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王女が攫われた報復に魔王の娘を攫ってきたら国外追放を言い渡されたので新世界の神になる  作者: まる


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【第二十四話】 始動へ


 日は暮れ、大地を暗闇が包んでいる。

 夕食を済ませ、入浴の時間を経て就寝の時間を迎えようとする一行にあって、唯一ロイスだけが部屋に戻らずにいた。

 場所はクロフォード卿の私室。

 いつかと同じく蝋燭の明りに照らされた室内で向かい合い、ワイングラスを傾けている最中だ。

「度々になるが、迷惑を掛けたな」

「なに、気にすることじゃないさ。こちらも同じ返答になるけれど、それなりの付き合いがある中で君の新たな一面を見るのは退屈しない。良き兄だったことにも驚きさ。クルム殿との関係を見るに、性根では面倒見がいいのだろうね」

「そういう自覚は無いんだがな、例えそうだとしても赤の他人にそれを発揮するほど出来た人間じゃないさ」

「身内に限定される、と?」

「あいつらは二度も親を亡くしているんだ。その代役を務めることが出来る人間が俺以外に残っていなかった」

「ご両親を亡くしたのは君も同じだろう? その当時、彼女たちがまだまだ子供だったのは理解出来るけど、君とて十代の時分じゃないか」

「それはごもっともだけどな。悲しいだとか絶望なんてもんも勿論あったけど、俺がどうにかするしかないって気持ちの方が遥かに強かった。あいつらを路頭に迷わせないために、飯食って寝る場所を維持するために、俺が金を稼ぐしかねえんだってな」

「それで冒険者、か。立派な考えだと思うし、それをやり遂げた君を尊敬もするけど……だからといって他人として生きようというのは少々度が過ぎたんじゃないかい?」

「そこそこ名が売れて、勇者の一味に加わる前にはそうしてたよ。一番実入りが良い盗賊って職業を選んだ、その時点で後ろ指差されるのは日常茶飯事だった。実際勇者パーティーに盗賊なんぞ必要無いと多くのお偉方が言ってたしな。金のためなら何でもするドブネズミだとか、勇者や王国の権威を損なうコソ泥だとか……そんな奴が身内にいりゃ生きていくだけのことにも余計な障害を生むだろう。これを公にしていないからこそ今あいつらは立派な職に就いている。親代わりといってもあいつらを立派に育てる器量なんかあるわけがないんだ。せめて食うのに困らない金を稼いで、将来を邪魔しないことが唯一俺に出来ることだったのさ」

「なるほど、ねえ。それが彼女たちにとっては自分のために全てを犠牲にしてくれた兄上様になったってわけだ」

「その辺はよく分からん。まあ昔から俺には懐いていたし、勝手に義務を果たした気になって出て行ったのが許せんのだろうよ。残された最後の家族、なんて台詞を何度泣きながら言われたことか」

「はは、三度家族を失うことは受け入れられないというわけか。それで、本当に彼女たちを連れて行く気かい?」

「どうだろうな。そうならないのがベストだけど、まあ口で言っても引き下がらんだろう。どのみち準備が整ってこの国に『死なば諸共』攻撃を仕掛けようにも時間が必要だ。魔族領の方をどうにかする算段も付けなきゃならんしな。そう考えると……現実的に準備から先の行動に移るのは一体いつになるのやら」

「食料品や衣料品、生活用品も含め明日には頼まれていた物資が揃う。すぐにここを出るのかい?」

「すぐに寝泊まり出来る状況かは分からんが、どうであれ一度は現地に行ってこの目で確認してみないと何も決まらないからな。下見も兼ねてってところだ」

「そうだねぇ、僕もかれこれ十年は行っていないし掃除やら何やらは必要だったよ」

「……だった?」

「一応だけど、昨日今日で使用人を送って掃除や破損している家具や設備の修繕、庭の手入れぐらいはさせておいたよ」

「至れり尽くせり、だな。いくら借りを残せば気が済むのやら」

「それこそ気にすることじゃあない。しっかり返してくれるんだろう? そう判断したのは僕だ、この鼻が美味しい話を嗅ぎ分けるのに秀でているのは君もよく知っているはずだ」

「ま、否定はしないけどな。ならついでにもう一つ提案しておきたい」

「なんだい?」

「使っていない納屋や倉庫みたいな部屋はないか? 出来れば地下というか、人が寄り付かない場所が望ましい」

「探せば無いことはないけど、また一体どうしてだい?」

「クルムは転移魔法が使えてな」

「昼にもそんな話をしていたね」

「借り受ける別荘とここを魔法陣でつなげておけば船を使わずに行き来出来るかと思ってな。互いに便利だと考えたんだが」

「なるほど理解した、明日には見繕っておくよ。僕としても君達が出て行って終わりじゃあ味気ないからね」

「そうはならんって。こっちは買い物に行く権利も無いんだ、必要な物資なんかはまだまだあんたを頼るしかないからな」

「ならばありがたい。僕も退屈しなくて済むよ」

 その言葉を最後に、会話は止んだ。

 頃合いだとばかりにロイスは残っていたワインを飲み干し立ち上がると背を向け扉へと向かっていく。

 最後に一言ずつ挨拶を交わし、晩酌の時間は終わりを迎えた。


          〇


 ロイスが部屋に戻ると、すっかり就寝間近といった様相のクルムとネリスがベッドの上に座っている。

 先に休んでいていいと告げて出ていたロイスを待っていたのだ。

 カラやメイラーは既に目を閉じ寝息を立てているため皆がそうしたわけではない。

「お~そ~い~、もう眠たいよ」

 すかさず唇を尖らせるクルムの不満げな目や声が向けられる。

 やれやれと溜息を漏らしつつ、ロイスはソファーにもたれ掛かった。

「だから先に寝てろって言ったろうに」

「何の話してたか気になるじゃん」

「今後の予定の話を少々、な。明日には物資が揃うから出発出来る。一応手入れはしてくれたらしいが、すぐに寝泊まり可能かどうかは分からんし、荷物も整理せにゃならん。ひとまずは皆で掃除やら荷運びってところだな」

「え~……」

「不満げにするんじゃないよ箱入り娘。自立して生きていくってのはそういうもんだ」

「分かってるもんね~だ」

「クルム様、全て私がやりますのでご心配は無用です」

「さっすがネリス♪」

「はぁ、全部人任せじゃ苦労するぞこれから。まあ何でもいいが……ユーリ、あっちにあの珍妙な三人組を呼べるのか?」

「ええ、問題ありません」

「ていうか、前も思ったんだけど連中とどうやって連絡取ってんの?」

 ネリスは返答の代わりに日頃から身に付けている指の出たレースの手袋をスルスルと取り外した。

 手の甲にはひし形の中に十字が描かれた紋様が描かれている。

「……それは?」

「私の血で彫った術式です。三人の体にも同じ物があり、魔法力を込めることで呼び掛けることが可能になっているのです。といっても意思疎通が出来るわけではなく、手の空いている者は合流を求む、或いは緊急時ゆえ直ちに集合。伝えられるのはその二つのみなのですが」

「へぇ~、色々あるもんだなぁ。世界は広いわ」

 誰にともない感想をぼそりと漏らし、ロイスはそのまま寝転がった。

 その様に二人は疑問符を浮かべる。

「え? ロイス今日はそこで寝るの?」

「ああ、リリーが加わったしベッドも定員オーバーだろう」

「この子ちっちゃいから大丈夫じゃない?」

「お前が言うか」

「あたしはま発展途上だもーんだ」

「ま、そういうことにしておいてやるか。いよいよ忙しくなるからな、今日はここでいい」

「……忙しいのと寝る場所って関係あんの?」

「元々一人で寝る方が落ち着く質なんだよ。相手が誰かは問題じゃなく、基本的に眠りに落ちるまではあれこれ考える癖があるからな」

「ふ~ん、相変わらず変な奴」

「ほっとけ。場所を移せばいよいよ始動みたいなもんなんだ、お前達も覚悟しとけよ」

「は~い」

 気の抜けた返事と共にクルムもベッドに倒れ込む。

 そしてネリスが蠟燭の火を消したところでそれぞれが眠りに就いた。

 程度は違えど誰もが果て無き旅路の第一歩が近付きつつあることを薄っすらと感じながら。


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