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陰キャJKのやり直し転生~いじめられっ子のはずなのに運命が私を逃がしてくれません~  作者: LAST STAR
第3章 Distorted world

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第30話 魔王軍幹部、襲来

「あれは一体……」

「あいつらは魔王軍の幹部です。しかも、二人同時に現れなんて……最初の王国襲撃では出て来ない設定のはず……! なんで……やつらが……!」


稲森君の顔は真っ蒼になる。彼の言葉から推察するに予想外の強敵であることは明白だ。しかし、予想外なことはそれだけではなかった。

空中を歩いてきた二人の魔王幹部たちは私たちと向かい合うと酷く動揺したような動きを見せ、灰色の甲冑を纏った人物が口元を覆う。


「なんで……《《恵ちゃん》》が……ここに……。それに優輝君も――」

「――っ!! その声は……野川さん……なのか?」


灰色の甲冑から発せられてきた声は私の知らない女性の声。

しかも、稲森君は彼女のことを知っているようだ。そして、隣に立つ黒い甲冑に身を包んだ騎士も口を開く。


「優輝……。まさか、お前もここに居るなんてな?」

「綾斗なのか!?」

「あぁ……それよりも説明をしろ! どうして死んだはずの恵ちゃんがここに居る? これはどういうことだ!?」

「だ、黙れ……。この人は……恵じゃない! お前らこそ、なんでこの世界に居るんだ!」

「恵ちゃんじゃない……だと? 嘘だろ?」

「嘘なんてあるもんか! いいから俺の質問に答えろ、綾斗!!」


私をどうやら、『恵』という別人と勘違いしているらしい。

正直、状況が混乱しすぎて頭が追いつかない。ただ、唯一分かるのは彼ら二人は稲森君と面識がある人間ということだ。


「俺たちだって理由なんて分かんねぇよ。通学路を歩いていたら急に周りが暗くなって気付いたら魔王の手下になっていた。そして、今となっては俺らは魔王アルグスの魔王軍幹部――つまり、お前らの敵だ」

「おいおい……冗談はやめろ! 綾斗、俺たちは友達だろ!」

「うん……。そうだったね。でも、ごめんね。私たちの為に死んで――」


自信なさげに答えた野川さんの声を皮切りに二人は剣を抜き、一瞬で私たちへと肉薄する。その動きには微塵も躊躇を感じない。ギリギリのところで稲森君とジークさんが剣筋を外す。


「クッ! 全員、逃げてくださいっ! こいつらには敵わないっ!」

「優輝……それは違うんじゃないか? 敵わない、じゃなくて……『斬れない』の間違いだろうが!」

「「させないっ!」」


咄嗟に反応した由美子とライザちゃんが突っ込んで間合いを強引に空ける。

そんな中、綾斗君は不敵な笑みを浮かべる。


「おっと危ない、あぶない。人数差でけしかけるなんて酷いな? 大人しく斬られて死ねば楽に殺してやったのに残念だよ」

「綾斗、お前っ、本気で僕たちを殺すつもりか!」

「――終わりだ。お前ら、れ」


綾斗君は剣を前に構えて踏み込みつつ、パチンと指を鳴らす。

すると止まっていたはずの周囲の魔物が一斉に襲い掛かって来る。


「――まずい!! 先輩ッ、逃げてください!」

「えっ……?」


稲森君が声を上げた時には既に遅かった。迫りくる魔物は剣を振り上げて斬り殺そうと肉薄する。さすがに、この近距離では弓をつがえて撃つには時間が足りなかった。


――間に合わない。確実に斬られる。

そう覚悟したとき、私の目の前にリリーの体が飛び込み、周囲に鮮血が飛び散る。


「くあぁぁぁ……!!」

「リリー! くっ――!! 【疾風の一撃】!!」 


私はリリーが体を張って作った時間を利用して、咄嗟に後ろへと後退しながら弓をつがえてその魔物の頭部を穿ち、リリーに駆け寄った。剣で切られた傷口は深く、HPのパラメーターも少しずつ減って行く。


「っ……ミユさん、ぶじ……ですか……?」

「う、うん! リリーが守ってくれたから。でも、リリーが、リリーが! リリーの血が、血が止まらないっ……!」

「っ……。ミユさんを……守れたのなら……それだけでよかった……」


リリーは朦朧とする意識の中、私の手をしっかりと掴んで少しだけ微笑む。


「ミユさん――ありがとう……ございました……」


目元から涙を流す彼女はその言葉を最後にピクリと動かなくなる。

それでも、まだHPパラメーターの数値は残っている。


今なら何とかリリーを助ける手立てがあるはずに違いない。

けれど、周囲に居る無数の魔物たちはその余裕を一切、与えてくれない。

既に魔物の攻撃は私に向かって振り下ろされていた。


「(っ――! もうだめだ……。私も助かりっこない。……リリー、ごめんっ)」


私はリリーを抱きかかえて目を瞑り、最後の時を待つ。

しかし、その場に無数の風切り音が響くと同時に魔物が吹き飛び、風が吹き荒れる。目を薄っすら開けて見れば、そこには大勢の冒険者たちと兵士たちの連合軍が統率の取れた動きで魔物を打ち倒して進んでくるのが見えた。


「――ちっ、増援か。まぁいい。今回は『魔王からの挨拶代わり』のようなものだ。次は必ず、お前らを仕留める。覚悟しておけ! ユキ、退くぞ!」

「うん……」


そう言い残すと接戦を繰り広げていた二人は宙へと浮かび上がり、後方へと下がって行った。2人の姿が消えると魔物たちも攻撃をやめて街の外に向かって退き始める。


すると突然、後方から野太い中年らしい男性の声が響く。


「おい、お前ら無事か!」

「わ、私は大丈夫です。でも、この子……リリーが!」

「こいつは……。――衛生兵、すぐに処置してやれ。重症だ。絶対に死なせるな」


赤いマントを羽織った騎士はリリーを見た途端、動揺した様子を見せたものの、衛生兵へ冷静に指示を出す。その反応は対応した兵士も同様だ。


きっと、この違和感の原因は『獣人』という人種が関係しているのだろう。

しかし、上官らしき男の命令ということもあってか衛生兵たちも口答えせず、淡々とリリーへ処置をしていく。


それを他所に赤いマントを羽織った男は機敏に周囲の兵士へ指示を飛ばす。


「――街の警備隊! 魔物が街中に入っていないか数キロ圏内をローリングしろ。それから逃げた魔物を街壁から半径5キロ圏内まで追い出すように遊撃隊へ伝達するんだ! ほら、動けうごけ!」


赤いマントの騎士は圧倒的な指揮力を発揮し、負傷者を次々に医療テントのような場所へ運び込むように統制する。戦場であったはずの場が彼の陣頭指揮で次第に沈静化していく。


けれど、そんなことは今の私にとってはどうでも良い。

ただ、私はリリーが無事であって欲しいという願いだけしかない。


「これから集中的に処置をするためにテントへ運びます」


無均質に『処置をする』と言った衛生兵たちはテントの中へリリーを担ぎ込む。

しかし、待てと暮らせど終わる気配がない。私たちはテントの外でリリーの無事を願って待ち続ける。


「……先輩、すみませんでした。僕がもっとしっかりしていれば――」

「稲森君が謝ることじゃない……。リリーは私を庇ったんだから、全部私のせいだよ……」

「ったく、ほら二人とも! そんな暗い顔をしないっ! リリーちゃんは絶対に大丈夫だから! 信じて待とう? ね?」


落胆する私と稲森君を由美子はそう鼓舞するが、誰しもが内心では心配している。

私たちが思いを巡らしていると不意にテントの入り口が開き、衛生兵たちが担架にリリーを乗せて出てきた。


「り、リリー! リリーの状態は……!?」

「……。この獣人は無事だ。――感謝しろ。」


医者らしき人物はまるで軽蔑する者でもみるかのような眼差しで私の事を射抜く。


「ちょっと、そんな言い方っ――!」

「事実だろう? 騎士団長であるサランドール様の命令だからやってやったまで――ましてや、転生者のお付きでなければこんな恩赦などありえん」

「なんですって!? アンタたちそれでも医者――」

「長谷川先輩っ、抑えてください!」


由美子が胸ぐらを掴みかかったところで稲森君が引き離す。

しかし、衛生兵は火に油を注ぐ。


「処置は終わったんだ。この『ゴミ』を連れてさっさと帰れ」

「……っ! リリーは……リリーはゴミなんかじゃないっ!」


私は気付けば衛生兵の顔を平手でフルスイングしていた。

確かにリリーを助けてくれたことには感謝している。

それでも、この言い様には我慢できなかった。


「転生者の分際でっ……!」

「――衛生兵! やめろ! もうそれ以上、横暴な態度を彼等に取るならばお前を軍法会議に掛けることになるぞ」

「騎士団長……! しかし、あなただって獣人の迫害には理解があるはずだ! それに転生者は所詮、名ばかりの連中。こんな無礼な奴を斬った所で何も変わらないでしょう!」

「馬鹿者が……! 彼らは逃げ帰ってきたあのアホども違う。前線を守るためにたったの6人であの数の魔物を相手にしたんだぞ? 貴様に同じことができるか?」


激情しそうになった衛生兵は押し黙る。

騎士団長は一つため息を付くと私たちに忠義を示すように膝を付いた。


「部下が失礼をした。お許しを。この場は私が治めますので皆さんはどうかお戻りください。送りの兵士を付けます」

「いいえ、結構です。僕らは自分たちで帰ります。僕らとあなた方には決定的な価値観の違いがあるようですから」


稲森君は怒りを含んだ声色で彼の要望を蹴り、リリーを背中に負ぶって歩き始めるが、シーラスに戻るまでずっと背中に意識を向け続けていた。きっと優しい稲森君は色々とリリーに対して感情を寄せているに違いない。


けれど、そんな私たちの感情をあざ笑うかのように、二日経ってもリリーが目覚めない状況が続いた。


「稲森君、リリーは本当に大丈夫だと思う?」

「僕も確証は持てません。でも、パラメーター上は問題はないのでいつかは目覚めるはずです」

「そう……だよね」


私はベッドで寝ているリリーの手を握りながら髪の毛を摩って顔を撫でる。

今は辛くても寄り添って待つしかない。


「先輩。あの、実は……話したいことがあるんです」

「話したい……こと?」

「――失礼する! っと……取り込み中だったか?」


稲森君が深刻そうな顔をして何かを話始めようとしたとき、不意に部屋のドアが開かれた。そこには騎士団長であるサランドールが立っていた。


「……いえ、何かご用ですか? その様子からして急ぎのようですが?」

「ああ、我が王は貴殿ら転生者と獣人リリーに『魔王軍撃退』の栄誉を授けたいそうだ」

「僕らが撃退の立役者に――?」

「そうだ。あの戦場で最も戦火を上げたのは貴殿らだ。ましてや、魔王軍の幹部を撃退した功績は何よりも大きい。なので式典に参加してほしい」


騎士団長は少し誇らしげに自信を持たせるような言い方で私たちに語る。

なんだか、否応でも出て貰わないと困ると遠回しに言われているような感じが伝わって来る。


「なるほど、外交戦略と内部基盤の構築に使おうという腹積もりですか」

「そんなことはないぞ? 貴殿らにだって栄誉が与えられることで世間の注目が向く。それは願ったり叶ったりではないか?」


そう言って騎士団長はリリーの方へ視線を落として稲森君をじっと見る。


「はぁ……そもそも僕たちはあの時、6人だった。ジークさんとライザを省いたのは意図的に貴族連中へ配慮したようにしか見えませんが?」

「それは……我々にも色々あるんだ。表向きにはできない理由がな。もちろん、彼らを蔑ろにするわけではないぞ? それ相応の対価は裏で払うつもりだ」

「……まぁ、獣人の待遇改善に一歩近づけると思えば『悪くない話』ではあるようですけど……先輩、どうしますか?」

「……。」


正直、リリーの意識がない現状ではそんな事はどうだっていい。

けれど、このまま『獣人は奴隷』という状態を放っても置けない。

なにせ、私はリリーやライザちゃんの暖かさを知っている。


私たちと何ら変わりがない彼女たちが卑下されることは見ていて腹の虫がおさまらない。そんな偏見を少しでも減らせるというのなら、私の答えは一つだ。


「……参加します。リリーやライザちゃんのためになるのなら」

「では日時についてだが――」


そこから詳しい日程や段取りの話が続き、魔王軍襲来から二日目の夜が過ぎ去ったのだった。

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