第7話:好評のレベルサクリファイス
ここ一週間、毎日神々に出会い、レベルサクリファイスを施したアルトが、ある疑問を抱くに至る。
「なぁ、クレイドル。お前、俺の情報を神々に売ったろ?」
『うんにゃ。儂はフォルトゥ・ブレサに報せたに過ぎぬ。その先の話の拡散は、フォルトゥ・ブレサが主犯じゃ』
「……本当だろうな?」
『儂が嘘を吐く利点なぞあるまい?』
クレイドルがそうして話を晦ましている最中にも。
『クレイドル、未だレベルサクリファイスのサービス終了には早すぎるの理解しているよな!?』
『ヘタしたら、800万日連続でレベルサクリファイスする事態に既に陥り始めているの、理解しろよ、クレイドル?』
『ココでサービス終了したら、クレイドルは魔王か邪神認定されるの、地味に草』
『大丈夫、クレイドルは解っている筈』
神々は勝手にフォルトゥ・ブレサが始めたクレイドル視線の配信を見て、ひと騒ぎしていた。
「どうでもいいけど、一週間に一度は休みくれよ。
毎日、神々と当たり前のように会っていると、こう……俺の心臓に限界が訪れそうなんだわ。
しかも、この超特級ダンジョンから、未だ脱出していないんだからな?その辺を考えてスケジュール組めよ?」
『ムッ……判った。そのような意向を守って貰うように、儂から明日の神を通して説明しておこう』
「神々独自のネットワークがある訳では無いのか?」
『無いとは言えん!あっても説明は出来ん!』
「ふぅん……」
クレイドルも心臓バックバクであるが、神々のネットワークはソレに考慮はしない。
『一週間に一度もの休みを設けては、最終的にどのくらいの遅延が訪れるのか、クレイドルは真剣に考えるべき』
『と云うか、アルトの小僧が800万日に休みも少なくとも100万日を加えて、900万日も生きて活動していられるものか、甚だ疑問』
『単純計算で2万年を超える。神格化して不老長寿になっても、尚厳しい』
『ヲイ、クレイドル。貴様、優先順位を間違えるなよ?』
『人間の身で、仮に神格化しても、不老不死は不可能。不老長寿のスキルを、誰か未だ比較的若い柱からアルトに与える必要有りと判断するが?』
『なぁ、アルト。不老長寿に興味は無いかのぅ……』
「は?まさか、神々の全てにレベルサクリファイスを掛けさせる為だけに、俺の寿命を延ばそうと云う目論見か?」
『ギ、ギクゥ!いや、そうではないのじゃよ。
単純に、長生きして貰えないかのぅ……と考えての』
この日は、月を司る兄と妹の双子の神々が『レベルサクリファイス』に訪れる予定だった。
どっちかを優先出来ないかとクレイドルはしつこく要望したが、双子の神々は順番を譲ってでもと、ほぼ同時の『レベルサクリファイス』を希望してのだ。
かなり早くから要望していたのに、一週間掛かったのはそう云う事情で、アルトもその条件を呑んでいる。
やがて訪れたのは、兄・アルテリスと妹・セレスティアだった。
アルテリスが司るのは、『月と満ち引き、静寂と潮汐』であり、潮の満ち引きに因る海の導き、夜の静寂、瞑想、記憶の蓄積と忘却と云う側面があり、セレスティアが司るのは、『月と夜空の光、夢と導き』であり、暗闇を照らす希望 (月光)、夢と潜意識の守護、旅人と夜間航路の導き、直感と云う側面がある。
2人は、強く同時での『レベルサクリファイス』を希った代償に、自らの象徴たる神器をアルトに授けた。
アルテリスからは、満ち欠けする銀の鏡と潮汐の錫杖に因り、静けさで世界の過熱を冷まし、生命の脈動と情緒を制御する象徴となるものを。
セレスティアからは、繊細な三日月の弓と、星くずのヴェールに因り、夜の恐怖を払う柔らかな光を与え、人々の夢や直感に働き掛ける象徴となるものが与えられた。
「「貴方に、良いツキが齎される事を」」
そうアルトは願われて、2柱は神界へと帰った。
アルトはポリポリと頭を掻いた。
「俺、神様たちからレベルを奪っているんだけどなぁ……」
『じゃが、結果的に神々を若返らせ、精神的疲労感を拭い去っておる』
「若返るのが素晴らしい事は、理解が及ぶ。
だが、その精神的疲労感、ってぇのはそこまでにツラいものなのかねぇ?」
『ツラい。故に、神々が自ら生命を断つ』
「そこまで!?」
ようやく、アルトの理解がそこに及んだ。
「女神様たちが若返りたいのは、理解出来る気がしていたんだ。
でも、神々ってぇ奴は、自ら死を選ぶ程に疲れていたのか!」
『当然、神格レベルを上げ直しする必要もあるし、多少の手間暇は掛かる。
じゃが、精神的疲労感が払拭されれば、その手間暇をも愉しむレベルで余力が出来る。
過去にも、違う手段で若返る神々は居た。
そして、アルト。一つ、疑問は無いか?』
「一つ?いや、かなり沢山の疑問があるが……」
『……本当にそんなに沢山の疑問があるのか?』
「いや、だって、『レベルサクリファイス』の情報が何処から漏れて神々に広まったのか、とか。
どうしてこんな超特級ダンジョンの下層にまでやって来るのか、とか。
そこまでの価値のある行ないなら、何で競い合って来ないのか、とか。
まだあるけど、挙げるか?」
クレイドルは、冷や汗を掻きながらアルトの挙げる疑問を訊いていた。
『……いや、ソレよりも重要な情報が未だあるじゃろう?』
「そうか?なら、クレイドルの考えてる一つにぶち当たるまで、挙げていくとしようか!」
『いや、ソレは今はいい!』
クレイドルは、初期の精神的疲労感と云うものは中々早く溜まって来るものだなぁ〜等と思いながらも、本題を切り出す。
『──何故、主神様が来られぬと思う?』
「──あっ、そうか。主神様の権限を以てすれば、最優先で『レベルサクリファイス』を受けに来る権限ぐらいはありそうなものだな!」
アルトは一度区切ってから言った。
「──何故だ?」
『──アルトのLV.1000へのレベルキャップ対策じゃ』
一瞬、何のことか解らなくなった。
だが、ああ、そうかと得心が行く。
「もうじきだもんな、レベルキャップのLV.999」
『そう、そのレベルキャップを外す大役は、主神様レベルの偉大な神にしか果たせない』
「……何で?今までもつい先日、LV.899からレベルキャップ外して、もうLV.999も近いじゃん」
『桁上りのレベルキャップは、それまでとはモノが違うのじゃ』
「じゃあ、近い内に主神様の『レベルサクリファイス』する予定を入れておいた方が良いのか?」
『ソレが中々難しくてのぅ……。
今のところ、主神様の関心を引くレベルでは無いのじゃよ。
じゃから、しばらくは無駄な経験値を積み続ける事になるじゃろうが、まぁ、大船に乗ったつもりで安心して待っておれ。
儂が、必ずしや近い内に主神様を引っ張り出す!』
「……クレイドルって、実はかなり位の高い柱の一柱だったりする?」
『ウム!正確には『気位が高い』じゃがな!』
アルトは少し考えてから呟いた。
「……ダメじゃん」
『なんじゃと!?コレでも、二柱分の役目を果たす運命に生まれ、今は何柱分の役目を果たす柱として、世界を破滅から防ぐ大黒柱として、死を許されずに生き永らえておったのじゃぞ?』
「……死のうとしたじゃん」
『それはッ!……じゃから、神々が精神的疲労感の払拭の為に『レベルサクリファイス』を受けに続々と来ておるのじゃぞ?!』
「……じゃあ、神々も魔王も天使も悪魔も、『柱』で数えられる存在は全て、この世を支える柱なのか?」
『ウム!魔王も悪魔も、悪性を持っていることは確かだが、無理矢理に悪役を押し付けられた者もおる。
じゃが、平和を求める魔王や悪魔も居る。
神々じゃからと言って、無差別に魔王や悪魔に喧嘩を吹っ掛ける神々なぞ、勝てるから『正義』を自称しているのであって、世界全体で言えば、柱を減らされる分、世界を支えるチカラで言えば、却って迷惑なのじゃ。
まぁ、悪魔に唆される人間が、いつの間にか魔王化してしもう場合もあるし、天使なぞ、魂を天界に運ぶ役目だけ考えれば、死神にも等しいのじゃぞ?』
「ふぅん……柱も大変な訳か。
因みに、魔王や悪魔がレベルサクリファイスを求めて来た場合、施した方が良いの?」
『奴らは、神々や天使に狩られることに警戒しておる。まず、『レベルサクリファイス』を求めて来る事は無いじゃろうよ。
まぁ、愉快犯も少なくない。『愉しさ』に飽きる者は少ないのじゃよ』
「クレイドルにも『魔王』の側面があるんだもんなぁ……」
『まぁ、そう云うことじゃ。アルトは余り気にせずに、求める者には『レベルサクリファイス』を掛ければ良いと思うぞ?』
「主神様が来るまでは、LV.999に到達することを目指しますかぁ〜♪」
その頃、神々の間では問題になっていた。
『クレイドルは簡単に主神様の話をしていたが、主神様が興味を持ってくれなければ、話にならんぞ?』
『誰ぞ、パクス・エルクエンティア様に話を持ち掛ける事は出来んのか?』
『総員、全力を以ってパクス・エルクエンティア様に働き掛けよ!』
『そもそも、未だ生きておられるのか?休眠状態である可能性もあるぞ?』
『クレイドルの野郎、簡単に口約束しおって!』
『じゃが、クレイドルも役目は果たして居る。ココは、儂らの出番じゃ!』
『誰ぞ、海神か星神に働き掛けよ!原始に近い奴らの方が、主神様に働き掛け易い筈じゃ!』
『一度で良いのじゃ。パクス様の重い腰を動かせよ!』
神界は今までに無く騒がしくなっているのだった。




