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王女が攫われた報復に魔王の娘を攫ってきたら国外追放を言い渡されたので新世界の神になる  作者: まる


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【第二十二話】 集団から組織へ


 ロイスを始めとする六人は辺境伯と別れ、二階の部屋へと戻った。

 信頼する、或いは親愛なる兄の説得と説明を受けたため強い警戒心こそ抱いていないが、今や兄との再会を実感するあまり暢気に鼻歌を奏でる末妹のマリンティア以外は今でも気を許せる相手とまでは考えていない。

 それでいてクルム本人に何ら敵意や憎悪の感情が見られないためロイスが味方であり仲間だと宣言したことも踏まえ、どうにも距離感を量りかねていた。


「あ~、おっきい犬だ!」


 部屋に入るなり、隅の方で伏せっていたカラを見つけたマリンティアが喜びの声を上げる。

 しかし、思わず駆け寄ろうとするその足をまたしても長女ラキアが止めた。

「マリン、やめなさい。あれは犬じゃない、魔獣よ!」

「え~、でも尻尾フリフリしてるよ?」

「兄さん……」

「ああ、大丈夫だよ。こいつはカラ、黒狼って種族らしいから狼だな。人間……というか俺に対しては少なくとも敵意を向けてきたりはしない。近付いたり撫でたりするとあんな感じでものっすごい喜びを露わにするんだが、基本的にああやって隅っこでジッとしてるだけで何もしないのが難点だ。ユーリ、大丈夫……だよな?」

「私やクルム様、マロが説明すれば問題ないでしょう」

「カラ、この三人はロイスの妹ちゃんだから敵じゃないからね。覚えといて」

 すかさずクルムが紹介するが、やはりカラは尾を振るばかりで特に反応を見せることはない。

 それを気にすることもなくクルムは両腕で抱き上げると、そのままマリンティアの傍へと運んだ。

「はいどーぞ。触っても大丈夫だよ」

「ありがとークルムちゃん!」

「クルムちゃんだって……何か照れるわね」

「それでいいのか仮にも王族。普通なら無礼者って怒る場面じゃねえの?」

「別にいいわよ、ロイスの身内ならあたしの身内みたいなものになるんでしょ? それにもう魔王の一族って肩書は捨てたんだし」

「だとしてもこの一派の長である以上いずれは女王にするつもりなんだが?」

「そうなったらその時考えたらいいじゃん? 家族にまでペコペコされたら息が詰まるしさ」

「お前がそれでいいなら文句は無いけども。っと、今は話の続きだな。ラキもルカも座ってくれ」

「わ、分かりました」

「お兄様が言うなら……」

「では私は茶の用意を」

 改めてロイスは三姉妹と向かい合う。

 隣にはクルムが座るという先程までと同じ構図だ。

「そうは言っても、もう大抵は説明したからそう話も無いんだが……一応クロフォード卿に全部を聞かせるわけにもいかないからな」

「それは……兄さんの言う今後の計画について、という話ですか?」

「ああそうだ。彼は協力者であり取引の出来る相手というだけで俺たちの仲間ではないからな。そりゃ俺たちがこの先何かをやらかして、それを予め知っていたという立場にしてしまうと迷惑を掛けるってのも本音ではある。最初にそれは約束しているしな。応じられる取引には応じてもらって、その領分を超えてまで俺たちの味方である必要は無いってな具合の関係と考えれば分かりやすいだろう。同じ理由で仲間じゃない以上こっちの手の内を全部見せてやるつもりもないってわけだ。勿論カラの存在は知っているけど、今のところ他に三人仲間がいる。それに関しては辺境伯には伝えていない」

「その三人というのは……魔族なのですか?」

「その通りではあるけどな、別に俺がクルムに付いてくれる連中を束ねて新たな魔族の軍勢を作ろうだなんて思ってるわけじゃないということだけは理解しておいてくれ。俺たちは俺たちが生きる場所を自分で作り、数の力や権力で抑圧しようって連中を黙らせてやろうってのが目的なんだ。俺とクルムが手を組んだことが始まりであるように、そこに種族の縛りはない。単に現状で人間の仲間を増やすアテがねえだけの話だよ」

「な、なるほど?」

「ちなみにお兄様……」

「ん? どうしたルカ」

「そのお三方は女性ですか?」

「いや男二人と女一人だけど、それ重要か?」

「勿論です。クルム……さん? やネリスさんも含め女性ばかりになってしまうとお兄様が浮気しないか心配になってしまいますから」

「浮気の定義……」

「ていうか二人も末っ子ちゃんみたいに砕けた感じで接してくれていいよ?」

「「そう仰られましても……」」

「こっちの二人は性格的に生真面目なタイプだからな。歳や立場は無関係に誰が相手でもこういう感じなんだ、慣れるまでは勘弁してやってくれ」

「へ~、言われてみればロイスにだって同じだもんねぇ。あちっ」

 クルムはどこか納得した風に頷きながら、目の前に置かれたティーカップに口を付ける。

 それはラキア、ルカの二人が『立派な人間であろうとする』気持ちではなく『立派な妹でありたい』と願う気持ちから身に付けた性質であったが、クルムはおろかロイスにすらその事実を知る術はない。

「それで、兄さんの言う今後の計画というのはお聞かせいただけるのですか?」

「今真っ先に予定しているのはクロフォード卿から買った近くの孤島に引っ越すことだな。所謂仮住まいってやつだ」

「仮住まい? ということは、そこからまた別の場所に移るおつもりなのですか?」

「ああ、人様の領地の片隅に陣取ったところで誰に何の主張が出来るんだって話になちまうからな。本拠地が出来たら別荘というか、隠れ家その一みたいな扱いにするつもりだ」

「ちなみにその本拠地とは?」

「それに関しちゃまだ候補を絞っている段階だし、手に入れるにも簡単じゃない。入念な計画が必要だ。ゆえにまだ話して聞かせられるレベルのプランは無いってのが実情だよ」

「そういえば、先程うちの地下に魔法陣をというお話がありましたけれど……」

 ふと、思い出したように割り込んだのはルカだ。

 三人も揃ってネリスに謝辞を述べ、出された紅茶に口を付ける。

「クルム、要点を説明しても構わないか?」

「いいよ~」

「クルムは血筋柄転移や結界の魔法陣を作る能力に長けていてな。好きな場所に移動出来る上に自身の魔力を練り込んだ魔石を鍵として利用者を選べるというぶっ飛んだ力を持っているんだ。それによって拠点や今後行き来する国内外の各所に密かにそれを設置して、人知れず潜入工作をするための仕込みにするつもりでいる。特にこの国を堂々と歩けない立場の俺たちにしてみれば王都に潜入するための移動地点が欲しいところだった。お前たちの家にそれがあれば俺にとっても色々と捗るし、お前たちから俺に会いに来ることも出来るってわけだ。勿論魔法陣の存在も、俺との関りも誰にも知られないことが大前提だけどな」

「それでうちの地下に、と。お兄様の家でもありますけれど」

「……拘るね」

「当然です」

「で、三人ともそれを約束出来るか? まず一度はクルムを連れて直接出向かなきゃいけないからその方法を考えるところからだけど、事と次第によっちゃ全員の首が飛ぶ可能性があるんだ。だからこそ俺も真剣に言っている、それを理解してくれ」

「大丈夫です。兄さんと家族でいられるなら、どんな約束も守ります」

「わたくしも約束しますわ。代わりに、決してわたくしたちを置いてどこかに行ったりしないと約束してくださいませ」

「はぁ……分かったよ、約束する。マリンはどうだ?」

「大丈夫っ。お兄との約束破ったことないもん」

「ならよし。それがあれば週に一度ぐらいは会えるだろうし、不安にさせることもまあ……ないといいなぁ」

「兄さん? 何故曖昧に?」

「何か危険なことをしようとしているのですか?」

「危険かどうかは分からんが、最初の引っ越しが終わったら魔族領に行ってくるつもりだ」

「だ、大丈夫なのですか? というか何故また……」

「クルムの母ちゃんが隠し持っているっていうお宝を探しに行きたくてな。先立つ物も必要っちゃ必要だし、それ以上に役に立つ物もあるかもしれないって話だから手に入れられるなら手に入れてこうって話になったわけだ。つっても、今説明した魔法陣を使えば連中の城まではノーリスクで行けるから心配すんな」

 侵入は容易であってもその後は完全に自力が求められるのが実情であったが、ロイスは敢えてそれを口にはしない。

 頑固な妹たちに危険を理由に反対されたならまた話が拗れると知っているからだ。

「最初にも言ったけど、ひとまずお前達は今まで通りに暮らすんだぞ? 必要な時はこっちから協力を打診する。中身も精々何かを調べて貰ったり様子を聞かせてもらったりってぐらいだ。決して俺の知らないところで何かしようとか考えるな。これも約束だ」

「分かりました」

「お兄様の言う通りに」

「マリンも!」

「クルム母のお宝を見つけて、引っ越し先の目処が立った時が本格的に始動するタイミングだ。その時に気持ちが変わってなければこっちに合流してもいいし、その時の状況次第とはいえ引き続きそっち側にいてもいい。俺個人の意見としてはせっかく良い仕事に就けたのに勿体無いとは思うけどさ」

「兄さんが何を言おうと絶対についていきます」

「お兄様を切り捨てた国など今すぐ滅んでも構いません」

「……ルカ? 口悪いよ?」

「ふふっ、ほんと三人とも頑固だねえ」

「兄さん譲りですから」

「というかクルム……さんやネリスさん? はいいんですか? わたくしたちが加わっても」

「ロイスの家族なんだから嫌がるわけないじゃん。こんなに思ってくれる家族はあたしにはいなかったから、正直羨ましいって感じだしね。でもあたしやネリスももう家族のつもりでいるからよろしくね。言っとくけど、大事な兄貴を巻き込んだ悪い魔族みたいに思ってるなら真逆だからあたしを恨むのはナシよ? あたしは拉致されたからここにいるんだから。結果的にはそれでよかったと思ってるけどね」

「家族……ですか?」

「下でも言ったけど、無駄に壮大な目標であることを考えると誰も彼も疑って後ろから刺される心配してたら何も進まないからな。この二人と茨の道を行こうと決めて、互いに信用し疑わず、裏切らないという誓いを立てた。ちなみにこのネリスは俺の姉貴分らしいからお前たちにとっても義理の姉になんのか?」

「お三方もユーリと呼んでくれていいのですよ?」

「出たー、ユーリの持つ謎の姉属性~。未だにちょっと照れるくせに」

「照れてなどいません」

「あ、あの……ユーリというのは?」

「魔族の古い言葉で姉ちゃんって意味らしい」

「え……それは、検討しておきますということで……ですが、兄さんの味方なら私も皆さんのことを信じられるように努力します。どうか兄をよろしくお願いします」

「ええ。命ある限りお二人に尽くす所存ですのでご心配なく」

「今ここにいない三人もそのうち紹介出来ると思う。ああ、一応言っておくが形態としては最終的に国家の設立を目指すわけだけど、現状の少数組織でも一応のボスはクルムだからな。いずれは女王様ってやつだ」

「へへん!」

 何故か得意げに胸を張るクルムの姿に、ようやく気も緩み始めた二人にも微かな笑みが零れる。

 はたしてこの押し掛け劇における交渉の勝者はどちらであったのか。

 いずれであったとしても、またロイスとクルムに新たな仲間が加わった。

 背景を辿ればやはり単なる身内ではあるものの、初めての人間の仲間が。

 


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