ちいさな冒険者 2
あれから四ヶ月とちょっとが経った。
現在、キースとアルトは山奥にある村もとい一軒家に来ていた。
大きさはそこそこあるが概ねあばら家と言っても過言ではない外観、これが屋敷とかだったらもうそれはお化け屋敷と言っていいものだろう。そう表現できないからあばら家というのである。
外には切り株に斧が刺さっておりどうやらこの家の主は自分で色々と工面しているようだ。
辺境伯の弟なので貴族なのだろうがこれを貴族と言うのは些か憚られる。
とまぁ、このまま修行篇に突入してもいいのだが、ここで道中に起きた出来事を時系列順にいくつか話しておきたいと思う。これでも一度王都に行ったりもしているので是非とも聞いて欲しい。
それではどうぞ。
生まれ住んだ土地から出て一週間後のこと、俺たちは初めて大きな街に到着した。
途中三つの村によって休憩や買い出しをしたがその三つの村を合わせても足りない大きさの街だ。
そこには初めて見るものばかりで目が回ってしまう。聞けばこれでも小さい街だと言うので計り知れない。
アルトとキースがまず寄ったのは武具屋だった。
てっきり武器屋と防具屋で分かれているのかと思っていたが同じだった。
しかも武具屋には包丁や鍋なんかも売っていた。ようは金物全般を扱っているのだ。
一体何を買うのかと聞かれれば勿論武器と防具である。
アルトとキースは意気揚々とお店に入った。
そして、壁にぶつかったのだった。その壁はそこそこの大きさでアルトとキースをいじめてきた。
何か?それは自分たちにあう体格の武器と防具が置いていなかったのだ。
店主によれば今から作ることも可能だがそれなりに時間がかかるとのこと。
ならば作ってもらえればいいじゃないと思うだろうがそうすると馬車が行ってしまうのだ。
となるとアルトとキースはきっと野垂れ死ぬだろう。それではダメなのだ。
結局、キースと相談した結果自分たちでも使えそうなナイフと探検をそれぞれ買うことにした。
ナイフがキースで短剣はアルトだ。
盾はキースだけが買うことに決めた。アルトの場合短剣も持っているので買えなかった。
これでアルトが銅貨五枚、キースが八枚消費したことになった。
この世界の通貨について説明しておこうと思う。
国によって違うみたいだがそれはここでは置いておく。
シャルディオ王国では銅貨、銀貨、金貨が主流の通貨である。通貨でなくても物々交換も可能らしい。
まあ通貨など国が保証して初めて成り立つ代物だからな。
そう聞くとこの国の通貨が基本価値がないように聞こえるがそれは関係ない。
銅貨は銅だし、銀貨は銀、多少の差異はあれど物としての価値がそこにはあるのだ。
一人の民が月に稼げる金額は大体銀貨二枚と銅貨五枚らしい。
銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚なのでつまり年収にして金貨三枚である。
自分たちはおよそ半年分の路銀をもらったことになる。
しかも馬車代は先払いで辺境伯が出してくれたのでかなりの余裕があった。
話を戻そう、アルトとキースは武具屋を出て次に食料の買出しに行くことにした。
出る前にリュックにある程度入れていたがそれもそろそろ無くなる頃だったからだ。
果物類もいいがここは日持ちする食料が好ましい。
保存食というやつだ。日干しした肉などがそれに当たるだろう。中には魔術が施された特殊なものがあるらしいがここでは売っていないしそれなりに高いので買わない。
とりあえず一週間分の食料を買うことに決めた。キースも同じものを買うと言うので同じ額を払った。
こいつ、計算するのめんどくさいだけだな…。などと思ってジト目で見るが口に出すのはやめた。
店主のおばちゃんに銅貨を五枚渡す。二人分なので十枚渡した。
帰り際におばちゃんに二人旅を心配されたが大丈夫だ、問題ないと答えておいた。フラグじゃないよ?
そしたらおまけで赤いりんごに似た果物を二つくれた。なんとも気前のいいおばさまである。味は梨っぽかった。
今日は馬車ではなく宿である。出発は明日の日の出だと馭者のおっちゃんが言っていたので宿で止まることにした。
食事付きで銅貨三枚の八人相部屋、しかし個室が空いていたので食事付きで銅貨六枚のそちらにした。
倍とられるがちょっと怖かったのでそちらにした。
久しぶりに一人なのでちょっと落ち着かなかったがすぐになれた。
一人で寛いでいるとキースが食事に行こうと誘ってきた。部屋は二階にあり一階が食事する所になっているので一度降りる。
メニューは完全に日替わりで本日は野菜とお肉を炒めたものとスープが出てきた。
なんともお米の欲しくなる味付けだったがこの世界ではまだ見ていないので諦める。
それでも美味しいものは美味しいので満足です。子供的には量も多かったので尚満足。
次の日になると朝早くに目が覚めた。
これは慣れない土地ということもあるがこの世界に来てからは結構早起きになっていたのだ。
丁度日が昇ってきた頃だったのでタイミングはバッチリである。
身支度…と言ってもリュックを背負って靴を履いて腰に短剣を引っ掛けるだけではあるが…。
それを済ませると外へ出てキースが泊まっている二つ隣の部屋に出向く。
ノックをするとすぐにキースが出てきた。どうやら寝坊はしていないようで安心した。
久々のベッドでもしかしたら熟睡してるかと思ったが杞憂だったみたいだ。
二人は一階に降りて店主に頭を下げると宿を出て行った。
街の門の近くに行くと既に馭者のおっちゃんが待っていた。
おっちゃんがこちらに気が付くと手を軽く振ってくる。
こちらも手を振って返した。
馬車に乗り込むとお客が一人増えていることに気がついた。
いや、今までも無かった訳ではないので驚いたわけではない。ただ見た目が不気味というか怪しいというか、そう魔術師のカリラに近い雰囲気があったのだ。
キースもそれに気づいたようでぎょっとしていた。
顔に出すのは失礼だと思うが子供なのでしょうがない。
軽く挨拶と会釈だけして馬車の反対側に座る。
荷物は足元、椅子の下に収納できるスペースがあるのでそこにしまった。
ちなみにだが馬車は最大六人乗りで椅子は左右横に設置されてる。扉は後ろについている。
なのでスペース的には結構空いているのだ。馭者のおっちゃんの仕事荷物が手前側に積まれているのでそれがなければ更に二人分程のスペースが確保できるだろう。
馭者のおっちゃん側の壁には小窓ほどの大きさの枠が空いておりそこから顔を覗かせることもできる。
と、馭者のおっちゃんがこちらに顔を向けてもう出発するぞと言ってきた。
それを合図に二匹の馬が馬車を引き始めた。門を出てしばらくすればスピードも速くなるだろう。
それにしても馬車の中は暇でしょうがなかった。
馭者のおっちゃんが行く先々のことを教えてくれるがそれでも限度があった。
キースとのお喋りなど尚の事である。もう会話のストックが尽きて久しい。魔物でも出れば別だなとしゃべっていると馭者のおっちゃんに縁起でもねぇと言われたしな。
すると魔術師らしき老婆がこちらに話しかけてきたのだ。
驚きつつも暇だったので会話してみることにした。
「坊やたちはこれからどこへ行くのかな?見たところ親も居ないみたいじゃが」
「えっと、場所は知らされてないんですよね、どこかの山奥だか森の奥だかに行くみたいですけど」
「ああ、こいつらの行き先はエルビスだ」
答えたのは意外にも馭者のおっちゃんだった。
と言うか、意外でも何でもないのか、なにせ運ぶ張本人なのだから。
「エルビス?そりゃまぁまた遠い所だねぇ」
「そんなにですか?」
「そうさねぇ、数ヶ月はかかるじゃろうねぇ」
「まあその分の賃金は頂いてるからきっちり運んでやるから安心しな!」
一体いくら貰ったのだろうか。
ちょっと待てよ、マルキス辺境伯から貰った路銀のことを考えてみるとあながち丁度いい金額を渡されたのではないだろうか。そう考えると無駄遣いできないなぁと今になって悟ったアルト。
そんなことを考えているとキースがお婆さんに質問をした。
「それでお婆さんはどこへ行くんですか?」
「私かい?私は王都さ」
「王都ってシャルディオ王国の?」
「そりゃその国にいるんだからその王都に行くさね」
「俺らも一度王都を経由するから丁度良かったんだよ。乗せてくれっていうから乗せたまでさ」
シャルディオ王国の城下町もとい王都はアーヴィスという名前で王都だけあって人の行き来も一番で商業人も多く来るからかなりの賑わいを見せてくれるらしい。
かなり楽しみである。この旅の一大イベントは間違いなく王都だと思っているぐらいだ。
「ところで坊やたちは見たところ魔法魔術適正があるみたいだねぇ」
「えっ、なんでわかったんですか!?」
俺たちの格好は魔術師からはとても遠い格好をしている。
冒険者の真似をして背伸びをしている子供と捉えられるぐらいの見た目である。
「私はそこそこ強い魔術師だからね、そのぐらいなら見ただけでわかるのさ」
「すげー」
感心するキースとアルト、あのカリラですら下準備が必要なのに見ただけとは恐れ入る。
そう思うとカリラってそんなに強くないんだなーって思ってしまった。
誠に失礼である。
「それでもう魔術は何か使えるのかい?」
「俺はまだ使えないですけどこいつ…キースが火系統のイグを使えます」
「そうかいそうかい、これからも励むんだよ」
魔法魔術適正は見破られたけどどうやら特異体質までは見破れなかったみたいだ。
その後も他愛のない話をしてその日を終えた。




