ちいさな冒険者 3
俺たちが村を出て一ヶ月近くが経った。
俺たちは遂に王都に着いたのだった。
現在は昼少し前で王都に入るための検問待ちをしていた。王都と言うだけあって街はかなりの規模で、それを囲む壁も門も凄まじく大きかった。
しばらくそれらを見ているとアルトたちの馬車の番が来た。
検問は門の手前で行われた。まず乗っている人間全員、アルトたちの場合は計四人が一度馬車の横に出てくる。俺たちの前には二人組の兵士が立っていた。
まず危険人物、盗賊や指名手配犯でないことをチェックする。
次に馭者のおっちゃんに来た目的を聞く。馭者のおっちゃんは兵士に乗客を運んできた、それと必要物資の調達だと兵士に説明した。
兵士はそれを聞いて視線を俺たちに向ける。
まず隣にいたアルト、とりあえず会釈する。兵士の視線がキースに向く、どうやら俺は問題ないとみなされたのだろう。
キースはというと少し緊張した様子だったが問題なく済んだ。
次に王都まで同行していた魔術師のお婆さん。名前はニーシャ・キュクラインという。
ニーシャはこんな見た目だが大丈夫だろうかと思っていたが。兵士は特に怪しんだりはせずに頷いた。
まあ異世界で魔法がある世界なんだからこれが普通かと今更ではあるが思ったアルト。
これで人はオールクリア。次は荷物のチェックである。
まず馬車の中にあるおっちゃんの荷物チェックからだ、馬に食べさせる干し草、飲み水、保存食、剣。
剣は護身用とのこと。
次にアルトたちの荷物である。
と言ってもアルトもキースも持っている持ち物はこのリュックと村で買った剣と盾だけである。
既に食料は全部食べてしまったので身軽なものだった。因みにここに着くまでに二人共銀貨一枚と銅貨五枚を消費している。勿論食費だ。
そして最後、ニーシャはというと荷物という荷物は持っていなかった。
カバンも無いのである。では荷物は?
それは財布と少々の保存食の入った袋だけだった。
武器の類も持っておらず、かなりの軽装備だった。
「四名通って良し!」
「ようこそ、王都アーヴィスへ!」
兵士からの歓迎を受けてアルトたちは王都へと足を踏み入れたのだった。
王都はかなり綺麗に舗装された道路が轢かれており外よりも馬車の揺れが少なかった。
町並みはアルトが生前ゲームや漫画で見た中世風の町並みに似ていた。
そこが良いよねそこが、ワクワクが止まりません!
馬車が行き交うこの大通りには左右に所狭しとお店や屋台が並んでいた。
ここでならお目当ての武器や防具がありそうである。
それに美味しい料理も…と言ってもそこまで贅沢はできない、ただ、ちょっとぐらいならね?
そんなことを考えていると馬車が途中で左に左折した。どうやら一度止めるために馬車を繋ぎ場に移動させるようだ。
王都の繋ぎ場はさながら現代の駐車場のような場所だった。
馬車が多く行き来する王都ならではの光景ということだろう。
使用料は一日銅貨五枚と少々なお値段である。
とりあえず一度降りた。
「それじゃあ坊や達とはこれでお別れだね」
「ニーシャさんもお元気で」
手を振って別れを済ませる。
「よし、んじゃあひとまずはここで解散だな、こっちもこっちで買い足すものがあるから別行動だ、出発はそうだなぁ明日の昼にでもするか、お前さんら王都は初めてなんだろ?一日見て回ると良いさ」
「うん、そうするよ」
「なぁアルト、俺腹減った」
「はっはっは!やっぱ子供はまず飯か!んじゃまたな」
そう言うと馭者のおっちゃんはスタスタと歩いていった。
アルトたちも昼食を済ませようと大通りに出るのだった。
大通りは人が多く行き交い、ちらほらと亜人、エルフやドワーフといった種族が歩いていた。
本物のエルフやドワーフに興奮しつつもお店を見て回る。
むしろ目新しい物ばかりで興奮が急上昇である。
「お店もいいが屋台も捨てがたいな…あっ、あの串焼き美味しそう」
「俺は量が欲しいなぁ、なぁあそことかどうだ!?」
キースが指をさしたのは一軒の酒場だった。
このガキは…よほど背伸びしたいと見える。
「あのなぁキース、ああいう所はもう少し大人になってから行くもんだぞ?」
「えぇー別にいいじゃんか、お酒を飲もうって言ってるわけじゃないんだから、な?行こうぜアルトー」
そのままアルトを押して進むキース。
はぁ、ため息も付きたくなる。しかしながらアルト自身も興味がないわけではなかった、生前はその歳まで生きれなかったし精神年齢は既に二十一であるからお酒に興味があった。
「良いか、お酒類は頼まないぞ?」
「もちろんさ!」
まぁ流石に店側も子供に酒は売らないだろう。
そうして扉、これはいわゆるウエスタンドアだろうか、西部劇なんかに見られる真ん中だけの扉だ。まぁ俺たちは小さいので頭が隠れてしまうが。
それを開いて中に入る。まず目に入ったのはカウンターテーブルである。椅子が十脚。その右側には丸いテーブルが五つ。その左に四角いテーブルが五つあった。
既に何人か、冒険者だろうか?そういった感じの風貌の人たちがちらほらいた。中にはチンピラやヤン キーっぽい奴らも。
この時間からお酒を飲んでいるようだった。
「酒臭…」
「そりゃ酒場だし…」
とりあえず突っ立っているわけにもいかないのでカウンターテーブルまで行くことにした。
うわっ、椅子の背が高い…。普通に自分の目線ぐらいある。なので登って座ることになった。
キースも席に着くと店主が近づいてきた。浅黒い肌にスキンヘッド、そして厳つい顔とアウトロー感を漂わせる店主である。普通の子供ならまず近づかないし見たら泣く、下手したら亡く。
しかしこれでも二人共死地を抜けた経験から既に自分以上の力量の持ち主には泣かされているのでそうはならなかった。
「チビども、ここは酒場だぜ?大人が来る店だ」
見た目に見合った声で子供はNGですと言ってきた。
まあ普通そうだろう。
「お腹すいちゃって」
「そうそう、もうペコペコで死にそうなんだよ~」
「飯屋なら他にもあるだろ?」
「ここの酒場の方がご飯が美味しそうだったからつい…」
当然の疑問にこの切り返し。
相手を褒めて気分を良くさせる作戦である。
キースも横で頷いてくれるので効果はちょっとだけ増しである。
「そ、そうか…それならしょうがないな、まあなんであれちゃんと金を払ってくれるなら客だ。いらっしゃい」
ビンゴ、大当たりだった。
これで追い出されずに済みそうだ。
「で、何を頼む?酒は出せねぇから飲み物はミルクか水だ、どっちがいい?」
「じゃあミルクで」
「あ、俺も」
「ご注文は…って言っても分かんねぇか」
「お任せしてもいいですか?キースもいいだろ?」
「まあ早く食べたいしそれでいいや」
「ああわかった。少し待ってな」
店主がカウンターで何かを切り始めた。
そして数分後、アルトたちの目の前にはいろいろな具材の入ったサンドイッチが出てきた。
あ、これ普通に美味そうなんですけど!けど!
「こっちから食いな」
「あ、はい、わかりました」
数にして五つ。店主に言われた通り右から順に手に取って食べてみる。
ナダッ!コノアジハッ!!このピリリと舌を刺激する辛味、かと言ってただ辛いだけでなく辛く味付けされた鶏肉の旨さが口に広がる。そう、これは食欲を更に刺激する魔のサンドイッチだ!
アルトとキースは頬張るように一つ目のサンドイッチを食した。
そして次に現れたのは野菜とハムというシンプルなものだった。
なるほど、口休めということか。それを証拠に三つ目も先程と同じ見た目をしている。
そう思いながら二つ目のサンドイッチをかじった。
先に言っておこう…クソッやられた!これは口休めなどではない!断じて否だ!
これも辛い!一見してただのサンドイッチだがその実、中を開けてみれば一目瞭然!
この薄肌色のドレッシングはなんだ!?味はからしに近いがツンとはしない、ただ辛い!
つまり一つ目はこの辛さに慣れさせるための布石だったのだ!
なんてことだこの店主、俺たちを遊んでいるのか!?そう考えるとこのいかつい顔が不適な笑みに見えてくる。
しかし一つ目で辛さに慣れた俺たちからすればこの辛さからも旨さが感じて取れた。
この辛さで野菜の瑞々しさ嫌でも伝わって来るぜ!
二つ目もあっという間に完食した。そして三つ目、まさかこれも辛いということはないだろう。
恐る恐る三つ目を口にするアルトたち。
んま~い!これは旨いぞ!その時、コリっと口の中に違和感を感じた。
こ、これは…軟骨?感触を確かめてみる。
弾力があり硬いようで噛めばしっかりと咀嚼できるこれは間違いなく軟骨である。
ほほう…出来る。この店主出来る!!
サンドイッチとは総じて歯ごたえに欠ける食べ物だ、具材による断層で面白い食感にはなるが基本硬いと感じることは無い。そこにこの軟骨である。
成長途中の子供の顎を鍛えるような意図的な具材選び…。
この店主天才か!?そう考えるとこの強面がしたり顔に見えてくる。ぐぬぬ…。
直様完食した。
四つ目だ、もうやられないぞ、やられはせんぞ!
パクリと一口。
甘い、見てみると白いクリームが挟んであった。これはと最後の五つ目を見てみる。
そちらには色とりどりの果物が挟んであった。
そうか…これで…打ち止めか…。いわれのない敗北がアルトを襲った。
シンプルな甘さの四つ目を食すと五つ目にかじりついた。
始めは柑橘系であろう香りと味が広がりしばらくすると別の、これはベリー系だろうか、そして最後はメロンのような甘味が来た。縦も横も三断層とは洒落が利いている。
…燃え尽きたよ。真っ白に…。
「ごちそうさまでした!」
キースとアルトは元気よく食後の挨拶をする。
「いやーすごく美味しかったよ」
「ホントホント!来て正解、また来る機会があったら絶対来るわ!」
「そりゃよかった、その時は別の客も呼んでくれや」
その後は会計を済ませて外に出た。
銅貨三枚払いました。




