第49話 裏切り
「(いったい……何が起こって……。えっ……? 一人居なくなってる?)」
後ろを振り向いた時、私は気付いた。気付いてしまった。
居たはず斎藤先生が居なくなっていた。
もしも、舞い上がってきたブルーエフェクトの正体が『ソレ』なのだとしたら――。
私が確信へと思い至る前に稲森君が叫ぶ。
「アンタ、自分が何をやったか分かってんのか!!」
「分かってるつーの。だから、そんなキャンキャン犬みたいに吠えんなよ。犬は――犬はアタシだけで充分なんだよ! なぁ、美咲ぃ?」
玲奈は狂気じみた表情を美咲に向けるが、美咲はそれ以上の憎悪と悲しみを込めたような声で叫び返す。
「な、なにをやってんのよ!! せんせぇ!! こんなの嘘、うそよぉ……!! 玲奈ぁぁ……!!!! アンタ、ただじゃおかないっ!! 絶対にっ!!」
「はぁ? 笑わせんなよ。松村の力も無いお前がどうするってんだよ?」
玲奈は敵を見下すような目で美咲を冷酷に見つめる。
それもかつて、私に向けられたような視線よりも数段、鋭いものだ。そんな視線が交差する中、由美子は緊急事態を知らせる警笛を思いっきり鳴らした。
しかし、玲奈は開けた口を一切、閉ざさない。
「まぁ、現実世界だったらよぉ? 松村グループの力を使って、アタシをシレッと殺せるもんな? あ~あれかぁ? アタシも、アタシのお母さんを殺した時みたいに事故死にみせかけて殺すのか? なぁなぁ、答えて見ろよ! 殺人犯の娘さん! はははっ!」
玲奈は自暴自棄になったように引きつったような笑みを浮かべ、意味が分からないことを謡う。その最中、警笛の音を聞いてクラスメイト達が続々と集まってきたのを見て玲奈は美咲へと声を荒げだす。
「あ~わりぃ、わりぃ! それともあれかぁ? タダじゃおかねぇって言うのは刑務所行きって事かぁ? 今までのいじめの主犯に仕立て上げて傷害……いやぁ~殺人未遂ら辺か? それとも由美子の親父みたいに窃盗の罪でも擦り付けるってのもあるなぁ? まぁ、ヒト一人殺っているからそこは苦労しないだろうがよぉ?」
美咲は目を見開き、怨嗟を募らせたような形相で玲奈を睨む。
玲奈はその様子にニヤリと口角を上げる。
「ふっ、まぁどうであれ、この世界には刑務所なんて存在しねぇけどなぁ? それにあったところで、お前に決定権はねぇんだよ!!」
その刹那、玲奈は美咲を地面に突き飛ばした。
そのまま美咲は微動だにせず、酷い喪失感を表出させながら斎藤が落ちた奈落の底に向かって弱い声で泣く。
「なんでぇ……なんで先生を――! せんせーぇぇ……嫌っ、こんなのイヤよ……!!」
そんな様子を嘲け笑うように玲奈は凍るような言葉を放る。
「なんでだと? うぜぇんだよ!! んなの決まってんだろうが!! アタシがお前のすべてをこの手で潰して殺すためだ!!」
「えっ……冗談、よね? 今、わ、わたしを殺すって――」
「冗談なもんか。松村の人間はアタシが殺す。なにせ、お前の父親はアタシの大好きなお母さんを弄んで、その上、自殺にみせかけて殺しやがったんだ!! アタシがアイツの大切な者を殺したって問題ねぇだろ?」
「そんなこと知らないっ! 何よ、逆恨みじゃないっ!!」
「そうか……なら、みんなに聞いてもらおうじゃねぇか。有川玲奈っていうアタシの過去とお前の罪をな――!」
玲奈は酷く激高した表情でツラツラと過去の話を始めたのだった。
それはまだ彼女が幼いころの話だった。




