第28話 ありがちな罠
「はぁぁぁ……」
「大っきなため息……。厨房での事は聞いたけどさぁ? まだ気にしてんの? お風呂の時くらいは悩みを湯に流して、忘れたら?」
「うぅん……。簡単に忘れろって言われたって……さぁ……」
ジャムづくりを終えた私は居所が悪くなりながらも片づけを終え、由美子とリリーと流れるまま、3人でお風呂に入ることになった。ライザちゃんは『明日の仕込みがあるので残業ですっ』とかなんとか言って厨房でまだ何かをしている。
「由美子……私、どうしたらいいんだろう? リリーにも嫌われたりとかしてないよね? ……んもう、分かんない……」
リリーが体を洗っていることを良いことに私は小さな声で次々と愚痴を零しながら全身を湯船に埋めて湯面をブクブクさせる。
「ったく、初心だなぁ~実結は……。もう起こったことはしょうがないんだから、後はここからどう巻き返すかだよ」
「それは分かる……分かってるよ……だけど、ううぅん……」
「あっ――ほら、リリーちゃんが戻って来る! シャキッとして!」
リリーが洗体を終えて戻って来ると違和感を感じたのか、じっーと私たちを回し見るようにしながら私の横に寄ってきて密着してくる。その動きに思わず、ビクッとしてしまう。
「あの……実結さん。私は実結さんのこと……好き、ですから」
「え? き、急に……どうしたの?」
「……。ライザちゃんは厨房であんな風に言っていましたけど、実結さんが私たちと仲良くなろうと必死になってくれてること。絶対に分かってくれていると思います。だから……あの、私たちを嫌いにならないでくださいっ……」
あぁ、なんて私は馬鹿なんだろう。
何も関係がなくて、非も無いリリーに変な気を使わせているなんて――。
「ううん……私はリリーもライザちゃんも大好きだよっ……。ごめんね、変な気を使わせて。私が落ち込んでいるのは自分の不甲斐なさだから」
「不甲斐……なさ?」
「うん……ライザちゃんが『所詮、獣人が作ったジャム』って言った時、あの場で何も言えなかった。本当だったら『何が、獣人が作ったジャムだ。これ以上、美味しいものがあるかぁ!』って……そう私が言うべきだったのに、結果的にライザちゃんを傷つけちゃったから……」
私はリリーの身体に自分の体をくっつけて少しだけ目に涙を溜める。
その様子をみてか、由美子がリリーちゃんの方へ体を乗り出す。
「つまり、簡単に言うと実結はね? 的確な返しができなかったことに落ち込んでいるってこと。だから、リリーちゃんたちを嫌いになった訳じゃない。むしろ、リリーちゃんに嫌われたらどうしよう~ってなってたくらいだからさ?」
「あはは……そう、だったんですね……。でも、それを言ったら言い出したライザちゃんの方にだって責任はあるわけで……」
「ううん、これは私の問題なの……。こういうことを私は……前から積み重ねてきたから――痛っ! 由美子、なにするの!」
湿っぽく私が言葉を放ると由美子が私の腕をつねる。
「そうやって自分の殻に閉じこもろうとしないの!」
「閉じこもろうとなんて」
「ううん、してるよ? 真面目な実結だから、そんなありがちな罠に、いっつもはまっている! ……正直、私が言える義理じゃないけど、悪いことは悪いって言えなくなったら実結……。人として終わりだよ」
その言葉に思わず、ハッとさせられる。
なんでこうも、痛い言葉なのに暖かく感じてしまうのだろう。
「実結はきっと分かっているでしょう? 悪いことをした時、悪いことが起こった時に自分がどうするべきかを――ったく、これで温情も最後だよ。私はそんなカッコ悪い実結と親友になったつもりはないからね」
私は頷きながらもそこからリリーにひたすら謝った。
そんな私の様子に彼女は引いているようにも思えたが、『これでいい』と自分の中で思ってしまう。その証拠に夜中になって小さくドアがノックされた。
「り、リリーです。ミユさん……まだ、起きていますか?」
「うん、どうしたの……?」
「っ……。一緒に寝てもいいですか? ――その、眠れなくて」
いつもならピンとしている猫耳もペシャッとなっていて可愛いと思う反面、『私を頼っても良い』と思ってくれたことが何よりもうれしかった。
「うん、私も今から寝るところだったから一緒に寝よう?」
「ありがとう……ございます」
私はリリーの頭を撫でて添い寝をしながら、『私でも努力をすればリリーやライザちゃんの力になれるはずだ』と思いを馳せながら眠りに付いた。
なにせ、私たちの関係は始まったばかりなのだから。
――そう思っていた。
「先輩っ!! 起きてくださいっ!」
「い、稲森君? ……おはよう。ど、どうしたの? こんな……朝早くに」
「魔王軍が、魔物の襲撃が来ますっ!」
そこには血相を変え、険しい表情をした稲森君が居た。




