第34話 バレンタイン・プレゼント(稲森君の過去)
翌日、2月13日の午後、僕は部活が終わってから野川さんとの交わした約束を守るために正門の前で彼女が来るのを待っていた。集合時間になると誰かを尾行している探偵ではないかと勘違いするほど、警戒した様子の野川さんが自転車でやってきた。
「部活、お疲れ……さま……?」
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。綾斗には先に帰ってもらったから学校には居ないよ」
「そ、そっか! ありがとうね? いろいろと気を使ってもらって」
「いいや? で、どうする?」
「う~ん、近場のショッピングモールを回ってみようかな? あそこならいろいろ店があるし」
「じゃあ、とりあえず、行ってみよう」
「うんっ!」
この田舎で唯一、経済が回っていると思わせてしまう程に巨大な大型ショッピングモールに僕たちは足を運んだ。そのモール内には服屋やアクセサリー店、家電量販店といった様々なテナントが立ち並んでいる。いわゆる、複合商業施設だ。
「いろいろな店があって訳分からなくなるなぁ……ええっと服に、アクセサリー? それから電化製品かぁ……。稲森君は何がいいと思う? もちろん、チョコレート以外で、なんだけど」
「うーん。そのさ、昨日も言ったけどあいつは『心がこもっている物』ならなんだって喜ぶと思う。だけど、強いて言うなら……そう、身につけられる何かがいいんじゃないかな? 『今後の二人のため』にも」
「こ、今後のためっ……」
ちょっと意地悪っぽく言うと野川さんの顔がプワーッと赤くなっていく。
「それにこっそり練習を覗きに来たとき、綾斗がそのプレゼントを身に付けていたら野川さんだってうれしいでしょ?」
「えっ!? ま、まさか私が見てたこと……気付いてたの!?」
「いや、僕じゃなくて綾斗が気づいてたんだよ」
「そ、そうだったんだ? ……ええっ!? でも、それってつまり、私にも脈があるって事だよね? でなきゃ、誘いだって断るはずだし」
「事前に情報をリークするのは気が引けるけど……あいつ。野川さんとのデート、楽しみにしてるみたいだったよ?」
野川さんはそう聞くとパーッと笑顔を振りまく。
「よ、よーし! なら、プレゼント選びすごーく頑張らなきゃ! 次、あのお店行ってもいい?」
「スポーツ用品店?」
「そう、今の話を聞いて閃いたの!」
入店すると野川さんは真っ先にあるところへ向かった。
「なるほど……リストバンドか」
「うん! でも、陸部って走るでしょ? コレ、邪魔になったりしないかな?」
「いや、大丈夫。練習のときなら問題は無いと思う。こうやって汗を拭うのにも使えるしね? あ、ちなみにあいつは青色が好きだよ」
僕がそう助言すると野川さんは真剣な様子であれでもない、これでもないと吟味し、そのまま青に白のラインが入った厚みの薄いリストバンドを2つ買った。
「ペアルックか」
「うんっ! この白のところに文字とか入れられそうだし、そういう使い方をしたいなぁ~なんて思いもあって……えへへっ」
「すごくいいと思うよ? こりゃあ、綾斗が貰ったら頑張らないわけには行かなくなるな。もちろん、野川さんも」
「じゃ、じゃあ! その……お会計してくるねっ!?」
慌てた様子で野川さんは会計の方へと駆けて行った。
本当に感情を読み取り易くて分かりやすい子だと思わず、思ってしまう。会計を済ませた彼女は満面の笑みで納得のいく品を買えてご満悦のようだった。
「稲森君、今日は本当にありがとうね! 何かお礼をさせて?」
「いや、いいよ。僕も思い人のために買い物をしていこうって思えたし、それに気付かせてくれただけで充分だよ」
野川さんはどこか浮かない表情をして居たが、このモールは非常にデカいだけあって、ウチのクラスメイトが買い物に来て居たっておかしくは無い。二人で居るところを見られたら勘違いだってされかねない。
「はい。じゃあ、これで僕の仕事はおしまい。いろいろ準備があるでしょ? 早く帰って準備してきた方がいいよ。僕もここでプレゼントを探したいからさ」
「うん……。でも、必ずこのお礼はするからね! じゃあ、また学校で!」
店で買った物が入っている袋を少し上げつつ、野川さんは手を振る。僕も手を振り返し、『野川さんと綾斗の恋が成就するように』と微かに心で願いながら彼女を見送った。
「さてと、流れでああは言ったけど……やっぱり、ドキドキする。こっちも何か買おうかな?」
あんなにも乗り気な2人の雰囲気を身近に感じていれば僕の気持ちも自然と浮ついてしまう。高価なモノは無理でも何かを贈りたい思いに駆り立てられる。
「そうだ。『全国制覇のお守り』ってことで渡せば――うん」
『逆バレンタイン』と言うには違う気もするが、少しでも意識してくれたらなんて欲張りな考えだと思う。それでも、いつまでも一緒に居たいと思っているからこそ、僕の足は自然に動きだした。とはいえ、ザッとモール内を見渡してみたものの、何が良いのかサッパリ見当がつかない。
「さっきまでは『心がこもっていれば何でもいい』みたいな、偉そうなこと言っていたけど……いざ、自分の好きな子に送ると考えるとなぁ……うーん。ん?」
女性物のアクセサリー店があることに気付いて、何かあるかなとフラッと店に立ち入る。恵だってこういうアクセサリーには少なからず、興味があるはずだ。
「……とはいえ。女性物の小物を選ぶほどのセンスが無いんだよな」
「――お客様、何かお探しですか?」
さすが、バレンタインデーの前日。
店員の動きも素早い。まるで狩人のようだ。
「あ~いや、その……女の子へのプレゼントを探していたんですけど、こういうプレゼント選びには疎くって……」
「その方の写真とかありますか?」
「あ、ありますけど?」
「ちょっと見せていただいてもよろしいですか?」
「は、はい……まぁ、別に構いませんけど……」
店員にスマホで恵の写真を見せるとヘアピンや安めのネックレスを15分程、かけて紹介してくれた。正直、どれもコレも恵には似合いそうで悩んだのだが、店員の勧めでハート型のネックレスを手に取った。
「じゃあ、これにします。コレが似合うと思うので」
「はい、お買い上げありがとうございます。では、今度は彼女さんと一緒に来てくださいね?」
「アハハ……し、失礼しますっ!」
僕は会計を早々に済ませて苦笑いを零しながら逃げるように店を後にした。手の中で持て余してしまう程に場違いなピンク色の箱を部活用のエナメルバックに入れた。
「(正直、恵の反応は想像できないけど……喜んでくれたら嬉しいな)」
そんなことを考えながら僕は移転車に乗り、家路へと着いたのだった。




