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第8話:主神パクス・エルクエンティア

 彼にしてみれば、ただ、神界が騒がしいと云う程度の認識だった。

 だが、騒がしいにしても活発過ぎる。

 コレは、平和を乱す事態かと思い、『平和を齎す者』としての側面を発揮すべきかと判断したから、その150億歳にも及ぶ、老神の重い腰を動かす事態となった。

 だが、騒がしいには騒がしいが、喧嘩をしている神々も居ない。

 ただ、魔王が戦争に興じているのが、非常に目障りだった。

 だが、魔王も充分に太い柱。

 戦争と云う手段は論外だが、パクス・エルクエンティアは『雄弁なる舌』と云う側面を発揮し、戦争を逸早(いちはや)く収める必要があった。

 だが、相手は旧(ふる)き魔王サタンだった。二柱共にだった。


「やれやれ、相手は『怒り狂った』話の通じない連中かよ」


 ところが、神界が騒がしいのは、二柱のサタンに直接関係するかも判らない事態のようだった。


『騒がしい』


 パクスは、一言のみを神界に報せた。尚、その声は魔王・悪魔の居る魔界にはクレイドルのような半神半魔王のような存在によって報せられ、天使の居る天界には『上位世界からの綸旨(りんじ)』のような形で報せられる。


『主神様だ!』

『主神様に声が届いたぞ!』

『主神様、訊いてくだされ!』

『新たな若返りの手段が見つかりました!』


「若返り……?」


 パクスは独り、呟いた。


「単に若返ってものぅ……」


『精神的疲労感が取れまする!』

『その手段となるスキル、『レベルサクリファイス』と申しまする!』


「なん……じゃと?」


 『レベルサクリファイス』。かつて、封印した筈の手段だった。


『どうなっておる!早めに報せよ!』

『取り調べたところ、『英雄』到達者からチカラを奪う為に行使し、『元英雄』殿がそのスキルを経験したことによって、スキル『レベルサクリファイス』に目覚めた模様』

『神々から、『若返りと共に精神的疲労感から解放される』と好評を博している模様』

『もうじき、『元英雄』殿がLV.999に到達する模様』

『『神龍クレイドル』より、主神様に対するレベルサクリファイスの施しと、『元英雄』殿のレベルキャップ外しを求められておりますが、如何致しましょうか?』


 パクス・エルクエンティアの、想定を軽く斜め上に飛び越えている事態。


『その、『元英雄』の為人(ひととなり)を纏めて解説せよ』

『至って善人普通人並の性格。『元英雄』の件(くだり)を誇ることもせぬ様子』

『ただ、『スレイプニル』を好んで狩り、その血肉を喰らって生き延びている模様』

『ただ、『柱』の自覚が未だ薄い模様』

『数値的強さは高し。だが、技術的側面にやや重度の難有り』

『但し、正しい魔法の行使法には目覚めている模様』

『コレも但し付きで、魔法の『具象化』には目覚めていない模様』

『肝心の神格レベルは未だゼロ!』


「大した脅威では無いのかのぅ……」


 ココに至って、主神パクス・エルクエンティアは『レベルサクリファイス』の施しを受けることを検討し始める。


「良かろう。その『レベルサクリファイス』とやら、受けてみようか」


『日程の調整は如何致しましょうか?』

『『元神龍』クレイドルに、都合を捩じ込みまする』


「今日、これからでも構わんだろうか?」


『ハッ!予定を捩じ込みさせまする』

『皆、主神パクス・エルクエンティア様のご意向である!全員、一致団結して動くべし!』

『『元神龍』クレイドル、応答せよ!』

『何じゃ。儂はそんなに暇では無いわ!』


「ほほぅ……『クレイドル』と云う名前じゃから、男かと思えば、小娘ではないかよ」


『……は?主神パクス・エルクエンティア様?

 何故!?どうして!?いつの間に?!』


「良いから、儂にも『レベルサクリファイス』を受けさせよ。

 儂の経験値を受け留められる人材なものか、その、『元英雄』──」


『アルト、でございます。『元英雄』アルト』


「アルトに伝えよ。今から、レベルサクリファイスを受けに行ってやると」


『は?今から?ココにお越しになると?』


「冗談で言っている訳では無い。

 今すぐ、用意して待て」


『は、ハハッ!お待ち申し上げまする』


「クックック……。さて。我が経験値を如何ほど受け止められるか、楽しみでもあるのぅ……」


 主神パクス・エルクエンティアは、傍のローテーブルの上の盃(さかずき)を持ち上げて、一息に飲み干した。


「どれ。如何ほどの疲れが取れるものか、楽しみであるのぅ」


 パクス・エルクエンティアは、転移の魔法を使い、アルト達の元へ向かうのだった。


✩★✩★✩★✩★✩★✩★✩★✩


「はっ?主神パクス・エルクエンティア様が、今、来られる?」

『そうじゃ。早々に『レベルサクリファイス』を施して、レベルキャップを外して貰い、早々に引き上げて頂くぞ!』

「そうは言われてもなぁ……スレイプニル肉を焼いて食事を摂ったら眠るつもりだったのになぁ……」


 その時、アルトとクレイドルの頭の中に、メッセージが飛んできた。


『何をのんびりと構えておるか。直ぐに着くぞ』


 その声が響いた直後、巨神と言っても良いサイズの図体をした男が一人──一柱、訪れた。


「ハッ!カ……クゥ……ッ。コレが、主神様の放つ、プレッシャー……?」


『早よせい。『レベルサクリファイス』を施せ。

 早く、この精神的疲労感から解放されたいぞ?』

『恐れながらパクス・エルクエンティア様、その威圧を引っ込めて貰わねば、この小僧がプレッシャーに耐え切られませぬ』

「ム?そうか。ならば、肉声で話すぞ」


 アルトが、ようやく一息吐き、パクス・エルクエンティアの前に跪く。


「『レベルサクリファイス』じゃ。早よせい」

「ハッ!然(しか)らば……『レベルサクリファイス』!」

「オオオオオオオッ!!」


 ダイ□ンの掃除機宜しく、アルトは急激に経験値(レベル)を吸い取っていった。

 途中で詰まったかのようにソレは一瞬、確かに止まったが、パリィンと云う音と共に詰まりの原因──レベルキャップは取り除かれた。

 その後、約3分。


「もう良い」


 レベルの吸い込みは止まっていなかったが、パクス・エルクエンティアは制止を掛けた。


「ハッ!今、止めまする!」


 アルトは今、初めて、『レベルサクリファイス』を自らの手で途中で止めることを試みた。今までは、『LV.1』になるまで自動的にレベルを吸い込んで自動的に止まっていたが、パクス・エルクエンティアに止めるように言われれば、止めるしか無かった。


「……こ、コレで止まったかと」

「ウム、心地良い。全部は拭い去れて居ないが、丁度良い頃合いじゃ。

 礼を言うぞ、『元英雄』アルト殿」


 そうして、パクス・エルクエンティアは、現れた時と同じように神出鬼没の如く消え去った。


「……今の、なんて化け物だ?

 レベルの底が見えなかった……」

『フム。流石は主神殿(どの)。レベルキャップを外す程度に加減してレベルを吸わせたか。

 或いは、LV.10000へのレベルキャップに向けての伏線か。

 レベルに呑み込まれてしまわなくて良かったのぅ……』

「クレイドルのレベルを吸い取った時よりも凄かった!

 流石は、パクス神話の主神、平和と弁舌を司るパクス・エルクエンティア様だ!」

『ウム……。誓約と契約の守護者にして、交易と路上の導き手、序でに心の鏡・精神の静寂たる存在(モノ)。かの神の手に拠れば、『七日間限り』と約束されていた戦争を、その約束を破り、逆らって戦争を続けた魔王共に、必ずや天罰が下ることだろう』

「だと良いがなぁ……」


 ふと、アルトは自らのステータスを鑑定し、そのレベルを見て軽く悲鳴を上げた。


「LV.1728……。700レベル以上上がってる……。

 こんなの、クレイドルの時以来だぞ?」

『知っとるか?レベルが上がり過ぎると、次のレベルに上がるまでにより一層の経験値が必要なんじゃぞ?』

「そりゃ知ってるが……流石は主神様だなぁ……」

『それとも別に、『創造神』なんて代物も居るが……このクソッタレの世界の『創造神』なんぞ、高が知れてるのぅ……』

「確か、この世界の『創造神』は、二柱の兄弟神である、だったか」

『二柱の兄弟神が融合した一柱の神々、じゃな。

 言うてて、矛盾が存在する気がするが、ソレで間違い無い筈なのじゃ』

「神格レベルの低そうな『創造神』だなぁ……」

『突き抜けて、神様失格の烙印の押された『創造神』だそうじゃ』


 アルトは、ふと天井を見上げた。


「今、全力で駆け抜けたら、一日でどのくらいの階層を駆け抜けられるだろう?」


 その言葉には、クレイドルにも答えが判らないのだった。


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