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王女が攫われた報復に魔王の娘を攫ってきたら国外追放を言い渡されたので新世界の神になる  作者: まる


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【第二十五話】 出立


 朝を迎えるなりロイス一行は慌ただしくしていた。

 メイラー、カラを除く三人は揃って出発の準備として荷物を纏めている。

 この日は辺境伯邸を出て借り受けた孤島へ向かうことになっており、起き掛けからそのための用意に奔走しているのだ。

 とはいえクルムは寝ぼけ眼で座っているだけなので実質ロイスとネリスの二人だけが私物を整理している状態である。

 元々持ち込んだ物自体が少なく、荷物と呼べるのは辺境伯から譲り受けた資料や書物、そしてネリスが持ち帰ったクルムの衣服や少しの小物程度であるため二人、とりわけロイスも文句を言うこともなく淡々と作業をしていた。

 やがて諸々の準備も終わり、ネリスが部屋を綺麗にするとようやく旅立ちの時を迎える。

「ほら、行くよカラ」

 クルムの一声を最後に、揃って部屋を出るとそのまま一行は玄関へと向かった。

 反応こそ無いが黒狼は四人の後に続いている。

 揃って玄関口に向かうと、そこにはクロフォード卿が待ち受けていた。

「やあ皆さん、ご機嫌はいかがですかな」

「クロフォード卿、見送りに来てくれたのか?」

「ま、短くはあっても中身の濃い付き合いだったからね。見送りぐらいはするさ。それに別の要件もある」

「ひょっとして昨夜話していた件か?」

「いかにも。屋敷の裏に庭仕事の道具入れに使っている納屋がある、要望通り地下室もあるんだけど、肥料などを保存していたものの階段の上り下りが大変だから今は別の所に移していて使っていないんだ。丁度良いと思ってね」

「そりゃ大助かりだ。出発前に済ませられるとは、さすが貴族様の豪邸ってなもんだな」

「ねえねえ何の話?」

 昨夜の話を知らないクルムとネリスは首を傾げている。

 昼間に少し話題にはしたものの説明を忘れていたことをロイスは今初めて理解した。

「すまんすまん、言うの忘れてたわ。簡単に言うと、王都と同様にこの屋敷にもクルムの魔法陣を設置しておこうと思ってな。何か必要になる度に船で行き来なんてしてらんねえし、転移魔法が使えれば便利だろ?」

「ああ、そういうこと」

「つーわけで出発前に済ませちまおう」

「なら案内するよ」

 クロフォード卿の案内の下、一同は庭を移動し屋敷の裏手に回った。

 そして隅の方にある納屋へ向かうとカラとメイラーを残して四人で中へ入り、狭い内部の奥にある梯子を使って地下倉庫へと降りていく。

 今は使われていないという言葉の通り、やや埃っぽくはあったが特に何があるでもなくただ狭く閉鎖的な空間が広がっているだけだ。

 ロイスの合図を受けてクルムが術式を展開すると、すぐに床に光り輝く魔法陣が浮かび上がった。

「んー……何つーか、これはこれで危険だな」

 徐々に光を失っていく魔法陣を見つめるロイスは渋い表情を浮かべている。

 その言葉の意味を理解出来ていないのは他の誰しもに共通していた。

「危険? 何がだい?」

「単純な懸念点だけど、転移してきたところを待ち伏せでもされて襲われたらひとたまりもないと思ってな」

「信用無いなあ」

「ああいや、気を悪くしたなら謝る。ただあんたを信用するかどうかは問題じゃないんだ。この場に限った話じゃなく、いつどこで使うにしろそういう危険は孕んでいるなってことに思い至っただけだよ」

「ふむ、確かに一理ある話ではある。ならこうしよう、内側に錠を付けておく。鍵は予備も含めて君に預け、こちらはその鍵を持たない。加えてこちらの把握している誰かが含まれてさえいれば事前連絡無しで自由に尋ねて来てくれて構わない。僕が不在の場合は執事長に要件を伝えてもらえれば取り次ぐ様に指示しておくよ」

「何だか、無茶ばかりさせてしまって悪いな。こっちの勝手でさ」

「なに、君の言う通り行き来する度に船を出すよりは安上がりさ」

「必ず借りは返す。約束は守る」

「それを疑っちゃいないさ。精々この退屈な日々に刺激を与えてくれたまえよ」

「ま、やれるだけはやってみるさ。今日を始まりとするならまだまだ先は長いけど、色々と世話になった」

「今後も長い付き合いになることを祈っているよ」

「ま、そう言われるとしばらくは頻繁に行き来しなきゃならんだろうから別れを演出する意味も無いんだが」

「はは、そうだね。来た時には茶や酒に付き合ってくれたまえよ」

「ああ是非とも。ほら、みんなも礼を」

「ありがとー!」

「主君共々大変お世話になりました。貴方の温情に最大限の感謝を」

 クルムの元気な声と丁寧に腰を折るネリスに加え無言のままのメイラーに対しクロフォード卿はにこりと笑い『皆様もお元気で』と別れの言葉の代わりを口にした。

 それを合図に予め用意されていた馬車で四人と一匹は港へ向かう。

 屋敷の使用人や執事はロイス一行の存在を客人として知らされていたが、不用意な情報の拡散を避けるべくそれ以外の者には魔族である二人の素性は明かされていない。

 ゆえに送迎は馬車を操縦する執事長のみで行っており、屋敷を出た時からクルムとネリスはフード付きの外套で体や頭部を隠している状態だ。

 港は一般の商人や船乗りで賑わっており、加えてすぐ隣には軍の施設がある。

 国家の中枢にとって既に解決した案件であるという認識からロイス・ウィルクライムの国外追放は各地に通達するための書類を一応(、、)準備している段階であるため王都の外にある現状では建前として取り締まられる理由は無いが、当然ながら目撃情報を残すことを嫌がったロイスがそうさせているのだ。

 一時間もしないうちに一行は港に辿り着いた。

 周囲の商船にも劣らない大きな帆船の傍に馬車が停止すると、執事長が先導しはしゃぐクルムを筆頭に四人と一匹は真っすぐに船内へ進んでいく。

「思ってたよりでっかいね! そんな人数居ないのに!」

「ま、俺達の船じゃねえけどな。しばらくはさっき作ったアレで往復するしかない、それだけに頼るわけにもいかんから小さめの船は早めに調達するつもりだけどさ」

「これより大きくて豪華なのがいい!」

「ちっさいのっつったろ。いずれはお前専用の船も必要にはなるかもしれんが」

「え!? あたし専用!?」

「所謂女王船ってやつだな。今は他に優先するべき物がありすぎるから資金面含め後回しになっちまうけど」

「そっかぁ、あたしってば女王だもんね。楽しみー」

 自由への門出に気分も高揚するクルムは足取り軽く船内を進んでいく。

 そして案内されるまま客室に通され執事長が去ると、すぐに船は陸を離れた。

 到着までの時間で特にやっておくべきことも見当たらず、デッキ後方にある休憩室にてそれぞれがネリスの用意した軽食を前に早めのランチタイムに勤しんでいる。

 目的の孤島までは一時間程度の距離だ。

 船内には領主代行として船を動かす立場にある老齢の執事長と数名の乗組員しかおらず、空いている使う予定のない部屋を間借りした形である。

「で、食料その他の物資は馬車に積んでくれていて馬車や馬ごとくれるらしい」

 毎度のことながら隙あらば今後の予定を説明して聞かせるロイスであったが、毎度のことながら返ってくるのはネリスの暢気な反応だけだ。

 メイラーと並んでサンドウィッチを頬張りながら、肩を竦めて見せる。

 唯一ロイスだけがずっと窓から外を眺めていた。

「何から何まで太っ腹よねえ。こんだけしてもらってちゃんと返せるの?」

「ある程度は良い思いをさせてやらねえとあっちも割に合わんからな。その辺はちゃんと考えていくさ」

 それで、と。

 ロイスが続きを口にしようとした時、窓の外に物騒な顔が三つ並ぶ。

 上部から覗き込むように上下反対の状態で、額に角が生えた何かの頭蓋が内部を窺っていた。

「ユーリ……」

 思わず声を上げそうになるのをグッと堪えたところでロイスは三つの髑髏が何者かを把握したが、驚かされたことへの意趣返しとばかりに自ら出迎えることを却下し正面に座るネリスに視線を送る。

 ロイスやクルムがその存在に気が付く前からしっかり把握していたネリスにとってはそれがごく当たり前の光景だったのか、特に慌てる様子も無く窓の外へ呼び掛けた。

「三人とも、来たのなら普通に合流しなさい。敵の有無が分からないわけもないでしょう」

 途端に三つの顔は消える。

 開閉の音も立てずに室内に飛び込んできた三人は身を寄せ合っておかしなポーズを取るなりイールが参上の挨拶らしき台詞を声高に叫んだ。

深淵の悪魔(グルーム・イービル)、師の命を受け参上!!」

「いちいち怖いっつーの! 普通に入ってきてお願いだから、会う度にビクっとするこっちの身にもなって!?」

「そう言われてもな、我等は闇の部隊だ。見知らぬ人間の操縦する船に正面から乗り込むわけにもいくまい」

「そりゃ分からんでもないけどだな……ていうか、その仮面もう変わってんじゃん」

 イール、デューク、エフィーの三人は揃って額に角が生えた何らかの生物の頭蓋を被っている。

 定期的に意匠が変わるという話こそ聞いているもののロイスにとっては二度会って二度とも違う格好なのだ。呆れるのも無理はない。

「何を言うか、我等は闇の部隊にして影の部隊、にして死の部隊。正式に組織に属することになったゆえ気持ち新たに統一感を表現すべきと考えわざわざ狩ってきたというのに」

「やっぱり自力で調達したんかい……」

「我らは師の、そして王女殿下や大将の意思に沿って暗躍する影。どう考えてもこの方がテンションが上がる」

「最終的に気分の問題じゃねえか。いや別にお前達がそれでいいと思っているのなら文句は言わんけど、夜にひっそり近付くのはやめてね? 俺ご近所迷惑を鑑みず悲鳴上げるよ?」

「慣れたら大丈夫だって~。はいっ、これリーダーの分!」

 切実な願いが通じているのかいないのかと呆れるロイス。

 その横で早々に列から離れクルムと仲良くクッキーを頬張っていた小柄なエフィーが腰の辺りから取り出した何かをロイスに差し出した。

 三人が装着している物と似通った角の生えた頭蓋だ。

 言わずもがなロイスは受け取ることすらしない。

「いらん」

「なんで~? フィーたちのリーダーなんだから、お揃いの方が格好良いじゃん?」

「俺はお前達と違って人間の社会を出歩くんだよ。そんなもん着けてるのを見られたら即衛兵が飛んでくるわ」

「むむ……我らとて人目のある場所で行動する時はもう少し大人しい仮面に変えているのだが……ならば別の案を考えるか」

「え~、また狩りに行くの~?」

「どうしても俺に何かを着けさせないと気が済まないのか? そしてそれは何らかの生物から剥ぎ取ってこないと気が済まないのか?」

 再び呆れるロイス。

 そしてそれを無視して次なる仮面の意匠に関しての相談を始める深淵の悪魔(グルーム・イービル)

 そんな平和なひと時は、扉を叩く音が不意に終わりをもたらした。

「ウィルクライム様、島が見えてきましたのでお知らせに参りました」

 ロイスが執事長の声に反応するよりも先に髑髏の三人組は出入り口と窓の両方の死角へと身を隠している。

 これは三人にとっての癖であり条件反射でもあったが、その徹底ぶりに感心と相変わらずの強者感を抱かされつつもロイスは応対のために扉を開いた。


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