Armour Zone
街には無事に着くことができた。
王都ほどではないがここもそれなりに大きく賑わっていた。
行き交う行商人や冒険者を見ればそれだけで分かる。
「野暮用って結局なんなんですか師匠?」
「それ俺も気になってた」
「付いて来ればわかるだろ」
そう言うとフィエロはスタスタと歩いていく。
アルト達も人混みで離れないように着いていった。
とは言うもののフィエロは人の波を苦もなく進んでいく。逆にアルトとキースは身長差もあってか苦戦していた。アルト的には身体的な年齢よりも体は大きいと感じるがそれでも行き交う大人たちに比べればまだ小さいということだ。
「し、師匠ーどこですかー!」
遂に周りから反応がなくなり先程まで自分と同じ状態だったキースの姿も声も確認できなくなってしまった。流石にまずいと思って進もうとするが徐々に人混みの端っこへと追いやられてしまった。
と、思いっきり通行人と肩をぶつけて路地裏の方へとこけてしまった。
「イテッ!」
「悪いな…あ?」
尻餅をつくアルトに謝罪をしようとこちらに顔を動かす男の動きが止まった。
男の見た目はフード付きの茶色い旅人用のローブ姿で細かいところまではわからなかった。
ただフードから覗かせる黄色い獣のような獲物を捉えるような眼光が印象的だった。
よく見れば腰辺りには剣の形にローブが少し浮いていた。冒険者かなにかだろうか。
「お前…」
「あっ、おいアルト!」
男が何かを言いかけたところでキースが割って入ってきた。
「おい逸れるなよ師匠が待ってるぞ!…あっ、どうもすいません!」
キースはアルトの手を取って引っ張るとそのまま大通りへと消えていった。
男は二人が消えていった方を見て笑みを浮かべる。
「アルトか…やっと見つけたぜ…」
そう言うと男は今来た道を戻った。
アルトはキースに連れられて大きな屋敷の前まで連れてこられる。
門の前ではフィエロ師匠が腕を組んで壁にもたれかかっていた。
「来たか」
「お待たせしました師匠、アルトいまいた!」
「すいません見失っちゃって」
「まあいい、それじゃあ入るぞ」
そう言うとフィエロは既に開いている門を抜ける。
門の横には敬礼している門番が二人立っていた。
俺たちが通り過ぎると門番は敬礼を解いて門を閉めた。
中は真っ直ぐと道が続いていて左右に芝生、右側に噴水があった。
「師匠ここが師匠の本当の家なんですか?」
「一応な」
「ここで住みたいなぁ、そう思わないかアルト?」
キースは屋敷の窓から見えるメイドや執事を見てそう言った。
確かに一々家事や雑務をしなくて良いとなると大分楽である。
そもそもあそこにメイドや執事を雇えば良い話ではないのだろうか?
「師匠俺たちも雇いましょうよ!」
「断る」
「えぇ~」
「俺からすればお前たちが召使いみたいなもんだ」
「師匠ひどい!」
「そうだそうだ!」
するとフィエロはひと睨みして俺たちを黙らせる。
怖っ!さすが師匠、眼力がぱないっす。
そうして三人は屋敷の扉の前まで到着する。
フィエロが扉を開けるとそれに気がついた執事が近づいてくる。
「お客様どういった御用で?」
「新人か?ロングレン・ペベランチ・ヴァシュードは居るか?」
「は?」
「おお、これはこれは旦那様、お久しぶりでございます」
男が怪訝な顔をすると、そこへ執事長と思わしき老執事が現れた。
「君、こちらはこの屋敷の主にしてこの辺り一帯全てを任されているフィエロ・キスタ・マントール辺境伯様その人だ」
「え、この方が!?大変失礼しました!」
男は慌てて腰を曲げて頭を下げながら謝罪をする。
「良い、俺自身あまりこちらには来ないからな、仕事に戻れ」
「かしこまりました!」
フィエロは視線を老執事に戻す。
老執事はそれに合わせて口を開く。
「それでフィエロ様、この度はどのようなご要件で?生憎とロングレン様は外出中でございます」
「なんだいないのか、それは良かった、別にあいつに用があったわけじゃないからな」
「と、言いますと?」
「新聞を取り寄せたい頼めるか?」
「あちらの屋敷にでしょうか?」
「ああ、そうだ。なんだ無理なのか?」
「いえ、可能でございます。直ぐに手配いたしましょう」
「あ、待て、手配するのは王都の新聞だ」
「王都発行の新聞でございますか?それですとお時間がかかりますがよろしいでしょうか?」
「ああ、問題ない」
「かしこまりました。ではそのように」
「邪魔したな」
「旦那様」
フィエロが用は済んだと言わんばかりに踵を返すと老執事が呼び止める。
「なんだ?用は済んだしロングレンが居ないならあいつに会う前に早々に立ち去りたいのだが?」
「そちらのお連れ様の紹介はして頂けないのですか?」
そう言うと老執事はアルトとキースに顔を向ける。
短く整えられた白髪に髭が印象的で、目は黒色。
その老執事は左胸に手を当ててお辞儀をして自己紹介をする。
「お初にお目にかかります。私、この屋敷で使用人統括を務めさせて頂いておりますヘンジ・アンバーグ・オルコと申しますヘンジとお呼び下さい」
「は、はい初めまして!弟子のアルト・リバイクという者です!アルトで大丈夫です!」
「お、同じく弟子のキース・キンブリーです!キースで問題ないです!」
二人もヘンジに倣って同じようにお辞儀をする。
そしてヘンジがお辞儀を解いたところで二人も頭を上げた。
「アルト様にキース様ですか、それにしても弟子というのは本当なのですか旦那様?」
「ああ、どういうわけかそうなった」
「人嫌いの旦那様が珍しい…」
そう呟くとギロリとフィエロがヘンジを睨みつけた。
直ぐ様ヘンジは頭を下げる。
「失礼致しました」
「チッ、もういいだろ?用は済んだんだから俺た…」
「おぉ?そこに居るのはフィエロか?ハハッ、通りで血生臭いと思った訳だ!おお吸血鬼臭くてたまらんたまらん!」
「なんだあいつ…」
「ムカつく奴だな」
男は庭の真ん中辺りでこちらに気がついたようで早足でこちらに近づいてきた。
白髪まじりの黒髪を後ろで纏めて結び、無精髭と年季が入った感じの男だ。
体もそれなりに大きく服装が貴族の其れではなく鎧だったら将軍と言っても差し支えないものがあった。
フィエロとロングレンが対峙する。身長はロングレンの方が頭半分程高かった。
「ロングレン様、旦那様にそのような口の利き方はお控えください」
「ヘンジ、いいんだよ。俺とこいつの仲だ、だろ?」
「相変わらずだなロングレン。遊び惚けてないだろうな?」
「俺がか?まさか!今もこうして仕事をしてきたばかりだよ!てかなんだフィエロ、ベビーシッターでも始めたのか?暇な奴め」
「弟子だ、文句あるか?」
「弟子ぃ!?お前がか?アッハッハッハ!こりゃ傑作だ!なんだ国の転覆でも目論んでるのか?可愛い弟子って訳だ!」
ロングレンはしゃがんで二人を交互に見る。
その眼光は鋭いもので物色するかのようで見透かしてくるような感じがあった。
「名前は?」
「アルト・リバイク」
「キース・キンブリー」
「知らん家名だな、どこの貴族だ?」
「貴族じゃない、唯の平民だ」
「はぁ?またなんで?」
「あいつの未来の兵士だよ」
「あいつ?…あっマルキスか!ほぅ、それは興味深いな平民にしてこの優遇…余程マルキスは手に余ったようだな!あいつは等々馬鹿になったみたいだな。血迷ったのか?こいつに預けるなんて?あぁ、血迷うのはフィエロ、お前の得意分野だったか…」
その言葉でフィエロが睨みつけた…と同時にアルトが動いていた。
腕の力を解放して殴りかかった。
咄嗟にロングレンは両手をクロスして防ぐが体のバランスを崩して一メートル程飛ばされる。
追撃しようとしてフィエロに肩を掴まれる。
「師匠、俺久々にムカついた離してくれ!」
「ダメだそのぐらいにしろ」
キースも同じ気持ちなのか詠唱しようとしてフィエロに手で遮られる。
ロングレンはゆっくりと立ち上がると戻ってくる。
「良いパンチだったぞ小僧」
「なっ、効いてない!?」
「子供のパンチにしては良かったぞ?特異体質…なるほどなそういう訳か、じゃあこっちもか?」
腕をさすりながらロングレンはキースの方を見る。
「こいつは違う」
「そうか、で、お前たちは何しに来たんだ?」
「こいつ…」
全く話を進めさせなかった張本人が何か言っている。
結局、この日は屋敷に泊まることになった。




