第18話 再会と絶縁(由美子&実結の過去エピソード6)
あれから数年が経った。由美子はあの事件のすぐ後に転校し、私の前から完全に姿を消した。私は由美子が居なくなってしまってからはすっかり元の陰キャに戻ってしまった。本を手に持ち、静かにページを捲る。
「(光は影がいるから輝いて、影は光があるから存在を見つけられる……本当にこのお話と同じなのにね)」
私は一人、机とデスクマットの間に挟まれて飾られたあの日のプリクラを眺める。
こんな弱気じゃ、高校でもまともにやっていけない。それでも頑張らなきゃと自分に言い聞かせる。いつか胸を張って由美子に会えるように――。
「はぁ……こんな私が胸を張れるわけないけど……」
「実結! 入学式、遅れるわよ!」
「は、はーい……!」
私はお母さんに急かされるまま、自転車を走らせて新しく通う私立高校へと向かった。お母さんは仕事の都合で少ししか見に来れないらしいけど、後から車で来るらしい。
「(由美子みたいな……とまでは言わないけど、友達が欲しいな……)」
私はそんな淡い思いを抱きながら高校の敷地に入る。それなりに余裕は持ってきたはずだったけれど、既に多くの新入生で溢れかえっていた。人波をかき分けて私は受付を目指す。
「受け付けはええっと……? ――あれ、今の……この匂い!」
そんなとき、私の横を誰かが通り過ぎた。それは懐かしい香りで、今でも鼻孔の中に残っている。あのフレグランスの香りだった。
「……っ! 由美子! 由美子じゃない!?」
振り返りざまに私はあの日、あの時、勇気を振り絞ったように声を張り上げた。その少女はピクリと止まったが、振り向きもせず走り出す。
「……待って!」
その反応に私は絶対に由美子だと確信した。
数年越しでもその反応のしぐさは変わらない。何より親友の動きをこの私が忘れるはずがない。でも、由美子は私から必死に逃げようとする。
「(どうして……どうして逃げるの……?)」
かつて陸上部だった由美子に足で追いつけないって事くらい分かっている。少しずつ、すこしずつ距離が離れていく。それでも諦めたくなかった私は再び名前を呼ぶ。
「由美子っ……!!」
「っ……。もう、追ってこないでよ……。実結……」
「やっぱり……! やっぱり、由美子だっ……!」
そんな思いが届いたのか分からないけど、由美子が走るのをピタリと止めた。
私は今まで一人ぼっちで悲しかった思いをぶつけるように背中にギュッと抱きついて泣いた。
「由美子の馬鹿……! なんで電話も、メッセージも着信拒否にして……私がどれだけ、どれだけっ……寂しかったか! ううっ……」
「本当にごめん……。でも、これからもこの関係は続くから、これで最後ね?」
「えっ……?」
私の腕を解いた由美子は私に向き合って静かに、そして残酷にこう続けた。
「もう、私たちの『親友ごっこ』は終わり」
「何を……言って……」
「私はあなたのことを親友だと思っていないし、なんならあの時も楽しいなんて微塵も思わなかったから」
「え……? 何、言って――じゃあ、今までの全部、ぜんぶ……嘘だったって言うの……? そんなの嘘――!」
「そう! 全部が嘘だよっ! 実結ってさぁ? 黙ってれば可愛いかったし? 近くに置いておけば陰キャを救ったみたいで私の株も上がるでしょう? だから近づいたの。あなたは私の道具だったってわけ! なに今更、気付いたの? そんなんだから利用されるのよ。馬鹿じゃない?」
「そんなっ……由美子、本心……じゃないよね? 嘘、だよね?」
「うるさいな、アンタのそういう面倒くさい性格、こっちは大っ嫌いなの!」
「……っ!!」
パチンという音が響き、一瞬、私の身に何が起こったのか分からなかった。
でも、私の顔には間違いなく、ほのかな痛みが残っていた。だから、顔を平手打ちされた痛みだと判断するまでには差ほど時間は要らなかった。
「うぅ……ううぅぅ……最低ぃっ……!!」
私はその現実を受け入れられず、涙を流しながら行く当てもなく走り出した。
数年越しにやっと再会できたたった一人の親友。その由美子から告げられた言葉とあまりに理不尽な暴力は私の心を酷く、そして深く傷つけた。
「(初めから利用されていただけだった? こんなの……こんなのあんまりだよ……!)」
悲しみが溢れて心が壊れていくのにも関わらず、自分の心の中で未だ輝きを放つ思い出は浮かび上がってくる。その大きなズレが私の心を静かに蝕んでいく。
「もう誰も信じられないっ……!」
けれど、現実は残酷でこれが『現実であること』に変わりはない。
私はこの日、かけがえのない親友を失った。




