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陰キャJKのやり直し転生~いじめられっ子のはずなのに運命が私を逃がしてくれません~  作者: LAST STAR
汚れた正義(玲奈のアナザーエピソード)

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第55話 因果応報

「がぁ……美咲……! てめぇ……」


よく見てみれば地面には鮮血が滴っており、有川さんの先には笑みを浮かべた美咲が居た。彼女は私を見つつ、玲奈を見て狂ったように笑い出す。


「あ、玲奈ぁ!! あははははは!! アンタも、アンタも同罪よ!!」

「うっ……がぁ……」


そして、彼女はニタッと笑ってから手を動かすとドパッと地面に血が飛び散り、玲奈が目の前に崩れ落ちる。そこで初めて露わになった美咲の右手には血塗られた短剣が握られていた。


あまりの恐怖に私は言葉を失い、身動きが取れない。

それを良いことに私の方へと向かってくる。

殺される――そう思った矢先、稲森君が美咲へと飛び掛かった。


「このっ!! 武器を捨てろっ!!」

「アハハハ!! 嫌よっ、誰がお前らなんかの言う事なんて――!!」

「みんな、協力して! あの子だけじゃ危ないわっ!」


暴れ狂う美咲に対して稲森君だけではなく、茜の呼びかけでクラスメイト達も抑え込みに参戦する。その様子に私は我を取り戻してすぐ有川さんの元へ駆けた。


明らかに膨大な血が流れ出ていて、ヒットポイントパラメーターが緑から赤に変色して少しずつ減少している。


「だめっ、有川さん! 絶対に死んじゃだめっ……!」

「玲奈、気を確かに持って!! 目を閉じないで!!」

「ほんとうに……すま、ねぇ……」


由美子の声掛けも空しく、玲奈ちゃんの意識が無くなり頭が真っ白になる中で一筋の声が響く。


「はぁはぁはぁ、ミユさんっ! これで……刺されているところを抑えて!! それから……それからっ! ユミコさん、これをこの人に飲ませて!! 飲めなくても口の中に、とにかく早く!」


大声が響く方に目を向ければ背負っていたリュックサックからポーションを握って指示を出すリリーの姿があった。けれど、その表情はこわばっていて全身の体毛が毛立っている。


「わ、分かった!! ほら玲奈っ! 飲んでっ、飲んでってばぁ!!」

「リリー、次は何をすれば――」


私がリリーに指示を乞おうと目線を上げれば、ただただ浅い呼吸を繰り返し、動揺するリリーの姿があったが、私の声に我を取り戻したのか声を張り上げる。


「マスターっ!! 急いでこっちに来てくださいっ!! はぁはぁ……この方に治癒魔法ヒールをっ!! じゃないと……じゃないと死んじゃいますっ!!」

「分かった! 待ってろ!」


稲森君はリリーの声に素早く反応して駆けつけ、玲奈に向かって『治癒魔法』を唱えた。すると、玲奈の身体が緑色に包まれ、赤色だったヒットポイントパラメーターも緑色へと変わって行く。


そんな傍ら、稲森君の様子をみて安堵したリリーは地べたに座り込む。


「よく頑張ったな? 偉いぞ、リリー。今は少し休め」

「……はいっ」

「リリー、ごめん。ごめんね? 私が前に出たばっかりに……こんな、無理をさせて」

「み、ミユさんは悪くありませんっ! ただ……私が……うっ……」


吐き気を模様しそうなほど、気持ち悪そうにするリリーを前に私は彼女を抱きしめる事しかできなかった。ただ、その一方でリリーは『そうなっている原因』と立ち向かおうとしているようで、右手には青色のポーションが握られていた。


「……これを……マスターに……ヒールにはMPが――」

「っ! 分かった、分かったから少し休もう? ね? お願いだから」


私の説得にこくりと頷いたリリーは力なく私の胸の中に埋まる。こんな惨事は予測不能ではあったものの、結果的にリリーのメンタルはボロボロだ。その様子を察してか由美子はリリーの手からポーションを奪い取る。


「リリーちゃん、そのポーション貰うよ。後輩君は――うーん……あぁ、しょうがない。口を開けて」

「へ? 長谷川先輩ぁわい……!?」


あろうことか、由美子は稲森君の口にドポドポと青色のポーションを注ぎ込む。


「くはっ……ゲームだとこんなこと出来ないっていうのにチートも良い所だ。まぁ、ここに至っては良かったですけど……」


稲森君はMPを回復させながら玲奈のヒットポイントを回復させていく。

時間を掛けて玲奈の腹部に空いた穴が修復される中、私たちとクラスメイト達は協力してアルテム遺跡を離脱し始める。


「さぁ、みんな行くわよっ! 実結たちも行ける?」

「う、うん……」

「移動するわよ。みんな、こんな所で死ぬのなんてごめんでしょう!? 絶対に生きて帰る。魔物はどこから来るかわからない、周囲に気を払って!」


茜さんは未だに混乱するクラスメイトたちの中でこの窮地を脱するために司令塔のようになって指示を飛ばす。


「あまり離れすぎず、遠くなり過ぎずに前へ行って! それから美咲っ! あなたは少し落ち着きなさい。人をナイフで刺したんだから拘束されたってしょうがないでしょう?」

「うるさいっ、うるさいっ!! なんでこの私がぁ――!!」


半狂乱している美咲は手を縛られて自由は利かないものの、それでも周りに蹴りを食らわせるなど暴れまわる。そんな彼女を引き連れて王城まで辿り着くとその身柄は軍に手渡され、私たちはすぐさまに王国騎士団の取り調べを受けた。


「それで整理すると……。負傷していたあの玲奈という少女。彼女があの教師を罠にハメて殺し、美咲という少女がその彼女を刺し殺しかけた、という訳ですね?」

「……はい。それであっています」

「大体の状況は把握しました。あとはこちらの方で詳しく調査しますので。ハインテット様たちは宿の方にお戻りください」


ただ『取り調べ』とはいっても、私たちはクラスメイトたちと違い、丁寧な敬意を表す対応を取られる。きっと、問題を巻き起こして帰ってきたとはいえ、ここまでクラス全体のレベルを上げて戻ってくるなど兵士たちは想定して居なかったのだろう。


そんな中、由美子が声を上げる。


「あのっ! 彼女は……美咲はどうなるんですか? それに玲奈は……」

「それは現在調査中ですので分かりませんが、人を故意に殺害することは極刑か、地下牢への投獄になるでしょう。ただ、これは最終的にアルフレッド殿下がお決めになることですので私どもは何とも……」

「――ではアルフレッド殿下に拝謁をお願いできませんでしょうか」


稲森君は声を張る。恐らく、彼はアルフレッドさんに直接、2人の量刑について何か進言しようとしているに違いない。


「(でも、減刑してもらおうにもここは日本じゃない……。だから、この国の制度に従うしか方法は無い。それなら、この国の軍に任せればいいのに……)」


私の隠しようがない黒い思いが広がる中、兵士たちも困惑の表情を滲ませる。


「陛下は多忙なお方です。いくら勇者の一団の方の願いとは言え、我々の一存だけでは何とも……」

「――大丈夫だ。殿下の元には俺が連れて行く」

「サランドール騎士団長!? どうしてここに! 確か隊長も別方面へレベル上げに行かれたはずでは!」

「あの『勇者の一団』は俺の管轄ゆえに早馬が知らせを運んでくれたという訳だ。本当に面倒極まりない連中だ。まぁ、とはいえだ……殺人があった以上は知らぬ存ぜぬでは通せんしな」


騎士団長の『サランドール』と名乗った屈強な男は重そうな甲冑と赤いマントを揺らしながら肩を落とし、やれやれといったような表情をする。それでも周囲の兵士たちは傾注の姿勢を崩さない。それだけ部下からの信頼も厚いのだろう。


そして、彼はそんな兵士たちに答えるように私たちへ堂々と向き合う。


「俺はエルンガルト王国で騎士団長をしているサランドールだ。ある程度の事情は聴いたが、王の謁見の前に最も信頼が置けそうなお前らから話を聞きたい」

「はい。もちろんです」


そこから再び、サランドール騎士団長に詳しい経緯を稲森君が説明する。

すると彼は悲しそうな表情をしつつ、物思いにふけるように視線を宙に投げる。


「何ともやるせない話だ。玲奈の奴は確かに何か起こしそうな気配を出しては居たが、そこまでの怨嗟を抱えていたとはな。だとしても、殺人をした事実は変わらん。事実を伝えるだけなら俺一人でも良いのだが、それだけではないのだろう?」

「はい。僕はアルフレッド殿下に玲奈さんの減刑を直訴したいのです。――先輩、それで……いいですよね?」


彼は振り返ると私に同意を求めるような視線を送って来る。

正直、逃げ場のない問いにズルいなと思ってしまう。


ただ、同時に押し切ってしまえば良い話を私に聞いたのはきっと『私の心の傷を含めた過去』と『目の前で起こっている事実』を天秤にかけてた上での複雑な決断があったことを物語っていた。


「……。わたしは……」


玲奈との確執は高校の入学から始まっていて、その関係は2年以上だ。その中で負った傷は数知れず、いくら玲奈の過去を知ったからと言って消えるわけもない。


「私は……有川さんのやったこと、やってきたことを――」


それでも私の唯一無二の親友である由美子を逃がしてくれた、守ってくれた恩もある。だけど、私の頭の中では『それだけで殺人を正当化していいのか』という思いが渦巻く。


「許せない。だけど理解できないことばかりじゃない。だから王様に話へ行く価値はあると思う。それに多分、だけど……有川さんは孤独、だったんだと思うから。私と同じで――」

「実結……」


私が傷心っぽく言うと由美子が肩をそっと優しく掴んで抱き止めてくれる。

けれど、有川さんには由美子のような存在が居たとは思えない。今、思い返せばいつも孤高で一人、暴れまわっていただけの女の子のような気がする。


由美子も私の言葉に意志を持って言葉を重ねる。


「玲奈がやったことは許されないと私もそう思う。けど……それでも、過去に私を助けてくれた。だから私も付いて行くよ。だって私さ、玲奈に友達って言っちゃったからね。責任は果たさないと」


少し声のトーンを上げながら稲森君に向けて語ると彼はサランドールの方を見て、それが私たちの答えだと言わんばかりに頷く。


「そうか。だが……殿下に会って直訴するならばそれ相応の覚悟をしろ。なにせ、相手は民を持つ王だからな。それが分かっているならばついてこい」


サランドールは私たちを先導しつつ、王であるアルフレッドさんがいる謁見の間へと赴く。何でも名誉授与式の後から客人を相手に話し込んでいるらしく、内部からは軽快で楽しそうなアルフレッドさんの声が聞こえる。


そんな状況で取り次ぎをしなくてはならない扉番の騎士は怪訝そうな顔をしつつも謁見の段取りを整えるのだった。



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