第69話 魔王を貫く神の声
「ちきしょう。魔王の装甲が固すぎる。」
「こうなったら、攻撃ポイントを3つに分けましょう。一つのチームが休んでいる間にもう二チームが攻撃する波状攻撃でいきます!」
バタバタと前線では指揮が飛び交う。
そうしてリリーと稲森君が下がってきたタイミングで事件は起こった。
「マスター、あの怪物、ますます攻撃速度があがってるの、だから――!」
「はっ! まずい、大技が来ますっ!! 全員、防御か回避を!!」
まるで何かをチャージするかのような音が響いたと思った途端、様々な所に紫色の球体が顕現し、禍々しく発光していく。
「先輩ッ!!」
「うっ……」
その刹那、横っ飛びで稲森君が私を押し倒す。
とてつもない爆発エネルギーが周囲を吹き抜け、目を上げて見れば由美子やリリー、玲奈ちゃんも含め、全員が外側に大きく吹き飛ばされ、戦闘を継続できる状態ではなくなっていた。
「くっ……リリー! 由美子っ……。稲森君……今のはいったい――え? いなもり……くん?」
「うぐっ……ちきしょう」
何が起こったのか、聞こうとした最中に映ったのは頭部から血を流した稲森君の姿だった。明らかに私が食らうはずだったダメージすらも稲森君が吸収したのだろう。
致命傷に近い傷だ。
「あぁ……だめ! すぐにポーションを……! 今、取り出すから」
だけど、稲森君は私の手をグッと掴む。
「逃げてください……先輩。すぐに範囲攻撃が……」
「そんなこと言っている場合じゃない……! このままじゃ稲森君が――」
「僕のことよりみんなを……」
ほんとうに馬鹿な人だ。
なんで自分のことより、他人のことを優先できるというのか。
だからだ。だから守りたい。
そんな優しさがあるから、誰かを守ろうとする強い意志があるから私は彼を好きになったんだ。見捨ててなんて行ける訳が無い。
「誰も。誰も見捨てないし、死なせない!!」
私がガタつく膝に鞭を打ち、弓を構える。
とはいえ、強大な相手を前に手が震える。この一撃で仕留められる訳が無いのに。
でも、もしかしたら追い打ちの攻撃を止められるかもしれない。
それに撤退をしようにもこの状況じゃやりようがない。守りたい。でも、守れない。
守れる策が思いつかない。
そんな葛藤に苛まれていると稲森君が予見した通り、魔王は剣で頭上をくり抜き手を掲げる。するとバチバチと音を立てて再びチャージが始まる。
あぁ、本当にダメだ。逃げれない。
ごめん、稲森君……。私たちはこれで終わりだ。
「先輩! 白鳥、先輩……くそっ……ダメだぁ……! ――実結!! 前に走れぇ!! 早くぅ!!」
稲森君の魂のような叫びに私は無意識に背中を押されて半身、前に出る。
その刹那、バーンッという落雷が広間一体に広がった。落雷らしいダメージによって全員のHPが0になって霧散していく。
またしても奇跡的に耐えた私のHPは5。
最早、風前の灯だ。頼みの綱の稲森君も居ない。
この無情な光景に涙が溢れ、頬を伝う。
「うっ……ぐぅぅ……この、この……よくも、よくも稲森君を……由美子も……みんなまで!! 絶対に、ぜったいに許さない!!」
「はは、負け犬め。それしきのHPで、わずか一人で何ができる。所詮は遠吠えであろう。さぁ、そなたも黄泉の世界へ送ってやろう」
弓をつがえる手がカタカタと震える。
私も、コイツに殺される。そう思うと逃げ出したくなった。
それでも、私は最大限、引っ張って矢じりを魔王の顔面に向ける。
「私の大切な人を……大好きな稲森君を……お前は殺した!! 例え……たとえ刺し違えてでもやってやる……!! 絶対に……ぜったいにぃ!!」
「<よく言った。よく言えたね、実結?>」
まるで心に同調するかのように声が頭に反響する。
「<うーん! あとは私に任せんしゃい! とっておきをお見舞いするから体、借りるよぉ?>」
「ぇ? きゃあああ!?」
自分の意志に反して体が反射的に動く。
「なに? それだけの動きができるほどの体力ではないはずだが――」
「それはあら残念っ! チート華々しいプレイヤーチェンジだからさぁ? 悪く思うなぁよっと!」
「(私の口まで奪われたぁ!?)」
建物の構造を利用して側転したりバク転したりして機敏に動く。目の前で繰り広げられているのが、本当に自分の身体なのかと思わず、疑ってしまう。
「<そーんな驚くことじゃないでしょうに。さぁ、仕上げと行こうか。合図したらこう言って『ウィザ・ディレクションアロー』って>」
「(ウィザ・ディレクションアロー……?)」
「<そう! ナイスアクセント! 実結ちゃん、英語上手いでしょう?>」
そんな心の会話を交わす中、魔王は高らかに笑う。
「ガハハハハ! そんな逃げているだけのお前に何が出来る。所詮、威勢の良いだけの小娘ではないか」
「むっ……頭っ来た!! その言葉、あとで後悔しても知らないからなぁ!!」
「(いや、まぁ、頭に来るのは分かるけど……本当に逆転できるの? というか、あなた、そもそも誰なの!?)」
「<うーん、まぁ、いずれ分かるって! んじゃあ、合図行くよ? さっきの言葉忘れないで!>」
三度、ぐるんぐるんとバク転しながら建物上部へと向かっていく私の身体。
そして、バレリーナのように宙を舞い、飛躍しながら弓に矢をつがえる。
「<はい! じゃあ、合図へのカウントぉ~3、2、1――今!!>」
「「ウィザ・ディレクションアロー!!」」
矢が放たれた瞬間、碧い空気を纏った何かが矢じりに纏わりついて大きな光となって超加速を見せる。まるでレールガンのような一撃は魔王の胴体を頭上から貫き、木っ端みじんに霧散させた。
「<わぉ~きったねぇ花火だぜFOOOO!! 上空からの眺め最高じゃん>」
「いや、その……今のは一体……?」
「<あ~うーん……まぁ、あとで話すよ。おうん、ちょうどいいなぁ……ここ! ――んじゃあ、えへ、ごめんねぇ?>」
「え……? きゃあああああ」
何者か分からない女の子の声が消えた途端、私は上空から地面に向かって自由落下を始めた。当然、そんな落下ダメージに耐えられる訳もなく、私のHPは全損。
そこで意識を無くしてしまったのだった。




