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異世界巨神考  作者: 九行 透
第二章 「ろぼっと始動と神話の終わり」
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13/18

参話

 具体例として、その原型となった「アラク」を例に取ろう。「アラク」の体高は人の10倍に近い。10倍の速さで歩き、走り、跳躍すれば数十倍の高さに達する。止まったり向きを変えれば10倍の慣性ががかかり、着地の衝撃も10倍に近い。戦闘行動ともなればその凄まじさは推して知るべきであり、よほど頑健な者でも耐えるのはまず不可能――だが「アラク」は平然と動いて見せた。魔術を使っていたからである。胸の前、心臓の位置に当てた呪紋盤。それを介して発した膨大な魔力により、シライ・マサトは己の身体の外側に魔力でできたもう一つの身体を形成した。それと同時に、同じく呪紋盤を介してその巨大な身体に己の意識を重ねて新たな己とすることで、生身の自分への影響を軽減もしくはほぼ無くしていたと推測される。10倍の衝撃はあくまで10倍の「自分」が受け、本体に伝わるのはあくまで本体の分のみ……人形に己の意識を移して操る古来の魔術、「人形遣い」の応用になるが、それを人と巨大な“ろぼっと”との間で行っていたということだ。当然、その発想も実用化も世界初のものであり、当時の王国魔導師ネルビク・セスナの創案と見る向きが多いが、あるいはシライ・マサト本人の発案という可能性も捨てきれない。

 ともあれその魔術的な構図は、そのまま「ネズレ」にも移植された。さらなる応用と言って良い。

 魔力で構成した身体に代えて、魔力を通して一体化した金属の機体を己とする。

 意識を重ねて生身の感覚のまま操るために、人型すなわち大型の甲冑を使う。

 より魔力の少ない者でも扱えるように形を変えて「アラク」を模倣し、その力の一部を再現したもの。「ネズレ」とは王国の古語で「模倣するもの」を意味するそうだが、まさにその名前通りに造られた“ろぼっと”だと言えるだろう。


 しかしその一方で、「ネズレ」は完成体では無かったとの見方も強い。おそらくは実験機として造られたものであろう。本来であればこれを元に試験を重ね改良を加えて、万人向けとはいかぬまでも、一定の魔術の素養のある者なら扱える状態にする予定だったに違いない。おそらくはシライにしか扱えない、「アラク」の後継機種として。

 だが「アラク」の突然の喪失に伴い、「ネズレ」は急遽未完成状態のまま戦場に投入されることになった。そしてそのことで図らずも、同機の凄まじい威力と致命的な欠点の双方が、初陣にて衆目に晒されることになったのである。


 * * * * * *


―― 帝国暦334年:??? ――


 あたしは大きく息を吸い、吐いた。目を見開いた。

 何も見えない。光がない。ただ身体の前面に固い金属の感触だけがある。「ネズレ」の内側、胴体の部分だ。

 四頭立ての馬車で運ぶ「ネズレ」は輸送の時にはうつ伏せの状態で、背中の搭乗口から出入りするようになっている。そこへそのまま乗り込めば、搭乗者も「ネズレ」の体勢を真似ることになる。

 伸ばした両足は、機体の脚の部分と多くの管で連結された、長靴のようなものに差し込まれている。

 左右の腕は肘から先を模した金属板、やはり大量の導管がついたものにはめ込まれている。

 それらを感じつつ意識を集中しようとして、ふと、兄様の言葉を思い出した。

“世界を変える方法は、一つじゃない”

 兄様はそんな言い方で、あたしに魔法のなんたるかを教えてくれた。

“世界のすべてのものに遍在している魔法の力は、それを集め、形を与えることで世界の在り方を変える。ある種の奇跡を起こすんだ。ニィズ、君の持つ力は特に強い。だからまず意識しよう。意思によって呼び起こそう。僕が見るに、君の力は――”

 青い炎。

 静かに、しかし力強く燃える炎。

 それを自身の内に“視る”。

 引き出し、巡らし、次第に速め、荒れ狂わせ、体内を無尽に満たす。自身が炎と化したかと錯覚するほどに。

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