第68話 魔王軍の真実
パリン、カキィン――。
壮絶な剣撃から発せられる爆音と火花。
それはスピードが上がるにつれて再び煙の中へと消えてゆく。
だが、その結果は唐突な野川さんの敗北で終わる。
「うっがぁ……!」
ざぁーっと音を立てて地面を滑走しながら倒れ込む野川さんを前に稲森君はふぅっと息を吐いて剣を仕舞う。その目には疲れが滲み出ていたが、安堵したような表情を見せながら野川さんに声を掛ける。
「これで問題なしだろ? 野川さん」
「うん……ありがと。また助けられちゃったね。綾斗、終わったよ!」
「え、待って。これ、どういう……こと?」
綾斗君の元へ駆け寄る野川さんをみながら稲森君は私の横に立つ。
「――2人は魔王アルグスの従属化を受けていたんです」
「あっ、それって……隷従の、首輪?」
「ええ。2人が僕らと接敵したとき、やたらとマウントを取るように自分たちを指さしていたじゃないですか。あれはこの首輪に気付かせるためだったんですよ」
真偽は分からないものの、最初から二人は首輪の破壊を狙って今回の襲撃を画策したことは想像に難くない。私たちとしては、あまりの強敵に半壊まで追い込まれたが、結果的に強力な力を持つ綾斗君と野川さんが味方に付くことは間違いがないだろうし、大きな戦力アップにつながるはずだ。
私たちは円陣をくむようにして座りながらポーションを飲む。
「いってぇ……優輝、お前さ? 少しは手加減しろよ」
「悪いわるい。中々、首輪だけを狙って攻撃っていうのは難しくて」
「まぁ、でも……これでようやく、魔王軍ともおさらばだ」
「そうだね。これで綾斗も私も自由になった。あ、えっと、あなた……」
野川さんは何かを言いかけて口ごもる。
そうか、言われてみればまだ、名乗っても居なかった。
「実結……白鳥実結です」
「実結ちゃん。実結ちゃんに怖いこと……しちゃった。ごめんなさい、本当はそんなつもりじゃなくて……」
「大丈夫。理由は稲森君から聞いたから」
由美子が鋭い眼光で睨む中、野川さんは返答に安心したようで私の手をそっと握る。
「私は野川雪。彼は立花綾斗。この二人とも優輝君とは元々、同じ高校で同級生だったの」
「うん、これからよろしく」
私が短く言うと綾斗君がそっと雪ちゃんの肩に手を回す。
「ちょっと! 重い、重いって」
「いいじゃんか? ずっとあの隷従の首輪のせいで張りつめっぱなしだったんだしさ? これくらい」
「だからってなんで今っ――!?」
雪ちゃんの顔が赤くなる様子からしてこの二人、やっぱり出来ているんだろう。
少しうらやましい――なんて感情はなくも無いけれど、少し幸せな気分になる。
「まぁ、それも……そうか。確かにこれからは何も縛られないし、今やる必要は無いか。ほら少し場が和むかと思ってさ」
「馬鹿言え。元凶が和ませようとしてどうすんだよ。それに人様の前でイチャつくとはな? 野川さんが好きだーとか言っていた二か月前のお前はドコ行った?」
「うるせえ! それは言わない約束だったろ」
「そうだったかもな? まぁ、隷従の指輪からも解放したんだし、さっさとゲートを壊して街でゆっくり――っ、待てよ」
浮つく綾斗君を上げようとしていた稲森君の表情が強張り、赤いゲートを見つめる。
「――魔物が出てきていない」
「は? それがどうしたって言うんだ」
「このゲートは……魔王が本格的に進行するためにノエル王女の研究機関と一緒に作った物だよな?」
「あ、あぁ……そうだけど?」
「そこまでの熱量をかけて幹部すら送り出しているのに後詰めを出してこない。ましてや幹部の動きは常に見ているもんだろう」
「まさか……」
「ああ、こっちの動きが筒抜けになっている可能性がある!」
「コレクト、まさにその通りである。裏切り者には死の制裁を――!!」
声が轟いた瞬間、赤いゲートから黒く忌々しいレーザー光線のようなモノが走る。
咄嗟だったものの、綾斗君と雪ちゃんが魔術的なバリアを展開する。
「くぅぅぅ……」
「ちきしょう、なんだぁ、このパワーは――!」
バリーンという音と共にすさまじい爆風がその場に吹き荒れる。
顔を見上げて見れば綾斗君と雪ちゃんのHPパラメーターが赤くなっており、回復したはずの全員のパラメーターがかなり削られていた。
「まずい、このままじゃ……ふたりが――!」
ポーションを飲み捨てて剣を構えた彼が立ち上がるが、その行動は一瞬止まった。
それもそのはずだ。私も見た光景を信じられなかった。
「ここは……魔王城!? あの一瞬でどうやって」
「はははっ! 簡単なことだ。貴様らをテレポートしたのだよ。殲滅するためにな」
禍々しい玉座に大半が黒曜石で作られたおどろおどろしい内装。
正に魔王の居城としてはぴったりだが、私たちとしては最悪な状況だ。
「まずは歓迎のおもてなしだ。ゆっくりと部外者が嬲られるのを楽しむがいい」
魔王アルグスが手を広げるとどこからともなく、魔物たちが這い出てきて襲い掛かり始めた。その狙いは綾斗と雪ちゃんだった。
「雪ちゃん……!!」
「綾斗っ!! 魔物ども、そこを退けっ!!」
「坊主、嬢ちゃん!! 落ち着け、もう奴らは無理だ! 助けられん。ライザ、全員にポーションを飲ませるんだ。この隙に体制を立て直すんだ」
ジークさんは私たちをグッと肩を掴んで冷静に指示をだす。
ほぼ同タイミングで雪ちゃんと綾斗君が居たあたりから青いブルーエフェクトが舞い上がる。
「ちきしょうっ……!!」
稲森君は握りこぶしを作って憤りをあらわにするが、それも束の間だった。
魔王アルグスは高らかに笑う。
「はははははっ! 実に呆気ない。裏切りを起こしながら無残に死ぬとは……くくっ、やはり人間というのは馬鹿の集まりだ。ガハハハハ」
「黙れよ」
「あぁ? まだ分からないのか? 人間風情が我々、魔族と戦ったらどうなるのか簡単に分かると思ったのだがなぁ……」
「お前等こそ、僕らと戦って生きて帰れると思うなよ」
「ふん、口先だけは一端だな。そこまでいうなれば……この魔王、アルグスが相手になってやろう。部下を鼓舞するのも魔王の仕事だからな。行くぞ」
その刹那、目の前に居た魔王の姿が消える。
ブンッと高速な横凪が稲森君を襲うが、華麗にジャンプで躱して見せる。
そして、そのまま落下速度のまま剣を振り下ろす。
――ガシャゥイン!!
しかし、その一撃は貫けず、地面を滑走する。
稲森君の表情からして貫ける自信があったのだろう。
「っ……!? お前が防具なんて聞いたことが無い!!」
「当たり前だ。それは言っていないからなぁ? ガハハハ!! お前に勝ち目はないぞ、転生者よ」
「くっ……でも、これだけの人数が居れば、防具も崩せるはず! 白鳥先輩以外は前に詰めて攻撃をしてください」
その言葉に玲奈ちゃんが一番に反応する。
「だけどよぉ……アタシらは手負いだ。こうも連戦じゃ勝ち目なんて――」
「大丈夫です。奴の攻撃は剣技のみ、それに真面に受け止めさえしなければ、アイツの攻撃は怖くない。このメンバーなら見切れます」
「あぁもう! こうなったらやるしかないですね、ジークさん!」
「ったく、もう散々だ。ライザ、自分の身を一番に考えろよ」
「それはジークさんだけには言われたくないですねっ!!」
ブンッとライザちゃんが軽快なステップで飛び込んで斬撃を切り入れる。
それを皮切りに玲奈ちゃんとジークさんが突っ込む。
「僕らも行きますっ! 先輩は遠距離から奴の頭部を狙ってください」
「分かった……! でも、みんなっ! 気を付けて」
「うん、心配しないで。無理だと思ったら退くから援護、よろしく」
そう言って全員が駆け出していく。
目の前では凄まじい斬撃の数々が魔王に目がけて振り下ろされる。
「私も……負けてられない。弓の境地――疾風の一撃!!」
ふらつく大型の魔王。
その挙動を読んで何発も頭部へと撃ち込む。
だが、その攻撃の大半はガチガチに固めた防具によって簡単に防がれる。
「まずい……まずいよ……」
攻撃が通らないだけでも焦るのに前線では確実に異変が起きていた。
明らかに魔王の攻撃速度が上昇しているのだ。それだけではなく、隙が出るとスキル技を打って来たり、魔術のようなモノでこちらへと攻撃を放ってくるのだ。
「どうしよう……でも、私はやれることをやるしか――」
危機感のジレンマに陥りながらも私は必死に魔王へ攻撃を続ける。
いつか、あの巨体が倒れることを願って――。




