナードは、微妙な間を置いて、淡々とした口調で答えた。
「成程。 そう言う事スか」
それを聞いてデュートは、納得した様子で言う。
「アンタ、ホンマにええ所のボンボンやったんやな? せやないと、いくら親が屋敷で働いてても、大公さまのお屋敷になんか上がらせて貰えへんで?」
ランが、苦笑いを浮かべながら言うと、
「一応、クレーエ伯爵家の人間だ」
ロナードは、淡々とした口調で返す。
「そうやったんか。 そりゃ、えらい失礼したな。 若様」
ランは、苦笑いを浮かべながら言ってから、
「せやったら何で若様、教会に追われてるん? 何やらかしたんや?」
不思議そうに問い掛ける。
「別に……やらかした訳では……」
ロナードは、困った様な表情を浮かべながら答えるが、
「教会の孤児院から脱走したス」
デュートが、ヘラヘラと笑いながら答えた。
「は? いや、十分にやらかしとるやん!」
それを聞いて、ランはギョッとした表情を浮かべ、ロナードに言った。
「まあ、逃げ出したくなる気持ちは、分からなくも無いわ。 毎日毎日、お祈りお祈りって、ホントつまんない所よ。 実際、毎月の様に誰か逃げ出してたしね」
それまで、黙って話を聞いていたカリンが、肩を竦めながら言うと、ロナードは複雑な表情を浮かべる。
「どうやら、出口の様です……」
先を行っていたサムートが、微かに向こう側から、明かりが差し込んでいる事に気付くと、落ち着いた口調でロナード達に言った。
外から、生暖かい風が吹き込んできていて、それに乗って、何処からか遠くで音楽が聞こえ、人々の話し声などが聞こえてくるが、周囲には何も無かった。
アルシェラ達は、アロイスの私兵たちが、待ち構えて居る可能性があるので、外の様子に注意しつつ、順に地下道を出る。
見ると、大きな塀が聳え立っており、右手には土手があり、星空以外は真っ暗であったが、左手の方は微かに街の明かりが見えた。
「は~。 やっぱ、外が一番エエな」
ランがそう言いながら、大きく伸びをした瞬間、突然、何処からか弓矢が飛んで来た。
「!」
ランは思わぬ攻撃に驚き、後ろに居たカリンや、レックス達も弓矢が飛んで来た方へと目を向ける。
「地下道を知り尽くしていた事が裏目に出たな。 ユリアス。」
若い男の声と共に、土手の向こう側に潜んで居たと思われる、武装した兵士たちが、松明の明かりに照らされながら、武器を手に、ロナード達の前に姿を現した。
兵士たちの後ろには、馬に乗ったアロイスが不敵な笑みを浮かべていた。
「アロイス! アンタ、ウチ等まで生き埋めにする気やったんかいな!」
アロイスの姿を見るなり、ランは怒りの表情を浮かべ、そう叫んだ。
「何だ。 お前等も一緒だったのか。 つまらん。 仲良く殺し合い、崩れた瓦礫の下に埋もれてしまえば良かったものを。 全く。 余計な手間を掛けさせてくれる」
アロイスは苦笑いを浮かべながら、ランに向かって言った。
「ふざけんな! テメーが死ねよ!」
それを聞いてカリンがブチ切れで、怒鳴り返す。
「折角、心優しい私が、母親が絶えた場所で屠ってやろうとしたのに、生きて出て来るとは、なかなか薄情だな? ユリアス 死ねば良かったものを」
アロイスは、苦笑いを浮かべながら、ロナードに言った。
「誰が大人しく死ぬか。 このクズ野郎。 殺してやるから、俺の前にさっさと降りて来い」
ロナードは、ムッとした表情を浮かべ、強い口調でアロイスに言い返すと、彼は、少し驚いた様な表情を浮かべた。
「はっ! 暫く合わない内に、随分と口が悪くなったじゃないか。 誰だったかな? 半べそかきながら、母親のドレスの裾に隠れていた奴は」
アロイは、馬鹿にした様な口調でロナードに言うと、それを聞いて、一緒に居た兵士たちも、馬鹿にしたように声を上げて笑う。
「あの野郎……」
彼らの態度に、レックスが額に青筋を浮かべ、唸る様な声で呟く。
「アイツ等の脳天に、矢をブチかましてやりましょう!」
メイも、不愉快さを露わにし、強い口調で言う。
「同感だ」
セネトも、怒りの形相で言うと、素早く身構える。
「ラン。 カリン。 そいつ等と仲良く死にたく無ければ、今すぐ、そいつ等を殺せ」
アロイスは、土手からロナード達を見下ろしながら、一緒に居た二人に向かって言った。
それを聞いて、メイやレックスは、慌てて二人の方へと目を向ける。
「アンタ、頭に虫が湧いとるんとちゃうか?」
「誰が、自分を殺そうとした奴の言う事なんか聞くか! マジ、ふざけんなよ!」
ランとカリンは、怒りを顕わにして、アロイスにそう怒鳴り返してから、
「マジ、あいつブッ殺そう!」
カリンが、物凄く真剣な顔をして、アロイスを指差しながらロナード達に言った。
それには、ロナードやエルトシャンは、思わず苦笑いを浮かべた。
「死にさらせや! ワレぇ!」
ランはそう言うと、物凄い跳躍力で、土手の上に居るアロイスの頭上へ飛び、槍先を彼の頭に向け、急降下する。
その攻撃に、アロイスは慌てて避け、思い切り乗っていた馬から転げ落ちた。
「気でも触れたか! ラン!」
顔を青くして、戸惑いの表情を浮かべ、スッ扱けた自分の股の間に、槍を突き立てて立っているランに言った。
「せやから、頭可笑しいんは、そっちやと、言うとるやろうがっ!」
ランは、地面に突き刺さっている槍を引き抜くと、そう叫びながら、頭上で勢い良く槍を振り回す。
「あわわわ……」
アロイスは、情けない声を上げながら、地面を這う様にして、慌ててランの側から離れる。
「ペットちゃん。 アイツら全員、食べちゃって良いわよ!」
カリンも素早く術を唱え、この前とは別の、長い髭を有した大型のヒョウの様な魔物を召喚する。
「な、何をしている! 私を助けろ! 掛れ!」
アロイスが兵士たちに向かってそう叫び、ロナードたちへの攻撃を命じた瞬間……。
「風牙烈風!」
彼等の頭上から、サムートとサラサの声が響いて来て、物凄い突風と共に土手の上に構えていた、アロイスの私兵たちが一瞬で吹き飛ばし、兵士たちは後方の川の中へ水飛沫を上げ、次々と落ちてしまった。
「なっ、な、なにぃ!」
アロイスは突然の出来事に、戸惑いの表情を浮かべ、絶叫に近い声を上げながら、忙しく辺りを見回す。
「こちらですよ」
アロイスは、頭上から声がしたので、彼は自分の頭上を見上げると、闇夜に紛れる様に、サムートとサラサが翼を羽ばたかせ、両腕を胸の前に組み、アロイス達を見下ろしていた。
「くっ……。 忌々しい烏共がっ!」
サムート達の姿を認めたアロイスは、表情を歪め、叫ぶ。
「それだけでは、無いわよ!」
セシアがそう叫んだ瞬間、川の水が大きく盛り上がり、まるで意志を持った様に土手に居た、アロイスの私兵たちを飲み込んで行く……。
「私たちの不意を突いてやったと思って居たところ申し訳ないですけれど、私の存在を失念していた様ですわね?」
セシアは、片手で自分の髪を払いつつ、不敵な笑みを浮かべながら、アロイスに言った。
「セシアさん!」
「ナイス!」
メイとレックスが嬉々とした表情を浮かべ、彼女に向かって言った。
地下道から出て来たロナード達に、先制攻撃をする筈が、アロイス邸の兵士たちはあっという間にに総崩れになりつつあった。
「おい! お前たち何をしている! 早く立て直せ!」
アロイスは焦りの表情を浮かべ、川の中に落ちてしまった、自分の所の兵士たちに向かって、そう怒鳴り付ける。
「形勢逆転だな。 アロイス」
何時の間にアロイスに迫っていたのか、土手の上にロナードが上がって来ており、剣を手に、淡々とした口調で彼に言った。
「ま、ま、ま、待ってくれ。 これは、兄のトータスが言い出した事で、私は仕方なく……」
アロイスは、慌てふためきながら、ロナードにそう弁明するが、
「阿呆なお前の兄貴が、こんな事を思い付くものか」
ロナードは、冷ややかな口調で、アロイスに言い返す。
「わ、わ、わ、分かった。 謝る!。 謝るからどうか勘弁してくれ!」
アロイスは慌てふためきながら、自分を睨み付けているロナードにそう懇願する。
「この期に及んで見苦しい。 騎士ならば騎士らしく、潔く散れ!」
ロナードは、冷ややかな口調で言い放つと、アロイスに向かって思い切り、剣を振り下ろした。
「げきゃ―――っ!」
ロナードが振り下ろした剣が顔面に直撃しそうになり、アロイスは、情けない声を上げながら、慌てて避けようとして、手元を滑らせ、体勢を崩し、背中から勢い良く水飛沫を上げ、川の中に落ちた。
「たすたすたす……」
鎧を着たまま川の中に落ちたので、鎧の重みで浮かぶ事が出来ず、アロイスは手足をバタバタと動かし、必死に水面から顔を出して、近くに居た兵士たち助けを求める。
「……」
それを見て、ロナードはポカンと口を開け、呆気にとられる。
「だっさ」
「自業自得やな」
カリンとランも、呆れた表情を浮かべ、冷ややかな視線をアロイスに向けながら呟く。
アロイスの私兵たちは、その大半が川の中に落ち、総崩れとなり、主のアロイスも見事に返り討ちに遭ってしまった為、彼らは、鎧の中から大量の水と川魚を出しながら、大慌てでその場から撤収し始めた。
「ザマーミロ!」
全身水浸しになり、バチャパチャパ、チャプチャプと音を立て、具足から水を出しながら、重そうに歩く兵士たちを見て、レックスは勝ち誇った様に、ケラケラと笑いながら言った。
「ったく……。 結局、ウチ等は何しに来たんか、分からへんな」
ランは、拍子抜けした様子で、溜息を付きながら、手に持っていた槍を背中に背負う。
「ホントよ」
カリンも、『はあ』と溜息を付きながら言う。
「アンタたちがその気なら、相手をしてやっても良いんだよ?」
シャーナが不敵な笑みを浮かべ、そう言ってラン達を挑発するが、
「冗談。 そんな元気、ウチ等にある訳ないやろ」
ランは苦笑いを浮かべ、肩を竦めながら言った。
「もう疲れたから、適当に宿を見付けて、寝るわ」
カリンも、全くやる気が無さそうに、肩を竦めながら言う。
「そうかい」
シャーナは、苦笑いを浮かべながら言う。
「ま、もうウチ等が、アンタを捕まえる様な命令が来ん事を祈っとるんやな」
ランは、苦笑いを浮かべながら、ロナードに言う。
「そうだな……」
ロナードは、苦笑いを浮かべながら言う。
「ほな」
カリンは、片手を挙げてそう言うと踵を返し、カリンと共にゆっくりとした足取りで、街の方へと去って行った。
「はぁ……。 一時はどうなるかと思った」
緊張の糸が切れたのか、セネトがそう言いながら、その場にヘタリ込んだ。
「ホントよ。 とんだ目に遭ったわ」
アルシェラも、ゲンナリとした表情を浮かべながら言う。
「お前が言うな! お前が!」
ラシャは、イラッとした表情を浮かべ、強い口調でアルシェラに言う。
「そうですわ。 元はと言えば、アルシェラ様がお店に立ち寄らなければ、こんな事にはならなかったと言うのを分かっていて、仰っていますの?」
セシアも、苛立ちを隠せない様子で、ジロリとアルシェラを睨みながら言う。
「え~? そんなの単なる偶然でしょ~?」
アルシェラは、自分の所為だとは微塵も思って居ない様で、その様な事を平気で言い放った。
それには、同胞を殺されたラシャの堪忍袋の緒が、切れた。
「殺してやる!」
怒りの形相で言うと、アルシェラに掴み掛ろうとするので、側に居たサムートとエルトシャンが、慌ててラシャの腕を掴んで止める。
「落ち着いて下さい。 長」
サムートは、焦りの表情を浮かべ、自分たちを引き摺りながら、怒りの形相でアルシェラに詰め寄るラシャに言う。
「え。 なに? 怖いんですけど」
ラシャが、鬼の様な形相で自分に迫って来ているので、アルシェラは戸惑いの表情を浮かべ、そう呟くと、ドン引きする。
「ラシャを煽るな。 アルシェラ」
ロナードは、ゲンナリした表情を浮かべ、額に片手を添えながら、他人事の様にしているアルシェラに言った。
「……殴っても、良いだろうか」
アルシェラの態度を見て、サラサも堪えきれなくなり、怒りに拳を震わせ、額に青筋を浮かべながら呟いた。
「いやいやいや……」
「ちょい待ち!」
彼女の発言を聞いて、近くに居たデュートとシャーナが慌てて、彼女を宥める。
「アル。 君、ルオンに帰ったら、今回の事に対する反省文を提出して貰うからね」
エルトシャンは、『はあ……』と、溜息を付いてから、アルシェラに言うと、
「甘すぎるぞ!」
ラシャが、不満に満ちた表情を浮かべ、エルトシャンに言う。
「面倒くさ~。 大体、アタシが何したつて言うのよ」
アルシェラは、不満に満ちた表情を浮かべ、口を尖らせながら言うと、それを聞いて、ロナードの堪忍袋の緒が切れ、表情を険しくした。
「ちょっと待て! 暴力は駄目だ! 暴力は!」
それに気が付いたセネトが、慌てて二人の間に入り、ロナードに向かってそう言って宥めようとする。
「退け!」
ロナードは、自分の前に立ち塞がるセネトに向かって言うと、乱暴に手で彼を押し退けようとする。
「駄目だ!」
セネトは、必死にロナードの両腕を前から掴み、アルシェラの方へ進めない様に踏ん張る。
「何やってるのかしら……」
その隙にロナード達の側から離れ、メイとレックスの側へ来たアルシェラは、ロナード達を見ながら、ボソッと呟いた。
その後、ロナード達はラシャたちの手を借り、烏族の里に到着し、数人に分かれ、宿泊する部屋を貸し与えられ、彼らは思い思いに、夕食が出来るまでの時間を過ごしていた。
「ロナード。 少し……良いか?」
セネトは徐に、ソファーの上に座り、魔導書を読んで居たロナードに声を掛ける。
「どうした?」
ロナードは顔を上げると、不思議そうにセネトに問い掛ける。
「いや、ちょっと、ここでは話せない事なんだ」
セネトは、申し訳なさそうにしながら、ロナードに言うと、
「分かった」
ロナードは、読んでいた魔導書を閉じると、それをソファーの上に置き、お落ち着いた口調でセネトに言うと、立ち上がった。
「静かな場所があるから、そこで話そうか」
ロナードは、落ち着いた口調でセネトに言うと、彼は神妙な面持ちで頷き返し、ロナードの後に続いて、部屋を出た。
「どうしたんスか?」
床の上に座り、ブーメランの手入れをしていたデュートは、その手を止め、隣で剣の手入れをしていたレックスに問い掛ける。
「さあ……」
レックスも、戸惑いの表情を浮かべながら返す。
セネトは、ロナードの後に続いて行くと、何時の間にか外に出ていて、所々に足元に明かりがともっているだけの、真っ暗な場所に出た。
どうやら、そこは中庭らしく、仄かにカンテラの明かり灯されて、高山植物だろうか……セネトが見た事も無い花が風に揺れていた。
日が暮れて、闇夜が支配する空には、街中よりも空気が澄んでいる所為か、何時も以上に沢山の星が輝いている。
ロナードは徐に、近くにあった石で出来たベンチの上に腰を下ろし、
「それで、話と言うのは?」
静かにそう問い掛けてきた。
「何故、地下神殿へ行きたいのか……。 その理由を話そうと思ったんだ」
セネトは真剣な面持ちで言うと、
「確かに。 何も理由を知らないままなのは、俺もどうかとは思う」
ロナードは、落ち着いた口調で言った。
「地下神殿へ行くのは、『シード』の破壊をする為だ」
セネトは、真剣な面持ちで言うと、
「シード?」
ロナードは小首を傾げ、問い掛ける。
「これは、僕たちが単にそう呼んでいるだけで、地域や種族、時代によって、その呼び方は様々だ。 そもそも、魔力と言うのは、世界中を循環しているのは、知っているよな?」
セネトは、落ち着いた口調で言うと、
「ああ。 そのお陰で、俺たちは魔術を使える」
ロナードは頷き返し、淡々とし口調で答えた。
「世界中の至る所に、その入り口と出口の様なモノがあって、そこに稀に魔力だまりが出来て、それが結晶したもののを、一般に魔石と言うんだが、それが何百年と言う年月を経て、莫大な魔力を溜め込んだ化け物みたいなの結晶が出来る事がある。 それを僕らは魔力の種、『シード』と呼んでいる」
セネトは、少し事務的な口調で、簡潔にロナードに説明をする。
「成程。 魔石は魔法剣などに使われるから知っていたが、シードは知らなかった。」
ロナードは、真剣な面持ちで呟く。
「知らなくて当然だ。 さっきも言った通り、長い年月をかけて作られるもので、見付かる事自体が稀だからな。 僕もまだ、お目に掛った事は無い」
セネトは、苦笑いを浮かべながら言った。
「その希少なシードを見付けて、どうするんだ? そもそも何故、探している?」
ロナードは、真剣な表情を浮かべ、自分が疑問に思った事をセネトに問い掛けた。
「教会が集めているんだ。 詳しい理由は分からないが……」
セネトは、複雑な表情を浮かべ、重々しい口調で語った。
「教会が?」
ロナードは、戸惑いながら問い掛ける。
「ルオンでクーデターを起こす際、その力を兵器として使う可能性もある」
セネトは、真剣な表情で語る。
「クーデター……」
ロナードは、神妙な表情を浮かべる。
「その引き金となるのが、オルゲン将軍の死……と言う訳だ」
セネトは、真剣な面持ちで答える。
「……将軍が亡くなれば、王女は、戦力的にもそうだが、何よりも求心力を大きく削がれる事になる。 中には、それを理由に宰相派に寝返る者も出で来るだろう」
ロナードは、片手を自分の顎の下に添え、真剣な面持ちで呟いた。
「そう。 今までは、微妙なバランスで保たれていた力関係が、将軍が居なくなる事で、大きく崩れてしまう」
セネトも、真剣な表情を浮かべて言う。
「戦力は兎も角、求心力となると……。 流石に俺では補えない」
ロナードは、片手を額に添え、『はあ……』と溜息を付くと、そう言った。
「そうだな。 下手に出しゃばると、新たな火種を生みかねない」
セネトは、苦笑いを浮かべながら言うと、
「お前……俺の素性を知って……」
ロナードは表情を強張らせ、思わず、セネトを見る。
「心配するな。 誰かに話す様な事はしない」
動揺している様子のロナードを見て、セネトは、苦笑いを浮かべながら言う。
「……」
ロナードは、『信じて良いのだろうか』と言う、微妙な表情を浮かべて、セネトを見ている。
「兎に角、最初に話したシードの破壊、手伝ってくれるよな?」
そんなロナードの視線を受けつつも、セネトはニッコリと笑みを浮かべ、ロナードに言った。
「それは……構わないが……」
ロナードは、戸惑いながら言う。
「どうした?」
ロナードの様子を見て、何か心配そうにしているので、セネトは徐に問い掛ける。
「いや……そんなエネルギーの塊の様なモノを破壊して、大丈夫なのかと……」
ロナードは、不安そうな表情を浮かべ、セネトに言う。
「正確には、『破壊』ではなく、『吸収』だ。 ぶっ壊しては流石に周囲が消し飛ぶ」
セネトは、落ち着いた口調で言うと、ロナードは戸惑いの表情を浮かべる。
「吸収するには、膨大な魔力を一時的に受け入れる器が必要だ」
そんなロナードに、セネトは落ち着いた口調で説明をする。
「成程。 それで俺の出番と言う訳か」
話を聞いて、ロナードは真剣な面持ちで呟く。
「そうだ。 お前の体を媒体に、異界に住む幻獣たちに、シードを食ってもらおうと言う訳だ。 幻獣は、魔力が大好物だろう?」
セネトは、ロナードに説明をした後、にっこりと笑みを浮かべた。
「理屈的には、出来そうだが……」
ロナードは、暫く考えてから、ポツリとそう呟いた。
「一度で無くても良い。 何度かに分けけて、教会が入手するより先に、シードを消失させれば良い」
セネトは、真剣な表情で、ロナードを見据えながら言った。
「……分かった。 やってみよう」
少し考えてから、ロナードは、真剣な面持ちで答えた。
「頼もしいよ」
セネトは、ニッコリと笑みを浮かべながら、ロナードに言った。
「成程ねぇ……」
シャーナは、両腕を胸の前に組み、シミジミとした口調で呟く。
ロナードは、セネトから聞いた話をその後、女子たちに貸し与えられている部屋で、シャーナたちに話し、彼の話を聞いて、一同は何とも言えない、複雑な表情を浮かべている。
「シード……そんな物が存在するなんてね……」
エルトシャンは、複雑な表情を浮かべながら呟く。
「けど、アイツがシードを集めるのは、他に理由があるかもよ? それこそ、兵器に転用する気なのかもよ?」
シャーナが、真剣な面持ちで言うと、
「それは否定出来ないですけれど、オルゲン将軍を助けて貰う対価なのですから、断る事は出来ませんわ」
セシアは、複雑な表情を浮かべながら言い返す。
「まあねぇ……。 人一人の命には代えられないけど……」
シャーナも、複雑な表情を浮かべながら言う。
「どの道、大陸鉄道は使えないのだから、彼の言う地下神殿を通るしかないよ。 そのついでと思えば、良いんじゃないかな?」
エルトシャンは、苦笑苦笑いを浮かべながら、シャーナ達に言う。
「そう言う事に、しておこうかね」
シャーナは、軽く溜息をついてから、『仕方がない』と言った様子で返した。
「それより、そろそろ部屋に戻った方が、良いのではなくって?」
セシアがふと時計を見て、ロナードとエルトシャンに言った。
「そうだな。 セネトがそろそろ風呂から上がって来るかも知れない」
ロナードはそう言うと、座っていたソファーから腰を浮かす。
「そうだね」
エルトシャンもそう言うと、椅子から立ち上がる。
「まあ、セネトの事は、アタシとセシアが注意して見ておくよ」
シャーナが、落ち着いた口調で言うと、
「分かった。 頼む」
ロナードはそう返すと、エルトシャンと共に部屋を後にした。
「……とは言え、そんな裏がありそうな感じではないけどねぇ……」
シャーナは、肩を竦めながら言うと、セシアも真剣な面持ちで頷き、
「少なくとも、ロナード様を助けたいと言う気持ちに、偽りは無いように思えるわ」
「そうですよね。 ロナード様の事、好きみたいですから」
メイも、これまでのセネトの言動を思い出しながら、言う。
「まあ、今は様子を見るしかないよ」
シャーナは、落ち着いた口調で言うと、セシアとメイは揃って頷いた。
「ああん! もう嫌になりますわ!」
不意に、前方でデュートと共に、トラップの解除をしていたセシアが、声を上げる。
「まだか……」
両腕を胸の前に組みながら、ラシャが、苛立った口調でセシアに言う。
「そう仰るのなら、ご自分でなさったら?」
セシアはムッとして、針金をラシャに向かって差し出す。
「そうカリカリするんじゃないよ。 セシア」
シャーナが、苦笑しながら言うと、セシアは、ムッとした表情を浮かべたまま、
「腹も立ちますわよ! こんな複雑なトラップを作って! 少しは、解除するこっちの身にもなって欲しいですわ!」
「でも……解除されたら困るから複雑なんじゃあ……」
メイが戸惑いつつも、思わず、セシアに言う。
(ド正論)
シャーナは心の中で呟くと、苦笑いを浮かべる。
「その通りですけれど……。 でも、腹が立ちますもの」
セシアは、ムッとした表情を浮かべながら、メイに言い返すと、渋々と言った様子でトラップと向き合う。
「なぁ。 これなんだ?」
何時の間に移動したのか、トラップの解除を必死にしているデュートの側に来たレックスが何かに気付いて、そう言うと徐にそれに手を伸ばす。
「え。 ちょっとレックス! 何でも触わら……ああっ!」
デュートが怒って、レックスに言っているにも関わらず、彼は、人の忠告も聞かず、『押して下さい』と言わんばかりにある、如何にも怪しげなボタンを押した。
すると、彼の足元の床がカパっと開き、レックスはそのままストンと、その穴に吸い込まれる様に落ちる。
「レックス!」
側に居たデュートが慌てて手を伸ばし、穴に真っ逆さまのレックスの腕を掴むと、それを見て、ロナードとエルトシャンが駆け寄り、危うく穴に落ちかけたレックスの体を引き上げる。
「うへぇ……。 あぶねぇ。 あぶねぇ……」
レックスは、額に浮かんだ冷や汗を、手の甲で拭いながら呟く。
「『あぶねぇ。あぶねぇ』って……。 君、これで落とし穴に填まるの何度目?」
エルトシャンが、呆れた表情を浮かべ、レックスに言うと、
「んなもん、一々数えてねぇし」
レックスは、五月蠅そうな表情を浮かべ、言い返す。
つまり、自分が覚えていない程、落とし穴に落ちたと言う事だ……。
「馬鹿じゃないのか? お前」
ロナードが、ゲンナリした表情を浮かべながら、レックスに向かって言うと、彼はカチンと来る。
「今更、それを確認するまでも無いだろ?」
シャーナは、苦笑いを浮かべながら、ロナードに言うと肩を竦める。
「オレはだな、セシア達の手伝いをしようかと……」
レックスがムッとして、シャーナに言い返すと、セシアが冷やかな視線をレックスに向けながら、
「迷惑ですわ! 他のトラップが作動したらどうしますの? お願いですから、後ろで大人しくして居て!」
苛立った口調で言うと、急に彼女の腹の虫も一緒になって抗議をした。
セシアは恥ずかしくなり、自分の腹を押さえ、顔を赤くする。
「休憩無しじゃキツイだろ? 一息つかないかい?」
シャーナは、苦笑いを浮かべながら、セシアにそう声を掛けると、
「そうですわね……」
セシアは、恥ずかしそうに顔を赤らめたまま、そう返した。
メイは、持って来た携帯用のポットを焚火にくべてお湯を沸かし、香りの良い紅茶を茶こしに入れ、ティカップにお湯を注ぎ、セシアに差し出す。
「有難う」
セシアは礼を述べると、メイから差し出されたカップを受け取り、紅茶の香りを楽しむ。
「良い香り……」
セシアは口元を綻ばせ呟くと、カップに注がれた紅茶を啜る。
その様子を見て、ロナード達もその辺の床の上に座り、お茶を飲んだり、床の上に体を横にしたりと、思い思いに休憩を始めた。
「全く。 どうなってるスかね? これ」
デュートはそう言いながら、朝早く起きて、烏族の里の女たちが作って持たせてくれた、サンドイッチを頬張る。
デュートの隣で、サンドイッチを口に運んでいたロナードは、何気に、周囲を見渡す。
緑色の壁と床、自分たちの目の前に立ち塞がる、重厚で、ちょっと押したくらいでは動きそうにない巨大な石の扉……。
壁には、色取り取りの塗料塗料で、何か、儀式をしている様子が描かれ、その様な絵が延々と続いている。
石の扉の前にも、赤茶色の塗料で書かれた人々、そして、扉の中央には、黒の塗料で縁どりされた、向かい合った二匹の緑色のドラゴンの姿がある……。
(そう言えば、向こうにもドラゴンの石像が二体あったな)
ロナードはそう思いながら、自分たちが、この扉の前へ来る以前、自分がその二体のドラゴンの前を通った時の様子を思い出す……。
天井に届きそうな程の、巨大なドラゴンの姿を象った石像が二体、背中合わせに立っていた。
(あの石像は、背中合わせだった……。 けれど、この石の扉に描かれたドラゴンは向い合っている……)
ロナードは、心の中で呟く、そしてハッとすると徐に立ち上がる。
「どうかしたか?」
側に居たセネトが、不思議そうな顔をして、ロナードに声を掛ける。
「そうか! 分ったぞ!」
ロナードは、嬉々とした表情を浮かべ、思わず叫ぶ。
「分ったって、何が?」
エルトシャンが、不思議そうにロナードに声を掛ける。
「この扉を開ける方法をだ!」
ロナードがそう言うと、それを聞いた仲間たちが、一斉に彼の方を見る。
「どう言う事ですの?」
セシアが戸惑いながら、ロナードに問い掛ける。
「この扉の壁画がヒントだったんだ」
ロナードはそう言うと、石の扉に描かれた壁画を指差す。
「? どう言う事だよ?」
レックスが、小首を傾げながら、ロナードに問い掛ける。
「ここに来る前、巨大なドラゴンの石像があっただろう? 覚えてないか?」
ロナードが言うと、セシア達は、少し前の自分たちの事を思い出す。
「そう言えば……。 馬鹿デカイのがあったな」
ラシャがそう呟くと、ロナードは頷きながら、
「俺の記憶が確かなら、その石像は背中合わせだった筈だ」
「言われてみれば……。 オレ、右側を通ったスけど、オレの方を見ていた気がするっス」
デュートがそう言うと、ラシャが眉間に皺を寄せながら、
「それで? その石像と、この壁画、一体何の関係があると言うんだ?」
ロナードに問い掛けると、彼は壁画を指差しながら、
「俺の推測だが、あの石像をこの絵の通りに向かい合わせにすると、この扉が開く仕組みかもしれない」
真剣な面持ちで、一同に向かって言うと、
「あのな……。 あんなデカイのをどうやって動かすっ言うんだよ?」
レックスが、呆れた様な表情を浮かべ、ロナードに言い返した。
「向こうを良く調べたら良いんじゃないスか?。 何処かに、スイッチがあるかも知れないスよ?」
デュートがそう言うと、ラシャも頷きながら、
「これだけ、このフロアの中を探し回っても、ちっとも扉は開かないんだ。 ロナードの説も強ち、外れでは無いかも知れん」
「そうですわね。 調べてみましょう」
セシアはそう言うと、徐に床から腰を上げる。
「行ってみるか」
セネトもそう言うと、床の上から腰を上げ、立ち上がる。
「そうだね」
シャーナもそう言うと、立ち上がり、レックスも渋々と言った様子で立ち上がる。
そうして、ロナード達はひとつ前のフロアへ戻ると、フロアの中央に置かれた、二体のドラゴンの石像を見上げる。
「やっぱ、無理なんじゃね?」
レックスは、石像を見上げながら呟く。
石像の周囲をチェックしていたセシアが、真剣な面持ちで、
「この台座……。 長く動かした形跡はありませんけれど、何だか動きそうね」
カンテラを片手にそう呟くと、反対側の石像をチェックしていたデュートも、
「こっちも、動きそうな感じス!」
その言葉を聞いて、アルシェラは思わずロナードの方を向き、
「すっごぉい! 冴えてるじゃない! ロナード」
嬉々とした表情を浮かべ、声を弾ませながら言った。
「で、どうやって動かす?」
ラシャが、両腕を前に組みながら、仲間たちに問い掛ける。
「……いっちょ、押してみっか?」
レックスが、徐にそう言うと、
「そうだね。 駄目で元々で試してしてみようよ」
エルトシャンもそう言うと、レックスと共にがいきなり石像に手を回し、押し始めるのを見て、ロナード達は焦る。
「お、おい……。 触って大丈夫なのか?」
セネトが戸惑いながら、二人に声を掛けると、
「ちょっとだけど、動いてるスよ!」
それを近くで見ていたデュートが、石像の下を指差しながら言うと、その言葉を聞いて、ロナードとセネトも、思わず加勢に加わる。
「ぐぬぬぬぬっ!」
「ぐおーっ!」
エルトシャンとレックスが、血管が千切れそうなほど叫びながら、必死に石像を押す。
「動けぇ!」
セネトもそう言いながら、必死に石像を押す横で、
「くそ! 何でこんな事をオレが!」
加勢に加わったラシャも文句を言いながら、懸命に石像を押す。
「頑張って下さい! 動いていますよ!」
メイがそう言うと、それまで見ていたシャーナとデュートも、ロナード達と向かい合わせになり、引っ張る。
そうして、力任せに動かすと、突然、石像が勢い良くスライドした。
「どわっ!」
「うわっ!」
ロナード達はそう言いながら、勢い余って、次々と床の上に倒れる。
二体の石像は、奥のフロアにある石の扉に描かれた絵の通り、向かい合わせになると、奥のフロアから、何かとても重たい物が動く様な音が、地響きと共に伝わって来た。
方角的に、奥の扉が開いた様であった。
「やった!」
「奥の扉が、開いきましたわ!」
デュートとセシアの声を聞いて、床の上に倒れ込んでいた、レックスたちが一斉に顔を上げる。
「お……。 重いよ……」
不意に、自分たちの下から声がしたので、レックス達は慌てて目を向けると、エルトシャンが自分たちの下敷きになって、藻掻いているではないか。
彼等は慌てて、エルトシャンの上から退く。
「何か、カチッとか音がしたよ」
人一倍、耳の良いシャーナが徐にそう言う。
「それって……。 何処かにスイッチがあったという事なんじゃ……」
メイが、おずおずとそう言うと、
「誰だ? 石像を動かせ言った奴は」
無駄な労力を消費した事を知ると、ラシャはゲンナリした表情を浮かべながら言う。
すると仲間たちは一斉に、レックスの方を見る。
「な、何だよ……。 大体、オレがそう言っても、誰も反対しなかったじゃねぇかよ」
レックスが、自分を白い目で見る仲間たちに向かって、ムッとした表情を浮かべながら言った。
「……馬鹿の戯言を本気にした、アタシ達って一体……」
シャーナが、ゲンナリした表情を浮かべて呟く。
「ま、結果オーライって事で」
レックスは苦笑いを浮かべながら言うと、気まずい空気に耐えかね、逃げる様に扉が開いた奥の部屋へと向かう。
「あ、ちょっと……」
トラップをチェックする為、先に行っていたデュートが思わず、レックスに声を掛けるが……。
「へ……?」
レックスは間抜けな声を上げ、ふと自分の足元を見ると、大きな落とし穴が口を開けていた。
「……遅かったか……」
後を追い掛けて来ていたロナードが、片手を額に当て、溜息混じりに呟いた。
「いぎゃああああ~っ!」
レックスは情けない声を上げ、ストンと深い落とし穴へと落ちた。
「え……」
「また?」
レックスの悲鳴を聞いて、携帯用のポットなどを片付けをしていたセネトとメイが、思わず声がした方へ目を向けながら、戸惑いの表情を浮かべ、呟く。
「馬鹿だ」
ラシャがポツリと呟くと、側に居たシャーナは特大の溜息を付いてから、
「だね」
「大丈夫かなぁ……。 レックス」
デュートが心配そうに、レックスが落ちた穴を覗き込む。
「全く。 世話を掛けさせる奴だ」
ラシャがそう言いながらやって来ると、レックスが落ちた、落とし穴の前に歩み出る。
「気を付けろよ。 ラシャ」
ロナードが、心配そうな表情を浮かべながら、ラシャに声を掛ける。
「下で串刺しになっているかも知れないが、まあ一応、拾って来てやるか」
ラシャはそう言うと、自慢の翼を広げ、レックスが落ちた穴へとゆっくりと降りて行く。
「やれやれ……。 馬鹿は死なないと治らないらしいね」
レックスが落ちた穴を見下ろしながら、シャーナは肩を竦めながら言う。
「って言うか、レックスの場合、一回くらい死んでも多分、馬鹿なのは治らないんじゃないかな……」
エルトシャンは、苦笑いを浮かべながら言う。
随分と穴が深いのか、なかなかラシャが戻って来ない……。
「でも、その馬鹿の人生も、今さっき終わりましたけれど……」
セシアは、そう冷たく言い放つ。
どうやら彼女は勝手に、レックスが死んだとの判断を下した様だ。
すると、彼女の予想に反して、レックスの声が穴の中から聞こえて来た。「すまねぇ……」
ラシャに、両腕を抱えられる様にして、レックスが姿を現した。
幸い、かすり傷程度で、元気そうなので、ロナード達は揃って安堵の表情を浮かべる。
「お前、いい加減に学習したらどうだ?」
セネトが、呆れた表情を浮かべながら、レックスに言うと、
「五月蠅せぇな! んな、ビクビクしながら進んでられるかよ! 烏王が居るんかだから、落ちたって拾ってもらえば良いだけじゃねぇかよ」
レックスがそう言い返すと、それを聞いたラシャが、プチンと堪忍袋の緒が切れたのか、折角、自分が引き上げたと言うのに、思いっ切りレックスの尻を蹴飛ばし、先程、彼が落ちた穴に落とした。
「どあああっ!」
レックスは情けない声を上げ、とっさに、側に垂れ下がっていたシャーナの自慢の尻尾を掴む。
「うぎゃ~っ!」
尻尾を強く掴まれ、シャーナがフロア中に響き渡る様な悲鳴を上げる。
とっさに、シャーナの尻尾を掴んだお陰で、穴の中に舞い戻らずに済んだレックスは、落ちかけた、片足を床に上げながら、恨めしそうにラシャを睨み、
「テメェ! 何しやがる!」
怒鳴り付けると、
「それはこっちの台詞だよ! 良くもアタシの尻尾を!」
シャーナは掴まれたのか、余程痛かったらしく、両目に薄っすらと涙を浮かべ、自分の尻尾の生え際を摩りながら、レックスに怒鳴り返す。
「わりぃ。 わりぃ。 つい」
レックスが、苦笑しながらそう言うと、シャーナは物凄く恨めしそうな表情を浮かべ、彼を睨み付けている。
「もう、レックスじゃなくて、『トラップほいほい』って名前にしちゃおうか」
エルトシャンが、軽く溜息を付いてから、意地の悪い笑みを浮かべながら言うと、
「んなっ……。 なに勝手に妙な呼び名を付けてんだよ!」
レックスはカチンと来て、声を荒らげながら、エルトシャンに言い返す。
「この呼び名が嫌なら、もう少し気を付けて進もうか?」
エルトシャンは、額に青筋を浮かべながら、ニッコリと笑みを浮かべ、レックスに言った。
「わ、分かったよ……」
レックスは、不名誉な呼び名で呼ばれるのが嫌なのか、不満そうな表情を浮かべながらも、そう返した。
「……どうやら、ここが一番奥の様だな……」
ラシャは、辺りを見回しながら、そう呟いた。
だだっ広い空間に、中央に四方に巨大な石の柱、更にその中心には祭壇がある。
何かの儀式でもしそうな場所だ。
「……それらしい物は無いですね……」
メイも、辺りを見回しながら言うと、セネトは祭壇の方へと駆け寄り、一頻り周囲を見回すが、何もない事を知り、
「そんな……」
ガックリと肩を落とし、その場にヘタリ込む。
「……もしかすると、本来は、この祭壇の上にシードが祭られていたんじゃないのか?」
祭壇を調べていたロナードは、祭壇の上の中央が丁度、何か球状の物を収められる様に、微妙な窪みがある事に気付き、そう指摘した。
「だったら、もう教会に持って行かれた後って事かな?」
エルトシャンが、複雑な表情を浮かべながら言う。
「いや、それは多分無いと思うわ。 最近、ここに人が立ち入った形跡が無いですもの」
セシアが、淡々とした口調でそう言うと、デュートも頷きながら、
「そうス。 誰かが先に入ってたなら、トラップが全部生きてるのは可笑しいスよ」
「だとしたら……別の場所にある……とか?」
メイは、辺りを見回しながら言うと、
「その可能性はありますわね。 調べてみますので、皆は邪魔にならない様な所に避難して下さいな。 どんなトラップがあるか分からないので」
セシアが、真剣な面持ちで言うと、デュートは、ウンザリした様な表情を浮かべ、
「結局、最後の最後まで、オレ等はフル活動って事スか……」
そう言うと、渋々と言った様子で、近くの柱などを調べ始めた。
「はあ……。 こんな所で手詰まりだなんて……」
セシアは、深々と溜息を付くと、疲れ果てた様にその場に座り込む。
「あ~あ~。 あともう少しなのに。 何でこう、見付からないスかぁ」
デュートも、やや投げやり気味で、辺りの壁を調べながら呟く。
「おいおい。 勘弁してくれよ。 こんな所で一泊とかよぉ……」
レックスが、セシアとデュートにそう言うと、二人は揃って恨めしそうに彼を睨む。
「大体、誰の所為で、こんなに時間が掛ったと思ってるんだい!」
シャーナはイラッとした口調で言うと、勢い良くレックスの尻を蹴飛ばす。
「全くだ。 こんな息苦しい、埃っぽい所など、早く引き上げたいと言うのに……」
ラシャも、ウンザリした様子でそうぼやいている横で、ロナードは、壁画を黙って見ている。
「五月蠅せぇ! 誰かみたいに、黙って壁画でも見てろ!」
レックスはムッとして、シャーナとラシャにそう言い返す。
「あれ?」
自分が持っていたカンテラの明かりが消えたので、マッチで火をつけ、明かりを灯そうとした時、マッチの煙が、自分たちが入って来た所からとは別の方向へ、逃げていった事に気付いたエルトシャンは、不思議そうに呟いた。
彼の行動の一部始終を見ていたセネトが、
「マッチと蝋燭を借りても?」
そうエルトシャンに言うと、
「あ、うん」
エルトシャンはそう言うと、自分の服のポケットからマッチと、予備の蝋燭を取り出すと、それをセネトに手渡した。
彼は、蝋燭に火を灯し、先程、マッチの煙が逃げた方へと歩み寄ると、風が吹いている訳では無いのに、蝋燭の火が大きく揺らめいている事に気が付いた。
「ここから……風が?」
セネトはそう言いながら、突き当りの壁の方へ近付くと、先程よりも更に大きく、蝋燭の炎が揺らめく。
「……何か、そこにあるスかね?」
それを見ていたデュートは、そう呟いた。
「調べてみましょう」
セシアが、真剣な面持ちで言うと、デュートは頷き返し、
「早く見つけろ。 こんな陰湿な所に居るのも、いい加減に飽きたぞ」
ラシャは不機嫌な様子で、デュートとセシアに向かって言った。
「ホントだよ。 ま、取り合えずルオンに帰ったら、ここに居る皆に、迷惑を掛けたお詫びに酒奢る事! 良いね! レックス」
シャーナが、レックスに言うと、彼は不満そうな表情を浮かべ、
「何でオレが!」
納得がいかない様子で、シャーナにそう言い返した。
「お前が一人で、迷惑を掛けているだろうがっ!」
ラシャが怒って言うと、エルトシャンが意地悪な表情を浮かべ、
「まあ、安月給の君の財布じゃ、直ぐに、中身は無くなっちゃうだろうけどね」
「んなっ……。 冗談だろ?」
レックス焦りの表情を浮かべ、エルトシャンに言うと、ロナードは苦笑しながら、
「ラシャは酒豪だからな。 冗談抜きでお前の財布の中身が全部、無くなるかもな」
「オレと飲むと、人間のお前たちが、真っ先に潰れると思うぞ」
ラシャが、淡々とした口調でレックス達に言う。
「タダで酒が飲めるなら、僕も喜んで参加するぞ」
セネトもニッコリと笑みを浮かべ、レックスに言うと、彼はゲンナリとした表情を浮かべる。
「可笑しいスねぇ……。 どうなってるスか?」
デュートはそう言いながら、眉間に皺を寄せて、突き当りの壁を念入りに調べていると、突然、何の前触れも無く、壁の一部がクルリと回転したので、デュートが前のめりになって、壁の向こうへ消えてしまった。
「デュート!」
それを見てロナードは慌てて、デュートが消えた壁の辺りを勢い良く蹴ると、壁が回転し、デュートに続いて壁の向こう側へと行く。
大人が何とか二人、入れそうな程の狭い空間で、デュートは、入り口近くにペタンと床に座り込んだまま、何かに視線が釘付けになり、何処か、惚けた様な表情を浮かべ、見入っている。
「デュート。 大丈夫か?」
ロナードは、デュートに声を掛けると、
「ロナード……。 これなんスか?」
デュートはそう言うと、自分の目の前を指差す。
ロナードはふと、デュートが指差す方へと目を向ける。
そこには、石の蜀台の様な物の上に両手大の玉が、台から微かに浮かんだ状態で、緑色の美しくも怪しく、不思議な光を放っていた。
その美しさに、ロナードも思わず息を呑む。
「これ……。 もしかして、セネトが言ってる『シード』じゃないスか?」
デュートは何処か、その宝玉に魅入られた様に呟くと、その怪しく、不思議な緑色の光を放つ、宝玉に手を伸ばした瞬間、その不思議な宝玉は強い光を放ち、側に居たロナード達を弾き飛ばした。
そして、何処からか、ズーンとこの神殿全体を揺るがす程の地響きがした。
「ええっと……。 これは夢か何かですかね?」
メイは、恐怖に顔を引きつらせながら、側に居たセネトに問い掛ける。
「残念ながら、夢か何かでは無さそうだ」
セネトは、苦々しい表情を浮かべながら、床が震える程の音を立て、自分たちに迫って来ているそれを見上げながら言い返した。
エメラルドの様に煌めく、硬そうな緑色の鱗……。
簡単に、人間の肢体を引き裂きそうな鋭い爪。
彼らの前に突如として、緑色の鱗を持つ二体のドラゴンを前に、彼らは皆、息を呑み、恐怖に顔を引き攣らせている。
「じょ、じょ、冗談だろ?」
レックスは、恐怖で顔を引き攣らせながら、思わず呟いた。
二体のドラゴンは、その真紅の双眸で、レックス達を見据えており、やがて首を擡げると、大きな口を開こうとする。
その口の間からは、熱気と共に赤い炎が揺らめく。
「うぎゃーっ!」
シャーナは思わず悲鳴に近い声を上げ、慌てて踵を返して、その場から逃げ出す。
セシアがとっさに氷の魔術を繰り出し、ドラゴン達の口から勢良く繰り出された、炎の玉を相殺する。
「皆、無事?」
セシアは、自分の後ろに居る仲間たちに、背中越しに問い掛ける。
「な、なんとか……」
メイは、恐怖のあまり腰が抜けたのか、ペタンと床の上に座り込んだまま、青い顔をして言う。
「ど、どうすんだよ? これ?」
恐怖で顔を引き攣らせながら、レックスはセシア達に問い掛ける。
「話が通じる相手とは、思えんな」
ラシャが、表情を険しくして言うと、それを聞いたメイとレックスの顔から血の気が引く。
そんな事を話している間にも、二体のドラゴンは、建物が崩れ落ちそうな巨大な地響きを立てながら、レックス達に近付いて来る。
「死にたくな~い! 誰か助けてぇ!」
アルシェラは恐怖のあまり、そのばにヘタリ込み、泣きながら悲鳴に近い声を上げる。
「皆、無事か!」
不意に何処からか、ロナードの凛々しい声が響いた。
「ロナード……。 お前、その顔はどうした?」
隠し部屋から飛び出してきたロナードは、頬などに、鋭利な物が掠ったで出来た様な傷があった。
「大した傷じゃない」
ロナードは、落ち着き払った言う。
その後ろに、ロナードと同じ様に怪我をしているデュートが、二体のドラゴンたちを前に腰を抜かし、青い顔をし、ガクガクと震えている。
「どうなっている?」
ロナードは、戸惑いの表情を浮かべ、二体のドラゴンを見上げながら、仲間たちに問い掛ける。
「僕等も、どうなっているのか……」
エルトシャンは、困惑を隠せない様子で答える。
「……腹を括るしか無い様だ……」
ロナードは意を決したように、表情を険しくして呟くと、腰に下げていた剣を抜く。
「その様だね……」
シャーナも、額から滴る冷や汗を手の甲で拭いつつ、背中に下げていた槍を手にした。
「来るぞ!」
ラシャの険しい声が、辺りに響く。
ロナード達は素早く、振り下ろされた、ドラゴンの前足の一撃を避ける。
前足が振り下ろされた床が、見事に陥没している。
「お、恐ろしい破壊力だな……。 こんなのまともに喰らったら、即死ものだぞ」
セネトが、窪んでいる床を見ながら、ゴクリと息を呑み、冷や汗を浮かべ、顔を引き攣らせながら呟く。
「このっ!」
果敢にも、ロナードがドラゴンの後ろ脚に剣を振り下ろすが、まるで物凄く硬い石にでも、剣をぶつけた時の様な音を立てるだけで、ドラゴンの脚部には傷一つない。
「……流石に硬いな……」
ロナードは、剣が少し刃こぼれしているのを見て、表情を険しくして呟く。
「狙うなら目だ! それが駄目なら、上から切り付けるのではなく、鱗の間に刺す様にして刃を入れろ!」
ラシャが、表情を険しくして、ロナード達にそうアドバイスする。
「流石は年の候。 伊達に年長者って訳では、無い様だね」
シャーナがそう呟いてから、雄叫びを上げると、巨大な猫の姿に身を転じる。
「僕達が注意を惹きつける。 セシアは隙を見て強力な魔術をぶつけて。 ロナードは急いで召喚術を」
エルトシャンは、剣を手にし、真剣な面持ちでロナード達に向かって言う。
「エルトシャン!」
セネトがハッとした表情を浮かべ、思わず声を上げる。
ドラゴンの口から、風の魔術を圧縮した様な緑色のブレスが、エルトシャン達に向かって繰り出される。
セシアがとっさに土の魔術で大きな壁を作ると、ドラゴンが吐いたブレスを相殺するが、側に居たエルトシャンがその勢いで弾き飛ばされる。
それを見て、シャーナが素早く動いて、大きな猫の身体を呈して、すっ飛んで来たエルトシャンの体を受け止める。
「ごめんシャーナ。 大丈夫?」
シャーナの体がクッションになったお陰で傷一つなく、自分の下敷きになっているシャーナに声を掛ける。
「セシア! 相手が風の属性だとしたら、土の魔術が有効かも知れない」
ロナードは、真剣な面持ちでセシアに言う。
「分かったわ」
セシアはそう言うと、魔術を詠唱して、鋭く尖った岩の刃を幾つか作り出す。
シャーナ、エルトシャン、ラシャの三人は、それぞれの角度から、同じドラゴンに向かっていく。
だが、ドラゴンはその巨体に似合わない動きで、両方の前足を使って、シャーナとエルトシャンを払い飛ばし、後方から技を繰り出そうとしたラシャを尻尾で払い飛ばす。
「くそっ!」
シャーナは、素早く身を反転させ、床を勢い良く蹴ると、弾丸の様に思いっ切り、ドラゴンの片目に喰い付いた。
ドラゴンは悲鳴を上げ、目に喰い付いたシャーナを必死に払おうとする。
「シャーナ! 離れて!」
セシアが叫ぶと、シャーナは、ドラゴンの眼球を鋭い前足の爪を突き立てる様にして離脱すると、間を置かず、セシア魔術で繰り出した、無数の岩の刃をドラゴンに繰り出す。
物凄い勢いで、セシアが繰り出した、無数の岩の刃はドラゴンに直撃し、魔術をまともに食らったドラゴンは、巨大な身体を横たえる。
「やったか?」
もう一匹のドラゴンの注意を惹きつけていたセネトは、それを見て呟く。
「トドメだよ!」
そう叫び、シャーナが倒れているドラゴンに、襲い掛かろうとすると、
「危険だ! シャーナ!」
身を起こしたエルトシャンが、何かに気が付いた様な表情を浮かべ、とっさに叫ぶが、シャーナがドラゴンに飛び掛かった途端、倒れていたドラゴンが素早く頭を上げ、シャーナに向かって口からブレスを吐いた。
「ぎゃあああっ!」
シャーナをまともに食らったシャーナは、火達磨なり、床に転がる。
「シャーナさん!」
それを見て、駆け付けようとしたメイに、ドラゴンの尻尾が鞭の様にしなり、彼女を襲う。
「メイ!」
レックスがとっさに、メイを前へ突き飛ばし、自分も勢い余って転がる。
間一髪、ドラゴンの尻尾は、床の上に倒れ込んだ、二人の頭上をかすめる。
「大丈夫か?」
レックスは、素早く上半身を起こすと、側に倒れているメイに声を掛ける。
「あ、有難う……」
青ざめた顔をしながらも、メイはそう返すと、急いで立ち上がり、酷い火傷を負い、力無く床の上に倒れているシャーナの側へと駆け出す。
「メイ。 これを使え!」
もう一体のドラゴンの攻撃を避けつつ、セネトが腰に下げていたポシェットから、液体が入った小瓶をメイに投げ渡した。
メイは慌てて、投げ渡された小瓶を受け取る。
「回復ポーションだ」
セネトはそう言いながら、ドラゴンの攻撃を避ける。
「セネトさん!」
それを見て、メイは顔を青くして叫ぶ。
「早くしろ!」
セネトは辛うじて、ドラゴンの攻撃を避けながら叫ぶ。
「シャーナさん。 飲めますか?」
メイは急いで小瓶の栓を抜くと、そう言いながら倒れているシャーナの体を起こし、彼女の口元に小瓶の口を近づける。
シャーナは辛うじて、それを口に含んで飲み込むと、彼女の体が青く光り、全身の火傷が嘘の様に消えていく……。
それを見て、メイとレックスはホッとした表情を浮かべる。
「恩に着るよ」
シャーナはそう言うと、レックスの手を借りながら、ゆっくりと立ち上がった。
そうしている間に、倒れて居たドラゴンは立ち上がり、エルトシャンと一騎打ち状態になり、素早い身のこなしで、ドラゴンの攻撃をエルトシャンは避けながら、剣を繰り出すが、鋼の様に硬い鱗に阻まれる。
「くそっ!」
傷一つ付かないドラゴンの皮膚を見て、エルトシャンは苦々しい表情を浮かべながら呟く。
「だったら、これでどうだ!」
ロナードはそう言うと、素早く雷の幻獣『ケツァール』を召喚し、ケツァールはすぐさま、口から雷の帯をドラゴンに向かって放出する。
流石に、鋼の様に強靭な鱗も雷は通すらしく、ケツァールの攻撃を真面に食らったドラゴンは、激しく体を痙攣させ、皮膚を焼く様な匂いが立ちこめる。
「効いてるみてぇだ」
それを見て、レックスが呟く。
「雷はいけるよ!」
シャーナは嬉々とした表情を浮かべ、仲間に向かって叫ぶ。
ケツァールの雷撃を真面に食らったドラゴンは、そのまま、全身から白い煙を上げながら、大きな巨体を床の上に横たえる。
「もう一体だ!」
ドラゴンの一体が倒れたのを見て、ロナードは、ケツァールに向かって命じる。
ロナードの命令を受け、ケツァールが雷を体に貯めていると、倒れていた筈のドラゴンがカッと目を開き、物凄い勢いでロナードに向かって尻尾を横に振った。
「!」
ブンと物凄い勢いで、何かが空気を切る音に、ロナードはハッとして振り返った途端、ドラゴンの尻尾が鞭の様にしなり、ロナードの腹に直撃し、それを真面に食らったロナードはそのまま、数メートル後ろに吹き飛ばされ、壁に体を激しくぶつけ、そのまま、ズルズルと壁に沿う様にして、グッタリと床の上に倒れ込み、動かなくなってしまった。
「ロナードっ!」
それを見て、エルトシャンが悲鳴に近い声を上げ、慌てて動かなくなったロナードの下へ駆け寄る。
「この野郎っ!」
ラシャは巨大な烏に身を転じ、怒りを顕わにして、ロナードに一撃を見舞った、シャーナに片眼を潰されたドラゴンに襲い掛かる。
二匹は互いに物凄い声を上げながら、互いに絡まり合う様にして、お互に食い付いたり、爪で相手を攻撃し合う。
床の上に、何方のものか分からないが、血が飛び散ちり、烏の羽が幾つも近くに舞う。
「エルト……」
ロナードは苦痛に満ちた表情を浮かべ、思い切り咳き込み、微かに口から血を流しながらも、駆け付けたエルトシャンに、掠れた声で呼ぶと、何を思ったのか、彼が手にしていた剣の刃先を掴んだ。
「なっ……」
それを見て、エルトシャンは戸惑いの表情を浮かべるが、ロナードが何か呟いた次の瞬間、彼の剣が雷を帯び、青白く光り出した。
「頼む……」
ロナードは、エルトシャンにそう言うと、スッと意識を失った。
「……任せて」
エルトシャンは表情を険しくし、立ち上がると、気を失って床の上に倒れているロナードを見下ろしながら言った。
「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……」
デュートがそう言いながら、何処からか現れて、気絶しているロナードを引き摺りながら、突き当りの壁の向こうの、謎の宝玉があった隠し部屋の方へ、彼を引っ張っていく……。
「早く。 早く!」
デュートと一緒に隠れていたアルシェラが、気絶したロナードを引っ張って来ているデュートに向かって叫ぶ。
(アイツ等! あんな所に隠れて!)
それを見たセネトは、戦闘が始まった途端、居なくなった二人に対して憤りを覚えつつ、その怒りをぶつける様に、もう一体の健在のドラゴンに向かって、魔術で繰り出した無数の炎の球をぶつける。
「人間を……舐めるな!」
ロナードによって、雷を帯びた剣を手にしたエルトシャンが、そう叫びながら駆け出すと、大きく跳躍し、ドラゴンの前足に向かって思い切り剣を突き立てると、ドラゴンは悲鳴を上げ、エルトシャンが突き立てた剣を払い落とそうと暴れまわる。
「セシア!」
セネトがそう叫ぶと、セシアは魔術を詠唱し、ドラゴンの足元を氷漬けにする。
「くたばれ! この野郎!」
セネトは、ありったけの魔力を注ぎ込んだ、巨大な風の刃をドラゴに向かって放った。
彼が放った風の刃は、エルトシャンが突き刺した剣が刺さったままの前足を、見事に切り落とした。
「いけるよ!」
再び巨大な猫に身を転じたシャーナはそう叫ぶと、大きく跳躍すると、ドラゴンの目玉に食らい付き、剣を回収したエルトシャンも、健在なもう片方の前足に剣を突き立てる。
二人に同時に攻撃され、身動きが取れない所に、
「二人とも退いて!」
セシアがそう叫ひ、その声を聞いて二人は慌ててドラゴンから離れると、セシアはありったれの力を振り絞り、特大の雷をドラゴンの頭上に見舞った。
落雷が落ちた時の様に、鼓膜が破れそうな程の物凄い轟音が辺りに響き渡り、神殿全体を大きく揺らした。
セシアの魔術を見舞われたドラゴンは、プスプスと全身から煙を上げ、床の上に倒れた。
「早く! 首を落とせ!」
魔力を使い果たし、動けないセネトが、エルトシャン達に向かって叫ぶ。
「レックスっ!」
セシアは、自分の隣で戦いに見惚れていたレックスに向かって叫ぶと、彼はハッとする。
「お嬢様! 銃を貸して下さい!」
デュートと共に身を隠しているアルシェラに向かって、メイが強い口調でそう言いながら、手を差し出す。
ボウガンの矢がドラゴンの皮膚には刺さらないので、それ以上の威力が見込めそうな銃を使って攻撃しようと、メイは考えたようだ。
アルシェラは、メイの有無も言わせぬ迫力に圧倒され、慌てて自分の腰に下げていた銃と弾丸を手渡した。
「そこに居て下さい」
メイは、表情を険しくしたまま、アルシェラにそう言い残すと、ドラゴンを討つ為、その場から駆け出した。
(シャーナさんみたいに、目を狙おう)
メイは、心の中でそう呟きながら、銃に弾丸を詰める。
「こんにゃろう! 起きて来んな!」
レックスはそう言って、両手に持っていた剣で、ドラゴンの首を切り落とそうとするが、硬い岩に向かって剣を叩きつけた様な感触と共に、両手が痺れる。
(なんつぅ硬さだ)
レックスは、痺れている自分の手を見ながら、心の中で呟く。
「退いて!」
エルトシャンがそう言って、レックスを押し退けると、両目を閉じ、大きく深呼吸をすると、渾身の力を込めて剣をドラゴンの首に向かって振り下ろした。
硬い鱗と、その下にある皮膚を斬り付けた感触と共に、自分が振り下ろした剣がパキッと音を立てて折れ、それが宙を回転し、折れた刃先が近くの床の上に音を立てて転がった。
物凄い量の血飛沫が飛び散り、近くに居たレックスやエルトシャンの体に降り注いだ。
首を叩き落とす事は出来なかったが、首の大きな動脈を切った様で、そこから噴水の様に血が噴き出し、ドラゴンがビクビクと激しく体を痙攣させて、横たわったまま動けなくなっている。
「はあ、はあ、はあ……」
大量の返り血を浴びながら、折れた剣を握り絞めたまま、エルトシャンは荒々しく肩で呼吸を繰り返す。
「や、やった感じですか?」
アルシェラから借りた銃を手に、駆け付けて来たメイが、徐にエルトシャンに問い掛ける。
「分からない……」
返り血を拭いつつ、エルトシャンは息を切らせながら返す。
「兎に角、コイツ等が動き出す前に、ここから急いで離れよう」
人の姿に戻ったシャーナが、エルトシャン達に言うと、彼らは頷き返し、魔力を使い果たして動けなくなったセネトをレックスが背負い、セシアをエルトシャンが抱える格好で、その場からの離脱を始めた。
「クソが! やっとくたばりやがった」
そう言いながら、人の姿に戻り、全身の酷い怪我を負い、血塗れになっているラシャが、自分と取っ組み合いをしていたドラゴンを見ながら、悪態をつく。
「エルトぉ……」
デュートと共に隠れていたアルシェらが、ゆっくりと歩み寄って来て、おずおずと声を掛けて来た。
「ロナードは?」
エルトシャンは徐に、デュートが引き摺って行ったロナードの事を問い掛ける。
「ここス」
デュートが、ロナードの上半身を引き摺りなずらやって来て、そう声を掛けて来た。
「扱いが、雑」
「いや、お前、それは無いだろ……」
デュートに、ボロ雑巾の様に引き摺られてきているロナードを見て、エルトシャンとセネトは思わずそう言った。
「酷いな……」
ドラゴンが繰り出した尻尾を真面に食らい、気絶しているロナードを見下ろしながら、ラシャは呟くと、身を屈め、ロナードをゆっくりと抱き上げた。
「肋骨の二、三本、やられてるかも」
ロナードが吹っ飛ばされるのを見ていたシャーナは、気の毒そうにそう言った。
「流石に……このままルオンへ抜けるのは厳しそうだ。 一旦、里へ戻ろう」
ラシャは、自分も含めて、ボロボロになっている仲間たちを見て、そう言うと、彼らは一様に頷き返した。
「そう言えば、目的の『シード』はどうなったんです?」
セネトに肩を貸しながら、徐に仲間たちに問い掛けると、
「そ、それが……」
デュートが、複雑な表情を浮かべ、口籠らせる。
「消えちゃったの!」
アルシェラが、戸惑いの表情を浮かべながら言うと、
「なっ……。 消えた?」
それを聞いて、セネトは驚愕の表情を浮かべ、思わず声を上げる。
「うん」
アルシェラは真顔でそう言うと、頷いた。
「そんな……」
セネトは、茫然とした表情を浮かべ、呟く。
「確認するスか? 本当に無いスけど」
デュートが徐に、ショックを受けている様子のセネトに言う。
「いや、良い……」
セネトは、意気消沈と言った様子で、弱々しい声で返した。
その様子に、アルシェラがほくそ笑んだのをメイは偶然、目撃してしまった。
烏族の里の近くに戻ると、周辺を空から巡回警備をしていた里の男たちと出会い、彼らの手を借り、何とか戻った時には、既に夜になっていた。
「結局、目的の『シード』は消失、私たちは、あれだけ大変な目に遭ったのに、大した収穫は無かったという事になりますわね」
セシアは、淡々とした口調で言うと、
「済まない……」
セネトは、シュンとした表情を浮かべ、申し訳なさそうにセシア達に言った。
「いや、あのドラコンがくたばったのなら、骨や牙、鱗とかを回収して売れば、結構な金になるし、牙を加工したら武器に、鱗は防具にもなるよ」
シャーナが、落ち着いた口調で言う。
「はあ? それを取りにまた、あそこまで行くのかよ?」
レックスが、物凄く嫌そうな表情を浮かべながら言う。
「僕の剣が折れてるし、無暗に近づかない方が良いんじゃないかな……」
エルトシャンも、気乗りしない様子で言って居ると、ラシャが部屋に入って来た。
「あ……。 ロナード様はどうでしたか?」
メイが、心配そうにラシャに問い掛けると、
「薬師の見立てでは、右腕の骨折と、肋骨も二、三本やられてるらしい。 咄嗟に風の魔術で壁を作って防がなければ、即死だったそうだ。」
ラシャは、複雑な表情を浮かべ、重々しい口調で語る。
「おお。 すげぇ反射神経……」
レックスは思わず、感嘆の声を上げる。
「暫くは、動けんだろう」
ラシャは、沈痛な表情を浮かべながら言う。
「あの……。 シャーナさんに使った回復ポーションって、もう無いんですか?」
メイは徐に、セネトに問い掛ける。
「済まない。 あれは、中級だからそんなに回復力が強いヤツでは無いんだ。 傷や火傷には効果が見込めるが、骨折までは……」
セネトは、申し訳なさそうに答えた。
「無理を言うもんじゃないよ。 ポーションは治癒魔術と同じ効果が見込めるけど、中級だってとても高価なんだ。 そんな簡単に手に入る物じゃないんだよ」
シャーナは、真剣な面持ちでメイに説明する。
「そうだったんですね……」
メイは、申し訳なさそうに言う。
「そんな高価な物を惜しみなく使わせてくれた事には、感謝しているよ。 じゃなきゃ危なかった」
シャーナは、穏やかな笑みを浮かべながら、セネトに礼を述べると、
「幾ら高価でも、人の命には代えられない」
セネトは、少し照れ臭そうにしつつも、ボソリと言った。
「アンタ、良い子だね」
シャーナは、照れ臭そうにしているセネトに対し、ニッコリと笑みを浮かべながら言うと、彼の頭を片手でワシャワシャと撫で回した。
「シードの事は、残念でしたね……」
メイは、気の毒そうにセネトに言うと、
「本当に消失したのか? あの二人の内の何方かが盗んだ可能性は?」
ラシャが、神妙な面持ちで指摘する。
「そう言えば、あの二人は何処へ行ったの?」
セシアは、アルシェラとデュートの姿が無いので、仲間たちに問い掛ける。
「暇だから、里の中を見て回るんだってよ」
レックスは、苦笑い混じりに言うと、
「全く……。 ロナード様の事が心配ではないのかしら」
セシアは、呆れた表情を浮かべなが呟く。
「僕は、あの二人の言葉を信じた訳では無いが、二体のドラゴンを召喚した所為で……とも考えられる。 あまり、事を大きくしない方が良いかも知れない」
セネトは、落ち着いた口調で言う。
「セネトさん……」
セネトの言葉に、メイは複雑な表情を浮かべ、他の者たちは何か言いたそうな顔をしている。
「オレが、二人を絞め上げてやつても良いが?」
ラシャが、淡々とした口調で言うと、それを聞いて、メイとレックスが恐怖に顔を引きつらせる。
「それは流石にちょっと……」
エルトシャンが、困った様な表情を浮かべながら言う。
「疑わしいと言うだけで、そこまでするのはどうかと……」
セネトも、気乗りしない様子で言う。
「でも、大事な物なんだろう?」
シャーナがは、戸惑いの表情を浮かべ、セネトに言うと、
「僕は、シードが欲しい訳じゃない。 教会の手にさえ渡らなければ、それで良いんだ」
彼は、落ち着いた口調で答えた。
「ふむ……。 まあ、あの二人の行動には、注意して見ておくべきだな」
ラシャは、両腕を胸の前に組み、淡々とした口調で言う。
「そうですわね。 王都に戻ってから、誰かに売る可能性もありますし」
セシアも、真剣な面持ちで言う。
「はあ……。 ホントにアルには頭痛いよ……」
エルトシャンは、片手を額に添え、ゲンナリとした表情を浮かべながら呟く。




