再会
主な登場人物
ロナード…漆黒の髪に紫色の双眸が特徴的な、傭兵業を生業として居た魔術師の青年。 落ち着いた雰囲気の、実年齢よりも大人びて見える美青年。 一七歳。
エルトシャン…オルゲン将軍の甥で、新設された組織『ケルベロス』のリーダー。 愛想が良く、柔和な物腰な好青年。 王国内で指折りの剣の使い手。 二一歳。
アルシェラ…ルオン王国の将軍オルゲンの娘。 カタリナ王女の命を受け、新設される組織に渋々加わっている。 一六歳。
オルゲン…ルオン王国のカタリナ王女の腹心で、『ルオンの双璧』と称される、幾多の戦場で活躍をして来た老将軍。 魔物退治専門の組織『ケルベロス』を、カタリナ王女と共に立ち上げた人物。
セシア…ルオン王国の王女、カタリナの親衛隊の一員で、魔術に長けた女魔術師。 スタイル抜群で、人並み外れた妖艶な美女。
レックス…オルゲン侯爵家に仕えていた騎士見習いの青年。 正義感が強く、喧嘩っ早い所がある。 屋敷の中で一番の剣の使い手と自負している。 一七歳。
カタリナ…ルオン王国の王女。 病床にある父王に代わり、数年前から政を行っているのだが、宰相ベオルフ一派の所為で、思う様に政策が出来ずにおり、王位を脅かされている。 自身は文武に長けた美女。 二二歳。
サムート…クラレス公国に住む、烏族の長の妹サラサに仕える烏族の青年。 ロナードの事を気に掛けている主の為に、ロナードの様子を時折、見に来ている。 人当たりの良い、物腰の柔らかい青年。
デュート…元・トレジャーハンターの少年。 その経験をかわれ、ケルベロスに加わる。 飄々としていて掴みどころのない性格。 一七歳。
メイ…オルゲン侯爵家に仕えていた元・騎士見習いの少女。 レックスとは幼馴染。 自ら志願してケルベロスのメンバーに加わる。 ボウガンの名手。 十七歳。
シャーナ…元・傭兵で槍を得意とする猫人族の女性で、ケルベロスのメンバーの一人。 面倒見の良い、姉御肌。
ベオルフ…ルオン王国の宰相で、カタリナ王女に代わり、自身が王位に就こうと企んでいる。 相当な好き者で、自宅や別荘に、各地から集めた美少年美少女を囲っていると言われている。
ラシャ…クラレス公国に住む烏族の長。 嘗てはクラレス公国の三羽烏の一人として、その手腕を振るっていたが、現代の領主からは煙たがられ、里に追いやられている。
サラサ…サムートの主でラシャの妹。 従姉の息子であるロナードの事を何か時に掛けている。
セネト…エレンツ帝国の出身で、とある理由からロナードを助けに現れた、炎の魔術を得意とする少年。
数日前……。
ルオン王国内にある、狼人族たちが住まう森……。
「まさか、こんな大規模に……」
カタリナ王女の命を受け、『夜光草』の調査を進めていたオルゲン将軍は、報告にあった森深く、『夜光草』が栽培されている畑に居た。
周囲は鬱蒼と木々が生い茂る深い森の中、突如として現れた、見たわす限り一面の畑に、オルゲン将軍は愕然とした。
「報告によりますと、ここの他にも何箇所か、森の中に畑が点在しているようです」
オルゲン家の私兵の一人が、真剣な面持ちで語る。
「何と言う事だ……」
オルゲン将軍は、額に片手を添え、表情を曇らせて呟く。
この森の周辺は嘗て、オルゲン侯爵家の領地であった。
『血の粛清』の一件で濡れ衣を着せられ、一連の責任を取る形で爵位を返上し、王都を去る際に一緒に、王家に返還した領地だ。
オルゲン家が領主を務めていた時期は、この森で手に入る木材を加工した、食器や置物などを製造し、それを取引した金が領民たちの主な収入源であった。
何代にもわたり、森と共に暮らして来た土地柄で、暮らし向きは決して悪くは無かったが、森に大きく依存する生活であった。
オルゲン家がこの土地を返上してからは、狼人族の森が近いため、王家……主にルオン軍がその管理をする様になっていたのだが……。
「まさか、僅か数年でこの様な事になっていたとは……」
オルゲン将軍は、すっかり変わり果てた森の現状に、酷くショックを受けていた。
「全くですな。 公明正大が売りのオルゲン将軍が、まさか、嘗ての領民にこの様な事をさせていたとは」
不意に、何処からか野太い男の声と共に、鎧が触れ合った際に出る金属音が辺りに響いた。
振り返れば、武装したルオン軍の兵士たちが、まるで、オルゲン将軍がここに来る事を知っていたかの様に、待ち構えていた。
「リャハルト・フォン・オルゲン! 違法薬物の原料となる、『夜光草』の栽培を指示していた罪により、貴殿を連行する!」
オルゲン将軍を取り囲んでいる、ルオン軍の兵士を率いている中年の男が不意に、その様な事を言い渡してきた。
「なっ……」
「何を馬鹿な事を!」
「我々は調査をしていただけだ!」
その発言に、オルゲン家の私兵たちは戸惑いの表情を浮かべ、口々に言う。
「告発があったのだ」
戸惑うオルゲン家の兵士たちに向かって、ルオン軍の兵士を率いている中年の男が、淡々とした口調で語る。
「告発だと?」
オルゲン将軍は眉を顰め、そう問い掛けると、ルオン軍の兵士たちを掻き分ける様にして、彼の甥であるチェスターが姿を現した。
「チェスター……」
甥の登場に、オルゲン将軍は戸惑いの表情を浮かべる。
「まさか……告発者と言うのは……」
「チェスター様……」
オルゲン家の私兵たちも、動揺を隠せない様子で呟く。
「残念です。 伯父上。 まさか、幾多の戦場で名を轟かせてきた英雄が、この様な事を密かに行っていただなんて……」
チェスターは、勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、オルゲン将軍に言った。
「チェスター様!」
「どういうつもりですか!」
「これは、誤解です!」
オルゲン家の私兵たちが、酷く動揺しながらも、口々にそう言い返す。
「申し開きならば、後でたっぷりと聞いてやる。 将軍を連行しろ」
ルオン軍の兵士たちを率いている中年の男は、部下たちに命じると、兵士たちはオルゲン将軍の捕縛に動き出した。
「お館様!」
「お逃げ下さい!」
オルゲン家の私兵たちは武器を手に取り、オルゲン将軍を守る様にしながら、口々に彼にそう言った。
「何を言うか。 ここで儂が逃げれば、罪を認めるのと一緒ではないか!」
オルゲン将軍は、表情を険しくし、強い口調でオルゲン家の私兵たちに向かって叫ぶ。
「ここは、兵士たちが言う様に、逃げた方が賢明と思いますよ」
何時の間に現れたのか、灰色の外套に身を包んだ、細身の背の高い男が、オルゲン将軍に言う。
「コイツ等は、アンタが無実だと知っていて、捕らえようとしている。 端から、アンタの話など聞く気はないぞ」
もう一人、ガッチリとした体つきの、如何にも剣士と言った風体の、背の高い男がそう言って来た。
「な、何だ。 お前たちは」
突然現れた二人に対し、オルゲン家の私兵が、戸惑いの表情を浮かべながら問い掛ける。
「今は、私たちが何者か問うている場合か?」
「オルゲン閣下を、この場から逃がすのが先決です」
突如現れた二人は、落ち着いた口調で返す。
「逃がすな!」
その様子を見て、ルオン軍の兵士を率いていた中年の男は、部下たちに命じた瞬間、細身の背の高い男が、何やら聞き慣れぬ言葉を口づさむと、突如として、ルオン軍の兵士たちとの間に、土の壁が現れ、オルゲン将軍の捕縛を試みていた兵士たちは、その足を止めるしかなかった。
「今の内に」
細身の背の高い男は、落ち着いた口調で、オルゲン将軍たちに声を掛ける。
「此方だ」
ガッチリとした背の高い男も、落ち着いた口調で言う。
オルゲン家の私兵たちは、彼等に従って良いものか戸惑っていると……。
「誰かは知らぬが、感謝する」
オルゲン将軍は、落ち着いた口調で言うと、彼らの後に付いて行くので、それを見て、オルゲン家の私兵たちは、戸惑いながらも後に続く。
暫く森の中を移動すると、少し開けた場所に出て、そこには、馬車と数頭の馬が用意されていた。
「此方へお乗り下さい。 私共が安全な場所までお連れ致します」
細身の背の高い男は、落ち着いた口調で、オルゲン将軍に言う。
「その前に、そろそろ、そなた等が何者なのか明かしても良くはないかね? 助けてくれた事には感謝しているが、これ以上知らぬ者に付いて行くほど、愚かではないつもりだ」
オルゲン将軍は、落ち着いた口調で言うと、細身の背の高い男は、戸惑いの表情を浮かべ、連れのガタイの良い背の高い男を見ると、彼は静かに頷く。
「……失礼致しました。 私はハニエルと申します」
細身の背の高い男は、落ち着いた口調で、オルゲン将軍に言うと、深々と被っていたフードを手で払い、顔を露わにすると、そう名乗った。
彼を一目見た瞬間、その場にいた誰もが、彼の美しさに釘付けになる。
柔らかな春の小川を想わせる、美しい銀色の長い髪を背中に流した、長身で細身、肌の色は陶器の様に白く滑らかで、その横顔は、優しそうな柔和な面差しで、瞳の色は、穏やかなスミレ色、薄紫色のサーコートを着ており、人間離れした、洗練された美しさを漂わせる、恐ろしく美しい青年だった。
もう一人は……。
夏の日差しを想わせる、オレンジ掛った金色の長めの髪に深い紫色の双眸、少し日に焼けた薄い赤銅色の肌、長身でガッチリとした肩、引き締まった筋肉質な体付き、キリッとした精悍な顔立ち、年は二十代半ばと思われる美丈夫……。
「殿下……」
彼を見た瞬間、オルゲン将軍は狐に抓まれた様な表情を浮かべ、呟いた。
「誰が『殿下』だ。 暫く合わない内に、すっかり盲目してしまった様だな? 爺様」
金髪の美丈夫は苦笑いを浮かべ、戸惑っているオルゲン将軍に言うと、その発言を聞いてオルゲン将軍は、ハッとした表情を浮かべる。
「まさか……レオン……なのか?」
そして、小刻みに身を震わせ、おずおずと問い掛けると、
「いくら父上に似ているからと、『殿下』は無いだろ。 もしも父上だとしたら、若過ぎるだろう? 普通に考えれば、直ぐに分かるだろうに」
金髪の美丈夫は、苦笑いを浮かべたまま言う。
「本当に……レオンなのか?」
オルゲン将軍は、『信じられない』と言った様子で問い掛ける。
「ユリアスと私以外の誰が、アンタを爺様と呼ぶ奴が居ると言うんだ?」
金髪の美丈夫は、苦笑いを浮かべたま返す。
「レオン……。 ああ……レオン……。 本当に……。 本当に夢ではなかろうか……」
オルゲン将軍は、感極まった様子で言うと、目の前に立つ、自分よりも頭一つ分以上は背丈のある、金髪の美丈夫を抱きしめる。
「随分と時間が掛かったが、こうして、生きている間に会えたのだから良いだろう? 爺様」
金髪の美丈夫は、オルゲン将軍に抱きしめられたまま、穏やかな口調で問い掛ける。
「ああ。 勿論だとも。 良く、生きていてくれた」
オルゲン将軍は頷き、両目から涙を流しながら、言った。
「ふん。 ふふふん♪」
お風呂から上がって来たアルシェラは、タオルで濡れている髪を拭きながら、自分のベッドの方へと向かうと、そこには、セネトが座って待ち構えていた。
「随分と、長風呂だったな」
セネトは、淡々とした口調で、戻って来たアルシェラに言った。
見れば、同室の他の三人の姿は無い。
「な、何よ」
アルシェラは、たじろぎながら、ベッドの上から退く気配の無いセネトに言う。
「寝る時間が惜しいから、単刀直入に言う」
セネトは、ベッドの上に腰を下ろしたまま、アルシェラを見上げ、
「『シード』を何処に隠した?」
ドスの利いた低い声で問い掛ける。
「は? 何言ってんの?」
アルシェラは、戸惑いの表情を浮かべながら言う。
「惚けるな。 お前が持ち去った以外に考えられない」
セネトは、表情を険しくし、ドスの利いた低い声で言う。
「だからそれは、無くなったって言ったじゃない!」
アルシェラは、戸惑いの表情を浮かべたまま、セネトに言い返す。
「へぇ。 じゃあ、君の正体をロナード達に言っても良いんだな?」
セネトは、意地の悪い表情を浮かべ、アルシェラに言う。
「は? アタシはオルゲン将軍の娘よ。 それ以外に何があるって言うのよ?」
アルシェラは、戸惑いの表情を浮かべながら言う。
「それは表向きに過ぎない。 お前が魔女だと言う事を、僕は知っているぞ」
セネトは、表情を険しくしたまま、淡々とした口調で言う。
「マジ、何言ってんの?」
アルシェラは、『理解不能』と言った表情を浮かべ言う。
「僕以外に、このメンバーの中で最も『シード』を必要とし、その価値を知っているのはお前だ。 魔女アリシア」
セネトは、真剣な表情を浮かべ、淡々とした口調で言う。
「アンタ……。 何でその名前を知ってるの?」
アルシェラは、戸惑いの表情を浮かべながら問い掛ける。
「何でだろうな?」
セネトは不敵な笑みを浮かべ、そう言うと肩を竦めてみせる。
「アンタ……何者なの?」
アルシェラは、表情を険しくして問い掛ける。
「それを、お前に答えなければならない義理は無い。 魔女アリシア」
セネトがそう言って居ると、廊下から複数の足音がしてきた。
すると咄嗟に、
「うえ~ん。 酷い~」
アルシェラがそう言って、泣き真似を始めたので、セネトは苦々しい表情を浮かべ、彼女を睨み付ける。
「ど、どうしたんですか?」
外に出ていて戻って来て事情を知らないメイが、そう言いながら慌てて部屋に入って来た。
「セネトがぁ~。 アタシが『シード』を隠したっていうのぉ」
アルシェラは、態とらしく泣きながら、甘え声でメイに言った。
「どう言う事ですか? セネトさん」
アルシェラの話を聞いて、メイが表情を険しくし、セネトに問い掛けると、彼は、深々と溜息を付き、
「そのままだ」
肩を竦めながら答えた。
「どうして……」
メイは、戸惑いの表情を浮かべながら言う。
「『シード』は魔力の塊だ。 そう簡単に消えたり、無くなったりする訳がない。 誰かがこっそり、持ち出さない限りはな」
セネトは、落ち着いた口調で言う。
「そもそも、それって本当にあったのかい?」
遅れて部屋にやって来たシャーナが、徐にそう問い掛ける。
「デュートは、『消えた』と言っていた。 つまり、そこに存在していなければ、消えたという表現は使わない筈だ」
セネトは、落ち着いた口調でそう指摘すると、
「確かに……」
シャーナが、妙に納得した様子で呟く。
「まあ、今日の所は引き下がろう。 今回は警告だ。 もし、『シード』を教会に渡そうとした場合は、容赦しないからな。 僕の目が常にある事を忘れるな」
セネトは、真剣な表情を浮かべ、アルシェラにそう言い残すと、その場から立ち去る。
(邪魔だわ。 アイツ)
アルシェラは、苦々しい表情を浮かべながら、心の中で呟く。
「嬉しい知らせだ」
セネトそう言いながら、嬉々とした表情を浮かべ、ロナードが静養している部屋に入って来た。
「?」
利き手を骨折しているので、サラサが剥いたリンゴを彼女に食べさせて貰う為、大きく口を開けていたロナードは、そのまま彼の方へと振り返る。
「おい」
ロナードがそっぽを向いてしまったので、デザートフォークにリンゴを突き刺したまま、どうして良いのか分からず、サラサが思わず声を掛ける。
「あ、ごめん」
ロナードはそう言うと、サラサの方へ顔を向け、彼女にリンゴを食べさせて貰う。
「……まるで、餌付けされている雛鳥だな……」
その様子を見て、セネトが淡々とした口調で言うと、
「すっかり大きくなったが、まだ甘えたいらしい」
サラサが意地の悪い笑みを浮かべ言うと、ロナードの頬をデザートフォークの先で、ツンツンとつつく。
ロナードはムッとしとた表情を浮かべつつも、リンゴが口の中に入っているのて、口をモゴモゴさせるだけで、何も言い返せないでいる。
「ロナードに、そんな冗談を言って許されるのは、世界中で貴女だけだと思うぞ」
セネトは苦笑いを浮かべながら、サラサに言うと、
「まあな」
彼女はドヤ顔で言い返す。
「……右手が使えないのだから、仕方がないだろ」
リンゴを食べ終わったので、ロナードはムッとした表情を浮かべつつ、セネトに言う。
「僕が食べさせても?」
セネトが面白半分に言うと、
「ふむ。 代わってやろう」
サラサはそう言うと、椅子から立ち上がり、持っていたデザートフォークを彼に手渡す。
「はい。 あーん」
セネトは切り分けられているリンゴを一つ、デザートフォークに突き刺すと、意地悪な笑みを浮かべながら、態とらしくそう言って、ロナードの口元にリンゴを差し出す。
ロナードは、ムッとした表情を浮かべつつも、パクッと差し出されたリンゴに食い付くと、口一杯にリンゴを入れた為、モグモグと口を動かす。
(何だこれ。 楽しいぞ)
セネトは、ムッとした顔をしながらも、素直に自分から差し出されたリンゴを口にしたロナードの反応に、思わずそう思った。
「……それで、嬉しい知らせと言うのは?」
ロナードは、リンゴを食べ終わると、真剣な面持ちでセネトに問い掛ける。
「先程、オルゲン将軍の下に向かわせた仲間から、連絡があったんだが、無事に将軍と合流したらしい」
セネトは、穏やかな口調で言うと、それを聞いたロナードは、物凄く嬉しそうにパアッっと表情を輝かせ、
「本当か? 将軍は無事なのか?」
思わず身を乗り出し、セネトに問い掛ける。
「ああ。 こちらの事情を話したら、将軍を連れて来てくれるそうだ」
セネトは穏やかな口調で語ると、ロナードは心から安堵した様な表情を浮かべる。
「良かったな」
サラサが、優しい口調でロナードに言うと、彼は頷き返した。
「ルオン側のランティアナ大山脈の麓、ミストと言う村で落ち合う手筈だ」
セネトは、落ち着いた口調で語ると、
「そうか……」
ロナードは、安堵に満ちた表情を浮かべながら言ってから、
「セネト」
真剣な面持ちで言うと、
「何だ?」
セネトは、戸惑いの表情浮かべ、問い掛ける。
「有難う」
ロナードはそう言うと、セネトに深々と頭を下げた。
「礼を言うのはまだ早いだろ。 ちゃんと将軍と会ってからにしてくれ」
セネトは、苦笑いを浮かべながら言うと、
「そうだな」
ロナードも苦笑いを浮かべながら返す。
「どうでしたか? ロナード様」
部屋に戻って来たセネトに、メイが声を掛ける。
「ああ。 凄く喜んでいた」
セネトは、穏やかな顔をして、メイに答えた。
「良かったですね」
メイは、ニッコリと笑みを浮かべながら、セネトに言ってから、
「私も安心しました」
安堵の表情を浮かべながら言うと、レックスも頷きながら、
「オレもだぜ」
「僕の仲間の報告では、やはり、チェスターやルオン軍の上層部が『夜光草』の栽培に関わっていた様だ。 チェスターを仲間が捕らえたらしい」
セネトは、真剣な面持ちで語ると、
「それは、お手柄ですわね」
セシアは少し嬉しそうな様子で言うと、シャーナも頷いてから、
「アイツをはちょっと絞め上げれば、直ぐに色々と吐くだろうさ」
不敵な笑みを浮かべて言った。
「この話、エルトシャン様やアルシェラ様には、なさいましたの?」
セシアは徐に、セネトに問い掛けると、
「エルトシャンには将軍を保護した事は伝えた。 流石に兄であるチェスターの事は、気不味いので言えなかった。 アルシェラは……僕の事を避けているから、話せる機会が無い。 君たちの口から伝えてもらえないだろうか」
セネトは、複雑な表情を浮かべつつ、セシア達に言う。
「そりゃ、構わないけど……」
シャーナは、戸惑いの表情を浮かべながら答えた。
「お前らは何時も、賑々しいな」
淡々とした口調でそう言いながら、ラシャが部屋に入ってくる。
「下の様子は、どうだい?」
シャーナは、真剣な面持ちで、ラシャに問い掛ける。
「心配するだけ無駄だろう。 人の足では森を超えるのも一苦労だ。 例え、森を抜けたとしても、空から我々に襲われるのは明らかだ。 それに、里は断崖絶壁の切り立った崖の上にある。 空を飛ばない限りは、里に立ち入る事は不可能だ。 アロイスもそれを知っているのだろう」
ラシャは、落ち着いた口調で言う。
「成程」
セネトは、真剣な面持ちで呟く。
「では、背後から襲われる心配はないと言う事ですわね」
セシアが落ち着いた口調で言うと、
「その様な事、我々がさせんがな」
ラシャは、不敵な笑みを浮かべながら返す。
「そりゃ、頼もしい限りだよ」
シャーナが、ニッと笑みを浮かべながら言う。
「今、エルトシャンに使えそうな剣を探させている。 必要な物が集まり次第、直ぐにでも発てる様に、お前たちも準備をしておけ」
ラシャは、落ち着いた口調で言うと、シャーナ達は揃って真剣な面持ちで頷く。
「ロナード様も、来るつもりなのですか?」
メイが、戸惑いの表情を浮かべ、ラシャに問い掛けると、
「止めたところで聞く筈も無い。 直接会って、将軍の無事を確認せねば、気が休まらんだろう」
ラシャは肩を竦め、苦笑いを浮かべながら答える。
「それ程までに、お館様の事を……」
メイは、感激した様子で呟くと、
「アイツ……まだ、将軍との関係を、お前たちに話してないのか?」
ラシャが、呆れた表情を浮かべながら言うと、
「そりゃ、どう言う意味だよ?」
レックスは、戸惑いの表情を浮かべながら、ラシャに問い掛ける。
「オルゲン将軍は、ロナードの母方の祖父だ。 元々は、エレンツ帝国の出身で、それなりの身分の方だった。 僕たちもその縁で、こうして馳せ参じたわけだ」
セネトが、落ち着いた口調で言うと、それを聞いて、メイやレックスは驚きのあり、目を丸くする。
「いや、でも……奥方様との間には、お子様はいらっしゃなかった筈……」
メイは、動揺を隠せない様子で、そう呟く。
「オルゲン夫人とは互いに再婚だ。 子を産めぬ体と分かった途端、夫人は前の夫から離婚を言い渡されたらしい。 リャハルトは婿養子だったが、まあ……前妻の所では色々と肩身の狭い想いをした様だ」
ラシャは、複雑な表情を浮かべながら、事情を簡単に説明する。
「ロナードは、前の奥方との間に出来た娘の子供だ」
セネトが、淡々とした口調でそう付け加える。
「そんな経緯が……」
メイは、戸惑いの表情を浮かべながら呟く。
「知っての通り、ロナードは幼い頃に『血の粛清』に遭い、イシュタル教会の孤児院に保護されていた。 オレもリャハルトも、何度か身柄を引き渡すよう教会に訴えはしたんだが、取り合って貰えず、月日ばかりが経って……。 その内、風の噂で孤児院から逃げ出したと耳にしたが、何処で何をしているのか、なかなか掴めなくてな……」
ラシャは、複雑な表情を浮かべ、重々しい口調で語る。
メイ達は、真剣な面持ちで彼の話に耳を傾ける。
「やっとの事で見つけ出した時は、傭兵とい言う汚い世界で長く生きて来た所為で、精神的に病んでしまっていてな……。 自殺を図り、意識不明の所を保護した訳だが……。 その後も立ち直るまでに、随分と時間が掛かった」
ラシャは、沈痛な表情を浮かべ、重々しい口調で語った。
「……」
メイ達は、ロナードの不遇な過去を知り、なんと言って良いのか分からず、複雑な表情を浮かべ、押し黙る。
「……アイツはしっかりしている様に見えて、とても繊細な部分がある。 また無理をして、ポッキリ心が折れてしまわないか、オレもサラサも、とても心配している。 本当なら、オレたちの目の届く範囲に置いていたいが、そうも言って居られない事情がある。 故に、リャハルトに預けた訳だが……」
ラシャは、沈痛な表情を浮かべながら、これまでの事を簡潔に説明する。
「……里にロナードを置いていられないのは、やはり、イシュタル教会の事が……」
セネトが徐に、ラシャに問い掛けると、
「ああ。 連中、ロナードがこの里に居る事を突き止めてな。 里の者を巻き込む訳にはいかないと、アイツ自ら、リャハルトの下に行く事を選んだ」
ラシャは、沈痛な表情を浮かべながら語る。
「オルゲン将軍なら、ルオン王国内外に名が知れてるし、地位も権力もある。 教会も下手に手は出せない……そう考えたって訳かい……」
シャーナは、神妙な面持ちで言うと、ラシャは複雑な表情を浮かべながら頷き、
「少なくとも、伯爵とは名ばかりの、辺境領主のオレなどよりは、な」
重々しい口調で言う。
「だったら何で、ロナードをオルゲン家の養子にしないのさ?」
シャーナが、真剣な面持ちで指摘すると、
「そんな事をしたら、侯爵夫人の妹である、エルトシャン様たちの母君が、黙っている筈が無いですわ。」
セシアが、複雑な表情を浮かべながら指摘すると、ラシャも、神妙な面持ちで頷きながら、
「今のオルゲン家があるのは偏に、リャハルトの功績だと言うのに、血の繋がりも無い、義理の関係であるにも関わらず、その地位や権力、財産を自分たちも貰う権利があると、信じて疑わない様な連中だ。 ロナードの素性を知ってみろ。 目の敵にされるのは明らかだ」
「確かに……」
チェスターや、その母親がとても権力や地位への固執が強く、貪欲な性格である事を、周囲の話などで知っているメイは、複雑な表情を浮かべながら呟く。
「当のロナード様も、オルゲン家の地位や権力、財産は全て、エルトシャンに引き継がれるべきだと考えておられ、将軍にもオルゲン家を継ぐ意思がは無い事を、早い段階から伝えていると聞いています。 ですから、ロナード様がオルゲンと名乗る事は無いと思われますわ」
セシアは、真剣な面持ちで語る。
「まあ、アイツは父親に似て、権力などには興味が無い様だからな。 そう言う面倒事には、関わりたくないと思って居るのだろう」
ラシャは、苦笑いを浮かべながら言うと、肩を竦める。
「その事を、エルトシャン様は……」
メイは、戸惑いの表情を浮かべながら問い掛ける。
「知っていると思いますわ」
セシアは、落ち着いた口調で答えた。
「……」
メイは、複雑な表情を浮かべる。
「姫もか?」
レックスは、戸惑いの表情を浮かべながら問い掛ける。
「アルシェラ様が知って、何か得をする事があるのかしら?」
「ま、あの子は、後先考えず、誰振り構わず、ペラペラと喋っちまうだろうね」
シャーナは、苦笑いを浮かべながら言う。
「ならば何故、私たちに話して下さったのですか?」
メイは、戸惑いの表情を浮かべながら、ラシャたちに問い掛ける。
「お前たちは、メンバーの中で一番、ロナードと行動を共にする事が多い。 だから、知っておいても良いと思ったまでだ」
ラシャが、落ち着いた口調で、彼女の問い掛けに答えた。
「そうですか……」
メイは、複雑な表情を浮かべながら、呟く。
「この先、事態が目まぐるしく変わるだろうが、お前たちは変わらず、ロナードやエルトシャンの力になってやって欲しい」
ラシャは、真剣な面持ちで、メイ達に言うと、
「勿論ですわ」
セシアは、真剣な面持ちで答えると、メイとレックスも、真剣な面持ちで頷き返した。
夕刻、ロナード達は再び、ラシャたち烏族の里から少し離れた場所に、鬱蒼と生い茂る木々にその存在を隠すかの様に、ポッコリと大きく口をあけている洞窟の前に到着した。
「はあ……。 またここに通るのね」
アルシェラは、その洞窟を見ながら、物凄く嫌そうな表情を浮かべながら呟いた。
「知っての通り、中は、複雑な迷路状になっている。 オレと逸れない様に気を付けろ」
ラシャが、淡々とした口調で、アルシェラ達に言うと、それを聞いた彼女たちは真剣な面持ちで頷き返す。
「この古い地図の通りの最短ルートでなら、馬で二日も走れば、山の反対側にあるルオンのミストと言う村へ出る筈だ。 中に何があるか判らない。 くれぐれも道中は気を付けてな」
サラサが、心配そうな面持ちで、ロナードたちに向かって言うと、彼らは一様に頷き返した。
「ミストからは、馬を飛ばせば三日あれば、王都に着く筈です」
サムートが真剣な面持ちで言うと、アルシェラ達も真剣な面持ちで、揃って頷いた。
「アルやロナードには、少し厳しいかも知れないけど、二人とも頑張って付いて来て」
エルトシャンは少し、心配そうな表情を浮かべつつ、アルシェラとロナードに言った。
「大丈夫だ。 覚悟は出来ている」
ロナードは、真剣な面持ちでエルトシャンに言うと、
「早くお父様に会いましょう」
アルシェラも何時になく、意気込んでいる様子で、真剣な面持ちでエルトシャンに答えた。
「では、行こうか」
ラシャはそう言うと、手にしていたカンテラの明かりを点け、周囲に注意を払いながら、最初に地下神殿の中へと踏み込んだ。
地下神殿の中は真っ暗で、カンテラの明かりが無ければ、数メートル先も良く分らない。
ラシャは古い地図を片手に先頭に立ち、ロナード達は馬に乗って中に入る。
最初に立ち入った時と違い、中は、何とも言い難い、神聖な空気が漂い、とてもひんやりとしていて、半袖では肌寒いくらいであった。
地下神殿の至る場所に、岩を刳り抜いて出来た彫刻が彫られた巨大な柱が立ち並び、外気を取り入れる為の空気口らしきものが、壁に空いており、床の隅には、雨水を外へ流す為なのか、小さな溝まで掘られている。
柱や壁の彫刻や、彩色なども手が込んでおり、この神殿を作った文明が、どれだけ優れていたかを物語っていた。
現在の技術でも、これ程までに巨大な地下空間を作り上げるなど、不可能であろう。
「前に来た時と違って、何だか嫌な雰囲気だな……」
魔術師であるロナードは、魔術を持たないレックス達とは違い、何かを感じ取ったのか、思い切り眉を顰めて呟いた。
「あまり、長居はしたく無い所ですわね……」
同じ魔術師であるセシアも、眉を顰めながら、重々しい口調で言った。
「やっぱ、何度見てもすげぇな……」
レックスは圧倒された様子で、洞窟の中を見回しながら呟いた。
考古学者ならば、その素晴らしさに歓喜の声を上げ、狂喜乱舞しそうな場所である。
「のんびり見てる場合では無いぞ。 先を急いでいると言う事を忘れるな」
ラシャは、のんびりと馬を進めるアルシェラ達に向かって、神妙な面持ちで言った。
「『魔法帝国』は、今の技術でも及ばない様な、優れた文明を築いてたって聞くけど、これだけの技術を持った国が、たかが、当時の人間たちが反乱を起こした位で、滅びたりするものなのかな?」
エルトシャンは、カンテラで辺りを照らしながら、呟く。
「イシュタル教会では、女神が放った『フェンリル』の仕業だと言われていますが、直接の原因は、天変地だったと言われていますわ。」
セシアは、落ち着いた口調で語る。
「……大地震が起き、『魔法帝国』の帝都は地殻変動により、瘴気を放つ湖の底に沈んだと、前に読んだ亜人たちの歴史書にそう書かれていた」
ロナードも、淡々とした口調で、エルトシャンにそう話した。
「ふーん。 じゃあ人間たちは、その混乱に乗じて各地で反乱を起こして、魔法帝国を滅亡へ追いやったって事なのかな?」
エルトシャンはそう呟く。
「教会の教えでは、女神の加護を受けて、英雄『ノエル』が、亜人たちを倒したって言ってるけどな」
レックスが、苦笑混じりに言うと、
「その天変地異が、女神の加護と考えるのならば、強ち、出鱈目とも言えないね」
セネトは、苦笑いを浮かべながら言った。
「要は、捉え方次第って事かねぇ?」
シャーナは肩を竦めながら、何処か皮肉混じりに言った。
「まあ、ず~と昔に滅んじゃった国の事について、考古学者でも無いオレ達が色々想像したって、無意味な事スよ」
デュートは苦笑いを浮かべ、肩を竦めながら言うと、
「何だよ。 空気の読めない奴だな。 オメェ」
レックスが口を尖らせ、面白く無さそうにデュートに言うと、
「そうだよ。 こういう所は、元・トレジャーハンターの君が一番喜ぶ所じゃないの?」
エルトシャンは苦笑い混じりに、妙にノリの悪いデュートに言うと、
「前の一件の所為で、お宝があっても触れない、持ち出せないとか、こんな萎える事はなかなか無いスよ。 残酷スよ。 餌を前に『待て』をさせられてる犬と同じスよ」
デュートは、『はあ』と溜息を付いてから、ゲンナリした表情を浮かべ、エルトシャンに言い返す。
「それは、お気の毒様」
セシアは、意地の悪い笑みを浮かべながら、デュートにそう言った。
「ま、変な元気を出されても、アタシ等は迷惑なだけだけどねぇ」
シャーナは苦笑いを浮かべ言うと、肩を竦める。
「ちょっと! 早く行きましょうよ!」
なかなか来ないロナード達に向かって、先頭を行くアルシェラは苛立った様子で、彼等に向かってそう叫ぶ。
「はいはい……」
苛立っている彼女に、エルトシャンは苦笑いを浮かべ、仕方なく手綱を引き、馬の歩く速度を速める。
「ホント、せっかちだねぇ……。 慎重に進めって、サラサも言ってただろ」
シャーナも『やれやれ』と言った様子で呟くと、馬の手綱を引き、馬の歩く速度を速めた。
ロナード達は、殆ど休憩も取らず、只管にこの暗い地下神殿の中を、馬を走らせ続けていた。
どのくらい進んだだろうか……。
先導するラシャに続いて、何時になく馬を飛ばしていたアルシェラに、変調が現れ始めた。
「アル。 大丈夫?」
初めに、彼女の異変に気付いたのは、アルシェラの後から来ていたエルトシャンであった。
エルトシャンがそう声を掛けている間にも、案内のラシャに続いて馬を走らせていた筈が、彼女の後に続いて来ていたレックスを乗せた馬に追い抜かれ、その後も、後ろから来ている者たちに、次々と抜かれていった。
流石に、アルシェラの様子が可笑しい事に気付いたのか、彼女を追い抜いて行った仲間たちが、次々と馬を止めた。
「どうした?」
誰も、自分の後に付いて来なくなったので、ラシャが戸惑いの表情を浮かべて舞い戻って来て、エルトシャン達に声を掛ける。
「アルの調子が可笑しんだ」
ラシャにそう答えると、エルトシャンは馬から降り、辛そうな様子で馬に乗っているアルシェラの下へと駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
セシアも心配になり、馬から降りると、アルシェラの側へと駆け寄る。
「御免なさい。 少し……気分が悪いの……」
馬の手綱を握り締め、俯き加減で力なくそう言ったアルシェラは、本当に調子が悪そうだ。
「ロナードも、さっきから気分が悪そうだ」
ロナードの乗っていた馬に、自分が乗っている馬を寄せると、気分が悪そうな様子で、項垂れているロナードの背中を摩りながら、セネトが仲間たちに向かって言った。
「疲れたのかも知れませんわ。 少し、休憩を取りましょう」
アルシェラとロナードの様子を見て、セシアはそう提案すると、エルトシャン達は皆、揃って頷き返した。
エルトシャンは、アルシェラをゆっくりと馬から下ろすと、それを見て、セシアが急いで自分が着ていた外套を脱いで、床の上に広げた。
アルシェラを抱えていたエルトシャンは、セシアが広げた外套の上に、アルシェラをゆっくりと下ろして、彼女の体を横にして休ませた。
ロナードも自力で馬から降りたが、そのまま力なく、その場に蹲ってしまった。
「これはマズイわね……」
その様子を見て、セシアは表情を険しくして呟いた。
「大丈夫か?」
セネトは心配そうに、ロナードに声を掛けながら、彼の背中を優しく摩る。
「おいおい。 しっかりしてくれよ」
グタッとしているロナードを見て、レックスは戸惑いの表情を浮かべ、彼にそう声を掛ける。
「もしかして、気分が悪くなったのは、ここに入ってからじゃいのかい?」
魔術師では無いものの、人間たちとは違い、魔力を持ち合わせているシャーナも、何かを感じているらしく、戸惑いの表情を浮かべながら、項垂れているロナードにそう声を掛けると、彼は頷き返す。
「シャーナも、気分が悪いスか?」
デュートは、戸惑いの表情を浮かべ、シャーナに問い掛けると、
「二人程じゃあないけどね。 でも、なーんか嫌な空気は感じてるよ」
シャーナは、何かを警戒している様な様子で、険しい表情を浮かべて、辺りを見回しながら、そうデュートに答えた。
「なーんにも、感じねぇけどな……」
レックスは小首を傾げながら、シャーナに答えると、
「アンタみたいな、鈍感な奴には分からないだろうけどね……」
彼女は特大の溜息を付きながら、レックスに言い返すと、彼はカチンと来て、
「んだと!」
そう言って声を荒らげ、シャーナに掴み掛ろうとすると、
「止めてよね! そうやって、一々突っ掛らないって何時も言ってるでしょ? 大体、気分が悪い人が居るんだから、少しは気を遣ったら?」
エルトシャンは、振り上げたレックスの拳を掴むと、彼にそう言って宥める。
「ここは魔法帝国が建国される以前からあったと言う話だ。 どの様なモノを祭っていたのかまでは知らんが、ここに漂っている何かが、二人に影響している可能性はある」
ラシャは神妙な面持ちで言うと、何か視線を感じたのか、とっさに後ろを振り返ったが、何も無く、ただ深い暗闇が広がっているだけだ……。
「『ここに漂って居る何か』って……一体何ですか?」
メイは顔を青くして、物凄く不安そうな表情を浮かべ、ラシャに問い掛ける。
「ま、まさか、亡霊とか、そんなんじゃあ無いだろうな?」
セネトが、顔を引きつらせながら、そう言った。
「それに近いわね。 無数の人間の気配は、さっきからしているわ」
セシアもそう言いながら、表情を険しくして、辺りを見回している。
「じょ、冗談は止めて下さいよ。 アタシ、そう言うのは苦手なんですから!」
メイは、物凄く嫌そうな顔をして、思わず、側にいたレックスの腕を掴む。
そう言っている間にも、アルシェラの調子は益々悪くなっている様で、横たわったまま寒いのか、身をくの字に丸め、両手で肩を強く抱きしめ、震えている。
「嫌な空気ね……。 何かがずっと、アルシェラ様たちを見てる感じがするわ」
セシアがそう言って居と、ロナードの側に居たセネトが顔面蒼白になり、
「い、今……。 何か居た」
そう言いながら、何も無い暗闇の方を震える手で、指差す。
「? 何も無いぜ?」
レックスはカンテラで、セネトが指差した方を照らすが、何も無い。
「ひやぁぁぁっ!」
レックスの隣に居たメイが、物凄い悲鳴を上げ、その場にへたり込んだ。
「何だよ。 メイまで」
レックスが五月蠅そうな顔をして、メイに向かって言うと、
「い、今、白っぽい、緑色の光が、ロナード様の後ろをスーって……」
メイは半泣きになりながら、声を震わせてそう言った。
「マズイね……さっきより、気配が強くなってる」
シャーナは忙しく辺りを見回しつつ、表情を険しくする。
「急いで、この場から離れましょう」
危険を察したセシアが表情を険しくして、エルトシャン達に向かって言った。
その時、それまでグッタリとして、座り込んで居たロナードが、突然、苦しそうに嘔吐を始めた。
「いけない。 体が拒絶反応を示しているわ」
セシアは、その様子を見て、焦りの表情を浮かべ、ロナードの側に駆け寄る。
そうして居ると、横になっていたアルシェラもフラリと立ち上がり、酷く虚ろな表情で聞き慣れない言葉を口走る。
「ど、どうしたんスか?」
デュートは戸惑いの表情を浮かべ、思わず呟く。
「マズイですわね。 念に当てられた様ですわ」
セシアが、額に薄らと冷や汗を浮かべながら、重々しい口調で言った。
「『当てられた』って?」
レックスは、戸惑いの表情を浮かべながら、セシアに問い掛けると、
「ここに集まっている念と強く同調してしまい、自我を失っているわ」
セシアは、焦りの表情を浮かべつつ、そう言い返して来た。
「『気持ち悪い』と言っている時点で、早く立ち去るべきだったね……」
シャーナは、苦々しい表情を浮かべながら呟く。
「どうするんスか?」
デュートは焦りつつ、エルトシャン達に向かって言った。
「取り押さえて、正気に戻すしかない!」
エルトシャンは、表情を険しくして言っていると、その間に、アルシェラがホルダーから銃を抜き、近くにいたエルトシャンに向かって発砲しようとしている事に気付くと、ラシャがとっさに片手を振るい、圧縮した空気の塊を彼女にぶつけた。
「お嬢様!」
メイは慌てて、倒れたアルシェラの側へと駆け寄ると、アルシェラは、背中を床に打ち付けた衝撃で気絶している。
「やり過ぎスすよ!」
それを見たデュートが怒って、ラシャに向かって言った。
「済まん。 とっさの事で加減が出来なかった」
ラシャは済まなさそうに、デュートに言い返す。
「何にしても、アルシェラはのびたよ。 この間に」
シャーナは、倒れたアルシェラの下へ駆け寄り、素早く身を屈めると、彼女を片方の肩に担ぎ上げた。
「ロナード。 立てそう?」
エルトシャンは、心配そうにロナードに問い掛けると、彼は青白い顔をしていたが、力なく頷き返した。
「無理をするな。 オレが抱えて飛ぶ」
ラシャがそう言うと、グッタリとしているロナードを軽々と抱き上げた。
普段なら、物凄く嫌がって抵抗しそうなものだが、そんな元気すら無いのか、大人しくしている。
「急ごう」
エルトシャンは急いで馬に飛び乗ると、仲間たちに言った。
不気味なほど静かで、只管に暗闇が広がっている空間……。
足元には、霧の様な物が立ち込めていて、そこに聳え立つ、謎の術式が描かれた巨大な石板の様なものに、ロナードは鎖で繋がれていた。
(ここは……。 何処だ?)
ふと意識を取り戻したロナードは、不気味な空気を漂わせる空間に戸惑い、心の中で呟いた。
「誰か……。 居ないのか?」
ロナードは無性に不安になり、気味の悪い暗闇が広がっている中、そう呟いた。
予想はしていたが、何も応答が無く、ただ静かに、そして不気味に暗闇が支配している。
どの位の時間が経っただろうか……。
不意に前方から、バシャバシャと足元の水を掻き分けて進むような音が近づいて来て、彼の目の前にボンヤリとその姿を現した。
顔こそハッキリとは分からなかったが、あまり背の高くない、白銀の長い髪を有した小柄な、闇夜を纏った様な黒いドレスを着た女性だった。
(誰……だ?)
ロナードはボンヤリと、自分の前に佇む相手を見据える。
「……術を使って随分と経つと言うのに、思いの外、効果が表れないものね……。 これも『血』の所為かしら?」
目の前に佇む女性は、軽く溜息を付いてからそう呟いた。
(何のことだ?)
ロナードは、彼女が言っている意味が全く理解出来ず、ただ戸惑うばかりだ。
「良いわ。 次の段階に進みましょう」
目の前に佇む女性は静かに言うと、何やら不思議な呪文を口にする。
すると、ロナードの体を捕えている石板の中から、まるで蛇の様に鎖が這い出て来た。
それを見た瞬間、ロナードは本能的に嫌悪感を抱き、それと同時に何とも言い難い恐怖に駆られる。
ズズズッ……と這い出て来た鎖は、まるで意志でがある様に、ロナードの足元から上部へと、体を這い上がって来ると、それと同時に、何とも言えない嫌悪感と気持ちの悪さを覚える。
(振り解かないと!)
ロナードは、恐怖に顔を引きつらせ、心の中で叫ぶと、どうにかして、自分の体に這い上がって来る鎖を振り解こうと藻掻くが、思う様に力が入らない。
「無駄な事は止めなさい。 大人しく受け入れれば、苦しまなくて済むわ」
目の前に佇む女性は静かに言うと、不気味な笑みを浮かべ、彼の頬に手を伸ばした。
氷の様に冷たい感触に、ロナードはゾッとした。
(いや……だ)
ロナードは、言い知れぬ恐怖に身を震わせ、目元に薄っすらと涙を浮かべ、心の中で呟く。
「……けて。 たす……けて……」
ロナードは、か細い声で、目の前に佇んでいる女性にそう懇願するが、彼女は不気味な笑みを浮かべ、彼を見ているだけだ。
「……ど。 ロナード!」
ふと、何処からか聞き覚えのある声がして、目を開く……。
「大丈夫?」
エルトシャンが、心配そうにロナードの顔を覗き込みながら、そう問い掛ける。
「エルト……」
ロナードは、ボンヤリとした表情を浮かべながら、力なく呟く。
「酷く魘されていたよ」
エルトシャンは、心配そうな表情を浮かべたままロナードに言う。
背中が汗でじっくり濡れていて、物凄く体が怠くて、頭の中がボンヤリとしている……。
「……ここは?」
ロナードは、ボンヤリとした表情を浮かべたまま、掠れた声でエルトシャンに問い掛ける。
夜なのか、部屋の中は蝋燭の明かりだけで薄暗く、辺りもとても静かだ。
「心配しないで。 ちゃんとミストの村に着いたよ。 君は、地下神殿でラシャ様に運ばれている途中で意識を失ってしまったんだよ」
エルトシャンは、優しい口調でロナードに言う。
「地下……神殿?」
ロナードは、ボンヤリとした表情を浮かべたまま、力なく呟く。
「覚えていないの?」
エルトシャンは、戸惑いの表情を浮かべながら問い掛ける。
「分から……ない……」
ロナードは、ボンヤリとした表情を浮かべたまま、力なく答える。
「ええっ! だ、大丈夫? 何処かで頭でも打った?」
エルトシャンは、焦りの表情を浮かべ、ロナードに問い掛ける。
「おう。 水、貰って来たぜ」
水差しとコップを乗せたお盆を手に、レックスが部屋に入って来て、エルトシャンに言う。
「どうしようレックス。 地下神殿に入ってからの事、覚えてないみたいなんだ」
エルトシャンは、焦りの表情を浮かべ、レックスに言う。
「なっ……。 お前、大丈夫なのかよ?」
レックスは焦りの表情を浮かべ、近くのテーブルに持っていたお盆を置くと、そう言って、ベッドの上に横たわっているロナードの側に来る。
「熱は……無いみたいだけど、念の為、セシアを呼んで来てもらえる?」
エルトシャンは徐に、ロナードの額に片手を添え、心配そうな表情を浮かべながらレックスに言うと、彼は頷き返し、急いでセシアを呼びに部屋から出て行った。
暫くして、レックスがセシアを呼んで部屋に戻って来た時には、ロナードはまるで気を失った様に深く眠っていた。
「……強力な魔力で、精神に干渉した形跡があるわ……」
セシアは、眠ってしまっているロナードの脈などを取り一通り観察してから、神妙な面持ちで言った。
「なっ……」
「一体、誰が?」
彼女の言葉を聞いて、レックスとエルトシャンが戸惑いの表情を浮かべ、呟く。
「地下神殿に居た時かも知れないし、ここに着いてからかも知れない……。 相手が誰なのかも分からないけれど……。 酷く疲弊しているわ」
セシアは、ロナードの手を握りしめながら、沈痛な表情を浮かべながら言う。
「それって……誰かが、ロナードの精神を支配しようとしてるって事?」
エルトシャンは、戸惑いの表情を浮かべながら問い掛けると、
「恐らく……」
セシアは、複雑な表情を浮かべながら答える。
「何の為にだよ?」
レックスは、戸惑いの表情を浮かべながら問い掛ける。
「力のある術師を手に入れたいと考える輩は、そこら中に居ますわ。 私も物事が良く分かっていなかった若い頃は、欲に塗れた権力者たちに騙され、悪事に手を染めた事があるわ」
セシアは、複雑な表情を浮かべ、重々しい口調で語った。
「……僕たちは、そんな悪い奴等から、ロナードを守る事が、彼の力を借りる対価と言う訳だね?」
エルトシャンが、真剣な面持ちで言うと、
「貴方やレックスは、対価なんて言う、そんな薄っぺらい感情で動く様な人では無いでしょうけれど、敢えて言えば、そうね」
セシアは、苦笑いを浮かべながら答えた。
「誰がしてるのか分かれば、締め上げられるのによ」
レックスは、苦々しい表情を浮かべながら呟く。
「一時凌ぎですけれど、ロナード様を守る為にも、この屋敷の周囲に急ぎ結界を張るわ。 手伝って貰えるかしら?」
セシアが真剣な面持ちで二人に問い掛けると、
「勿論だよ」
「任せろ」
エルトシャンとレックスは、真剣な面持ちで言うと、頷き返す。
世界最高峰の峰々が連なる、ランティアナ大山脈の麓の小さな村ミスト。
嘗て、『血の粛清』の一件で責任を追及され、オルゲン将軍が一時、隠居生活をしていた、オルゲン家の別宅がある村だ。
ロナード達が到着して数日後、セネトが手配したハニエル等に連れられ、オルゲン将軍が合流して来た。
「お父様!」
オルゲン将軍の到着を聞いて、アルシェラか嬉々とした表情を浮かべ、そう言いながら、馬車から降りて来たオルゲン将軍に駆け寄り、勢い良く抱きついた。
「おお。 アルシェラ」
抱きついて来たアルシェラを抱き止めながら、オルゲン将軍は穏やかな笑みを浮かべる。
「ご無事で何よりです。 伯父上」
エルトシャンは、オルゲン将軍の無事な姿を見て、安堵に満ちた表情を浮かべながら言う。
「将軍……」
エルトシャンの後ろに控えていたロナードも、安堵の表情を浮かべている。
「そなたにも心配を掛けたな」
オルゲン将軍は、苦笑いを浮かべながら、ロナードに声を掛ける。
「いいえ……」
ロナードは、複雑な表情を浮かべながら答える。
「ご苦労だった」
セネトが、少し遅れて馬から降りて来た、灰色の外套に身を包んだ、背の高い二人に声を掛けると、その二人は揃って頷き返した。
(誰だろう……)
メイは、その二人を見ながら、心の中で呟いた。
「此方は、儂を助けてくれた恩人だ」
オルゲン将軍は、穏やかな口調でエルトシャン達に、灰色の外套を身に着けた、背の高い二人について説明した後、
「さあ。 挨拶を」
自分の後ろに控える二人に言うと、二人は顔が見えないくらいに、深々と被っていたフードを払った。
白銀の髪を有した、温和そうな青年と、夏の日差しを思わせる、見事な金髪を有した、ガッチリとした体つきの美丈夫……。
(はわわわ……。 二人ともめっちゃイケメン!)
メイは、二人を見た途端、興奮して、頬を紅潮させながら心の中で呟く。
「王弟殿下……」
「レヴァール様……」
エルトシャンとセシアが、金髪の美丈夫を見ながら、狐に抓まれた様な表情を浮かべ、ポツリとそう呟く。
(ええ?)
(今、何て?)
メイとレックスは、戸惑いの表情を浮かべ、心の中で呟くと、思わず金髪の美丈夫の方を見る。
「揃いに揃って……。 国王の弟がそんなに若い訳が無いだろう」
彼は、苦笑いを浮かべながらそう指摘する。
(えっ。 じゃあ誰?)
メイが、戸惑いの表情を浮かべ、心の中で呟いていると……。
「……え」
ロナードが何かポツリと言ったので、メイ達は彼の方へと目を向ける。
「あに……うえ……?」
ロナードは、酷く驚いた表情を浮かべ、動揺しているのか、微かに肩を震わせながら呟く。
「久しいな。 ユリアス」
金髪の美丈夫は、少し気恥しそうにしながら、ロナードに向かって言うと、微かに口元を綻ばせた。
「本当……に?」
ロナードは、戸惑いの表情を浮かべ、声を震わせながら言うと、思わずオルゲン将軍の方を見ると、将軍は穏やかな笑みを浮かべ、頷き返すと、ロナードはポロポロと両目から涙を流し、
「あに……うえっ」
涙声で言うと、金髪の美丈夫は何とも言えない表情を浮かべ、ロナードの前に歩み寄ると、
「お前は相変わらず、泣き虫だな?」
優しい口調でそう言うと、涙を流しているロナードの頭を優しく撫でると、ギュッと彼を抱きしめると、ロナードは彼の胸元に顔を埋め、声を上げて泣き出してしまった。
「今まで、連絡一つ寄越さなくて済まなかった」
金髪の美丈夫は、すっかり困り果てた表情を浮かべ、泣きじゃくっているロナードに言う。
「良かったな。 ロナード」
その様子を見て、セネトが貰い泣きをした様で、目元を手で拭いながら呟いている隣で、セシアも感極まって、涙を流しており、事情を知っているオルゲン家の私兵たちも、思わず涙を流す者もいる。
「え……」
「どう言うこと?」
デュートとアルシェラは、何の事やら理解出来ず、戸惑いの表情を浮かべながら呟く。
「死んだと思ってた兄貴が、生きてたんだろ」
シャーナが苦笑いを浮かべながら、状況を理解出来ていない二人に説明すると、
「あ、そう言う事スか」
「いきなり泣き出すから、どうしたのかと思ったわよ」
シャーナの説明を聞いて、デュートとアルシェラは、戸惑いながらもそう呟いた。
屋敷の中に入り、暫くして……。
「落ち着いたか?」
金髪の美丈夫は、優しい口調で、隣の椅子に腰を下ろしているロナードにそう声を掛けると、彼は小さな子供の様に頷き返す。
その目は泣き腫らし、真っ赤になっている。
これまで見た事も無い程、ロナードは滅茶苦茶に泣いていた。
「つまり、オルゲン将軍の窮地を助けたのが、ロナードの兄貴だったって事かい」
シャーナが、落ち着いた口調で言うと、
「そうだ」
オルゲン将軍が、落ち着いた口調で答える。
「ね~ね~。 ロナードのお兄さんも、めっちゃイケメンじゃない?」
アルシェラが凄く嬉しそうな表情を浮かべ、隣に座っていたメイにそう耳打ちする。
「そ、そうですね……」
相変わらず、空気の読めないアルシェラの発言に、メイは苦笑いを浮かべながら返す。
(今、気にしなきゃいけねぇ所は、そこじゃねぇだろ)
アルシェラの言葉が聞こえたレックスは、冷ややかな視線を彼女に向けながら、心の中で呟いた。
「改めて、ご挨拶致しますね」
銀髪の柔らかな物腰の青年は、穏やかな口調で、エルトシャン達にそう切り出してから、
「此方はシリウス。 本当の名前は違うのですが……。 私はそう呼んでます。 私は彼の相棒のハニエルです。 宜しくお願いしますね」
そう言った。
「ご親切に有難うございます。 それに、伯父上を助けて頂き、心から感謝します」
エルトシャンも、にこやかに笑みを浮かべながら、シリウスとハニエルに言った。
「ではお前が、エルトシャンか。 言われてみれば確かに、幼い頃の面影があるな」
シリウスが、落ち着いた口調で言うと、
「先程は、本当に失礼をしました。 レオフィリウス様」
エルトシャンは、苦笑いを浮かべながら言う。
「気にするな。 それより、弟が世話になったな」
シリウスは、穏やかな口調で言うと、
「いえいえ。 お世話になっているのは、僕らの方です」
エルトシャンは、ニッコリと笑みを浮かべながら、そう返す。
「えっと……。 二人は顔見知りスか?」
デュートが、戸惑いの表情を浮かべながら、エルトシャンに問い掛けると、
「まあ、そうだね。 レオン様の方が一つ年上なんだけど、幼い頃に何度かお会いした事があるよ。 勿論、ロナードにもね。 まあ、ロナードは幼かったから、僕の事は覚えてなかったみたいだけど」
エルトシャンは、苦笑いを浮かべながら答えた。
「何だ。 それならそうと、言ってくれれば良かったのに」
ロナードが苦笑いを浮かべながら、思わずそう言うと、
「いや、だって、年に数える程度しか会わなかったし、何より君、最後に会った時はまだ、ヨチヨチ歩きの赤ちゃんだったからね? 覚えてる方が怖いよ」
エルトシャンは、苦笑いを浮かべながら答えた。
「セネトとは、どう言う関係なんだい?」
シャーナが、シリウスに問い掛けると、
「セネトは雇用主だ。 私とハニエルは傭兵を生業にしている」
シリウスは、淡々とした口調で答える。
「二人との付き合いは長い。 今回の様に困った事があれば、良く二人にお願いしている感じだ」
セネトが、苦笑いを浮かべながら、そう付け加える。
「成程ねぇ……」
シャーナが、『納得』と言った様子で呟く。
「ラシャ様には、言わなくて良かったんですか?」
メイが徐に、シリウスに問い掛けると、彼は物凄く嫌そうな表情を浮かべ、
「必要ないだろ」
そう言うのを聞いて、ロナードは思わず苦笑いを浮かべる。
「そうもいかんだろう。 二人とも、そなたが事故で亡くなったと知って、酷くショックを受けていたのだから……」
オルゲン将軍は、苦笑いを浮かべながら、シリウスに言う。
「サラサは兎も角、ラシャには死んだままにしておいても、何ら問題はない」
シリウスは、明らかに嫌そうな顔をしながら言う。
「どんだけ嫌いなんだよ……」
その様子を見て、レックスがポツリと呟くと、それを聞いて、メイが苦笑いを浮かべる。
「別にラシャは、憎くて口煩く言っている訳では……」
ロナードがは、苦笑いを浮かべたままシリウスに言うと、
「それは分かっている。 だが、毎回一言余計なんだ。 あの烏」
相変わらず、嫌そうな顔をしながら答える。
「まあ……。 その気持ちは、分からなくはないが……」
ロナードは、少し困った様な表情を浮かべながら言うと、二人のやり取りを聞いて、オルゲン将軍は溜息を付いてから、
「儂から、それとなく、伝えておこう」
シリウスにそう言うと、
「そうしてくれ。 会えば、数十年分の嫌味と不満を、ネチネチと言われそうだからな」
彼は、ゲンナリとした表情を浮かべながら言った。
「何にしても、喜ばしい限りだ。 今日は盛大に祝おう」
オルゲン将軍は、物凄く嬉しそうに、ロナードとシリウスに言う。
「何だかんだで、一番喜んでいるは、爺様じゃないか」
シリウスは、苦笑いを浮かべながら言うと、
「当然だ。 死んだと思っていた者と、こうして再会出来たのだぞ? これ程喜ばしい事はそうそうないぞ?」
オルゲン将軍は、嬉々とした表情を浮かべながら言うと、
「そうですね」
エルトシャンも、ニッコリと笑みを浮かべながら言う。
「今夜は、ご馳走スね!」
デュートも嬉々とした表情を浮かべ、声を弾ませながら言うと、
「やったぁ!」
アルシェラも嬉しそうに言う。




