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第19話:助っ人

 宿の裏庭で夕飯前に身体の鍛え方を一通りウタンに叩き込むと、二人して疲弊した身体で宿に、夕飯を食べに戻った。

 そして、計算の勉強が順調で、一桁の足し算を一通り覚えたらしいことを確認し、そのイチコちゃんに、手を貸してくれそうな大人の人材の心当たりを訊き出してから、二人は遅めの夕飯を食べた。


「アルト。イチコちゃんの授業料は、アルトに請求していいの?」

「おう!途中の飲み物とかの代金も含めて、全部一度、俺に請求してくれ。後で、二人にある程度負担させる!」

「「えっ!?」」


 兄妹の声が揃った。まさかとは思うが。


「『あんパン』を売った時のお釣り、どうなった?」

「半金貨一枚は、私が持っています。

 お兄ちゃん、残りは?」

「……上納金として、四半金貨一枚、巫女様に支払った。残りは持ってる」

「待て。その巫女様、手伝いに人材として引き込めないか?」

「無理だよ!巫女様は、孤児皆の世話してるんだし」

「巫女様の周りの大人で良い。ウタンが鍛え上げるまでの繋ぎで良い。あと、巫女様を引き込めるなら、利益の中から、幾らかをパンに換算して支払う条件で、手伝って欲しい」

「聖女たる私の口添えがあれば、容易(たやす)いでしょうね」

「でも、皆が……病弱な子も居るのに……」


 アルトが、セレスティナと目を合わせ、同時に頷いた。


「イチコちゃん、明日は巫女様の場所まで案内して頂戴。病弱な子は治します。勉強はその後で」

「セレスティナ、警護員の代わりになる人材も探しといて欲しい。共に引き込みたい」

「判ったわ。恐らく、巫女様本人の護衛が居るでしょうから、その人を引っ張り込みます」

「頼んだ!キリカとクレイドルは、セレスティナの護衛を頼む」

「良きデス」

『儂を見て、襲って来るようなら、撃退するぞい』

「──で。出来れば、俺も顔合わせしたい。

 夕飯に二人乃至(ないし)三人を誘って、飯は奢ると云う条件で」

「了解」


 全ては明日の、恐らく話し合いで片が付くだろうが、その巫女様を代表に、イチコちゃんを会計に付けて営業する形を目指すことになるだろう。

 何にせよ、商業ギルドとの契約は大人がしておいた方が良い。子供だと、侮られて騙されていいように使われるだけがオチだ。

 しかし、そうか。孤児と云う身分故に、巫女様と云う伝があったのか。

 コレは、本当にイチコちゃんの普段の行ないに因る人間関係を頼るカタチになりそうだ。

 ソレは、ある意味、イチコちゃんの人徳に依るものだ。言うと調子に乗って失敗するかも知れないから言わないけど、イチコちゃんを褒めても良いぐらいのお手柄だ。

 あとは、巫女様たちの人柄が良ければ……と思わずには居られない。


✩★✩★✩★✩★✩★✩★✩★✩


 翌日も、パンはよく売れた。他のパン屋の営業妨害と訴えられないかと心配になる程だが、そもそも、価格帯が違う。他のパン屋とは競合相手にはならない。

 ただ、恐らくお貴族様たちに評判になってしまったらしくて、『あんパン』を100個仕入れられないか?との問い合わせがあり、料金前払いのキャンセル受け付け不可と云う条件を吹っ掛けて尚、求められた。半金貨一枚、チャリ〜ン♪の大儲けであったが、少し値引けぬかと言われ、最初は断ったが、押し切られて、四半金貨一枚と大銀貨二枚まで値引きした。それ以上は利益が出ません!と断り、ようやく折り目を付けた次第だ。それでも、利益は大銀貨四枚から税金を引き抜いた金額になる。実際には、人件費も差し引かねばならない。勿論、その他経費もだ。中々、商売甘くはない。税金だって、経費を確り計上して報告しないと、大銀貨一枚以上が抜かれるのだ、決して安くはない。


 何か、今やっていることが、フォルトゥ・ブレサ様の未練を晴らす為の筈が、やっていることがただの商売で、コレで良いのかとアルトは自分に問い質(ただ)したくなるが、そこはグッと我慢だ。実際、巫女様たちに任せられるようになれば、アルトの負担は大きく減る筈だ。

 それでも、イチコちゃんの算術の勉強が無事に済むまでは、パンを買う能力を巫女様に与えたら、意味が半減する。いや、もっとか。パンを買う能力は、イチコちゃんに与えねばならない。コレは、幼い内から算術を確り身に着けねば、多分、大きな硬貨での支払いに対してお釣りを返す際に騙されて、利益を大きく持って行かれる。そして、一度騙されると、ずーっと騙されることに繋がりかねない。実際、そう云う大きな硬貨での支払いに対する少額の商品への支払いでの詐欺の例は、算術を習う時に必ず学ぶことだ。

 アルトも、その手の計算は余り得意では無い。生涯で何度かは、誰しも騙されると云われる程である。

 何より、四半硬貨の存在が、計算をややこしくする。いっそ無くなれば良いのにと誰しも一度は思うが、ソコにも意味があって存在しているのだ。

 四半銅貨が存在しないのは、1円(サークル)以下の金額を発生させない為に他ならない。それ以上の意味は無い。


 さて。営業2日目にして、お貴族様からの大量注文が入った。コレは、取り入って庇護下に置かれるべきか、関わらざるべきか。相手が判らないと判断出来ない性質の問題だ。善良なお貴族様なら良いが、タチの惡いお貴族様なら、関わらないのは無理であっても、取り引き以上の関係にはなりたくないものだ。


 幸い、この街の領主は評判が良い。

 もしも貧民街一帯の行政改革にチカラを尽くしてくれるお貴族様なら──その場合、領主様であった方が都合が良い──、フォルトゥ・ブレサ様の未練を晴らす計画は、早々に終わるだろう。

 確か、ココの領主は子供の教育にもチカラを入れており、出来の良い子が後継ぎに選ばれる筈だ。その際、人柄や人間関係もキチッと取り調べて選定される。まぁ、条件としては惡くない。

 あとは、取り引きの継続を求められたら、何処のお貴族様の家からの取り引きなのか、訊き出して取り調べてみれば良い。もしも領主様の家ならば、イチコの算術の勉強が済むまでは取り引きを継続するべきだ。

 イチコが最終的な決定権を握る。ソレは恐らく間違いない。そして、巫女様の協力を得られていれば、巫女様は恐らく助言ぐらいはする筈だ。

 アルトは、勝手に算術の勉強が済んだら店をイチコに任せるつもりで居たが、本当は商売の勉強もしなくちゃならない。

 でも、1から10まで教える必要があるだろうか?それどころか、100まで教えないと失敗するだろうか?

 だが、失敗は貴重な財産なのである。何故なら、人間は失敗から多くを学ぶからだ。

 成功して学ぶことは、人を余り成長させない。むしろ、失敗した方がより成長する。

 そして、人間は失敗してからでないと、本当の自由を得られないのである。せいぜいが、犯罪を犯して法律(ルール)に逆らってやったぜー!等とドヤ顔してから、大きな罰を受けて後悔する程度が関の山だ。

 人間は、善良であるべきだ。だが、100%善良な人間なぞ居ない。せいぜい30%は悪性を持っているものである、或いはそうあるべきだと三島由紀夫先生も言っている。

 そして、善良な自分は自分の悪性を発揮したことを後悔するものである。善良な人間であればあるほど、悪性も強く、そして、後悔も深い。

 何故、人間は善良であるべきなのか。ソレは、頭が惡いと、過ちを犯してしまうからだ。しかも、誰よりも自分自身が後悔するカタチで。

 だから、フリだけでも善良を偽るべきだ。

 犯した罪の重さは、例え犯罪にならなくとも、誰よりも当人が知っている。その全てを人に打ち明けるなぞ、普通の人間は出来ない。ただ、墓まで持って行く覚悟を決めるのみだ。

 その上で、犯罪になる行ないは、自首してでも自分を止めるべきだ。犯罪にならない、例えば呪殺なぞ、その因果を証明する術が無いから、実際に犯罪になる例は少ない。しかも、呪殺する意思も無しに、人と云うのは割と簡単に亡くなってしまうものだ。

 将来、呪殺のメカニズムを解き明かすと、呪殺は犯罪になるかも知れない。だが、解き明かした者は、その因果関係を理に適った説明をすることが出来ない。ソレは、新たな呪殺の犠牲者の発生になるからだ。だから、『悪役』を押し付けられた人間は、人間の身のまま魔王と化し、無意識のレベルで呪殺を行なう。

 だから、『憤怒の魔王サタン』の発生に繋がる、イジメは絶対に根絶しなければならないのだ。

 アルトは、イチコやウタンをイジメたい訳じゃない。だけど、失敗させて学習させる為に、ワザと少しだけ意地悪な手段で二人を貧困から救う覚悟を決めている。──根本的な解決の為に。

 そして、その事業は少しだけ貧民街の皆の栄養レベルを上げることに通ずる。ズルいことをして助ける為に、『通ずる』とした。1000年の社会的な生命の為に、『ずる』を『づる』にはしなかった。

 俺の存在なぞ、サッサと忘れ去られるべきなのだ。

 だが、『魔王サタン』であり、『魔王ルシファー』の魂を宿した俺を、社会は1000年で忘れ去るだろうか?

 最早、『AI』とは共存共栄すべき相手である。

 試さない方が良いことを断った上で、『AI』で探れば、機能不全に陥るのと引き換えに、他国の軍事情報を仕入れることも、既に可能なのであることを報せよう。

 ドローン兵器を、惡いものと捉える人も多かろうが、コレが核を使うことと引き換えになら、第三次世界大戦は、核戦争にならず、ドローン戦争で済む可能性があるのは、大いに結構であると言えよう。

 但し、如何なる場合も、核兵器は使わないと云う前提での話である。

 最終的に核兵器を使うなら、やはり、例え世界統一国家を樹立させる為でも愚策である。

 人が何人死ぬとかのレベルでは無い。如何なる生命も健康に生きられない環境を作ってしまうのが、核兵器の恐ろしいところであるのだから。

 人間だけでは無い。全ての生命に関わる問題なのである。

 そして、アルトの住む世界は、核魔法『フレア』を禁呪指定している。

 シンプルな魔法で、比較的容易に使えてしまう辺りが、非常にタチが惡い。

 そして、『フレア』を禁呪指定して封印しているのが、聖女としてセレスティナが属している協会なのだ。その重要性は高いと認めざるを得ない。

 国際的な組織で、ある意味国よりも強い組織だから、紛争・戦争の類で『フレア』を使うことを厳しく禁じている。

 勿論、『フレア』の上位魔法全般を禁じている。

 もし、使用した場合、少なくとも生涯魔法を行使出来ない措置を取られる。

 巫女と云う存在も、聖女たるセレスティナとも深い関わりがある。

 そして、同時に『呪い』関係も全て禁じているが、コレを完全に取り締まるのは難しい。

 何故ならば、『呪い』の存在さえ知っていれば、コレも簡単に『呪い』を掛けることが可能だからだ。

 架空にでも良いから、魔王のチカラを借りると、もっと簡単に『呪い』は掛けられる。

 余りに容易な為に、その手段は敢えて記さない。

 コレを公開した場合、恐らく、法律で一定の文字の使用が禁じられ、まともに文章を書けなくなる事態に陥ってしまうだろうから。

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