Armour Zone 2
その夜フィエロは屋敷の二階中央にある部屋に訪れていた。
扉の前に立ちノックをする。
すると中からロングレンが「開いている」とだけ言う。
フィエロはそれを聞くと扉を開けて中に入った。
中ではロングレンが机に向かって書類処理をしているところだった。
羽ペンを持ち黙々とサインをしていた。
「なにしに来たんだ?」
以前としてロングレンの視線は書類に向けられていたが彼は誰が入ってきたのかわかっているかのように質問をした。
「近況報告とここの様子見だな、たまには顔を見せないといけないしな」
「ハッ、どの口が言うどの口が、お前がそんな殊勝なことをするわけがない。馬鹿も休み休み言え」
「ああ、嘘だ、出来るなら一生来たくもない」
「だろうさ、で?」
「…ケインとドゥヴァに会った」
「なに?」
そこでやっとロングレンの手が止まり視線がフィエロの方へと向かった。
ロングレンは彼等とも知り合いである。が、しばらく会ってはいなかった。
故に最後に彼等と会った時の事を思い出す。それはもう既に数年以上前の記憶になっていた。
「お調子者のケイン・コーラサンドラとお人好しデブのドゥヴァ・ヴォルディエイモンか?」
そう、彼の知る二人はそんな人物だ。
フィエロもそう記憶し認識していた、昨日までは…。
「ああ、その二人だ、ただ明らかに人が変わっていた」
「と言うと?」
「まずケイン、あいつは性格が既に違っていたな、昔のようなバカ丸出しな行動は無く聡明さが感じてとれた。まぁ多少は昔のままだったが…。ドゥヴァに至っては最早別人の域だ、最初は誰かわからなかったぐらいだ。」
「具体的には?」
「ろくに扱えていなかった特異体質が常時全身武装状態になっていた。体格も戦士の其れだった。しかも目の前で解放までしてみせた…」
それを聞いてロングレンは驚きのあまり立ち上がっていた。
椅子は後ろに倒れ、机の上の書類が地面に落ちてしまった。インクが溢れなかったのは幸いだったが持っていた羽ペンはポッキリと折れてしまった。
ロングレンの表情は険しいものだった。
「……確か、ドゥヴァの特異体質は龍種だったよな?」
「ああ、そう記憶しているしそう言っていたから間違いない」
「制御はできていたのか?いや、常時武装状態を維持しているのなら問題はないか…」
ロングレンは考え込むように椅子を戻して座る。
険しい表情のロングレンにフィエロはもう一つ付け加える。
「ドゥヴァの奴、言葉が不自然なぐらいカタコトで無機質なものになっていたよ」
「…無茶なことを仕出かしたようだな。ケインは兎も角ドゥヴァはその様子じゃ真当な方法をしてなさそうだな。人格に異常をきたしてるなんてありえんぞ…。それで、あいつらはお前になんと言ってきたんだ?」
二人の現状を知ってある程度ロングレンはわかっていた。
ケインとドゥヴァを最後に見た時の事を鮮明に思い出す。
そこには尋常ならざる殺意に満ちた表情で街道を歩く二人の姿だった。
彼等が何にそこまでの殺意を向けていたのか知っているがゆえにロングレンはフィエロにわかっていてそれを聞いたのだ。
「シャルディオ王国の滅亡だ」
「馬鹿なことを…いや、どっちが馬鹿かわからんな。いや、この国はもうあの頃とは違う、王や他の貴族達も変わった。この国は次に進んだんだ。だからお前だって未だにこの国にいるのだろう?あいつらがやろうとしていることは最早何の意味もなさない」
「そうだな…」
「何を企んでいるフィエロ?」
なんの意味もない行動を止めなかったフィエロにロングレンは意図があるのではないかと思い質問した。
「別になにも、お前も知ってのとおり俺は人嫌いだ、特にこの国は八つ裂きにしてやりたい程憎い。けど今の生活は割と気に入っているんだ。俺を放置する国もここぐらいだからな、あいつらが勝手にこの国を潰してくれるって言うなら願ってもないことだ、それに今のケインは昔と違う、あいつはきっとやるぜ?」
その言葉に息を呑むロングレン、フィエロにそう言わせるほどに変わってしまった。いや、変えられてしまったのだろう。この国に。
「はぁ、全く、仕事を増やさないで欲しい」
「頑張れよ将軍、俺は気ままにこの戦況を傍観させてもらう。どっちに転んでも俺の立場は悪くならないからなぁ」
「悪魔め…」
「悪魔じゃない吸血鬼だ」
「エセ吸血鬼め、お前など悪魔で十分だ」
「言ってろ」
「もういい、この話はもう無しだ。フィエロ、この街にはあとどれぐらい居る気だ?」
うな垂れるロングレンは今の話を直ぐ様打ち切ってフィエロに滞在期間を聞いた。
フィエロ自身ももうその話を掘り下げる気は無かったので直ぐにその質問に答えた。
「明日には帰るつもりだ。ここに来たのも新聞の手配と食料調達がメインだったからな」
「だったらあの弟子共を街で遊ばせてやれ、どうせ山篭りでろくに息抜きもしてないんだろ?修行ばっかだとつまらん人間になるぞ?」
「一理あるな…多少なら良いだろう」
一瞬考えてフィエロは二人を明日休暇を出すことにしたのだった。




