第47話 共闘
「いいか、夕刻までレベルを確実に上げて帰ってこい!」
アルフレッドさんの緊急事態宣言を受け、名誉授与式は混乱のまま終わりを迎え、私たち転生者は城から追い出された。
「いくらなんでも強引だ!」
「黙れ、これは国王からの命令だっ! 背くというのなら命は保障できんぞ」
国王の命令という大義を持った兵士たちを前に美咲たちは食いつく。
そんな一触即発の状況を漂わせる間へと割って入ったのは稲森君だった。
「――とりあえず、みなさん落ち着いてください。アルフレッド殿下からの命令である以上は僕らはやるしかありません。兵士の皆さんもどうか抑えてください」
兵士はいきり立っていたが、彼が間に入ったこともあって手を留める。
しかし、止めに入った稲森君自身が王国の兵士を『雑魚』と授与式で罵ったという経緯もあってか、いつになく兵士たちの目は厳しい。
「俺たちだって暇じゃない。早く行け、これ以上は抑えられんぞ!」
「あはは……そうします。みなさんは少しこっちへ」
稲森君は苦笑いを浮かべながら、私たちを兵士たちから距離を離してから全体に目を配って冷静に口を開く。
「この国の王であるアルフレッドさんは確実なレベルアップ――つまり、魔王城に挑めるだけの技量を僕らに求めています。ですが、そこまでに到達するには簡単な事じゃない。それは恐らく、皆さんも理解しているはずです」
稲森君は言葉を切って全体を見回してから冷静に言葉を連ねる。
「それでも僕らが既にレベル50に到達しているように不可能な事じゃない。僕らの指示に従ってくれるのなら確実なレベルアップを保証します。みなさんはどうしますか?」
「はっ、なんでぇ~そんな事をしなきゃならないのよ~? 別に良くない? なに? この前の戦いで活躍して英雄気取りな訳~?」
「全ては生き残るためです。他のみなさんはどうしますか?」
「ちょっと! なんで人の話を無視してんのよ!!」
稲森君は美咲からヘイトを受けても、まるで端から答えを期待していなかったように動じない。そこで初めてクラスの一角から声がスッと上がる。
「――危なくないのなら乗ってもいいわよ?」
「失礼ですが、あなたは?」
「あぁ、私? 私は吉田茜よ。よろしく」
切れ長の目に透き通る声は混乱を極める中で一番、落ち着きがあって存在感を放っていた。でも、その行為は美咲にとっては横槍を入れられたも同然だ。
「茜ぇ!! 私を差し置いて何を言ってんのよ! こいつらのせいで私たちがこんな目に遭っているのに協力する必要なんて――」
「はぁ……この状況で、どっちが悪いだの、良いだの言っている場合じゃない。私たちはこのままじゃ、泊っている場所からも追い出されるのよ? みんなのことも少しは考えたら?」
私は茜の至極まっとうな回答にハッとさせられる。現実世界に居た時は私たちに壁を作って干渉しない人というイメージだったが、今は別人のように見える。ましてや、美咲に反抗するなんて相当の覚悟がなければ出来ようがない。
「な、なによ。こいつ等が帰る方法さえ、教えればいいだけじゃないのよ!!」
「――まぁ、いいじゃねぇかよ。どうせ、こいつらは楽にレベルを上げられる力を持っているって訳だろ? んなら、それにあやかってウィンウィンでいこうじゃねぇか。アルテム遺跡ならアタシらは慣れてんぞ、後輩」
「玲奈ぁ!! アンタまで何を勝手に……!」
美咲が癇癪を起す中で思いがけず、玲奈が口角を上げて稲森君の意見に賛同した。
クラスの意見は美咲を除いて私たちの方へと傾く。それを良いことに稲森君は素早く話をまとめ始める。
「ではアルテム遺跡に行きましょう。そこでレベル上げをします。極力、固まって動くので先導する僕らに付いてきてください。長谷川先輩、先輩と一緒に先導をお願いしても?」
「OK! 実結、行くよ!」
「えっ!? ちょっと――」
由美子は私の手を取って全員の前へと駆ける。多分、2人は優しいから美咲たちとの間を空けるという配慮をしてくれたのだろう。向かう道すがら後ろからはリリーの事について根ほり葉ほり聞く玲奈の声が聞こえてくる。
「それより後輩。このちっこいのはどうしたんだよ?」
「この子は仲間です。みなさんみたいに人手がいるわけではないので」
「仲間、ねぇ? 他の連中は物珍しそうに奴隷がとか、獣人がどうの、こうのって言っていたけどな?」
明らかに鎌をかけるような玲奈の発言に稲森君は息を飲みこんで、怒りを詰らせるように言葉を返す。
「そうですか。でも、それは他人の感想です。仮に他の連中がなんと言おうと僕らにとってはリリーはかけがえのない仲間なんです」
「ふっ、そうかよ。まぁ、仲間なんて言うのはそういうモンだよな。これ以上は何も言わねぇよ。美咲じゃねぇんだから」
玲奈はどこか満足したかのように稲森君との会話を打ち切る。
しかし、そんな潔い彼女に反してアルテム遺跡の付近は大きな変容を遂げていた。
「実結、これ……私の見間違いじゃないよね?」
「ううん、道も間違えてないから……でも、さっきと……」
目の前には古城と化したアルテム遺跡の建物のみがそびえ立ち、周囲の草木は栄養分を断たれたかのように枯れ果てていた。




