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陰キャJKのやり直し転生~いじめられっ子のはずなのに運命が私を逃がしてくれません~  作者: LAST STAR
第2章 Hello Different world

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第9話 獣人という名の奴隷

奴隷契約を結んだ稲森君は宿に向けて淡々と街中を歩いていく。

どこかその背中は孤独そうで、今までの様子とは一線を画しており、リリーちゃんに発せられる言葉も妙に尖る。


「改めて僕は稲森優輝だ。これから君の主人マスターになる。よろしくな」

「よ……よろしくお願い……しまぅ……」


緊張のあまり言葉を噛んだリリーちゃんはさらに縮み上がったようになってしまう。


「(……なんか、稲森君らしくない)」


でも、私はその言葉をグッと堪えた。そんな小さいことで稲森君とはいがみ合いたくない。それに私の関心はリリーちゃんの方にあった。


「(……。今みたいに普通に話すことも怖がっちゃうなんて……どれだけ辛い思いをしてきたんだろう……? 私みたいな性格ならともかく、このくらいの年齢の子なら楽しい事だってたくさん、たくさんあるよね……それができていないって……)」


そう考えれば考えるほど、私の心はグッと締め付けられる。けれど、リリーちゃんにとって今日は新しい始まりであるようにも思えた。それは最早、既視感を覚えるほどに他人事ではないように感じる。


「(こんな私に手を差し伸べてくれた稲森君ならきっと……)」


そう、私に手を差し伸べてくれた彼なら大丈夫だと信じてやまなかった。


「(私も何かできることがあったらしてあげないと……というか、そもそも手伝えることなんてあるの……かな? ――あれ、なんだろう? なんか私たちすごく見られてる?)」


街中を行き交う人たちの横を通り過ぎるたびに強い視線を感じ始めた。


「(……? やっぱり見られてる……よね?)」


その視線に嫌な、いやな予感を感じながら稲森君が宿屋シーラスの扉を開ける。

するとカウンターにはライザちゃんが居て、真っ先に反応した。


「あっ、随分と早いかえりだ――っ…………!」


ライザちゃんの表情が笑顔から一気に睨みつけるような表情に変わり、カウンターから出てきた彼女はいきなり稲森君の胸ぐらを無言で掴んだ。


「っ……! クッ、このっ……!」


何の前触れもなく、ライザちゃんは素早く右手を後方に引いて稲森君を殴ろうとする。しかし、そこを間一髪でジークさんが止めに入る。


「チビ助、やめろ!! 相手はお客さんだぞ!!」

「は、離して!! こいつらは――!」

「いいから離れろって言ってんだ! この馬鹿が……! ったく!」


ジークさんが間に入ってライザちゃんを稲森君から引き剥がす。

そして、それと同時にジークさんも軽蔑するような、嫌悪するような視線を向けて不快感を示すように低い声で私たちを威圧し始めた。


「別に客の嗜好をどうこう言うつもりはねぇが、あまりいい趣味とはいえねーな?」

「(奴隷のこと……だよね……?)」

「分かっていますよ、それくらいは……。出て行けって言うならそれでも構いません。ただ、せめてこの子にまともなご飯を食わせてやってください。もちろん代金は支払いますから。この通りです。お願いします」

「はぁ? ……ったぁ……アンタってやつは……」


そして稲森君は躊躇なくお金を出してそう言った。いくら紳士的な態度を取ってもこの状況では完全な捨てセリフだと思った。しかし、ジークさんは一度、目を瞑ってからライザちゃんの肩に手を置いて静かにこう告げた。


「はぁ、席に案内してやれ」


その言葉を聞いた瞬間、ライザちゃんが目を見開く。


「ジークさん、それは……!」

「ライザ……。お前だって分かってんだろ? 獣人の――まして、奴隷を相手に金を出して「飯を食わせてやってくれ」なんてことを言える人間が、《《そういうこと》》をすると思うか?」

「そ、それは……」

「俺たちと『同じ』なんじゃないのか?」

「っ……。……分かった。こっちへ」


腑に落ちない表情のライザちゃんだったが、ジークさんの説得もあって私たちを入り口から一番、離れた奥の席へと通した。席に着くなり、稲森君はすぐにライザちゃんに声を掛けた。


「とりあえず、暖かくて何か食べやすいモノをお願いできるかな」

「……はい」


依然として稲森君や私には厳しい目線ながらもオーダーを受けて戻っていく時には、リリーちゃんに対して心配そうな目で見つめていた。そして、逆に稲森君も気落ちするような視線をライザちゃんに向けていた。これはきっと何か裏がある。


私の知らない奴隷という単語では語れない『何か』があるに違いない。


「ねぇ、稲森君……何か隠してるよね? ライザちゃんのこととか。……あ……でも、話したくなかったらその……」

「……。先輩は気付いていないようですけど、ライザもジークさんの奴隷なんです」

「えっ? あ、あのライザちゃんが?」

「ええ、リリーにも付いているような首輪を付けているでしょ? それが奴隷の証なんですよ。この子たちの種族は人種迫害で大半が殺されるか、奴隷にされているんです。だから、街中じゃ変な目で見られていたという訳で……」

「そう、だったんだ……。だから、あんなにライザちゃんは必死に――でも、待って? 人種迫害って何があったの……?」


唐突にホイホイと出てくる言葉についていけなくなった私は彼の言葉をなぞるように問いかける。すると、稲森君は渋い顔をしながらどう説明したモノかと少し悩んだ後、ゆっくりと話始めた。


「詳しい話は省きますが、ある時、隣国にある『ケルタニア帝国』の王様に対して反意が高まったことがあるんです。その時、王様は武力で鎮圧をしようとしたんですが、ある一人の獣人が報復としてその王様の家族を殺してしまったんです。それで、その国の王様は獣人を滅ぼそうと決めた。その過程で投降した者は全て奴隷にしたんです。それこそ、労働力や娼婦としてね……」

「そんな……。ライザちゃんが、リリーちゃんが殺したわけじゃないのに……そんなのってあんまりだよ……」


確かに鼻孔をツンと突く獣臭がリリーちゃんからは漂っているけれど、幼い小さな女の子だっていう事に変わりはない。この子だって私と同じ人間なんだからそんな事が許されていい訳がない。


そんな思いを察してか、稲森君は苦虫をすり潰すように語り続ける。


「……でも、そんな過去が、現状があるからこの子たちは奴隷として売られているんです。それはもう、取り返しのつかないほどに浸透してしまっている」

「どういうこと……?」

「――坊主の言う通り、まったくその通りだ。獣人は奴隷。それがこの世界の常識になっちまったからな。昔はそんな事はなかったってのによ……」


全てを知っているかのようにジークさんが喋りながら料理をリリーの前に置き、私の方を見る。彼の目はもの凄く悲しそうな目をしていた。


「坊主が言っていたケルタニア帝国って国はな? 大陸でもイチ、ニを争う影響力を持っている。今でこそエルンガルトもどっこいどっこいになってきたが、基本的には帝国の意向は強く働く。だが、所詮は“他国の話”だ」

「(……?)」

「つまりだ。エルンガルトみたいな他国から見れば『人間として扱わなくても構わない』って影響力がある帝国が言うなら獣人を奴隷にして儲けたって良い。そう考える輩が五万と居るってわけだ。――チッ、まったく胸糞悪い話だ」


舌打ちをしながら言い切ったジークさんは目に鋭さを残しながら私たちを眺める。


「すまん、感情的になっちまった。……だが、坊主。その子を連れて歩くなら覚悟を決めろよ。街中じゃ何が起こるか分からないぞ」

「もちろん、覚悟なら最初から決めています。必要があれば《《どうするべきかも》》」

「っ……。お前、一体何者だ? 初めにライザと会った時もミスオーダーを見逃した件もそうだし、奴隷を従えながら簡単に食事を要求してくる度胸といい、先を見通したような目でそんなことを言える威勢――明らかに只者ただものじゃないな?」

「いまさら、料理のフルコースみたいに言わないでください。……僕らは転生者なんです」

「……! じゃあ今朝の変な魔力の波動は――」


稲森君がジークさんの言葉にしっかりと頷くとすべてを察した視線を送って来る。


「なるほど。転生者……か。逸話みたいな話だし、信じがたいが……信じてやるよ。あんなゾッとする感覚は今まで感じたことなんて無いからな。それに、お前の目は自信がある人間にしかできない目をしている。まるで、アンタに心配されるまでも無い、そんな風に言っているような目だしな」

「はい、心配はご無用です。僕にはここがありますから」

「(さすがにそれは……馬鹿にし過ぎじゃ……)」


稲森君はジークさんを小馬鹿にするようにトントンと頭を人差し指で叩いて見せた。正直、出ていけと言われたっておかしくない。だが、ジークさんの反応は逆で呆れたように少し笑った。


「フッ、若造の癖に随分な啖呵たんかを切るんだな、お前。……まぁいい。うちはどの道、明日から閑古鳥が鳴くんだ。居たければ居ればいい。ライザの奴だって『そういう面』じゃ暇にしているからな。――だがな、忠告だ。その子に何かしようものなら分かってるな?」

「分かっていますよ。では、そこで提案なのですが」

「提案? この期に及んで何を提案しようってんだ?」


訝しむジークさんを他所に稲森君は部屋の安売り交渉を始めた。


「(ここで……値切り交渉ってさすがに……ん?)」


不意に横を見るとテーブルに乗せられたご飯をじーっと見つめるリリーちゃんが居た。目の前には彼女のために作られたご飯があるのだから食べればいいのに、ひたすら唾をゴクリと鳴らしているだけで手を出そうとしない。


「ど、どうしたの? 食べていいんだよ?」

「……!? こ、これ……私が……食べていいんですか?」

「うん、もしかしてリリーちゃんが嫌いなものだった?」


ブンブンと首を振ったリリーちゃんはずっと下を向いたまま、動かなくなる。


「(もしかして熱いモノがダメ……なのかな? ネコちゃんみたいな耳だし」

「ぁ……。っ……」


冷ましてあげようかなと皿を移動すると目が料理を追尾している。

やっぱり、お腹が空いているけど熱くて食べれないのだと思った私は一口、スプーンによそって息を吹きかけて冷ましていく。


「ふーふー。はい」

「あっ……。ん……う……んっ……。くっ……!! はむっ……!」


どうしよう、どうしようと悩みに悩みあぐねた後、リリーちゃんはスプーンに乗った料理を口に入れた。すると、すぐに目がパーッと開いた。


「お腹、空いてるでしょ? 全部、リリーちゃんのだから食べていいよ」

「ん……う……うーん……うっ……」


私が料理とスプーンをリリーちゃんの前に差し出すなり、また何やら悩み始めた。

その姿があまりにも可愛くて思わず、微笑がこぼれる。


「ううう……っ……!! は、はむっ、はむっ!」


すると、手を震えさせながらスプーンを勢いよく手に取って、この世の終わりが数秒後に待っているかの様な勢いでご飯をかき込んでいく。


「(そんなにお腹空いていたんだ……?)」

「はむはむっ、げほっげほっ……!」

「誰も取ったりしないから……ゆっくり食べて。……ね?」

「ん……」


料理を堪能していくリリーを横目に、私はこれがお母さんが言う『見ているとお腹がいっぱいになる』っていうやつなのだろう。


「(……。お母さん、大丈夫……かな)」


もうどうにもできないことだけれど心配になってしまう。

そんなことを考えているとジークさんの声が響いてきて我に返る。


「そ、れ、で? 安く泊まりたいとほざいたお前らはこれからどうするんだ?」

「お願い続きになるんですが、お風呂を貸していただけませんか? その……リリーをお風呂に入れてあげたくて……」

「はぁ、ったく……本当にお前ってやつは……。お人好しなんだな?」

「お人好しじゃありませんよ。当たり前のことです」

「ふっ、そうだな。いいぜ? もし、うちの客が獣臭いだの、何だのとほざく奴がいたらソレはこっちで対処してやる。気兼ねなく使ってこい」

「ありがとうございます。その……先輩、リリーの事、お願いできますか?」

「う、うん、任せて……!」


なぜか稲森君にそう言われて心が躍った自分が居た。

当のリリーちゃんは右の頬っぺたにご飯粒を付けて動揺するように固まっていたが、私はそんな彼女の口を拭いてあげてから手を繋ぎ、ジークさんと共にお風呂場へと移動し始めた。


すると、ジークさんは物珍しそうに私へ声を掛けてくる。


「それにしてもあんた……実結って言ったか? あの坊主もそうだが、本当に獣人に対して嫌悪感を抱かないんだな?」

「それは……まぁ、猫耳はあるけど……同じ人間だから……」

「そうか、あぁそうだな……。アンタらみたいな人が増えたらいいんだが……。さぁ、ここが浴場だ」

「えっ……? 地下?」


通されたのはカウンター脇から下に降りる階段だった。そこには温泉と書かれた文字が天上にぶら下がっていた。


「……まぁ、入れば分かるさ。女湯は完全に出入り禁止にしておくからゆっくり使ってくれ」

「……? ありがとうございます……?」


ジークさんが去って行く中、私たちは脱衣場へと足を踏み入れる。すると、ヒノキの良い匂いが漂ってくる。


「……すごくいい香り。じゃあ、入ろっか?」

「あっ……えっと……うんっと……」

「大丈夫だから……ね?(昔の私にそっくりだなぁ……)」


どこか映像のフィルムで見たような情景を思い出しながらビクビクしているリリーちゃんの脱衣を手伝って、浴室の扉を開けるとガラス張りのヒノキ風呂がお目見えした。しかも、遠目だけれど海辺が見渡せる。


「す、すごい」

「うん、すごいね……?」


リリーちゃんとお風呂の湯船に近づきながら私が話を被せると少しだけ距離を開けられてしまった。やっぱりまだ信頼はされていないみたいだ。


「じゃあ、お風呂に入る前に体を流しちゃおう?」

「ひゃい……」

「リリーちゃん、そんなにビクビクしないで? 体を洗うだけだから」

「え……? にゃぁ……!」


動揺するリリーちゃんを洗体用の椅子に座らせてゴシゴシとシャンプーを泡立てて頭の上から順々に洗い流していく。尻尾があることに少しは驚いたものの、綺麗に丁寧に洗っていく。


「リリーちゃん、かゆいところはない?」

「はい……あの……その……えっと……」

「……? もしかして……痛かった?」

「あっ……いや、そうじゃなくて……な、なんてお呼びしたら……」

「私のこと……?」


リリーちゃんはビクッと反応して下を向いて固まってしまう。

でも、自分から関わってきてくれるのは嬉しい。やっぱり、私にはそういう才能というか、間の取り方ができないから嬉しかった。


「私はミユ……」

「……。ミユ、さん……」

「そう、ミユ。……それが私の名前」


お風呂場に体を洗い流すジャパァーという音だけが響く。


「よし、これで綺麗になったかな……?」

「あ、ありがとう……ございます」

「せっかくだし、お風呂も入ろ?」

「いや、私は――え? あの、あの、私は……」

「(こういう私みたいな手合いには……こうだよね……?)」


恥ずかしかったけど私から手を繋いでリリーちゃんをお風呂に入れる。するとまるで、溶けたような表情になっていった。


「ふにゃぁぁ……はっ!? ……あ、あ、あの、その、決してくつろいでいたとか。そんなんじゃなくて……えっと……ごめんなさい……」

「……? なんで謝るの? お風呂なんだもん、くつろいでいいんだよ……? 気持ちいいね?」

「……ぁ……」


まるで、ハトが豆鉄砲を食らったかのように薄っすら口を開けてリリーちゃんは固まってしまった。


「……? どうしたの……?」

「い、いえ……あの、私のこと……呼び捨てで呼んでください。ちゃん付けじゃなくて……」

「よ、呼び捨て……。うーん……苦手、なんだよね」

「……あ、あの……別に無理に……というわけじゃ……」

「でも……その、頑張るね? えっと、リリー」


自分の名前を呼ばれてハッとしたのか、あるいは私みたいに恥ずかしかったのか分からないけれど、お互いの顔がブワッと赤くなってくる。


「(もう……恥ずかしすぎる……)」


頭の中でグルグルと思考を回していると不意にお風呂場の扉がノックされた。


「は、はい……!?」


私が返事をするとそこにはライザちゃんが洋服をもって立っていた。でも、なぜか頬や目元が赤くなっていたように見えた。それにすごく目を見開いていた。


「つ、連れの人から獣人の子の洋服を預かってきたから置いておきます」

「あ、ありがとう……! ライザちゃん」


ライザちゃんは洋服を置くと素早く去ろうとしたが、私がお礼を告げるとピクッと一瞬、立ち止まって走り去っていった。


「(ライザちゃん……?)」


何か無性に嫌な予感を抱きながら私たちはしばらくの間、お風呂に漬かるのだった。

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