第12話 朽ちた光
「良かった。実結――はぁはぁ……! やっと、見つけた!」
「(ゆ、由美子……)」
膝に手を付き。肩で息をしていたのは私をいじめていた3人組の一人。
長谷川 由美子だった。私は反射的に稲森君の後ろへ隠れてしまう。稲森君はそんな私に一度、目線を向けると警戒心を強めるように由美子を見た。
「あなたは……確か、3年一組の――」
「うん。長谷川 由美子。私は実結の……友達、なんて言ったら怒るよね。正確には『いじめに加担していた一人』」
そう、私にとって彼女は唯一無二の友達――ううん、本当の親友だと思っていた。
でも、彼女は私を心から裏切った。そんな彼女と私が話すことなんて何もない。
稲森君も雰囲気を悟ってか、次第に鋭さを増す。
「それで、そんな長谷川先輩は白鳥先輩に一体、何の用ですか?」
「……そう警戒しないでくれるかな? その……少し、ほんの少しだけで良いから実結と話をさせて欲しいの」
「っ……。稲森君、行こう……?」
私には彼女の話を聞いてあげる義理は無い。静かに稲森君の手をスッと引いた。その様子を見た瞬間、由美子は私に掴みかかって来る。
「実結! お願い! お願いだから話を聞いて――!」
「嫌っ……!! 離して……!」
「ちょっ! ちょっとアンタ!」
もみあいになる中、私は全力で由美子の手を払った。
もう二度と由美子が私と正面切って話す事なんて無いと思っていた。だからなのか、自然と心に残っていた思いと辛さが軽々と溢れだしてくる。
気付けば全力で叫んでいた。
「――全部、ぜんぶ『ごっこ遊び』だったんでしょう……!! なら、話すことなんて何もない……!!」
そう言い放った私はその場から逃げ出していた。
それこそ一心不乱に走り出していた。とにかく、一人になりたかった。
でも、稲森君と由美子も追って来る。私はそんな二人をうまい事、やり過ごして行きついた先はシーラスだった。
「おかえ――お、おい! 嬢ちゃん、どうした!?」
心配するジークさんの声すらも聞こえないふりをして二階の部屋へと飛び込む。
部屋の中ではリリーが眠っていて、忍びない気持ちになったが、私は所かまわず、ドアを背に崩れ落ちた。
「(由美子……なんで……どうして……どうして……今更になって……)」
確かに高校に入ってから三年の間、ずっと本気で話したい。
この痛い思いを由美子にぶつけて引っ叩いてやりたい。
そう思ったことは一度や二度じゃない。それでも結局、私たちの関係は『偽物だったんだ』と自分に納得させて生きてきた。
「(……過去のことは幻。そう、幻に違い……ないのに……)
所詮は私をいじめた加害者――そう割り切ってしまえば良い。
それなのに涙が出てきて、止めようとしても止まらなかった。それを煽る様にコンコンとドアがノックされる。
「先輩、大丈夫……ですか?」
「……っ。……ごめん。今は……今だけは一人してくれない……?」
「わかりました」
稲森君はそれだけ言うと部屋を後にしていき、そこから私は息を殺しながらずっと泣き続けた。それから数時間が経ち、陽が落ち始めた頃になって少しずつ気持ちも落ち着き始めてきていた時、再びドアがコンコンとノックされた。
「はい……」
「先輩、落ち着きましたか?」
私が返事をすると稲森君がドア越しに伺うように聞いてくる。凄く心配をさせてしまっていることは何となくその話口調で分かった。
「ごめん、なんとか……大丈夫。由美子は……?」
「帰りました。『ギルドの前で先輩が来るまで何日でも待っている』って言い残して――」
「……!(由美子は何を考えて――)」
そして、稲森君は全てを畳みかけるように、ドア越しに語り掛けてくる。
「――先輩。僕は別に先輩の過去がどうとか、そんな話を詮索するつもりはないです。ただ、これから機会は少なくてもクラスの人間と関わる機会もあるはずです。だから、せめてあの由美子っていう人とこれからどう向き合っていくのかだけでも、考えをまとめておいて欲しいんです。いくら時間が掛かってもいい。考えてください」
そう言って稲森君の足音が響き出す。
『考えろ』と言われてもどう考えて良いのか、どう整理を付ければいいのか分からない。私は気付けば廊下に飛び出ていた。どこにも吐け口の無かったこの気持ちを誰かに聞いて欲しくて――。
「い、稲森君っ……私、わたし……分からない、わからないの。だから、私の話……聞いてくれる……?」
「ええ、もちろん。僕で良ければ――」
こうして私は稲森君を部屋の中に招き入れて数年前にあった話を少しずつ、すこしずつ始めた。そう、私と由美子の輝かしく、眩しすぎる過去の記憶を――。




