第46話 勲章授与式
勲章授与式――それは王国において功績を収めた者が国王様から名誉を授かる高貴な伝統式典だ。そんな格式ある由緒正しい式典に私たちは参列していた。
「――静粛に!! 国王陛下のお越しである。皆の者、控えよ!」
近衛兵の一喝で全体が厳粛な雰囲気に様変わりする。すぐに国王陛下であるアルフレッドさんが謁見の間に入ってきたが、その表情から察するに機嫌が悪そうだ。
「皆の者、頭をあげよ。此度の魔王軍との戦いは非常に困難極まるものであった。しかし、我ら王国の前に魔王軍は粉砕され、撤退した。これは他ならない我々の勝利と言えるだろう!」
いかにも王様らしい鼓舞の仕方で人の心を掴んでいく。
「――今宵はその戦いに貢献した者を称える式典である。その目にしかと焼き付けよ。では、名を呼ばれた者は前へ!」
アルフレッドさんは懐に手を伸ばして書面を広げる。
「冒険者『ハインテット』、『ミュウ』、『ユミコ』の三名。ならびに『リリー・ミスリット』」
大衆の面前でモジっただけの名前が呼ばれ、恥ずかしさで顔が瞬時に熱くなる。
そんな事を知ってか、知らずか稲森君は苦笑いをしつつ、私とリリーの手を取った。
「呼ばれましたし、行きましょうか? 先輩、リリー」
「う、うん……」
稲森君に先導されるような形で私たちは足を進める。周囲に居た人たちも私たちが何者なのかと品定めするような視線が刺さって来る。しかし、それは次第に獣人のリリーの存在で下劣な者でも見るかのような視線に変化していった。
私たち4名が国王であるアルフレッドさんの前に出ると、彼は改めて私たちの姿を見回して納得するかのような様子を見せる。その状況に周囲は少し騒めく。
「国王が……獣人の拝謁を許しただと? アルフレッド殿下は気でも狂われたのか?」
「まさか、獣人は人とは相いれないものよ。国王様は獣人に情けを掛けているに違いないわ。心が広いお方なのよ」
当然、そんな声を前にすれば誰だって傷つく。
私はリリーを守るために何も知らない彼らに立ち向かおうと振り返ろうとするが、それを制するようにアルフレッドさんが声を張る。
「――ハインテットを始め、3名の転生者たちとそれに付き従う獣人『リリー』よ! よくぞ魔王軍の大群にも臆せずに戦ってくれた。この戦での諸君らの功績は非常に大きい! よって、褒美を取らす。金貨10万ゴールドを4名に与える。これからも王国の為に忠誠を尽くして欲しい」
その宣言と共にロミテックの表示画面が視界隅に出てきて、ゴールドのカウントがグーンッと上がった。正しい対価とも言える報酬を私たちは受け取ったはずだが、周囲はどうも納得していないようだ。
「10万ゴールドだと……!?」
「あんなどこぞの馬の骨とも知らない奴らがっ――」
「まして、獣人にも……ありえん」
特に上流階級の人間からすれば、私たちは目の仇。
国王様にすり寄る害虫のようにしか見えていないのだろう。その反応を見た稲森君はやれやれと言った顔つきをしながらもすぐに真顔で礼法に沿って跪く。
「国王陛下からの寛大な褒美、誠にありがとうございます」
ただの口上だろうと誰しもが考えた。
でも、『それだけでは終わらない』のが稲森君だ。
「――ですが、アルフレッド殿下。か急に取り次ぎたい件がございます。発言をお許しくださいますでしょうか?」
「か急にだと? うむ、良いだろう。発言を許可する」
「では恐れながら、我々の従者より報告させていただきます。リリー」
「……はい。恐れながら国王様に申し上げます。私たちは『魔王城』の位置を特定しました!」
「な、なんだと……? 魔王の居城を、見つけた……だと?」
「は、はいっ! 魔王城は南の街道をケルタニア帝国の方へ向かった森の中にあります。その存在は高レベルの隠蔽魔術で隠されているようですっ!」
リリーの声が全体に響き、時が止まったかのような空気が流れる。
到底、一介のパーティーが敵の本丸を探し出せるわけがない。それが当たり前の常識だ。けれど、稲森君は誰よりもこのゲーム世界を熟知している。
そして、それを獣人であるリリーが告げる。
――それは『獣人』と『王』との繋がりが深く、確固たるモノであることを民衆へと示す稲森君なりの一手でもあった。
「それは本当か、ハインテット――いや、転生者『稲森 優輝』」
数多の視線が稲森君へ向けられる中、息が上がったリリーの頭をよくやったと言わんばかりに撫でて、謁見の間の入り口の方向をゆっくりと指を向ける。
「全て事実です。それに殿下の私兵が間もなく、同じことを告げに来るはずです」
「何っ!?」
「伝令っ!! 陛下に至急――!」
不気味さを高めるほどに正確なタイミングで伝令が飛び込んでくる。
アルフレッドさんは疑心暗鬼ながらも伝令兵の話を聞くが、目を大きく見開く。
「――恐ろしいものだ。冒険者ギルドの人間や私の兵よりも先に魔王城の場所を突き止めるとは――」
「恐ろしい、ですか……。僕としてはエルンガルト国内における冒険者、兵たちの防衛、攻撃力の無さの方が恐ろしいですが」
「何……? 我々の兵力は数千万規模だぞ? それでも今の力では足りないと貴様は言うのか?」
まさに売り言葉に買い言葉。喧嘩を売るように食って掛かる。
「その通りです。悲しい事実ですが、規模だけじゃどうにもならない。あの魔王城には通常レベル50クラスがごろごろいます。それがこちらに向いたらどうなるか、アルフレッド殿下なら想像がつくはずです」
「レベル……50」
アルフレッドさんは先の侵攻で私たちを救った騎士団長を見やる。
彼のレベルは65.それ以外の兵士たちは高く見積もってもレベル40程度。
中流階級の冒険者たちも幅は広く、良くてもレベル40が関の山だ。
そんな現状を目の当たりにしたアルフレッドさんは蹂躙される風景が頭に過ったのだろう。決断を素早く下す。
「――今日、この時より我がエルンガルトは魔王軍侵攻に付き、緊急事態を宣言する。今、この時を乗り切れなければ明日の繁栄はない! 衛兵はすぐさま冒険者ギルドに警告を発せよ。所属するすべての冒険者に最大限、レベルを上げるように伝達するのだ。併せて、騎士団にもこの旨を知らせ、練度の底上げを命ずる」
正に、王たる威厳をすべて振るうように手を伸ばし、堂々と振舞ってから私たちを再び、鋭い目で射貫く。
「そして、ハインテット。お前たちにも命じる。この戦いにおいては転生者の力が絶対に必要になる。よって、既に『レベル50』に到達しているお前たちには転生者たち率いてレベル上げを行うように命じる」
「僕……たちがですか?」
「そうだ。魔王軍に対抗できるように『仲間たち』のレベルを上げてやって欲しい」
目線を遠くに外す彼に釣られてみれば、その先には敵意丸出しでこちらを睨みつける美咲が居た。そして、その隣で玲奈が悪魔のように微笑みを浮かべて声を上げる。
「街を救った英雄さんに教えてもらえるなんてこの上ないチャンスってもんじゃねぇか。よろしく頼むよ。稲森」
この時より私たちは必然的に美咲たちのお目付け役を命じられたのだった。




