第16話 親友と駆ける(由美子&実結の過去エピソード4)
お風呂から上がった私たちは寝る準備を早々に済ませてトランプ遊びを始めた。
とはいってもただの遊びではない。というか、退屈なゲームにならないように由美子がルールを決めて始めたのだ。
「いい? ルール確認! やるのは神経衰弱。それで多く当てられた人が勝ち。それで勝った方が負けた方に何でも一つ命令が出来ます」
「え……でも……」
「ただの神経衰弱じゃ、面白くないからね! あっ、それとも勝つ自信ない?」
そう言われると少しムッとくる。ここまで何でもかんでも好き放題、由美子にやられてばっかりだから泡を食わせてやりたいという悪知恵が働く。
でも、負けたら何を要求されるか分かったものではない。
「お、その顔は案外乗り気だね?」
「うーん……」
「あれ……? だ、大丈夫っ! そんなに無理なお願いはしないから」
「……分かった」
「よし、そうこなくっちゃ! いざ尋常に勝負!」
カードを切って並べていく。でも、このゲームは基本的に最初が難しくて、後になるほど有利になっていく。一回戦目はじゃんけんで負けた私が後攻で次第に枚数が少なくなって負けてしまった。
「よーし! 勝った!」
「……っ」
「はいはい、そう睨まないの。勝ちは勝ちだから! じゃあ、私の命令一回目はそうだなぁ~」
ニタニタしながら由美子はこちらをねっとりとみる。
その様子に思わず、ごくりと唾を飲み込んだ。
「えっとね……。その、今日は一緒のベッドで寝て?」
「あ、あ、同じベッドで……って……はぅ……!」
「実結!? 変な意味じゃないからね!? 普通の意味でだから健全だからぁ!」
顔を真っ赤にした私の体を揺すってから何事も無かったかのように少し頬を赤らめた由美子が第二戦の用意をした。さっきは変な要求を突き付けられたけど、もし勝ったらその時は痛い目をみせてやろうとじっとトランプに目を向ける。
「……なんか、さっきと感じが違う? 気のせい?」
「早く……やろ?」
「ひぃ、やっぱりなんか違う!」
戦々恐々としている由美子を置いて、今度は先行で枚数を重ねていく。
「え? あれ、ここじゃない!?」
「……由美子、ダイヤはここ。ふふっ……チェックメイト」
「なっ! そんなぁ……」
二戦目を勝ち取った私は静かに笑みを浮かべる。
由美子は何を言われるものかとすごく、すごく身構えていた。
それはもう、小さくファイティングポーズをとるくらいには――
「負けは負け! もう、どんと来なさい!」
「……。」
「実結……?」
「命令というか……質問する前に一つ、聞いていい?」
「ん? 良いけど……何?」
「由美子は……さ、私と遊ぶのって楽しい?」
「えっ? そんなの当たり前でしょ! 『親友』なんだから!」
私はその言葉を聞いて静かに胸を撫で下ろしつつ、静かに『あの件』について質問を切り出した。
「じゃあ、私から質問……。なんで女バスを辞めて、陸上部に入らないの?」
「あっ……それは……実結、ずるいよ。答えるしかないように誘導すなんて……」
「ごめん……でも、どうしても知りたくて……」
「っ……! そ、そろそろ、寝よっか! ね?」
由美子は私の質問を搔い潜ろうと片付けもそっちのけでベッドに飛び込む。そしておまけと言わんばかりに電気まで消してしまう。
「由美子……」
また答えてもらえない。そう思った。でも、実のところを言えば、質問しなくてもその理由は何となく分かっている。
「(多分だけど、女バスの顧問を追放した英雄みたいに言われてて「いつでもいいから戻ってきて」って言われているんじゃない……? そのせいで『女バスの人たち』を裏切れなくて留まってる。だって、由美子は優しいから――)」
私は何も言わず、静かに由美子の入ったベッドへと潜り込む。
そして、彼女の体に身を合わせた。
「……由美子、ごめん。言いたくないならいいの……。でも、こんな私だけど……何も頼れると思える人間じゃないかもしれないけど……それでも、頼れる時には……ううん、由美子が頼りたいときには私に話して欲しい……。話を聞くくらいなら聞けるから」
「っ……」
「おやすみ……」
私はそっと反対側を向いて目を閉じた。
でも、今度は由美子が私の背中にピタッと身を寄せる。
「……だって、バスケ部に戻ってきてって言われてるから、それに……部活より何より実結と遊んでる方が楽しんだもん……。部活に戻ったらその時間が無くなっちゃう。そんなのいやだから……」
「由美子……。――じゃあ……その、私も陸部に入ろうかな?」
「え!? どうして? 私に気を使わなくたって――!」
「ううん……気なんて使ってないよ? 私も……試してみたいの」
私は勇気を振り絞って由美子の方に体を向ける。お互いの顔が接近して吐く吐息がわかるほど近い。自分でも信じられないほど大胆だと思う。
「その……正直、今も由美子の顔を見るだけで恥ずかしくなるし、クラスの人と話すのだってやっと……。それなのに先輩と話すなんて絶対に無理だと思う……けど、由美子が頑張るなら、その……私も頑張ってみたいなって……」
「実結……」
「……だから、一緒に頑張らない? わっ……!」
私がそう言うとすぐに由美子は私に抱きつき、そっと耳元で囁いた。
「うん……分かった。頑張る。でも、実結が無理だと思ったらちゃんと言って? 実結が辛くて苦しむ姿だけは私、見たくないから」
「うん……由美子こそ、こんな――ううん。悩んだら私に何でも相談して――?」
思わず、「こんな私に」と言いかけたけれど、それはもう封印しよう。そう思った。
今日一日だけで私も、由美子も大して変わりのない人間なんだと言うことを実感したし、できるできないの問題じゃないことは十分に分かった。
私は最初からすべての事を『できない』と決めつけていただけに過ぎなかったんだ。だから、もう二度と後ろを振り向かないと決めた。
「だって、私たち親友なんだから……」
「うん……ありがとう実結」
その夜は私たちにとって大きな一歩になった。
きっとこの先は辛いことが待ち受けているかもしれない。
それでも私たちなら――二人でなら乗り越えていける。その自信に満ち溢れていた。




