第26話 クラスメイトとの軋轢
「最悪……美咲たちだ」
由美子がため息交じりに宙へ言葉を放る。
私たちが戻ろうとしている街の方から美咲たちと兵士たち数名が平原の方へ向かってくる。その距離はますます近づいてくる。その様子に由美子は私たちへ駆け寄る。
「変に絡まれても嫌だしさ? 別の場所から行こう? ね?」
「別に問題はありませんよ、すれ違うだけです。軽くスルーしましょう。彼らと僕らは関係のない、違う集団なんですから」
「いや、まぁ……それはそうちゃそうだけど! でも――」
きっと由美子が懸念しているのは好き、嫌いの話じゃない。美咲の怖さを知っているからこその発言だろう。ただ、その一方で稲森君はひどく冷静だった。
「さすがにこの世界で過ごしてまだ一日、二日です。彼らが僕らに牙を剥くとは考えづらいですし、何よりレベルの配分で言ったらビルドリングを確保している僕らのほうが強いはず。だから、無謀なことはしてこないと思います」
稲森君はそう言い切る。不安な思いに駆られながらも私も同様に強気な稲森君を説得できず、彼の後ろに隠れながらリリーの手をきっちりと握る。
「あ、あれって――実結じゃない!! それに……由美子がなんで隣にっ……」
「あ? 美咲、今なんだって――っ……チッ……」
美咲と玲奈が真っ先に気付き、クラスメイトたちもワヤワヤと声を上げ始める。
それを皮切りに美咲が猪のようにズカズカと突っ込んでくる。
「ちょっと――僕らに近づいてくるな!」
「うるさい! 由美子~?! なんであんたが実結の隣にいるのよっ! 私の元にもどってきなさい! そうしなかったらどう~なるか! ――分かっているわよね? そこを退きなさいよっ!」
必死な形相で稲森君を押し切って今にも由美子へ掴みかかろうとする。
だけど、私の体が咄嗟に動く。リリーの手を離して前に踏み出る。
――由美子を美咲の手に渡すなんてことは絶対にさせない。
だって私は親友を守るって決めたんだから。
もう、何があっても手放さない。
由美子の手を掴もうとする美咲の手をパチンと思いっきり払って突き飛ばした。
「わたしの、私の親友に触らないでっ!」
「くっ、痛っいわねぇ……! この、松村の私に――楯突くんだ、あっそう、そうなんだぁ~……」
突き飛ばされて地面に腰を打った美咲はよろよろと立ち上がると汚い笑みを浮かべてクラスの方を振り返る。
「――みんな、分かってるわよね? この状況、この異変が起こったのはこいつ等が授業に踏み込んできてからよ~? つ・ま・り……こいつ等が何か知っているに違いないの! きっと、こいつ等なら元の世界に戻る方法だってしっているはずよ!」
「え? でも、俺たちは死んだって――」
「そんなのは嘘よっ!! この私が嘘を言うとでも?」
「ま……まぁ、確かに? アイツが入ってきて……急に起こったし……なぁ?」
まるで狂気に満ちた演説にクラスメイトは私たちに疑いの目を向ける。
嫌な予感がする。まさか、美咲の狙いは――。
「だから、こいつ等が絶対に知っているのよ! だから私たちが帰る方法ってヤツを聞き出しましょう~? 玲奈ッ! アンタも好きな様にやっていいわよ!!」
「ふっ、ったくよぉ……美咲に楯突かなきゃ、こんなことになりはしねぇーってのによぉ? ――お前らは手を出すな、弱ぇテメェらの面倒までみてられっかよ。こいつはアタシが叩きのめす」
「おい、有川! それはさすがに――」
「うるせぇ、教師はだまってろよぉ……」
殺気を迸らせながら玲奈は担任とクラスメイトを制止して短剣を抜く。
その様子に稲森君もやむ終えず、剣を抜いて応戦の構えを見せる。
だが、同時に稲森君はため息を吐く。
「はぁ……正気か、あんた? 本気で僕らが帰る術を知っていると? それにレベルの差を理解していないのか?」
「んなもん、知らねぇよ。大体、帰る方法があったとして知ってる奴が「ハイ知ってます」って答えんのかよ? それによぉ……得物っていうのは『使う奴』で変わんだよ」
玲奈はゆっくりと前へと歩き始めた。玲奈の表情は全く変わらず、揺るぎない殺意を持って稲森君へ向かっていく。
「――あははっ! 狂犬の狼と恐れられている玲奈とやりあうつもりなんて! 可笑しくてたまらないわぁ! 見ものねぇ~!」
「後輩君! ダメっ、逃げて! 玲奈には敵わな――」
由美子の声が発せられたころには稲森君に向かって玲奈が駆け出し、短剣が振り下ろされていた。私は現実を逸らすようにグッと目を閉じる。
しかし、その直後には金属が当たる甲高い音がその場に木霊する。
目を開けて見れば宙に青いエフェクトが流れ、玲奈が驚愕したような顔つきでこちらを見ていた。
「ぁっ……!? 私の、ナイフを吹き飛ばした……つーのか?」
「ええ。これでもまだやりますか、玲奈先輩? それにそちらの方々も――」
「「ひっ……」」
「うそ……玲奈が、負けるなんて……そんなの、嘘よ!!」
目の前では玲奈の首元に稲森君がナイフを突きつけており、クラスメイト達も戦意を失っていた。だが、美咲だけは一人で顔を真っ赤にして怒りを爆発させる。
「相手はたかだか4人! いいからあいつらをぼこぼこにしなさい!」
「そうは言われても……あんなの見せられたら……」
「クゥゥぅ……どいつもこいつも役立たずが――っ!!」
「美咲ちゃん、落ち着いて!!」
癇癪を起した美咲はこっちに向かって来ようとするが、クラスメイトに抑え込まれる。それをいいことに美咲は周囲の人間に暴力を振るい出した。
その様子を見た由美子はリリーの手を握り、私たちの肩を叩く。。
「今のうちに行こうっ! 後輩君も行くよ!」
「えっ……あ――!」
「いいから早くっ!」
私たちは混乱に乗じて、この場から駆けて逃げ出した。街角で後ろを確認するが、クラスメイト達の姿は一切、見えない。きっと美咲を抑え込むので精いっぱいで私たちを追って来る余裕はなかったのだろう。
「「はぁはぁはぁ……」」
「おいおい、どうしたんだ? みんな揃いも揃って息を切らして」
「とりあえず、皆さんお水です。飲んでください」
「ありがと……ライザちゃん……はぁはぁ……」
ある程度、呼吸が整うとライザちゃんがご飯の提供をしてくれ、夕飯ありつきつつ、ジークさんにさっきあった出来事について話しを聞き始めた。
「……という感じだったんです」
「はぁ……なるほどなぁ? 獣人絡みか、あるいは魔物絡みかと思ったら、転生者同士のいざござかぁ……。おまえらも大変だな? 次から次へと」
由美子に意味深な視線をジークさんが送る。
「っ……! そりゃあ、私も悪かったけど、元々は全部、その美咲ってやつが悪いんですぅ~! 私の場合と一緒にしないでくださいっ」
「そこまで拗ねるなよ、嬢ちゃん?」
ジークさんがやれやれと由美子を宥める中、ライザちゃんはリリーを気にかけて声を掛け始める。そんな二人の様子を見つつ、私は稲森君の方を見るとその視線に気づいたのか、不思議そうな視線を向けてくる。
「先輩、どうかしましたか?」
「う、ううん……ただ、私たちを美咲たちから守ってくれてありがとう。……ただ、それを言いたくて……」
「……僕は当然のことをしたまでですよ。――というか、それを言うのなら先輩の方が凄かったですよ?」
「えっ……?」
「だって、ちゃんと長谷川先輩を守ったじゃないですか。あの場面で出ていけたのはすごい事ですよ」
稲森君の言葉に思わず、ハッとさせられてしまう。
そっか、私はようやく由美子を守れたんだ。
由美子もその話に気付いて私に抱きつく。
「本当にっ! あの時の実結、格好良かったよ! ありがとう実結!」
「う、うん……」
こうもまっすぐに褒めちぎられてしまうと私の顔は次第に赤くなる。
それにどう言葉を返したもの分からなくなる。
だけど、私はわたしで有り続ければいいんだと思えて自然と口が開く。
「だって、由美子は私にとって唯一無二の……親友、だから」
「私も同じ気持ちっ! 実結と一緒っ!」
「く、くるしい……離してぇ……」
「嫌っ! もう一回、『親友』って言ってくれるまで離さないっ!」
「っ……!? か、勘弁して……」
今夜の戦いでクラスとの対立は避けられないものになってしまったけど、私たちは確実に絆を深め続けて行った。




