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DRAGON SEED  作者: みーやん
第二十二章
23/31

再会

主な登場人物


ロナード…漆黒(しっこく)の髪に紫色(むらさきいろ)双眸(そうぼう)特徴的(とくちょうてき)な、傭兵(ようへい)業を生業(なりわい)として居た魔術師(まじゅつし)の青年。 落ち着いた雰囲気(ふんいき)の、(じつ)年齢(ねんれい)よりも大人びて見える美青年。 一七歳。


エルトシャン…オルゲン将軍(しょうぐん)(おい)で、新設(しんせつ)された組織『ケルベロス』のリーダー。 愛想(あいそ)が良く、柔和(にゅうわ)物腰(ものごし)好青年(こうせいねん)。 王国内で(ゆび)()りの剣の使い手。 二一歳。


アルシェラ…ルオン王国の将軍(しょうぐん)オルゲンの娘。 カタリナ王女の命を受け、新設(しんせつ)される組織に渋々加わっている。 一六歳。


オルゲン…ルオン王国のカタリナ王女の腹心(ふくしん)で、『ルオンの双璧(そうへき)』と(しょう)される、幾多(いくた)戦場(せんじょう)活躍(かつやく)をして来た(ろう)将軍(しょうぐん)。 魔物(まもの)退治(たいじ)専門(せんもん)の組織『ケルベロス』を、カタリナ王女と共に立ち上げた人物。


セシア…ルオン王国の王女、カタリナの親衛隊(しんえいたい)の一員で、魔術(まじゅつ)に長けた女魔術師(まじゅつし)。 スタイル抜群(ばつぐん)で、人並(ひとな)み外れた妖艶(ようえん)な美女。


レックス…オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)()えていた騎士(きし)見習(みなら)いの青年。 正義感(せいぎかん)が強く、喧嘩(けんか)っ早い所がある。 屋敷(やしき)の中で一番の剣の使い手と自負(じふ)している。 一七歳。


カタリナ…ルオン王国の王女。 病床(びょうしょう)にある父王に代わり、数年前から(まつりごと)を行っているのだが、宰相(さいしょう)ベオルフ一派(いっぱ)所為(せい)で、思う様に政策(せいさく)が出来ずにおり、王位を(おびや)かされている。 自身は文武(ぶんぶ)に長けた美女。 二二歳。


サムート…クラレス公国(こうこく)に住む、烏族(からすぞく)の長の妹サラサに(つか)える烏族(からすぞく)の青年。 ロナードの事を気に掛けている(あるじ)(ため)に、ロナードの様子(ようす)時折(ときおり)、見に来ている。 人当たりの良い、物腰(ものごし)(やわ)らかい青年。


デュート…元・トレジャーハンターの少年。 その経験(けいけん)をかわれ、ケルベロスに加わる。 飄々としていて(つか)みどころのない性格。 一七歳。


メイ…オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)(つか)えていた元・騎士(きし)見習(みなら)いの少女。 レックスとは幼馴染(おさななじみ)。 (みずか)志願(しがん)してケルベロスのメンバーに加わる。 ボウガンの名手(めいしゅ)。 十七歳。


シャーナ…元・傭兵(ようへい)で槍を得意(とくい)とする猫人族(マオぞく)の女性で、ケルベロスのメンバーの一人。 面倒(めんどう)()の良い、姉御(あねご)(はだ)


ベオルフ…ルオン王国の宰相(さいしょう)で、カタリナ王女に代わり、自身が王位に()こうと(たくら)んでいる。 相当(そうとう)な好き者で、自宅(じたく)別荘(べっそう)に、各地(かくち)から集めた美少年美少女を(かこ)っていると言われている。


ラシャ…クラレス公国に住む烏族(からすぞく)の長。 (かつ)てはクラレス公国の三羽烏(さんわからす)の一人として、その手腕を振るっていたが、現代(げんだい)領主(りょうしゅ)からは(けむ)たがられ、里に追いやられている。


サラサ…サムートの(あるじ)でラシャの妹。 従姉(いとこ)息子(むすこ)であるロナードの事を何か時に掛けている。


セネト…エレンツ帝国の出身で、とある理由からロナードを助けに現れた、炎の魔術を得意とする少年。

 数日前……。

 ルオン王国内にある、狼人族(ロンぞく)たちが住まう森……。

「まさか、こんな大規模(だいきぼ)に……」

カタリナ王女の命を受け、『夜光(やこう)(そう)』の調査(ちょうさ)を進めていたオルゲン将軍(しょうぐん)は、報告(ほうこく)にあった森深く、『夜光(やこう)(そう)』が栽培(さいばい)されている畑に居た。

 周囲(しゅうい)鬱蒼(うっそう)と木々が生い(しげ)る深い森の中、突如(とつじょ)として現れた、見たわす(かぎ)り一面の畑に、オルゲン将軍(しょうぐん)愕然(がくぜん)とした。

報告(ほうこく)によりますと、ここの(ほか)にも何箇所(なんかしょ)か、森の中に畑が点在(てんざい)しているようです」

オルゲン家の私兵(しへい)の一人が、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで語る。

「何と言う事だ……」

オルゲン将軍(しょうぐん)は、(ひたい)に片手を()え、表情を(くも)らせて(つぶや)く。

 この森の周辺(しゅうへん)(かつ)て、オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)領地(りょうち)であった。

 『血の粛清(しゅくせい)』の一件(いっけん)()(ぎぬ)を着せられ、一連(いちれん)責任(せきにん)を取る形で爵位(しゃくい)(へん)(じょう)し、(おう)()()(さい)一緒(いっしょ)に、王家(おうけ)(へん)(かん)した領地(りょうち)だ。

 オルゲン家が領主(りょうしゅ)(つと)めていた時期(じき)は、この森で手に入る木材を加工した、食器(しょっき)置物(おきもの)などを製造(せいぞう)し、それを取引(とりひき)した金が領民(りょうみん)たちの(おも)収入源(しゅうにゅうげん)であった。

 何代(なんだい)にもわたり、森と共に暮らして来た土地柄(とちがら)で、()らし向きは決して悪くは無かったが、森に大きく依存(いぞん)する生活であった。

 オルゲン家がこの土地を返上してからは、狼人族(ロンぞく)の森が近いため、王家(おうけ)……(おも)にルオン軍がその管理(かんり)をする様になっていたのだが……。

「まさか、(わず)か数年でこの様な事になっていたとは……」

オルゲン将軍(しょうぐん)は、すっかり変わり果てた森の現状(げんじょう)に、(ひど)くショックを受けていた。

(まった)くですな。 公明正大(こうめいせいだい)が売りのオルゲン将軍(しょうぐん)が、まさか、(かつ)ての領民(りょうみん)にこの様な事をさせていたとは」

不意(ふい)に、何処(どこ)からか野太(のぶと)い男の声と共に、(よろい)が触れ合った(さい)に出る金属音(きんぞくおん)が辺りに(ひび)いた。

 振り返れば、武装(ぶそう)したルオン軍の兵士(へいし)たちが、まるで、オルゲン将軍(しょうぐん)がここに来る事を知っていたかの様に、待ち(かま)えていた。

「リャハルト・フォン・オルゲン! 違法(いほう)薬物(やくぶつ)原料(げんりょう)となる、『夜光(やこう)(そう)』の栽培(さいばい)指示(しじ)していた(つみ)により、貴殿(きでん)連行(れんこう)する!」

オルゲン将軍(しょうぐん)を取り囲んでいる、ルオン軍の兵士(へいし)を率いている中年(ちゅうねん)の男が不意(ふい)に、その様な事を言い(わた)してきた。

「なっ……」

「何を馬鹿(ばか)な事を!」

我々(われわれ)調査(ちょうさ)をしていただけだ!」

その発言に、オルゲン家の私兵(しへい)たちは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、口々に言う。

告発(こくはつ)があったのだ」

戸惑(とまど)うオルゲン家の兵士(へいし)たちに向かって、ルオン軍の兵士(へいし)を率いている中年(ちゅうねん)の男が、淡々(たんたん)とした口調で語る。

告発(こくはつ)だと?」

オルゲン将軍(しょうぐん)(まゆ)(ひそ)め、そう問い掛けると、ルオン軍の兵士(へいし)たちを()き分ける様にして、彼の(おい)であるチェスターが姿を現した。

「チェスター……」

(おい)の登場に、オルゲン将軍(しょうぐん)戸惑(とまど)いの表情を浮かべる。

「まさか……告発(こくはつ)(しゃ)と言うのは……」

「チェスター様……」

オルゲン家の私兵(しへい)たちも、動揺(どうよう)(かく)せない様子(ようす)(つぶや)く。

残念(ざんねん)です。 伯父上(おじうえ)。 まさか、幾多(いくた)戦場(せんじょう)で名を(とどろ)かせてきた英雄(えいゆう)が、この様な事を(ひそ)かに行っていただなんて……」

チェスターは、勝ち(ほこ)ったような笑みを浮かべながら、オルゲン将軍(しょうぐん)に言った。

「チェスター様!」

「どういうつもりですか!」

「これは、誤解(ごかい)です!」

オルゲン家の私兵(しへい)たちが、(ひど)動揺(どうよう)しながらも、口々にそう言い返す。

「申し開きならば、後でたっぷりと聞いてやる。 将軍(しょうぐん)連行(れんこう)しろ」

ルオン軍の兵士(へいし)たちを率いている中年(ちゅうねん)の男は、部下たちに命じると、兵士(へいし)たちはオルゲン将軍(しょうぐん)捕縛(ほばく)に動き出した。

「お(やかた)(さま)!」

「お逃げ下さい!」

オルゲン家の私兵(しへい)たちは武器を手に取り、オルゲン将軍(しょうぐん)を守る様にしながら、口々に彼にそう言った。

「何を言うか。 ここで(わし)が逃げれば、(つみ)(みと)めるのと一緒(いっしょ)ではないか!」

オルゲン将軍(しょうぐん)は、表情を(けわ)しくし、強い口調でオルゲン家の私兵(しへい)たちに向かって叫ぶ。

「ここは、兵士(へいし)たちが言う様に、逃げた方が賢明(けんめい)と思いますよ」

何時(いつ)の間に(あらわ)れたのか、灰色(はいいろ)外套(がいとう)に身を包んだ、細身(ほそみ)の背の高い男が、オルゲン将軍(しょうぐん)に言う。

「コイツ()は、アンタが無実(むじつ)だと知っていて、()らえようとしている。 (はな)から、アンタの話など聞く気はないぞ」

もう一人、ガッチリとした体つきの、如何(いか)にも剣士(けんし)と言った風体(ふうてい)の、背の高い男がそう言って来た。

「な、何だ。 お前たちは」

突然(とつぜん)(あらわ)れた二人に対し、オルゲン家の私兵(しへい)が、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら問い掛ける。

「今は、(わたし)たちが何者か()うている場合か?」

「オルゲン閣下(かっか)を、この場から逃がすのが先決です」

突如(とつじょ)(あらわ)れた二人は、落ち着いた口調で返す。

()がすな!」

その様子(ようす)を見て、ルオン軍の兵士(へいし)を率いていた中年(ちゅうねん)の男は、部下たちに命じた瞬間(しゅんかん)細身(ほそみ)の背の高い男が、何やら聞き()れぬ言葉を口づさむと、突如(とつじょ)として、ルオン軍の兵士(へいし)たちとの間に、土の(かべ)(あらわ)れ、オルゲン将軍(しょうぐん)捕縛(ほばく)(こころ)みていた兵士(へいし)たちは、その足を止めるしかなかった。

「今の内に」

細身(ほそみ)の背の高い男は、落ち着いた口調で、オルゲン将軍(しょうぐん)たちに声を掛ける。

此方(こちら)だ」

ガッチリとした背の高い男も、落ち着いた口調で言う。

 オルゲン家の私兵(しへい)たちは、彼等(かれら)(したが)って良いものか戸惑(とまど)っていると……。

(だれ)かは知らぬが、感謝(かんしゃ)する」

オルゲン将軍(しょうぐん)は、落ち着いた口調で言うと、彼らの後に付いて行くので、それを見て、オルゲン家の私兵(しへい)たちは、戸惑(とまど)いながらも後に続く。

 (しばら)く森の中を移動(いどう)すると、少し開けた場所に出て、そこには、馬車(ばしゃ)と数頭の馬が用意されていた。

此方(こちら)へお乗り下さい。 私共(わたくしども)が安全な場所までお()(いた)します」

細身(ほそみ)の背の高い男は、落ち着いた口調で、オルゲン将軍(しょうぐん)に言う。

「その前に、そろそろ、そなた()が何者なのか()かしても良くはないかね? 助けてくれた事には感謝(かんしゃ)しているが、これ以上(いじょう)()らぬ者に付いて行くほど、(おろ)かではないつもりだ」

オルゲン将軍(しょうぐん)は、落ち着いた口調で言うと、細身(ほそみ)の背の高い男は、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、連れのガタイの良い背の高い男を見ると、彼は(しず)かに(うなず)く。

「……失礼(しつれい)(いた)しました。 (わたし)はハニエルと申します」

細身(ほそみ)の背の高い男は、落ち着いた口調で、オルゲン将軍(しょうぐん)に言うと、深々(ふかぶか)(かぶ)っていたフードを手で払い、顔を(あら)わにすると、そう名乗った。

 彼を一目(ひとめ)()瞬間(しゅんかん)、その場にいた(だれ)もが、彼の美しさに釘付(くぎづ)けになる。

 (やわ)らかな春の小川(おがわ)を想わせる、美しい銀色の長い髪を背中(せなか)に流した、長身(ちょうしん)細身(ほそみ)(はだ)の色は陶器(とうき)の様に白く(なめ)らかで、その横顔は、優しそうな柔和(にゅうわ)面差(おもざ)しで、瞳の色は、(おだ)やかなスミレ色、薄紫色(うすむらさきいろ)のサーコートを着ており、人間(にんげん)(ばな)れした、洗練(せんれん)された美しさを(ただよ)わせる、(おそ)ろしく美しい青年だった。

 もう一人は……。

 夏の日差(ひざ)しを想わせる、オレンジ掛った金色の長めの髪に深い紫色(むらさきいろ)双眸(そうぼう)、少し日に焼けた(うす)赤銅(しゃくどう)(しょく)の肌、長身(ちょうしん)でガッチリとした肩、引き()まった筋肉質(きんにくしつ)な体付き、キリッとした精悍(せいかん)な顔立ち、年は二十代半ばと思われる美丈夫(びじょうぶ)……。

殿下(でんか)……」

彼を見た瞬間(しゅんかん)、オルゲン将軍(しょうぐん)(きつね)()まれた様な表情を浮かべ、(つぶや)いた。

(だれ)が『殿下(でんか)』だ。 (しばら)く合わない内に、すっかり盲目(もうもく)してしまった様だな? (じい)(さま)

金髪(きんぱつ)美丈夫(びじょうぶ)苦笑(にがわら)いを浮かべ、戸惑(とまど)っているオルゲン将軍(しょうぐん)に言うと、その発言を聞いてオルゲン将軍(しょうぐん)は、ハッとした表情を浮かべる。

「まさか……レオン……なのか?」

そして、小刻(こきざ)みに身を(ふる)わせ、おずおずと問い掛けると、

「いくら父上に()ているからと、『殿下(でんか)』は無いだろ。 もしも父上だとしたら、若過ぎるだろう? 普通(ふつう)に考えれば、()ぐに分かるだろうに」

金髪(きんぱつ)美丈夫(びじょうぶ)は、苦笑(にがわら)いを浮かべたまま言う。

「本当に……レオンなのか?」

オルゲン将軍(しょうぐん)は、『信じられない』と言った様子(ようす)で問い掛ける。

「ユリアスと(わたし)以外(いがい)(だれ)が、アンタを(じい)(さま)と呼ぶ(やつ)が居ると言うんだ?」

金髪(きんぱつ)美丈夫(びじょうぶ)は、苦笑(にがわら)いを浮かべたま返す。

「レオン……。 ああ……レオン……。 本当に……。 本当に(ゆめ)ではなかろうか……」

オルゲン将軍(しょうぐん)は、感極(かんきわ)まった様子(ようす)で言うと、目の前に立つ、自分よりも頭一つ分以上(いじょう)背丈(せたけ)のある、金髪(きんぱつ)美丈夫(びじょうぶ)()きしめる。

随分(ずいぶん)と時間が掛かったが、こうして、生きている間に会えたのだから良いだろう? (じい)(さま)

金髪(きんぱつ)美丈夫(びじょうぶ)は、オルゲン将軍(しょうぐん)に抱きしめられたまま、(おだ)やかな口調で問い掛ける。

「ああ。 勿論(もちろん)だとも。 良く、生きていてくれた」

オルゲン将軍(しょうぐん)(うなず)き、両目から(なみだ)を流しながら、言った。


「ふん。 ふふふん♪」

風呂(ふろ)から上がって来たアルシェラは、タオルで()れている髪を()きながら、自分のベッドの方へと向かうと、そこには、セネトが座って待ち(かま)えていた。

随分(ずいぶん)と、長風呂(ながぶろ)だったな」

セネトは、淡々(たんたん)とした口調で、戻って来たアルシェラに言った。

 見れば、同室(どうしつ)の他の三人の姿は無い。

「な、何よ」

アルシェラは、たじろぎながら、ベッドの上から退()気配(けはい)の無いセネトに言う。

「寝る時間が()しいから、単刀直入(たんとうちょくにゅう)に言う」

セネトは、ベッドの上に腰を下ろしたまま、アルシェラを見上げ、

「『シード』を何処(どこ)(かく)した?」

ドスの利いた低い声で問い掛ける。

「は? 何言ってんの?」

アルシェラは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら言う。

(とぼ)けるな。 お前が持ち()った以外に考えられない」

セネトは、表情を(けわ)しくし、ドスの利いた低い声で言う。

「だからそれは、無くなったって言ったじゃない!」

アルシェラは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべたまま、セネトに言い返す。

「へぇ。 じゃあ、君の正体(しょうたい)をロナード達に言っても良いんだな?」

セネトは、意地(いじ)の悪い表情を浮かべ、アルシェラに言う。

「は? アタシはオルゲン将軍(しょうぐん)の娘よ。 それ以外に何があるって言うのよ?」

アルシェラは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら言う。

「それは表向(おもてむ)きに過ぎない。 お前が魔女(まじょ)だと言う事を、(ぼく)は知っているぞ」

セネトは、表情を(けわ)しくしたまま、淡々(たんたん)とした口調で言う。

「マジ、何言ってんの?」

アルシェラは、『理解(りかい)不能(ふのう)』と言った表情を浮かべ言う。

(ぼく)以外(いがい)に、このメンバーの中で(もっと)も『シード』を必要とし、その価値(かち)を知っているのはお前だ。 魔女(まじょ)アリシア」

セネトは、真剣(しんけん)な表情を浮かべ、淡々(たんたん)とした口調で言う。

「アンタ……。 何でその名前を知ってるの?」

アルシェラは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら問い掛ける。

「何でだろうな?」

セネトは不敵(ふてき)な笑みを浮かべ、そう言うと肩を(すく)めてみせる。

「アンタ……何者なの?」

アルシェラは、表情を(けわ)しくして問い掛ける。

「それを、お前に答えなければならない義理(ぎり)は無い。 魔女(まじょ)アリシア」

セネトがそう言って居ると、廊下(ろうか)から複数(ふくすう)の足音がしてきた。

 すると咄嗟(とっさ)に、

「うえ~ん。 (ひど)い~」

アルシェラがそう言って、泣き真似(まね)を始めたので、セネトは苦々(にがにが)しい表情を浮かべ、彼女を(にら)み付ける。

「ど、どうしたんですか?」

外に出ていて戻って来て事情(じじょう)を知らないメイが、そう言いながら(あわ)てて部屋に入って来た。

「セネトがぁ~。 アタシが『シード』を(かく)したっていうのぉ」

アルシェラは、(わざ)とらしく泣きながら、甘え声でメイに言った。

「どう言う事ですか? セネトさん」

アルシェラの話を聞いて、メイが表情を(けわ)しくし、セネトに問い掛けると、彼は、深々(ふかぶか)溜息(ためいき)を付き、

「そのままだ」

肩を(すく)めながら答えた。

「どうして……」

メイは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら言う。

「『シード』は魔力(まりょく)(かたまり)だ。 そう簡単(かんたん)に消えたり、無くなったりする訳がない。 (だれ)かがこっそり、持ち出さない(かぎ)りはな」

セネトは、落ち着いた口調で言う。

「そもそも、それって本当にあったのかい?」

(おく)れて部屋にやって来たシャーナが、(おもむろ)にそう問い掛ける。

「デュートは、『消えた』と言っていた。 つまり、そこに存在(そんざい)していなければ、消えたという表現は使わない(はず)だ」

セネトは、落ち着いた口調でそう指摘(してき)すると、

「確かに……」

シャーナが、(みょう)納得(なっとく)した様子で(つぶや)く。

「まあ、今日の所は引き下がろう。 今回は警告(けいこく)だ。 もし、『シード』を教会に(わた)そうとした場合は、容赦(ようしゃ)しないからな。 (ぼく)の目が(つね)にある事を(わす)れるな」

セネトは、真剣(しんけん)な表情を浮かべ、アルシェラにそう言い残すと、その場から立ち去る。

(邪魔(じゃま)だわ。 アイツ)

アルシェラは、苦々(にがにが)しい表情を浮かべながら、心の中で(つぶや)く。


(うれ)しい知らせだ」

セネトそう言いながら、嬉々(きき)とした表情を浮かべ、ロナードが静養(せいよう)している部屋に入って来た。

「?」

利き手を骨折(こっせつ)しているので、サラサが()いたリンゴを彼女に食べさせて(もら)(ため)、大きく口を開けていたロナードは、そのまま彼の方へと()り返る。

「おい」

ロナードがそっぽを向いてしまったので、デザートフォークにリンゴを()()したまま、どうして良いのか分からず、サラサが思わず声を掛ける。

「あ、ごめん」

ロナードはそう言うと、サラサの方へ顔を向け、彼女にリンゴを食べさせて(もら)う。

「……まるで、餌付(えづ)けされている雛鳥(ひなどり)だな……」

その様子(ようす)を見て、セネトが淡々(たんたん)とした口調で言うと、

「すっかり大きくなったが、まだ(あま)えたいらしい」

サラサが意地(いじ)の悪い笑みを浮かべ言うと、ロナードの(ほお)をデザートフォークの先で、ツンツンとつつく。

 ロナードはムッとしとた表情を浮かべつつも、リンゴが口の中に入っているのて、口をモゴモゴさせるだけで、何も言い返せないでいる。

「ロナードに、そんな冗談(じょうだん)を言って(ゆる)されるのは、世界中で貴女(あなた)だけだと思うぞ」

セネトは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、サラサに言うと、

「まあな」

彼女はドヤ顔で言い返す。

「……右手が使えないのだから、仕方(しかた)がないだろ」

リンゴを食べ終わったので、ロナードはムッとした表情を浮かべつつ、セネトに言う。

(ぼく)が食べさせても?」

セネトが(おも)(しろ)半分(はんぶん)に言うと、

「ふむ。 ()わってやろう」

サラサはそう言うと、椅子(いす)から立ち上がり、持っていたデザートフォークを彼に手渡(てわた)す。

「はい。 あーん」

セネトは切り分けられているリンゴを一つ、デザートフォークに()()すと、意地悪(いじわる)な笑みを浮かべながら、(わざ)とらしくそう言って、ロナードの口元にリンゴを差し出す。

 ロナードは、ムッとした表情を浮かべつつも、パクッと差し出されたリンゴに食い付くと、口一杯(くちいっぱい)にリンゴを入れた(ため)、モグモグと口を動かす。

(何だこれ。 楽しいぞ)

セネトは、ムッとした顔をしながらも、素直(すなお)に自分から差し出されたリンゴを口にしたロナードの反応(はんのう)に、思わずそう思った。

「……それで、(うれ)しい知らせと言うのは?」

ロナードは、リンゴを食べ終わると、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでセネトに問い掛ける。

先程(さきほど)、オルゲン将軍(しょうぐん)の下に向かわせた仲間(なかま)から、連絡(れんらく)があったんだが、無事(ぶじ)将軍(しょうぐん)(ごう)(りゅう)したらしい」

セネトは、(おだ)やかな口調で言うと、それを聞いたロナードは、物凄(ものすご)く嬉しそうにパアッっと表情を(かがや)かせ、

「本当か? 将軍(しょうぐん)無事(ぶじ)なのか?」

思わず身を乗り出し、セネトに問い掛ける。

「ああ。 こちらの事情(じじょう)を話したら、将軍(しょうぐん)を連れて来てくれるそうだ」

セネトは(おだ)やかな口調で語ると、ロナードは心から安堵(あんど)した様な表情を浮かべる。

「良かったな」

サラサが、(やさ)しい口調でロナードに言うと、彼は(うなず)き返した。

「ルオン(がわ)のランティアナ大山脈(だいさんみゃく)(ふもと)、ミストと言う村で落ち合う手筈(てはず)だ」

セネトは、落ち着いた口調で語ると、

「そうか……」

ロナードは、安堵(あんど)に満ちた表情を浮かべながら言ってから、

「セネト」

真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言うと、

「何だ?」

セネトは、戸惑(とまど)いの表情浮かべ、問い掛ける。

有難(ありがと)う」

ロナードはそう言うと、セネトに深々(ふかぶか)と頭を下げた。

(れい)を言うのはまだ早いだろ。 ちゃんと将軍(しょうぐん)と会ってからにしてくれ」

セネトは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言うと、

「そうだな」

ロナードも苦笑(にがわら)いを浮かべながら返す。


「どうでしたか? ロナード様」

部屋に(もど)って来たセネトに、メイが声を掛ける。

「ああ。 (すご)(よろこ)んでいた」

セネトは、(おだ)やかな顔をして、メイに答えた。

「良かったですね」

メイは、ニッコリと笑みを浮かべながら、セネトに言ってから、

(わたし)も安心しました」

安堵(あんど)の表情を浮かべながら言うと、レックスも(うなず)きながら、

「オレもだぜ」

(ぼく)の仲間の報告(ほうこく)では、やはり、チェスターやルオン軍の上層部(じょうそうぶ)が『夜光(やこう)(そう)』の栽培(さいばい)に関わっていた様だ。 チェスターを仲間が()らえたらしい」

セネトは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで語ると、

「それは、お手柄(てがら)ですわね」

セシアは少し(うれ)しそうな様子(ようす)で言うと、シャーナも(うなず)いてから、

「アイツをはちょっと()め上げれば、()ぐに色々と()くだろうさ」

不敵(ふてき)な笑みを浮かべて言った。

「この話、エルトシャン様やアルシェラ様には、なさいましたの?」

セシアは(おもむろ)に、セネトに問い掛けると、

「エルトシャンには将軍(しょうぐん)保護(ほご)した事は(つた)えた。 流石(さすが)に兄であるチェスターの事は、()不味(まず)いので言えなかった。 アルシェラは……(ぼく)の事を()けているから、話せる機会(きかい)が無い。 君たちの口から伝えてもらえないだろうか」

セネトは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべつつ、セシア達に言う。

「そりゃ、(かま)わないけど……」

シャーナは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら答えた。

「お前らは何時(いつ)も、賑々(にぎにぎ)しいな」

淡々(たんたん)とした口調でそう言いながら、ラシャが部屋に入ってくる。

「下の様子(ようす)は、どうだい?」

シャーナは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、ラシャに問い掛ける。

「心配するだけ無駄(むだ)だろう。 人の足では森を超えるのも一苦労(ひとくろう)だ。 (たと)え、森を抜けたとしても、空から我々(われわれ)(おそ)われるのは(あき)らかだ。 それに、里は断崖(だんがい)絶壁(ぜっぺき)の切り立った(がけ)の上にある。 空を飛ばない(かぎ)りは、里に立ち入る事は不可能(ふかのう)だ。 アロイスもそれを知っているのだろう」

ラシャは、落ち着いた口調で言う。

(なる)(ほど)

セネトは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで(つぶや)く。

「では、背後(はいご)から(おそ)われる心配はないと言う事ですわね」

セシアが落ち着いた口調で言うと、

「その様な事、我々(われわれ)がさせんがな」

ラシャは、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら返す。

「そりゃ、(たの)もしい(かぎ)りだよ」

シャーナが、ニッと笑みを浮かべながら言う。

「今、エルトシャンに使えそうな剣を(さが)させている。 必要な物が集まり次第(しだい)()ぐにでも()てる様に、お前たちも準備(じゅんび)をしておけ」

ラシャは、落ち着いた口調で言うと、シャーナ達は(そろ)って真剣(しんけん)面持(おもも)ちで(うなず)く。

「ロナード様も、来るつもりなのですか?」

メイが、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、ラシャに問い掛けると、

「止めたところで聞く(はず)も無い。 直接(ちょくせつ)()って、将軍(しょうぐん)無事(ぶじ)確認(かくにん)せねば、気が休まらんだろう」

ラシャは肩を(すく)め、苦笑(にがわら)いを浮かべながら答える。

「それ(ほど)までに、お(やかた)(さま)の事を……」

メイは、感激(かんげき)した様子(ようす)で呟くと、

「アイツ……まだ、将軍(しょうぐん)との関係を、お前たちに話してないのか?」

ラシャが、(あき)れた表情を浮かべながら言うと、

「そりゃ、どう言う意味だよ?」

レックスは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、ラシャに問い掛ける。

「オルゲン将軍(しょうぐん)は、ロナードの母方(ははかた)祖父(そふ)だ。 元々は、エレンツ帝国(ていこく)出身(しゆっしん)で、それなりの身分(みぶん)の方だった。 (ぼく)たちもその(えん)で、こうして()(さん)じたわけだ」

セネトが、落ち着いた口調で言うと、それを聞いて、メイやレックスは(おどろ)きのあり、目を丸くする。

「いや、でも……奥方(おくがた)様との間には、お子様はいらっしゃなかった(はず)……」

メイは、動揺(どうよう)を隠せない様子(ようす)で、そう呟く。

「オルゲン夫人(ふじん)とは(たが)いに再婚(さいこん)だ。 子を()めぬ体と分かった途端(とたん)夫人(ふじん)は前の夫から離婚(りこん)を言い(わた)されたらしい。 リャハルトは婿養子(むこようし)だったが、まあ……前妻(ぜんさい)の所では色々と肩身(かたみ)(せま)い想いをした様だ」

ラシャは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら、事情(じじょう)(かん)(たん)説明(せつめい)する。

「ロナードは、前の奥方(おくがた)との間に出来た(むすめ)子供(こども)だ」

セネトが、淡々(たんたん)とした口調でそう付け加える。

「そんな経緯(けいい)が……」

メイは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら(つぶや)く。

「知っての通り、ロナードは(おさな)(ころ)に『血の粛清(しゅくせい)』に()い、イシュタル教会(きょうかい)孤児院(こじいん)保護(ほご)されていた。 オレもリャハルトも、何度(なんど)身柄(みがら)を引き(わた)すよう教会(きょうかい)(うった)えはしたんだが、取り合って(もら)えず、月日ばかりが()って……。 その内、風の(うわさ)孤児院(こじいん)から逃げ出したと耳にしたが、何処(どこ)で何をしているのか、なかなか(つか)めなくてな……」

ラシャは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、重々(おもおも)しい口調で語る。

 メイ達は、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで彼の話に耳を(かたむ)ける。

「やっとの事で見つけ出した時は、傭兵(ようへい)とい言う(きたな)い世界で長く生きて来た所為(せい)で、精神的に()んでしまっていてな……。 自殺(じさつ)(はか)り、意識(いしき)不明(ふめい)の所を保護(ほご)した訳だが……。 その後も立ち(なお)るまでに、随分(ずいぶん)と時間が掛かった」

ラシャは、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべ、重々(おもおも)しい口調で語った。

「……」

メイ達は、ロナードの不遇(ふぐう)な過去を知り、なんと言って良いのか分からず、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、押し(だま)る。

「……アイツはしっかりしている様に見えて、とても繊細(せんさい)な部分がある。 また無理(むり)をして、ポッキリ心が()れてしまわないか、オレもサラサも、とても心配している。 本当なら、オレたちの目の(とど)範囲(はんい)に置いていたいが、そうも言って居られない事情(じじょう)がある。 (ゆえ)に、リャハルトに(あず)けた訳だが……」

ラシャは、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべながら、これまでの事を簡潔(かんけつ)説明(せつめい)する。

「……里にロナードを置いていられないのは、やはり、イシュタル教会(きょうかい)の事が……」

セネトが(おもむろ)に、ラシャに問い掛けると、

「ああ。 連中(れんちゅう)、ロナードがこの里に居る事を()き止めてな。 里の者を巻き込む訳にはいかないと、アイツ(みずか)ら、リャハルトの下に行く事を(えら)んだ」

ラシャは、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべながら語る。

「オルゲン将軍(しょうぐん)なら、ルオン王国内外に名が知れてるし、地位(ちい)権力(けんりょく)もある。 教会(きょうかい)下手(へた)に手は出せない……そう考えたって訳かい……」

シャーナは、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで言うと、ラシャは複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら(うなず)き、

「少なくとも、伯爵(はくしゃく)とは名ばかりの、辺境(へんきょう)領主(りょうしゅ)のオレなどよりは、な」

重々(おもおも)しい口調で言う。

「だったら何で、ロナードをオルゲン家の養子(ようし)にしないのさ?」

シャーナが、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで指摘(してき)すると、

「そんな事をしたら、侯爵(こうしゃく)夫人(ふじん)の妹である、エルトシャン様たちの(はは)(ぎみ)が、(だま)っている(はず)が無いですわ。」

セシアが、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら指摘(してき)すると、ラシャも、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで(うなず)きながら、

「今のオルゲン家があるのは(ひとえ)に、リャハルトの功績(こうせき)だと言うのに、血の(つな)がりも無い、義理(ぎり)の関係であるにも(かか)わらず、その地位(ちい)権力(けんりょく)財産(ざいさん)を自分たちも(もら)権利(けんり)があると、信じて(うたが)わない様な連中(れんちゅう)だ。 ロナードの素性(すじょう)を知ってみろ。 目の(かたき)にされるのは(あき)らかだ」

「確かに……」

チェスターや、その母親がとても権力(けんりょく)地位(ちい)への固執(こしつ)が強く、貪欲(どんよく)な性格である事を、周囲(しゅうい)の話などで知っているメイは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら(つぶや)く。

(とう)のロナード様も、オルゲン家の地位(ちい)権力(けんりょく)財産(ざいさん)(すべ)て、エルトシャンに引き()がれるべきだと考えておられ、将軍(しょうぐん)にもオルゲン家を()意思(いし)がは無い事を、早い段階(だんかい)から(つた)えていると聞いています。 ですから、ロナード様がオルゲンと名乗(なの)る事は無いと思われますわ」

セシアは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで語る。

「まあ、アイツは父親に()て、権力(けんりょく)などには興味(きょうみ)が無い様だからな。 そう言う面倒事(めんどうごと)には、(かか)わりたくないと思って居るのだろう」

ラシャは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言うと、肩を(すく)める。

「その事を、エルトシャン様は……」

メイは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら問い掛ける。

「知っていると思いますわ」

セシアは、落ち着いた口調で答えた。

「……」

メイは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべる。

(ひめ)もか?」

レックスは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら問い掛ける。

「アルシェラ様が知って、何か(とく)をする事があるのかしら?」

「ま、あの子は、後先(あとさき)(かんが)えず、誰振(だれふ)(かま)わず、ペラペラと(しゃべ)っちまうだろうね」

シャーナは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言う。

「ならば何故(なぜ)(わたし)たちに話して下さったのですか?」

メイは、戸惑いの表情を浮かべながら、ラシャたちに問い掛ける。

「お前たちは、メンバーの中で一番、ロナードと行動(こうどう)を共にする事が多い。 だから、知っておいても良いと思ったまでだ」

ラシャが、落ち着いた口調で、彼女の問い掛けに答えた。

「そうですか……」

メイは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら、呟く。

「この先、事態(じたい)が目まぐるしく変わるだろうが、お前たちは変わらず、ロナードやエルトシャンの力になってやって()しい」

ラシャは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、メイ達に言うと、

勿論(もちろん)ですわ」

セシアは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで答えると、メイとレックスも、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで(うなず)き返した。


 夕刻(ゆうこく)、ロナード達は(ふたた)び、ラシャたち烏族(からすぞく)の里から少し(はな)れた場所に、鬱蒼(うっそう)と生い(しげ)る木々にその存在(そんざい)(かく)すかの様に、ポッコリと大きく口をあけている洞窟(どうくつ)の前に到着(とうちゃく)した。

「はあ……。 またここに通るのね」

アルシェラは、その洞窟(どうくつ)を見ながら、物凄(ものすご)(いや)そうな表情を浮かべながら(つぶや)いた。

「知っての通り、中は、複雑(ふくざつ)迷路状(めいろじょう)になっている。 オレと(はぐ)れない様に気を付けろ」

ラシャが、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、アルシェラ達に言うと、それを聞いた彼女たちは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで(うなず)き返す。

「この(ふる)地図(ちず)の通りの最短(さいたん)ルートでなら、馬で二日も走れば、山の反対側(はんたいがわ)にあるルオンのミストと言う村へ出る(はず)だ。 中に何があるか(わか)らない。 くれぐれも道中(どうちゅう)は気を付けてな」

サラサが、心配そうな面持(おもも)ちで、ロナードたちに向かって言うと、彼らは一様(いちよう)(うなず)き返した。

「ミストからは、馬を飛ばせば三日あれば、(おう)()に着く(はず)です」

サムートが真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言うと、アルシェラ達も真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、(そろ)って(うなず)いた。

「アルやロナードには、少し(きび)しいかも知れないけど、二人とも頑張(がんば)って付いて来て」

エルトシャンは少し、心配そうな表情を浮かべつつ、アルシェラとロナードに言った。

大丈夫(だいじょうぶ)だ。 覚悟(かくご)は出来ている」

ロナードは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでエルトシャンに言うと、

「早くお父様に会いましょう」

アルシェラも何時(いつ)になく、意気込(いきご)んでいる様子(ようす)で、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでエルトシャンに答えた。

「では、行こうか」

ラシャはそう言うと、手にしていたカンテラの明かりを点け、周囲(しゅうい)に注意を(はら)いながら、最初に地下神殿(ちかしんでん)の中へと()み込んだ。


 地下神殿の中は真っ(くら)で、カンテラの明かりが無ければ、数メートル先も良く分らない。

 ラシャは古い地図を片手(かたて)に先頭に立ち、ロナード達は馬に乗って中に入る。

 最初に立ち入った時と(ちが)い、中は、何とも言い(がた)い、神聖(しんせい)な空気が(ただよ)い、とてもひんやりとしていて、半袖(はんそで)では肌寒(はだざむ)いくらいであった。

 地下(ちか)神殿(しんでん)(いた)る場所に、岩を()り抜いて出来た彫刻(ちょうこく)()られた巨大(きょだい)な柱が立ち(なら)び、外気(がいき)を取り入れる為の空気口らしきものが、(かべ)に空いており、床の(すみ)には、雨水(あまみず)を外へ流す(ため)なのか、小さな(みぞ)まで()られている。

 (はしら)(かべ)彫刻(ちょうこく)や、彩色(さいしき)なども手が込んでおり、この神殿(しんでん)を作った文明(ぶんめい)が、どれだけ(すぐ)れていたかを物語っていた。

 現在(げんざい)技術(ぎじゅつ)でも、これ(ほど)までに巨大(きょだい)地下(ちか)空間(くうかん)を作り上げるなど、不可能(ふかのう)であろう。

「前に来た時と(ちが)って、何だか(いや)雰囲気(ふんいき)だな……」

魔術師(まじゅつし)であるロナードは、魔術(まじゅつ)を持たないレックス達とは(ちが)い、何かを感じ取ったのか、思い切り(まゆ)(ひそ)めて(つぶや)いた。

「あまり、長居(ながい)はしたく無い所ですわね……」

同じ魔術師(まじゅつし)であるセシアも、眉を(ひそ)めながら、重々(おもおも)しい口調(くちょう)で言った。

「やっぱ、何度(なんど)()てもすげぇな……」

レックスは圧倒(あっとう)された様子(ようす)で、洞窟(どうくつ)の中を見回しながら(つぶや)いた。

 考古(こうこ)学者(がくしゃ)ならば、その素晴(すば)らしさに歓喜(かんき)の声を上げ、狂喜(きょうき)乱舞(らんぶ)しそうな場所である。

「のんびり見てる場合では無いぞ。 先を(いそ)いでいると言う事を(わす)れるな」

ラシャは、のんびりと馬を進めるアルシェラ達に向かって、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで言った。

「『魔法(まほう)帝国(ていこく)』は、今の技術(ぎじゅつ)でも(およ)ばない様な、(すぐ)れた文明(ぶんめい)(きず)いてたって聞くけど、これだけの技術(ぎじゅつ)を持った国が、たかが、当時(とうじ)の人間たちが反乱(はんらん)を起こした位で、(ほろ)びたりするものなのかな?」

エルトシャンは、カンテラで辺りを()らしながら、(つぶや)く。

「イシュタル教会(きょうかい)では、女神(めがみ)が放った『フェンリル』の仕業(しわざ)だと言われていますが、直接(ちょくせつ)の原因は、天変地(てんぺんち)だったと言われていますわ。」

セシアは、落ち着いた口調で語る。

「……大地震(おおじしん)が起き、『魔法(まほう)帝国(ていこく)』の帝都(ていと)地殻(ちかく)変動(へんどう)により、瘴気(しょうき)を放つ(みずうみ)(そこ)(しず)んだと、前に読んだ亜人(あじん)たちの(れき)史書(ししょ)にそう書かれていた」

ロナードも、淡々(たんたん)とした口調で、エルトシャンにそう話した。

「ふーん。 じゃあ人間たちは、その混乱(こんらん)に乗じて各地(かくち)反乱(はんらん)を起こして、魔法(まほう)帝国(ていこく)滅亡(めつぼう)()いやったって事なのかな?」

エルトシャンはそう(つぶや)く。

教会(きょうかい)の教えでは、女神(めがみ)加護(かご)を受けて、英雄(えいゆう)『ノエル』が、亜人(あじん)たちを倒したって言ってるけどな」

レックスが、苦笑(くしょう)()じりに言うと、

「その天変地(てんぺんち)()が、女神の加護(かご)と考えるのならば、(あなが)ち、出鱈目(でたらめ)とも言えないね」

セネトは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言った。

(よう)は、捉え方次第(しだい)って事かねぇ?」

シャーナは肩を(すく)めながら、何処(どこ)皮肉(ひにく)()じりに言った。

「まあ、ず~と昔に(ほろ)んじゃった国の事について、考古(こうこ)学者(がくしゃ)でも無いオレ達が色々想像(そうぞう)したって、無意味(むいみ)な事スよ」

デュートは苦笑(にがわら)いを浮かべ、肩を(すく)めながら言うと、

「何だよ。 空気の()めない(やつ)だな。 オメェ」

レックスが口を(とが)らせ、面白(おもしろ)く無さそうにデュートに言うと、

「そうだよ。 こういう所は、元・トレジャーハンターの君が一番(いちばん)(よろこ)ぶ所じゃないの?」

エルトシャンは苦笑(にがわら)()じりに、(みょう)にノリの悪いデュートに言うと、

「前の一件(いっけん)所為(せい)で、お(たから)があっても()れない、持ち出せないとか、こんな()える事はなかなか無いスよ。 残酷(ざんこく)スよ。 (えさ)を前に『待て』をさせられてる犬と同じスよ」

デュートは、『はあ』と溜息(ためいき)を付いてから、ゲンナリした表情を浮かべ、エルトシャンに言い返す。

「それは、お気の(どく)(さま)

セシアは、意地(いじ)の悪い笑みを浮かべながら、デュートにそう言った。

「ま、変な元気を出されても、アタシ等は迷惑(めいわく)なだけだけどねぇ」

シャーナは苦笑(にがわら)いを浮かべ言うと、肩を(すく)める。

「ちょっと! 早く行きましょうよ!」

なかなか来ないロナード達に向かって、先頭(せんとう)を行くアルシェラは苛立(いらだ)った様子(ようす)で、彼等(かれら)に向かってそう叫ぶ。

「はいはい……」

苛立(いらだ)っている彼女に、エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべ、仕方(しかた)なく手綱(たづな)を引き、馬の歩く速度(そくど)を速める。

「ホント、せっかちだねぇ……。 慎重(しんちょう)に進めって、サラサも言ってただろ」

シャーナも『やれやれ』と言った様子(ようす)(つぶや)くと、馬の手綱(たづな)を引き、馬の歩く速度(そくど)(はや)めた。


 ロナード達は、(ほとん)休憩(きゅうけい)も取らず、只管(ひたすら)にこの暗い地下神殿(ちかしんでん)の中を、馬を走らせ続けていた。

 どのくらい進んだだろうか……。

 先導(せんどう)するラシャに続いて、何時(いつ)になく馬を飛ばしていたアルシェラに、変調(へんちょう)(あらわ)れ始めた。

「アル。 大丈夫(だいじょうぶ)?」

初めに、彼女の異変(いへん)に気付いたのは、アルシェラの後から来ていたエルトシャンであった。

 エルトシャンがそう声を掛けている間にも、案内(あんない)のラシャに続いて馬を走らせていた(はず)が、彼女の後に続いて来ていたレックスを乗せた馬に追い()かれ、その後も、後ろから来ている者たちに、次々と抜かれていった。

 流石(さすが)に、アルシェラの様子(ようす)可笑(おか)しい事に気付いたのか、彼女を追い抜いて行った仲間たちが、次々と馬を止めた。

「どうした?」

(だれ)も、自分の後に付いて来なくなったので、ラシャが戸惑(とまど)いの表情を浮かべて()い戻って来て、エルトシャン達に声を掛ける。

「アルの調子(ちょうし)可笑(おか)しんだ」

ラシャにそう答えると、エルトシャンは馬から降り、辛そうな様子(ようす)で馬に乗っているアルシェラの下へと駆け寄る。

大丈夫(だいじょうぶ)ですか?」

セシアも心配になり、馬から降りると、アルシェラの側へと駆け寄る。

御免(ごめん)なさい。 少し……気分(きぶん)が悪いの……」

馬の手綱(たづな)(にぎ)()め、(うつむ)加減(かげん)で力なくそう言ったアルシェラは、本当に調子(ちょうし)が悪そうだ。

「ロナードも、さっきから気分が悪そうだ」

ロナードの乗っていた馬に、自分が乗っている馬を寄せると、気分が悪そうな様子(ようす)で、項垂(うなだ)れているロナードの背中を(さす)りながら、セネトが仲間たちに向かって言った。

(つか)れたのかも知れませんわ。 少し、休憩(きゅうけい)を取りましょう」

アルシェラとロナードの様子(ようす)を見て、セシアはそう提案(ていあん)すると、エルトシャン達は(みな)(そろ)って(うなず)き返した。

 エルトシャンは、アルシェラをゆっくりと馬から下ろすと、それを見て、セシアが(いそ)いで自分が着ていた外套(がいとう)()いで、床の上に広げた。

 アルシェラを(かか)えていたエルトシャンは、セシアが広げた外套(がいとう)の上に、アルシェラをゆっくりと下ろして、彼女の体を横にして休ませた。

 ロナードも自力(じりき)で馬から降りたが、そのまま力なく、その場に(うずくま)ってしまった。

「これはマズイわね……」

その様子(ようす)を見て、セシアは表情を(けわ)しくして(つぶや)いた。

大丈夫(だいじょうぶ)か?」

セネトは心配そうに、ロナードに声を掛けながら、彼の背中を(やさ)しく(さす)る。

「おいおい。 しっかりしてくれよ」

グタッとしているロナードを見て、レックスは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、彼にそう声を掛ける。

「もしかして、気分(きぶん)が悪くなったのは、ここに入ってからじゃいのかい?」

魔術師(まじゅつし)では無いものの、人間たちとは(ちが)い、魔力(まりょく)を持ち合わせているシャーナも、何かを感じているらしく、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、項垂(うなだ)れているロナードにそう声を掛けると、彼は(うなず)き返す。

「シャーナも、気分が悪いスか?」

デュートは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、シャーナに問い掛けると、

「二人程じゃあないけどね。 でも、なーんか(いや)な空気は感じてるよ」

シャーナは、何かを警戒(けいかい)している様な様子(ようす)で、(けわ)しい表情を浮かべて、辺りを見回しながら、そうデュートに答えた。

「なーんにも、感じねぇけどな……」

レックスは小首を(かし)げながら、シャーナに答えると、

「アンタみたいな、鈍感(どんかん)(やつ)には分からないだろうけどね……」

彼女は特大(とくだい)溜息(ためいき)を付きながら、レックスに言い返すと、彼はカチンと来て、

「んだと!」

そう言って声を(あら)らげ、シャーナに(つか)み掛ろうとすると、

()めてよね! そうやって、一々突(いちいちつ)っ掛らないって何時(いつ)も言ってるでしょ? 大体(だいたい)、気分が悪い人が居るんだから、少しは気を(つか)ったら?」

エルトシャンは、()り上げたレックスの(こぶし)(つか)むと、彼にそう言って(なだ)める。

「ここは魔法(まほう)帝国(ていこく)が建国される以前(いぜん)からあったと言う話だ。 どの様なモノを(まつ)っていたのかまでは知らんが、ここに(ただよ)っている何かが、二人に影響(えいきょう)している可能性(かのうせい)はある」

ラシャは神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで言うと、何か視線(しせん)を感じたのか、とっさに後ろを振り返ったが、何も無く、ただ深い暗闇(くらやみ)が広がっているだけだ……。

「『ここに(ただよ)って居る何か』って……一体何ですか?」

メイは顔を青くして、物凄(ものすご)く不安そうな表情を浮かべ、ラシャに問い掛ける。

「ま、まさか、亡霊(ぼうれい)とか、そんなんじゃあ無いだろうな?」

セネトが、顔を引きつらせながら、そう言った。

「それに近いわね。 無数(むすう)の人間の気配(けはい)は、さっきからしているわ」

セシアもそう言いながら、表情を(けわ)しくして、辺りを見回している。

「じょ、冗談(じょうだん)は止めて下さいよ。 アタシ、そう言うのは苦手(にがて)なんですから!」

メイは、物凄(ものすご)(いや)そうな顔をして、思わず、(そば)にいたレックスの腕を(つか)む。

 そう言っている間にも、アルシェラの調子(ちょうし)益々(ますます)悪くなっている様で、横たわったまま(さむ)いのか、身をくの字に丸め、両手で肩を強く()きしめ、(ふる)えている。

「嫌な空気ね……。 何かがずっと、アルシェラ様たちを見てる感じがするわ」

セシアがそう言って居と、ロナードの側に居たセネトが顔面(がんめん)蒼白(そうはく)になり、

「い、今……。 何か居た」

そう言いながら、何も無い暗闇(くらやみ)の方を(ふる)える手で、指差(ゆびさ)す。

「? 何も無いぜ?」

レックスはカンテラで、セネトが指差(ゆびさ)した方を()らすが、何も無い。

「ひやぁぁぁっ!」

レックスの(となり)に居たメイが、物凄(ものすご)悲鳴(ひめい)を上げ、その場にへたり込んだ。

「何だよ。 メイまで」

レックスが五月蠅(うるさ)そうな顔をして、メイに向かって言うと、

「い、今、白っぽい、緑色の光が、ロナード様の後ろをスーって……」

メイは半泣きになりながら、声を震わせてそう言った。

「マズイね……さっきより、気配(けはい)が強くなってる」

シャーナは(いそ)しく辺りを見回しつつ、表情を(けわ)しくする。

(いそ)いで、この場から(はな)れましょう」

危険(きけん)(さっ)したセシアが表情を(けわ)しくして、エルトシャン達に向かって言った。

 その時、それまでグッタリとして、座り込んで居たロナードが、突然(とつぜん)、苦しそうに嘔吐(おうと)を始めた。

「いけない。 体が拒絶(きょぜつ)反応(はんのう)(しめ)しているわ」

セシアは、その様子を見て、(あせ)りの表情を浮かべ、ロナードの(そば)に駆け寄る。

 そうして居ると、横になっていたアルシェラもフラリと立ち上がり、(ひど)(うつ)ろな表情で聞き()れない言葉を口走る。

「ど、どうしたんスか?」

デュートは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、思わず(つぶや)く。

「マズイですわね。 (ねん)に当てられた様ですわ」

セシアが、(ひたい)(うっす)らと冷や汗を浮かべながら、重々(おもおも)しい口調(くちょう)で言った。

「『当てられた』って?」

レックスは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、セシアに問い掛けると、

「ここに集まっている(ねん)と強く同調(どうちょう)してしまい、自我(じが)(うしな)っているわ」

セシアは、(あせ)りの表情を浮かべつつ、そう言い返して来た。

「『気持ち悪い』と言っている時点(じてん)で、早く立ち去るべきだったね……」

シャーナは、苦々(にがにが)しい表情を浮かべながら(つぶや)く。

「どうするんスか?」

デュートは(あせ)りつつ、エルトシャン達に向かって言った。

「取り押さえて、正気(しょうき)(もど)すしかない!」

エルトシャンは、表情を(けわ)しくして言っていると、その間に、アルシェラがホルダーから(じゅう)を抜き、近くにいたエルトシャンに向かって発砲(はっぽう)しようとしている事に気付くと、ラシャがとっさに片手(かたて)を振るい、圧縮(あっしゅく)した空気の(かたまり)を彼女にぶつけた。

「お(じょう)(さま)!」

メイは(あわ)てて、倒れたアルシェラの側へと駆け寄ると、アルシェラは、背中を床に打ち付けた衝撃(しょうげき)気絶(きぜつ)している。

「やり過ぎスすよ!」

それを見たデュートが(おこ)って、ラシャに向かって言った。

「済まん。 とっさの事で加減(かげん)が出来なかった」

ラシャは済まなさそうに、デュートに言い返す。

「何にしても、アルシェラはのびたよ。 この間に」

シャーナは、倒れたアルシェラの下へ駆け寄り、素早(すばや)く身を屈めると、彼女を片方の肩に(かつ)ぎ上げた。

「ロナード。 立てそう?」

エルトシャンは、心配そうにロナードに問い掛けると、彼は青白(あおじろ)い顔をしていたが、力なく(うなず)き返した。

無理(むり)をするな。 オレが(かか)えて飛ぶ」

ラシャがそう言うと、グッタリとしているロナードを軽々(かるがる)()き上げた。

 普段(ふだん)なら、物凄(ものすご)(いや)がって(てい)(こう)しそうなものだが、そんな元気すら無いのか、大人しくしている。

(いそ)ごう」

エルトシャンは(いそ)いで馬に飛び乗ると、仲間たちに言った。


 不気味(ぶきみ)なほど静かで、只管(ひたすら)暗闇(くらやみ)が広がっている空間(くうかん)……。

 足元には、(きり)の様な物が立ち込めていて、そこに(そび)え立つ、(なぞ)術式(じゅつしき)(かか)かれた巨大な石板の様なものに、ロナードは(くさり)(つな)がれていた。

(ここは……。 何処(どこ)だ?)

ふと意識を取り戻したロナードは、不気味(ぶきみ)な空気を(ただよ)わせる空間に戸惑(とまど)い、心の中で呟いた。

(だれ)か……。 居ないのか?」

ロナードは無性(むしょう)に不安になり、気味(きみ)の悪い暗闇(くらやみ)が広がっている中、そう呟いた。

 予想(よそう)はしていたが、何も応答(おうとう)が無く、ただ静かに、そして不気味(ぶきみ)暗闇(くらやみ)支配(しはい)している。

 どの位の時間が経っただろうか……。

 不意(ふい)に前方から、バシャバシャと足元の水を()き分けて進むような音が近づいて来て、彼の目の前にボンヤリとその姿を現した。

 顔こそハッキリとは分からなかったが、あまり背の高くない、白銀(はくぎん)の長い髪を有した小柄(こがら)な、闇夜(やみよ)(まと)った様な黒いドレスを着た女性だった。

((だれ)……だ?)

ロナードはボンヤリと、自分の前に(たたず)む相手を見据(みす)える。

「……術を使って随分(ずいぶん)()つと言うのに、思いの外、効果(こうか)が表れないものね……。 これも『血』の所為(せい)かしら?」

目の前に(たたず)む女性は、軽く溜息(ためいき)を付いてからそう(つぶや)いた。

(何のことだ?)

ロナードは、彼女が言っている意味が全く理解(りかい)出来(でき)ず、ただ戸惑(とまど)うばかりだ。

「良いわ。 次の段階に進みましょう」

目の前に(たたず)む女性は静かに言うと、何やら不思議(ふしぎ)呪文(じゅもん)を口にする。

 すると、ロナードの体を(とら)えている石板の中から、まるで(へび)の様に(くさり)()い出て来た。

 それを見た瞬間(しゅんかん)、ロナードは本能的(ほんのうてき)嫌悪感(けんおかん)(いだ)き、それと同時に何とも言い(がた)恐怖(きょうふ)に駆られる。

 ズズズッ……と()い出て来た(くさり)は、まるで意志(いし)でがある様に、ロナードの足元から上部へと、体を()い上がって来ると、それと同時に、何とも言えない嫌悪感(けんおかん)と気持ちの悪さを(おぼ)える。

(振り(ほど)かないと!)

ロナードは、恐怖(きょうふ)に顔を引きつらせ、心の中で叫ぶと、どうにかして、自分の体に()い上がって来る(くさり)を振り(ほど)こうと()()くが、思う様に力が入らない。

無駄(むだ)な事は()めなさい。 大人しく受け入れれば、苦しまなくて済むわ」

目の前に(たたず)む女性は静かに言うと、不気味(ぶきみ)な笑みを浮かべ、彼の(ほお)に手を伸ばした。

 氷の様に冷たい感触(かんしょく)に、ロナードはゾッとした。

(いや……だ)

ロナードは、言い知れぬ恐怖(きょうふ)に身を(ふる)わせ、目元に()っすらと(なみだ)を浮かべ、心の中で呟く。

「……けて。 たす……けて……」

ロナードは、か細い声で、目の前に(たたず)んでいる女性にそう懇願(こんがん)するが、彼女は不気味(ぶきみ)な笑みを浮かべ、彼を見ているだけだ。


「……ど。 ロナード!」

ふと、何処(どこ)からか聞き(おぼ)えのある声がして、目を開く……。

大丈夫(だいじょうぶ)?」

エルトシャンが、心配そうにロナードの顔を(のぞ)き込みながら、そう問い掛ける。

「エルト……」

ロナードは、ボンヤリとした表情を浮かべながら、力なく呟く。

(ひど)(うな)されていたよ」

エルトシャンは、心配そうな表情を浮かべたままロナードに言う。

 背中(せなか)が汗でじっくり濡れていて、物凄(ものすご)く体が(だる)くて、頭の中がボンヤリとしている……。

「……ここは?」

ロナードは、ボンヤリとした表情を浮かべたまま、(かす)れた声でエルトシャンに問い掛ける。

 夜なのか、部屋の中は蝋燭(ろうそく)の明かりだけで薄暗(うすくら)く、辺りもとても静かだ。

「心配しないで。 ちゃんとミストの村に着いたよ。 君は、地下(ちか)神殿(しんでん)でラシャ様に運ばれている途中(とちゅう)意識(いしき)を失ってしまったんだよ」

エルトシャンは、(やさ)しい口調でロナードに言う。

地下(ちか)……神殿(しんでん)?」

ロナードは、ボンヤリとした表情を浮かべたまま、力なく呟く。

(おぼ)えていないの?」

エルトシャンは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら問い掛ける。

「分から……ない……」

ロナードは、ボンヤリとした表情を浮かべたまま、力なく答える。

「ええっ! だ、大丈夫(だいじょうぶ)? 何処(どこ)かで頭でも打った?」

エルトシャンは、(あせ)りの表情を浮かべ、ロナードに問い掛ける。

「おう。 水、(もら)って来たぜ」

水差しとコップを乗せたお(ぼん)を手に、レックスが部屋に入って来て、エルトシャンに言う。

「どうしようレックス。 地下(ちか)神殿(しんでん)に入ってからの事、(おぼ)えてないみたいなんだ」

エルトシャンは、(あせ)りの表情を浮かべ、レックスに言う。

「なっ……。 お前、大丈夫(だいじょうぶ)なのかよ?」

レックスは(あせ)りの表情を浮かべ、近くのテーブルに持っていたお(ぼん)を置くと、そう言って、ベッドの上に横たわっているロナードの側に来る。

「熱は……無いみたいだけど、(ねん)(ため)、セシアを呼んで来てもらえる?」

エルトシャンは(おもむろ)に、ロナードの(ひたい)に片手を()え、心配そうな表情を浮かべながらレックスに言うと、彼は(うなず)き返し、(いそ)いでセシアを呼びに部屋から出て行った。

 (しばら)くして、レックスがセシアを呼んで部屋に戻って来た時には、ロナードはまるで気を(うしな)った様に深く(ねむ)っていた。

「……強力(きょうりょく)魔力(まりょく)で、精神(せいしん)干渉(かんしょう)した形跡(けいせき)があるわ……」

セシアは、(ねむ)ってしまっているロナードの脈などを取り一通り観察(かんさつ)してから、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで言った。

「なっ……」

「一体、(だれ)が?」

彼女の言葉を聞いて、レックスとエルトシャンが戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、呟く。

地下(ちか)神殿(しんでん)に居た時かも知れないし、ここに着いてからかも知れない……。 相手が(だれ)なのかも分からないけれど……。 (ひど)疲弊(ひへい)しているわ」

セシアは、ロナードの手を(にぎ)りしめながら、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべながら言う。

「それって……(だれ)かが、ロナードの精神(せいしん)支配(しはい)しようとしてるって事?」

エルトシャンは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら問い掛けると、

(おそ)らく……」

セシアは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら答える。

「何の(ため)にだよ?」

レックスは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら問い掛ける。

「力のある術師(じゅつし)を手に入れたいと考える(やから)は、そこら中に居ますわ。 (わたくし)物事(ものごと)が良く分かっていなかった若い頃は、(よく)(まみ)れた権力者(けんりょくしゃ)たちに(だま)され、悪事(あくじ)に手を()めた事があるわ」

セシアは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、重々(おもおも)しい口調で語った。

「……僕たちは、そんな悪い奴等(やつら)から、ロナードを守る事が、彼の力を借りる対価(たいか)と言う訳だね?」

エルトシャンが、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言うと、

貴方(あなた)やレックスは、対価(たいか)なんて言う、そんな(うす)っぺらい感情(かんじょう)で動く様な人では無いでしょうけれど、(あえ)えて言えば、そうね」

セシアは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら答えた。

(だれ)がしてるのか分かれば、()め上げられるのによ」

レックスは、苦々(にがにが)しい表情を浮かべながら(つぶや)く。

一時(いちじ)(しの)ぎですけれど、ロナード様を守る(ため)にも、この屋敷(やしき)の周囲に(いそ)結界(けっかい)を張るわ。 手伝って(もら)えるかしら?」

セシアが真剣(しんけん)面持(おもも)ちで二人に問い掛けると、

勿論(もちろん)だよ」

(まか)せろ」

エルトシャンとレックスは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言うと、(うなず)き返す。


 世界最高峰(せかいさいこうほう)峰々(みねみね)が連なる、ランティアナ大山脈(だいさんみゃく)(ふもと)の小さな村ミスト。

 (かつ)て、『血の粛清(しゅくせい)』の一件(いっけん)で責任を追及(ついきゅう)され、オルゲン将軍(しょうぐん)が一時、隠居生活(いんきょせいかつ)をしていた、オルゲン家の別宅(べったく)がある村だ。

 ロナード達が到着(とうちゃく)して数日後、セネトが手配(てはい)したハニエル等に連れられ、オルゲン将軍(しょうぐん)が合流して来た。

「お父様!」

オルゲン将軍(しょうぐん)の到着を聞いて、アルシェラか嬉々(きき)とした表情を浮かべ、そう言いながら、馬車から降りて来たオルゲン将軍(しょうぐん)に駆け寄り、勢い良く()きついた。

「おお。 アルシェラ」

()きついて来たアルシェラを抱き止めながら、オルゲン将軍(しょうぐん)(おだ)やかな笑みを浮かべる。

「ご無事で何よりです。 伯父上(おじうえ)

エルトシャンは、オルゲン将軍(しょうぐん)の無事な姿を見て、安堵(あんど)に満ちた表情を浮かべながら言う。

将軍(しょうぐん)……」

エルトシャンの後ろに(ひか)えていたロナードも、安堵(あんど)の表情を浮かべている。

「そなたにも心配を掛けたな」

オルゲン将軍(しょうぐん)は、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、ロナードに声を掛ける。

「いいえ……」

ロナードは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら答える。

「ご苦労だった」

セネトが、少し(おく)れて馬から降りて来た、灰色(はいいろ)外套(がいとう)に身を包んだ、背の高い二人に声を掛けると、その二人は(そろ)って(うなず)き返した。

((だれ)だろう……)

メイは、その二人を見ながら、心の中で呟いた。

此方(こちら)は、(わし)を助けてくれた恩人(おんじん)だ」

オルゲン将軍(しょうぐん)は、(おだ)やかな口調でエルトシャン達に、灰色(はいいろ)外套(がいとう)を身に着けた、背の高い二人について説明した後、

「さあ。 挨拶(あいさつ)を」

自分の後ろに控える二人に言うと、二人は顔が見えないくらいに、深々(ふかぶか)(かぶ)っていたフードを払った。

 白銀(はくぎん)の髪を有した、温和(おんわ)そうな青年と、夏の日差(ひざ)しを思わせる、見事な金髪を有した、ガッチリとした体つきの美丈夫(びじょうぶ)……。

(はわわわ……。 二人ともめっちゃイケメン!)

メイは、二人を見た途端(とたん)興奮(こうふん)して、(ほお)紅潮(こうちょう)させながら心の中で呟く。

王弟殿下(おうていでんか)……」

「レヴァール様……」

エルトシャンとセシアが、金髪の美丈夫(びじょうぶ)を見ながら、(きつね)(つま)まれた様な表情を浮かべ、ポツリとそう呟く。

(ええ?)

(今、何て?)

メイとレックスは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、心の中で呟くと、思わず金髪の美丈夫(びじょうぶ)の方を見る。

(そろ)いに揃って……。 国王の弟がそんなに若い訳が無いだろう」

彼は、苦笑(にがわら)いを浮かべながらそう指摘(してき)する。

(えっ。 じゃあ(だれ)?)

メイが、戸惑いの表情を浮かべ、心の中で呟いていると……。

「……え」

ロナードが何かポツリと言ったので、メイ達は彼の方へと目を向ける。

「あに……うえ……?」

ロナードは、(ひど)(おどろ)いた表情を浮かべ、動揺(どうよう)しているのか、(かす)かに肩を(ふる)わせながら呟く。

(ひさ)しいな。 ユリアス」

金髪の美丈夫(びじょうぶ)は、少し気恥(きはずか)しそうにしながら、ロナードに向かって言うと、(かす)かに口元を(ほころ)ばせた。

「本当……に?」

ロナードは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、声を(ふる)わせながら言うと、思わずオルゲン将軍(しょうぐん)の方を見ると、将軍(しょうぐん)(おだ)やかな笑みを浮かべ、(うなず)き返すと、ロナードはポロポロと両目から(なみだ)を流し、

「あに……うえっ」

涙声(なみだごえ)で言うと、金髪の美丈夫(びじょうぶ)は何とも言えない表情を浮かべ、ロナードの前に歩み()ると、

「お前は相変(あいか)わらず、泣き虫だな?」

優しい口調でそう言うと、(なみだ)を流しているロナードの頭を(やさ)しく()でると、ギュッと彼を()きしめると、ロナードは彼の胸元(むなもと)に顔を(うず)め、声を上げて泣き出してしまった。

「今まで、連絡(れんらく)一つ寄越(よこ)さなくて済まなかった」

金髪の美丈夫(びじょうぶ)は、すっかり困り果てた表情を浮かべ、泣きじゃくっているロナードに言う。

「良かったな。 ロナード」

その様子を見て、セネトが(もら)い泣きをした様で、目元を手で(ぬぐ)いながら呟いている(となり)で、セシアも感極(かんきわ)まって、(なみだ)を流しており、事情(じじょう)を知っているオルゲン家の私兵(しへい)たちも、思わず涙を流す者もいる。

「え……」

「どう言うこと?」

デュートとアルシェラは、何の事やら理解出来(りかいでき)ず、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら呟く。

「死んだと思ってた兄貴(あにき)が、生きてたんだろ」

シャーナが苦笑(にがわら)いを浮かべながら、状況(じょうきょう)理解出来(りかいでき)ていない二人に説明すると、

「あ、そう言う事スか」

「いきなり泣き出すから、どうしたのかと思ったわよ」

シャーナの説明を聞いて、デュートとアルシェラは、戸惑(とまど)いながらもそう呟いた。


 屋敷の中に入り、(しばら)くして……。

「落ち着いたか?」

金髪の美丈夫(びじょうぶ)は、優しい口調で、(となり)椅子(いす)に腰を下ろしているロナードにそう声を掛けると、彼は小さな子供の様に(うなず)き返す。

 その目は泣き(はら)らし、真っ赤になっている。

 これまで見た事も無い(ほど)、ロナードは滅茶苦茶(めちゃくちゃ)に泣いていた。

「つまり、オルゲン将軍(しょうぐん)窮地(きゅうち)を助けたのが、ロナードの兄貴(あにき)だったって事かい」

シャーナが、落ち着いた口調で言うと、

「そうだ」

オルゲン将軍(しょうぐん)が、落ち着いた口調で答える。

「ね~ね~。 ロナードのお兄さんも、めっちゃイケメンじゃない?」

アルシェラが(すご)(うれ)しそうな表情を浮かべ、(となり)に座っていたメイにそう耳打ちする。

「そ、そうですね……」

相変(あいか)わらず、空気の読めないアルシェラの発言に、メイは苦笑(にがわら)いを浮かべながら返す。

(今、気にしなきゃいけねぇ所は、そこじゃねぇだろ)

アルシェラの言葉が聞こえたレックスは、冷ややかな視線(しせん)を彼女に向けながら、心の中で呟いた。

(あらた)めて、ご挨拶致(あいさついた)しますね」

銀髪(ぎんぱつ)(やわ)らかな物腰(ものごし)の青年は、(おだ)やかな口調で、エルトシャン達にそう切り出してから、

此方(こちら)はシリウス。 本当の名前は(ちが)うのですが……。 (わたし)はそう呼んでます。 私は彼の相棒(あいぼう)のハニエルです。 (よろ)しくお願いしますね」

そう言った。

「ご親切に有難(ありがと)うございます。 それに、伯父上(おじうえ)を助けて(いただ)き、心から感謝します」

エルトシャンも、にこやかに笑みを浮かべながら、シリウスとハニエルに言った。

「ではお前が、エルトシャンか。 言われてみれば確かに、(おさな)い頃の面影(おもかげ)があるな」

シリウスが、落ち着いた口調で言うと、

先程(さきほど)は、本当に失礼(しつれい)をしました。 レオフィリウス様」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言う。

「気にするな。 それより、弟が世話(せわ)になったな」

シリウスは、(おだ)やかな口調で言うと、

「いえいえ。 お世話(せわ)になっているのは、(ぼく)らの方です」

エルトシャンは、ニッコリと笑みを浮かべながら、そう返す。

「えっと……。 二人は顔見知(かおみし)りスか?」

デュートが、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、エルトシャンに問い掛けると、

「まあ、そうだね。 レオン様の方が一つ年上なんだけど、(おさな)(ころ)に何度かお会いした事があるよ。 勿論(もちろん)、ロナードにもね。 まあ、ロナードは幼かったから、(ぼく)の事は覚えてなかったみたいだけど」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら答えた。

「何だ。 それならそうと、言ってくれれば良かったのに」

ロナードが苦笑(にがわら)いを浮かべながら、思わずそう言うと、

「いや、だって、年に数える程度(ていど)しか会わなかったし、何より君、最後に会った時はまだ、ヨチヨチ歩きの赤ちゃんだったからね? (おぼ)えてる方が(こわ)いよ」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら答えた。

「セネトとは、どう言う関係なんだい?」

シャーナが、シリウスに問い掛けると、

「セネトは雇用(こよう)(ぬし)だ。 (わたし)とハニエルは傭兵(ようへい)生業(なりわい)にしている」

シリウスは、淡々(たんたん)とした口調で答える。

「二人との付き合いは長い。 今回の様に困った事があれば、良く二人にお願いしている感じだ」

セネトが、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、そう付け加える。

(なる)(ほど)ねぇ……」

シャーナが、『納得(なっとく)』と言った様子で呟く。

「ラシャ様には、言わなくて良かったんですか?」

メイが(おもむろ)に、シリウスに問い掛けると、彼は物凄(ものすご)く嫌そうな表情を浮かべ、

「必要ないだろ」

そう言うのを聞いて、ロナードは思わず苦笑(にがわら)いを浮かべる。

「そうもいかんだろう。 二人とも、そなたが事故(じこ)で亡くなったと知って、(ひど)くショックを受けていたのだから……」

オルゲン将軍(しょうぐん)は、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、シリウスに言う。

「サラサは兎も角、ラシャには死んだままにしておいても、何ら問題はない」

シリウスは、明らかに嫌そうな顔をしながら言う。

「どんだけ嫌いなんだよ……」

その様子を見て、レックスがポツリと呟くと、それを聞いて、メイが苦笑(にがわら)いを浮かべる。

「別にラシャは、(にく)くて口煩(くちうるさ)く言っている訳では……」

ロナードがは、苦笑(にがわら)いを浮かべたままシリウスに言うと、

「それは分かっている。 だが、毎回(まいかい)一言(ひとこと)余計(よけい)なんだ。 あの(からす)

相変(あいか)わらず、嫌そうな顔をしながら答える。

「まあ……。 その気持ちは、分からなくはないが……」

ロナードは、少し困った様な表情を浮かべながら言うと、二人のやり取りを聞いて、オルゲン将軍(しょうぐん)溜息(ためいき)を付いてから、

(わし)から、それとなく、伝えておこう」

シリウスにそう言うと、

「そうしてくれ。 会えば、数十年分の嫌味(いやみ)不満(ふまん)を、ネチネチと言われそうだからな」

彼は、ゲンナリとした表情を浮かべながら言った。

「何にしても、(よろこ)ばしい限りだ。 今日は盛大(せいだい)に祝おう」

オルゲン将軍(しょうぐん)は、物凄(ものすご)く嬉しそうに、ロナードとシリウスに言う。

「何だかんだで、一番喜んでいるは、(じい)(さま)じゃないか」

シリウスは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言うと、

当然(とうぜん)だ。 死んだと思っていた者と、こうして再会(さいかい)出来(でき)たのだぞ? これ(ほど)(よろこ)ばしい事はそうそうないぞ?」

オルゲン将軍(しょうぐん)は、嬉々(きき)とした表情を浮かべながら言うと、

「そうですね」

エルトシャンも、ニッコリと笑みを浮かべながら言う。

「今夜は、ご馳走(ちそう)スね!」

デュートも嬉々(きき)とした表情を浮かべ、声を(はず)ませながら言うと、

「やったぁ!」

アルシェラも(うれ)しそうに言う。

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