第63話 あるべき姿に向かって
「リリー……リリーはこれからどうしたい?」
過去を語りきったリリーに私は問いを投げかける。
リリーが先の未来に進むためには彼女が自身が今後、どう進んでいくのか決断しなくてはならない。そして、それが如何なるものでも私たちは受け止める覚悟をしなくてはならない。
「私は……これからもミユさんたちと一緒に……戦います」
一時の間をあけて彼女は悩みあぐねながらも、真剣な眼差しで言い切った。
しかし、そのためには玲奈ちゃんが言っていたように多くの覚悟が必要になる。
「うん……。だけど、戦うだけじゃない道もあるんだよ……? ナイフを見て辛い思いをするくらいなら……そうならなくてもいい普通の生活だって送ることも――」
きっと、リリーの両親も彼女に『生き抜いて欲しい』と願い、戦って散っていた。
それなのに私の存在が逆にリリーを無意識に戦いへと向けてしまっている気がした。
「……そう、ですね。それはミユさんの言う通りかも……です。でも……それでも……私は戦うって決めたんです。強く……なりたいから」
彼女は握りこぶしをギュッと作って私を見つめ、続けざまに稲森君の方を向く。
「マスター、これから先は……ケルタニアの方に……向かうんですよね?」
「え? あ、あぁ……。魔王城は帝国領の方にあるからそうなるな……」
そんな稲森君の言葉を味方に付けるようにリリーは私を再度、まっすぐ見つめる。
「私はその機会を無駄にしたくない。過去を清算しないといけないんです。お父さんと……お母さんのためにも――」
「待ってリリー。それって……まさか……」
その言葉で薄々、リリーが両親の仇を取ろうしている事は分かった。
そんな血を血で洗うことをしたところで解決なんてしようがない。止めに入ろうとするが、彼女の意志は固かった。
「もう、決めたんです。私は……。でも、心配しないでください。あくまで、出来たら……の話ですから。そ、それに! 私がマスターたちの周りで戦って活躍したら、獣人の評価だって……か、変わると思うんですよ」
そう言って笑顔で誤魔化そうとするリリーの表情が揺れる。
これを良しとするべきじゃないと言おうとしたが、玲奈ちゃんが私の肩に触れる。
まるで、承認を求めるような視線のリリーを前に、この状況を無条件に飲めと諭すかのように――。
「……わかった。でも、絶対に無理しちゃだめ……だからね? 辛いとき、苦しいときは苦しいって……ちゃんと言ってね?」
「はい。私、これからはもっと、頑張りますから……!」
一皮むけたような反応をするリリーを見つめながら、私は彼女の意志に反してでも、絶対に復讐はさせないと心の内で誓った。
「ったぁ~く、どんなだけいい子なんだよぉ!」
「ちょっ――ユミコさん!? 何で急に撫でまわして!? わっ、にゃあ!?」
少し暗いオーラを出していたのを気付いてか、由美子がすかさず、リリーとの間に入って目線をこちらに向けてくる。本当に由美子には頭が上がらない。
そんな隙を突いて横に稲森君が立つ。
「先輩。今は……あの子の言う通りにしましょう。多分、それがリリーにとってのバネになるような気がするんです」
「うん。それは私も分かってる。だけど、《《そういう結果》》に終わって欲しくはないの……。だからね……その分、戦いじゃない、いろんな経験をリリーにさせてあげたいんだけど……」
「良いと思いますよ。僕も賛成です。何か協力できることがあったら気軽に相談してくださいね」
そう言いつつ、リリーを見つめる稲森君はどこか楽しそうだった。
それから遺跡の帰路に付くまでの間、稲森君のリリーに対する反応が明らかに緩和していっているのが手に取るように分かった。
遺跡では戦い中心の指導が多かったが、街角の雑貨屋では遺跡攻略に必要なモノを見繕うついでにキラキラしたスノードームを買ってあげたり、ルフラスの実を使ったデザートを買ってあげたりと至れり尽くせりのような感じだった。
それはもう、はたから見たら子と父にみえてしまうような様子に見えた。
そんないつもとは違う雰囲気に彼女は、はしゃいで疲れ切って稲森君の背中で眠ってしまった。
「ふぅ……先輩。今日もお疲れさまでした」
「うん。稲森君も……宿まで負んぶして大変だったよね。お疲れ様。ふふっ……」
「ん? 嬢ちゃん達、何か良いことでもあったのか。ニヤニヤして」
「あぁ~リリーちゃんが遊び疲れたんですって! さっき寝て帰ってきた時はびっくりしましたよ。怪我でもしたのかと」
シーラスのカウンター越しにライザちゃんがホッとした表情で私たちを見つめるが、すぐにジト目で横に視線をずらす。
「本当、リリーちゃんは普通の女の子みたいに楽しそうな顔してたなぁ。いいですよねぇ~。まぁ、わたくしライザは別にうらやましいなんて、これっぽっちもおもってないですけどねぇ~?」
「いや、あのなぁ……ライザ。うーん、参ったなぁ」
ジークさんは弱った魚のように困ってしまっていると由美子がさらに矢じりを放る。
「えー? まさかライザちゃんに何も? 何も買ってもらってもないのー?」
「そう! 由美子さん、そーなんですよ! 私、最近何も買ってもらってないんですよねぇー。いつも店の洋服ばかりだし……グスン」
「年頃の女の子なんだし~買ってあげた方が良いんじゃないですか? いつも頑張っているみたいだし」
ジークさんは完全に逃げ場を失って慌てる。
「分かった。分かったから! んじゃあ、今度行くか?」
「イエス、マスタァー!、マスターのエスコートとあれば喜んで!」
そうしてジークさんを陥落させたライザちゃんは由美子とガッツポーズをかます。
どうやら最初から二人に仕組まれていたようだが、終ぞジークさんは財布の心配故か、自分の不甲斐なさ故かテーブルに手を付いて落胆しているのだった。
「由美子……いつ、そんなにライザちゃんと仲良くなったの?」
「え? 何、もしかして嫉妬?」
「……そんなんじゃないけど」
「ったく、可愛い親友だなぁ~もう!」
由美子に抱きつかれてワチャワチャしている中、玲奈ちゃんの静かな声が響く。
「おい。気付いてるか? 誰かがこの宿を見てんぞ?」
「いつの間に。果たして敵か、味方か……。玲奈先輩、さすがですね」
「こういう修羅場だけは潜ってきたからな。それで稲森、どーすんだ?」
「……索敵スキルを当てにする限り、この宿を取り囲むように数人います。排除しようにも相手の戦力が図れない以上、迂闊に動くのは危険かもしれません」
「笑えねぇ。とにかく逃げた方がいいだろ」
玲奈ちゃんの問いにこくりと稲森君が頷いた途端、宿屋シーラスの扉が開く。
「お邪魔するわよ? って……何? なにみんな怖い顔して!? ブッ、アハハハハハハハ!!」
そこに現れたのは場違い華々しい笑い声を上げるヒメアさんだった。




