表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰キャJKのやり直し転生~いじめられっ子のはずなのに運命が私を逃がしてくれません~  作者: LAST STAR
第5章 パワーバランサー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/70

第65話 影の亡霊

「リリーを離せ! ジェラビッツ!」

「――!? 貴様、なぜ俺の名を知っている?」


稲森君はリリーの部屋へと飛び込むと襲撃者の名前を叫ぶ。

名を呼ばれた襲撃者もまさか自分の名を呼ばれるとは思っておらず、警戒したように部屋の暗闇から独特な低い声で返してくる。その一方、リリーは既に襲撃者の手によって人質にされ、目から涙が零れ落ちている。


「マスターぁ……みゆさん……!」

「すぐにその子を離してっ……!」


私は咄嗟にそう叫びながら弓をつがえるが、その射線上に稲森君がはみ出る。


「僕らは転生者だ。獣人を無碍に扱うことはしていない! だから、その子を解放してくれ。リリーは僕らの大切な仲間なんだ」

「仲間……? そんなこといくらでも――」

「じゃあ、この宿を利用している事をどう説明するんだ! ジークやライザとは一月以上の関係だ。2人から獣人を保護してほしいとでも依頼があったのか?」


襲撃者は無言のまま、鋭い眼光をこちらに向ける。


「いいや? しかし、タレコミがあったんだ。獣人を無碍に扱い、命を奪おうとしている奴がいると――。それに、表の仮面を被ったやつが本性を見せると思うか? いい奴振るに決まっている」


そう言うと窓が開き、三人の獣人が飛び込んで来て、素早く弓や剣を構える。その動きを見て、襲撃者の男はジリジリとリリーを連れて窓際に下がる。


「ある意味ではジークも年老いて勘が鈍ったんだろうよ。俺の目にはお前ら人間の誰も彼もがヤバい奴にしか見えねぇーんだよ」


まずい、このままでは連れ去られると私が覚悟したその時だった。


「嫌っ。イヤぁぁ……マスターからのぉぉ……!」


リリーが強く暴れ、ベッドの上に置いてあったスノードームに手を伸ばしたのだ。

その様子に襲撃者の動きがピタリと止まり、小さく呟く。


「そんなことなど……」

「――ありえない。そう、それが俺らの見解だった。でも、こいつらは違うんだ」

「ジーク。お前までもがこいつら人間の肩を」


宿の扉越しに旧友と話すかのような口調でジークさんが語り掛ける。


「違う。誰も人間の肩なんて持っちゃいないさ。俺が言っているのはあくまで『こいつ等』の話だ。他の人間の話じゃない」

「そうですよ、ジェラビッツさん! ジークさんの目に間違いはありません! それはこのライザも保証しますっ!」


襲撃者はあくまでも人間を『敵』として見ているようで、一切の気を許さない。

それでも積み重ねられた状況証拠で心が揺らいでいるのが見て取れた。その様子から私は弓を下ろして稲森君の横に立って可能な限り、必死に訴える。


「お願いですっ、リリーを連れて行かないで! 私たちは……リリーと一緒にご飯を食べたりお風呂に入ったり、冒険をしたりするだけで酷い事なんてしてないっ……お願い……お願いだから私の大切な家族を連れて行かないで……!」

「嬢ちゃん……。ジェラビッツ、もう分かっただろう? お前が動く大義名分はどこにもない。大体、この嬢ちゃんらみたいなやつがそんじょそこらにいると思ってんのか?」

「何を言っている。単にお前が騙されて、肩入れしているだけにちが――」

「そうじゃない。感情論で言っているんじゃないんだ。こいつ等はな、獣人の奴隷に同等の金額を払って飯を出してくれと言い、風呂に入れさせてやってくれと言った。まして、獣人だけの為に個部屋まで用意するんだぞ? この街にそんな人間が他にいるか? それも数か月もの間だぞ!? 言いたいことはわかるだろ」


ジークさんが発した言葉は他の誰が発した言葉よりも説得力があった。

襲撃者の彼、ジェラビッツさんもこれにはため息を付き、リリーを離す。


「お前がそこまで言うんだ。放してやる。一様、話の整合性は取れているからな」

「おいで……リリー!!」

「ミユさんっ……ぅあああん」


リリーは私の胸下に飛び込んできてきっちりと抱き留める。良かったと安堵する反面、その心の内底では怒りが増し始めた。こんな状況に至ったのも全てヒメアさんのせいだからだ。


そんな最中、ジェラビッツさんは冷静に片方の耳元を手で押さえた。


「指揮官より全隊へ。今回の救出作戦はフェィクだった。カモフラジュの可能性がある。各員、外部からの二次攻撃に警戒せよ。それから諜報班は依頼してきた獣人の裏を取れ、何者かが我々の動きを探っている可能性がある。少し手荒な方法でも構わん。自白させろ」

「――あら、怖い怖い。自白を無理くり取ろうなんて~私の協力者を壊さないでもらっていいかしら? アハハハハ!」

「情報屋のヒメア。……ということはお前の差し金か」


その声を聞くや否や、ジェラビッツさんは前へと踏み込むが、部屋に眩い閃光がパッと灯り、視界が揺らぐ。


「その辺にしてもらいましょう。別に我々はあなたがたとの交戦意志はありません」

「あなたは……ギッシュさん?」

「やぁ、久しぶりだね。こんな再会になって残念だよ」


忽然と現れたギッシュさんは普段とは違う黒装束を身に纏い、私を見る。

彼の周囲には魔術的な複数のオーブが宙を浮遊しており、圧倒的な存在感を放っている。


「ありがとぉ~危うく首を跳ねられるかと」

「まったく、君という人は……いつもいつも先走る。――それで、戦うんですか、戦わないんですか? ジェラビッツ・ハインデルト」


互いに睨み合いになるが、ジェラビッツさんは宙で握りこぶしを振って何やら指示を出す。すると、私にも分かるほど、人が去って行く気配が分かった。


「やめておこう。どうせ、お前等のことだ。俺たちの配置も全て読んで計算しているだろう。それに『世紀の情報屋集団』と争ったところで何のメリットも無い」

「賢明な判断です。先ほども言ったように我々には戦闘の意志はありません。むしろ、情報を提供するために偽情報を捏造し、ご足労頂いたわけです」

「それはそれは……随分と面倒なことだ」

「それだけ、ヤバい案件ってことよ。そして、あなた達じゃなきゃ、今回の作戦は決行しても意味が無いのよ」


ジェラビッツさんが皮肉を言うとヒメアさんがさっきまでのおチャラけとは違った真面目モードに切り替わり、先ほどまで私たちに話した内容をすべて話した。


「俄かには信じがたい話だな。だが、可能性はない訳ではないという事だけは分かる。こちらでも調べてから動かせてもらう」

「はぁ……そう言うと思った。だから、検門所や軍の施設の設備状況を見て回ったの。そうしたらおかしいくらい手枷や拘束具が納入されている。しかも、その経路をたどってみたら王城から出ているのよ。今までずっと小分けで搬出されていたからパッと見は分からなかったけどね」


そう言って複数の資料をジェラビッツに手渡す。

すると、彼はその束を放り投げた。


「ふざけるな、これだけの綿密さ。本気で計画してやがる!! さてはお前等……この事に気付いておきながら黙っていやがったな!? ここでまたあの惨劇を起こすつもりか!」

「まさか。私が、そんなことを許すと思う? 絶対にさせないわよ。それにね、原因は根元から取るに限るじゃない。ふ、ふふふふっ」


過去一、気持ち悪い笑いをヒメアさんが発すると王城の地図を出した。


「いい? あなた達、獣人部隊は今夜、あのバカ――ノエル・エルンガルトからアルフレッドを救出しなさい。軟禁場所はここ。解毒剤もあるわ」

「アルフレッドを? アイツは獣人迫害を容認しているんだぞ?」

「だからなに――? 話は最後まで聞きなさい、三下が」


ヒメアさんは狂ったようにジェラビッツへ接近する。その瞬間、今まで見たこともない『魔女のようなオーラ』を漂わせる彼女に全員が息を飲む。


「あなたたちは救出をしたら転生者、イナモリの命で来たことを伝えて。その足で彼ら転生者と合流。明朝、調印式に乗り込むわよ」

「そんなことをして何の意味がある? 調印式に乗り込んだとしても混乱するだけだろう?」

「馬鹿ね、大義名分はこちらにある。イナモリは転生者として獣人に救出を依頼し、国の危機を救う。もちろん、あなたたちは表にはでれないけれど、転生者に対しての恩義もある以上、あなた達、獣人を守って欲しいという意志もアルフレッドには伝わる」

「引き立て役――そういうことか。まぁ、俺らの立ち位置らしい仕事だな」

「ええ。アルフレッドへの事情説明は美男美女カップルに頼むわね?」


ヒメアさんは頑張ってボケて元の雰囲気へ戻そうとしたようだが、どう足掻いても全員の認識が裏の姿が強すぎて再び黙りこくる。すると、ヒメアさんは『やっちゃったかしら』という顔を浮かべて締めに掛かる。


「あ~まぁ、とにかくよ。全員の利害は一致している。この街を好き勝手にはさせないし、戦場にもさせない。そのためにあの女を玉座から引きずり下ろすわよ」

「話は理解した。早速行動する」


そう言うとジェラビッツさんは窓から颯爽と飛び出して行ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ