表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王女が攫われた報復に魔王の娘を攫ってきたら国外追放を言い渡されたので新世界の神になる  作者: まる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/29

【第二十一話】 妹


 この数日で何度目になるか、またしてもロイスとその一行は応接室へと向かった。

 クロフォード辺境伯を先頭に扉を潜ると、すぐに目に入るのはどこか深刻な表情で俯く三人の金髪少女。

 それぞれが並んでソファーに腰掛け、用意された紅茶に手を付けることなく緊張感漂う佇まいで背筋を伸ばしている。

 長女ラキア・カートライト、二十歳。

 次女ルカ・カートライト、十七歳。

 三女マリンティア・カートライト、十四歳。

 三人共がロイスにとって残された最後の家族と呼べる妹だった。

 扉の開く音に反応し三つの視線が一斉に向けられる。

 辺境伯の背後にいるロイスの存在を認識したその瞬間、全員が立ち上がった。

「兄さん!」

「お兄様!」

「お兄!!」

「よ、よう……」

「よう、じゃないです!! 一体何を考えて……」

「ルカ、待って!」

 思わず詰め寄ろうとする次女ルカと末っ子マリンティアを長女ラキアが制止する。

 そして肩口と腕を掴んで強引に引き寄せ、素早い動きで逆に庇うように二人の前に出た。

「魔族……」

 その目はクルムとネリスに向けられている。

 帯剣を認めて貰えず丸腰の状態であったが、それでもはっきりと臨戦態勢を取っていた。

 即座に宥めるのは無論ロイスの役目だ。

 同じくクロフォード卿の前に出て冷静になれとばかりに両肩を抑え、座るようにと促すもラキアは動かない。

「落ち着けラキ、大丈夫だから」

「大丈夫って……」

「全部説明するから、だから一旦座ろう。ルカもマリンもだ、あとネリスも警戒しなくていいから」

「警戒などしておりません。万が一の時にクルム様をお守りする心構えはしておりましたが。それからマロ、ネリスではなくユーリと呼ぶように」

「今はそれは置いておいてくれ……話がややこしくなるから」

 言外に丸腰の少女三人程度なら警戒する必要性を感じませんと言わんばかりの口振りに、ロイスは事態の収拾や三方向に説明しなければならないことだらけである現状に早くも辟易している。

 それでもクロフォード卿が間に入り、場を仕切り直してくれたことによってそれぞれが向かい合って座るまでに状況は落ち着いた。

 引き続き三姉妹が並んで座り、テーブルを挟んでその正面にクロフォード卿、ロイス、クルムが座っている。

 そして『さあどうぞ』と促され、ロイスが微妙な空気の中ようやく話を進めるに至った。

「ラキ、ルカ、マリン、まずは紹介させてくれ。こちらが知っての通りこの辺りを治めているクロフォード辺境伯だ。俺が冒険者をやり始めて間もない頃からの付き合いで、仕事の面も含めて色々と世話になっている間柄でもあって行くアテのない俺達を居候させてくれている。本人はあまり拘りもない質だが、これでもかなーり偉い人だから失礼のないように」

「辺境伯殿、うちの兄がご迷惑をお掛けして申し訳ありません。突如押しかけたご無礼も重ねてお詫び申し上げます」

「愚兄に代わり感謝申し上げます。寛大な対応に感謝を」

「あ、ありがとうございます」

 長女ラキアに釣られるように三人が揃って頭を下げる。

 若くして国家に仕えている身である姉二人と違い、まだ幼いマリンティアは貴族宅に許可無く乗り込んでくることの重大さは理解出来ていなかった。

「しれっと愚兄とか言うなよ……つーかお前らが頭下げんでもちゃんとこっちで詫びも礼も対価の授受も終わってるから。で、クロフォード卿。それからクルムとネリスにも紹介しておくが、これ全部俺の妹でな。右から長女のラキア、次女のルカ、三女のマリンティアだ。妻じゃなく妹な」

「よろしくね~、ロイスの妹ちゃん達」

「ははは、まさか妹だったとは。最初からそう言ってくれればもう少しこちらもマシな応対が出来たろうに」

「その辺はまあ、俺のせいでもあるだろうから勘弁してやってくれ」

「なるほど確かに、この状況で君の身内を名乗ることは賢明ではない、か」

「それもそうだけど、仮にそうでなくとも三人には俺の身内であると名乗ることを禁じている」

「んん? それはまたどうして?」

「こうなった以上あんたには説明しなきゃならんだろうが……その前に一つだけ言わせてくれ。お前たち、なんで来た?」

 ロイスの目が改めて三人の妹に向けられる。

 半ば叱責に近い眼光と声色であったが逆にそれが三人の、とりわけラキアとルカの抑えていた感情を爆発させた。

「理由が必要ですか!? そもそも一体どの口が言っているんですか!」

「ラキの言う通りですっ! わたくし達がどんな気持ちでこの数日を過ごしたかお分かりにならないのですか!? 大体お兄様は昔からいつもいつもいつもいつも致命的に説明が足りていないのですっ! 大丈夫だ、心配するなってそればっかりで……」

「分かったから! 俺が悪かったから一旦落ち着いてくれって。心配掛けたことは謝るから。でもちゃんと手紙で大丈夫だって伝えたろ? あと決して追い掛けて来ないようにともな」

「そんな身勝手な言い分は断固拒否します」

「わたくしも右に同じく」

「勝手にいなくなるなんて許さないから!!」

「はぁ~……」

 これは口で言っても駄目そうだと、ロイスは肩を落とし項垂れた。

 基本的には聞き分けの良い妹達であったが、どうにも家庭の問題に関しては時に頑迷とも言える程に頑なな態度を取る嫌いがある。

 ロイスが家を出ると決めた時も、接触を断つようにと言い付けた時も随分と話が拗れた苦労も記憶に新しい。

 そんな深刻な空気の中でも大きな溜息と共に頭を抱えるロイスを愉快そうに見ているのはクロフォード卿だ。

「愛されているねえロイス君。どうりで僕に対して妻を名乗るわけだ」

「それはまた別の問題だろうに……」

 仮にこの場所を突き止めたとして、面識のない貴族を相手に知人や友人を名乗ったところで白を切られるだろうと考えただけの話だとロイスは付け加える。

 その俯いた頭の先で二人程が微かに赤面していることには気付いていない。

「もう兄妹喧嘩は後にしよう。ひとまずクロフォード卿と、二人に紹介しておく。どうにも話が拗れそうだ、このままじゃ話も進まん。名前はさっき言った通りで、右から長女のラキ……じゃねえ、ラキア・カートライト。歳は二十歳になったばかり、騎士団所属で王家守護隊の四番隊副隊長を務めている。んで次女のルカは十七歳、財務長官補佐だ。最後に末っ子のマリンことマリンティアは十四歳だからまだ働きに出ていないが、知り合いの農家で日々手伝いをして給金をもらっているって感じだな」

「それはまた、随分と優秀だねぇ。でも一つ気になったのだけど、名前が違っていないかい?」

「血は繋がっていないからな」

 今日この時まで、誰一人としてこのことを知っている人間はいない。

 と先に補足してロイスは三人と家族になった経緯を説明して聞かせた。

 元は両親の友人の子であること。

 三姉妹にとっての実の両親が亡くなったのちにロイスの家に引き取られたこと。

 その後ロイスの両親も亡くなってしまったこと。

 それからはロイスが親代わりになって三人を育てて来たこと。

 そのために冒険者になり、手っ取り早く稼ぐために盗賊を選択したこと。

 それが将来的に三人の人生の枷にならないよう兄妹である関係を秘匿し続けたこと。  

 ロイスが家を出てからは月に一度程度食事を共にするぐらいの接点しか持っていないこと。

 それらを掻い摘んで説明していく。

「ま、三人は最後の最後まで反対したけどな」

「当然です。家族なのに別々に暮らす意味が分かりません」

「そうです。むしろ今でも納得していないんですからね」

「そう言ってくれるなよ。結果的には俺の判断は正解だったじゃねえか、こうして犯罪者として国外追放食らってんだから。こんな野郎が身内にいると知れたらお前達のキャリアを棒に振るところだったんだぞ?」

「そんなことに何の未練もありませんけど?」

「わたくしも同じく、何の価値も見出せません」

「マリンも!」

「あのなぁ……」

「それよりも兄さん、ずっと気になっていたのですが……そちらの魔族は何なのでしょう? 一体どういう関係なんです?」

 刺々しい言葉尻と共に細めた目が向けられる。

 人間と魔族が共に居る理由などどこの誰にも存在しない。警戒するのも、敵意を抱くのも無理からぬことだった。

 長女ラキアは騎士団員であり相応に剣術に秀でている。最初に止められていなければいつ斬りかかっていてもおかしくはない程度には危機感を維持していた。

 無論その剣は屋敷に入る前に預けているのでそのための武器は携帯していない。

「それもちゃんと説明する。俺がここにいる経緯は聞いたな?」

「城内はその話で持ち切りですので。あの腐れハゲジジイが……」

「……ルカ? 口悪いよ?」

「悪くもなりますっ。どうして王命を受けて魔族領に乗り込んだお兄様が一人で責任を負わされるのですか!」

「ルーカー、怒ってくれるのは嬉しいけど一旦落ち着けってば。ひとまず俺の説明を聞いてくれ」

 身を乗り出して憤りを露わにするルカを再び押し留め、ロイスは再び説明を始める。

 勇者一行として魔族領に侵入するも王女の奪還は不可能だと判断し、キャスト・ナイトブレイドの指示によって成果を持ち帰るようにと指示を受けたこと。

 その際に偶然入った部屋に居たクルムを拉致したこと。

 それが国家の危機を招く結果だとして糾弾され、結果二人揃って国を追い出されるに至ったこと。

 そして、行くアテの無い者同士で行動を共にすると決め、新たに国を作り、ついでに現魔王勢力やこの国を標的に種族の壁を取り払った新興勢力を組織するつもりであることなどだ。

「そんな……魔族と手を組む、と? 本気で言っておられるのですか?」

「ああ本気だ、だから魔族全部と言うつもりはないが俺の仲間に偏見を持つのはやめてくれ。互いに何があっても裏切らないと誓いを立てた、俺はこいつらと共に行く……最後の道をな」

「兄さんがそう仰るのなら……ですが、今後どうするおつもりなんですか?」

「準備が整い次第この国を出て行くよ。その後は今説明した通りだ」

「新たに国を作って、世界に喧嘩を売るだなんて……お兄様は本気で出来ると思っているのですか?」

「思っちゃいないさ。だけどその選択肢を捨てて、諦めることを選べば俺はどこぞで野垂れ死ぬだけだし、こいつは一生を籠の中で過ごす。そんなクソったれた最後は御免だから巻き添えにこの国と魔王軍を道連れにしてやろう、ムカつく連中に意趣返しをしてやろうって話さ。これは野望や目標がどうこうって話じゃない、もっと単純な生き様の話だ」

「そんな危険なことをせずともわたくしが一生お兄様を養います」

「この国で生きることすら許されてないんだぜ? それに、こうやって出来っこないと冗談交じりに口にしちゃいるが、案外夢物語ってわけでもねえと思ってんだけどな」

「だったらわたくしもこの国を出ます。お兄様についていきます」

「マリンも行くからね! お兄とお別れなんて絶対ヤだ!」

「おいおい、そんなことをされたら俺の今までの努力が水の泡じゃないか。お前たちに真っ当に、そして幸せに生きて欲しい。俺があの日から今日に至るまでに願ったのはそれだけなんだからさ」

「お兄様を忘れて得られる真っ当な人生なんて欲しくありません」

「私もです。例え仕事を失おうとも、国を追い出されようとも、兄さんを切り捨てるような国に何の未練もありませんから」

「むしろその国に仕えていることを恥ずべきだとすら思いますわ」

「なんでだよ。心配しなくてもお前達を危険なことに巻き込んだりしないって」

「今までがおかしかったのです。家族なのですから一緒にいるのは当たり前のことです」

「……いや、だからな?」

「逆に私達が追放されてしまったら、兄さんはお達者でと送り出すのですか?」

「お兄様は絶対そんなことしません、断言できます」

「ご自分だってまだ十代だったのに、私たちを養うために今までの人生全部使ってきたんじゃないですか。そんな兄を想うのはそんなにおかしなことですか?」

「恥ずかしいこと言うなよ……俺まで感傷的になっちゃうだろが」

「お兄は素直じゃないからね」

「王女殿下を救出しに一人で潜入して、代わりに戦果を持ち帰った兄さんに国から出て行けって……想像しただけで腸が煮えくり返りますわ。国王にも、その取り巻きにも……黙ってそれを許した勇者達にも」

「戦争だとか復讐だとかという話には諸手を挙げて賛成することは出来ませんけれど、兄さんがそういう生き方を選ぶなら私は共に行きます。そこが私たち家族の居場所ってことですから」

「泣かすなよ、真面目っ子のくせにさ……問題児は俺だけでよかったのに」

 ロイスは熱くなる目頭を押さえ、言葉を探している。

 月に一度しか会わない今でも、ずっと感謝と尊敬の念を向けてくれる妹たち。

 それはロイスにとって何よりも大事な存在であり、だからこそ巻き込みたくないと本気で思うのだ。

「気持ちは分かった、嬉しくも思う。だけど駄目だ、一緒に行ったってロクなことにはならん」

「駄目だと言って、私たちが引き下がるとお思いですか?」

 ラキアのにこやかな笑顔が無言の圧力を伝える。

 逆にルカやマリンティアは真剣な眼差しで意地でも説得されてあげませんという意思表示をしていた。

「……まだどうなるか分からないんだ。必要なもんを揃える、種族の壁を取っ払った新たな組織の基盤を作る。集団から組織に、組織から国にするためにな。それが並行して進めなければならない当面の目標であり計画だ。せめて準備が整うまでは待ってくれ。どう転ぶかも分からん状態でお前達の人生を狂わせられるか」

「マリンはいいよね? お姉と違ってちゃんとした仕事してないし」

「いや……うーん」

「だったら私たちも」

「そうなるからやっぱ駄目」

「どうしてですか! 次にいつ会えるかも分からないんですよ!?」

「大丈夫だって、その辺もちゃんと考えてあるから。お前たちの家には地下に貯蔵庫があるだろ?」

「兄さんの家でもありますが、それが何か?」

「そこに転移魔法陣を設置させてくれ、ちょうど王都に侵入する方法を探してたところだ。それなら行き来も出来るし、お前たちの方から会いに来ることも出来る。勿論誰にもバレないようにってのが大前提だが……その代わりに約束してくれ。ある程度の準備が出来たら迎え入れる、だからその時が来るまでは今まで通り過ごすんだ。俺のために何かしようとか考えなくていい、協力が必要な時はこっちから確認するから。それが守れないなら話はここまでだ、その時は俺はお前たちに知らせずこの国を発つ」

「分かりました、約束します……ですが兄さんも絶対に約束を守ってください」

「わたくしもお兄様が約束してくださるなら言う通りにしますわ」

「ああ、約束するよ。マリンは?」

「約束するっ」

「よし、ならそれで決まりだな。クルム、ネリス、悪いがそういうことでいいか?」

「あたしは問題無いって最初に言ったじゃん」

「それがお二人の意思であれば是非もなく」

「急な話で悪いな。さて妹たちよ、二階に俺たちが借りている部屋がある。そこに仲間の犬が待ってるから紹介するよ。そのついでに今後の段取りを話そう。悪いがクロフォード卿は遠慮してくれ、知り過ぎることはあんたの立場を危うくすることと同義だ。傍観者として俺たちの悪足掻きを楽しむぐらいの立ち位置でいる方がいい」

「分かったよ、君たちの今後には興味が尽きないけれど、可愛らしい奥様方に免じて家族の時間を邪魔するような無粋は自重しておくとしよう」

「だから、奥さんじゃねえっつの」

 こうして突如押しかけた妹達との面談は一旦の終わりを迎え、クロフォード卿を除いた全員が元居た部屋へと戻ることとなった。

 ここでは口にしなかった今後の計画、口にはしなかった別の仲間(、、、、)の話をするために。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ