第18話:露店初日
無事に屋台を使う契約をしたアルトたちは、屋台へと戻り、とりあえずのディスプレイを考えていった。
出来れば、パンの見た目は見せておきたい。
だが、風に晒すのはリスクがあった。
そこで、アルトが採用したのが、強化ガラス製の蓋付きのディスプレイだった。
アルトに強化ガラスの知識があった訳では無い。
ただ、ソレに相応しい物を検索していたら、丁度良いサイズに合わせて購入出来る強化ガラスの蓋を発見したのだ。
創造神の知識もサクリファイスして貰ったのが、検索する上で役に立った。
「ウタン、ちょっと良いか?」
「何だよ、おっちゃん」
「この蓋。紛失したら、調達が難しい。俺でないと、仕入れられない可能性が高い」
「……だから何だよ」
「毎日、持ち帰って、紛失せずに管理出来るか?」
「そんな価値のある物なら、持ち帰っても面倒の種だから、持ち帰りたくない!」
「じゃあ、持ち上げようとしたら強く痺れる魔法を掛けておくぞ?」
「……却って狙われないか?」
アルトは強化ガラスの蓋が狙われたら危ないと思い、ウタンは守って価値のあることを報せることが危ないと思う。認識の違いだが、アルトはそれでも守った方が良いと結論を出して、持ち上げられた際に強力な痺れを与える魔法を掛けた。ほぼ永続的に。壊れた際には、解けるようにもしておいたが。
「店で見ている間に狙う奴は少ないだろう。
店を閉める時に、シャッターを降ろして鍵を掛けられるようにしよう!」
「……そんなに簡単に出来るのか?」
「多少は手間だが、必要なことだ。
あと、商品は陳列し過ぎないこと!
大事なことだからな。坊主も覚えておけよ?」
「ふぅん……あ、そうか!売れ残ったら、処分しないといけないのか!」
「良い気付きだ。
今日は初日だし、あまり売れないだろうから……」
アルトは、様々なパンをその斜めに構えて設置しているショーケースの、半分程を埋めるように陳列する。
「良しッ!坊主、サンプルを渡しとくから、通り掛かった人に、『試食お願いします』と言って、配りまくれ。但し、四分の一に切ったサンプルを、一人に一つ限りな!もっと寄越せと言われたら、『じゃあ商品をお買い求めください』って言えば良い。摘み食いも禁止な!
ソレが守れたら、昼飯に好きなパン2個まで食べさせてやる!」
「えーっ!商品をタダで配るのかよ!」
「今日は物足りない奴が買ってくれれば、ソレで良い」
「おっちゃん、商才ねーんじゃねーの?」
「その評価が逆転するのを、キチンと客寄せして見守っていろ。
その内理解る」
このアルトの作戦は、商業と流転・旅路・知識を司る神様ネゴティア・アストラに『レベルサクリファイス』を掛けた経験から立てた戦略だった。一口サイズでも、充分に味を判って貰い、購買意欲を高める作戦だ。又、孤児に密かに少しだけ食糧を与える目的もある。ウタンが明日には孤児たちに情報を流すことはほぼ明確であり、その反応を見た客からの購買意欲を駆り立てるのも作戦の内。
正直、しばらく利益は出ない覚悟はしていた。
「良しッ!サンプルを用意する間に坊主は手を洗って待っていろ」
「坊主じゃねぇ、ウタンと呼べ!」
「お前もおっちゃん呼ばわりじゃねぇか。俺のことはアルトと呼べ。特別に呼び捨てすることを許す!」
「判ったよ、アルト!でも、もうお客さん来てるぞ」
「この洗面器の水で手を洗って、綺麗なタオルも用意しとくから、ソレで確り手を洗うンだぞ?
お客さん、いらっしゃい〜♪」
ショーケースを眺めていたお客さんが、値段の1個半銀貨一枚の表記を見て、「ゲッ、高い!」と言って、一人は去った。だが、二人はしばらく眺めていた。
その間にアルトはサンプルを用意すると、ウタンに渡して「出番だぞ!」と促した。
「試食お願いします〜!」
ウタンが二人に試食用に切り分けた『あんパン』を配ると、一人は黒い餡に気味悪がったが、それでも二人とも食べて、目を丸くする程驚いた。
「えっ!?こんなに甘いパンが、半銀貨一枚?」
「お土産に買って帰ろう。今の試食したパンはどれだ?四つ頂こう!」
「毎度あり〜♪」
ショーケースを開き、紙袋にあんパンを四つ詰めると、アルトはお客さんから銀貨二枚を受け取り、あんパンを包んだ紙袋を手渡した。あんパンは、今日は残り六個だ。
「折角だ、私は残り六個を全部買おう!」
「毎度あり〜♪」
早速、あんパンが品切れした。
「アルト〜、試食まだあるんだし、あんパンをもうちょっと売ろうぜ」
「なら、五個追加だ!」
『あんパン』は滑り出しは好調で、結局30個売ったところで試食が切れ、完売とした。
ココで昼飯の時間になり、ウタンと警備員のオッサンはお昼休憩に入った。だが、店は正に書き出し時で、次々と押し寄せるお客さんをアルト一人で捌く。
ウタンのお昼休憩が済むと、今度はクリームパンの試食を持たせ、アルトが半分お昼休憩を取り食事をすると、今度は午後3時のおやつタイムで客が押し寄せる。
その波が過ぎ去ると、クリームパンも試食が切れ、完売した。その次に試食に出したのが、ジャムパンだ。
この頃になると、屋台の評判を聞き付けたお貴族様の使いが適当に色々と商品を買い出しに遣わせる者もおり、惣菜パンも色々売れた。
ジャムパンは早々に試食が切れ、完売した。
「今日は、コレを配り終えたらウタンは仕事上がって良いぞ?」
「俺だって、働いてたンだ!店仕舞いまで、ちゃんと見届けてやらァ!」
アルトは感心して、売れ残りが出たらウタンに持たせてやろうと気持ちでは思っていたが、残念ながら、夕暮れ前には全て完売していた。
「初日からこの売り上げを出す店は珍しいなぁ……。
明日はもっと押し寄せると思うが、対処し切れるのか?」
「いやぁ~、初日の物珍しさでしょう!
明日からもしばらくは、変わりないと思うなぁ」
「……そんなものか?」
「期待したいのは、お貴族様からの大量発注ですねぇ〜。明日、一件あれば、大成功と云ったところですが……」
「ふぅん……、一週間は俺が警護に付いて見張るが、その後は知らんぞ?
はっきり言うが、目立ち過ぎだ。良くも惡くも」
「やっぱりそうか……。
ウタン、宿に戻って、夕食後に作戦会議だ!
イチコちゃんとも、打ち合わせが必要だ。
あと、金は開業資金になるから、なるべく取っておけよ」
「なら、アルト。今日の俺の賃金は?」
「イチコちゃんの教育費を請求されるのと、相殺するの、ドッチが良い?」
「……相殺する」
「なら、夕飯は二人とも、宿で食べさせてやる。
イチコちゃんの勉強の進行具合も確かめておきたいしな!」
「なぁ。イチコに営業なんて出来るのか?」
「その人手を、二人の人脈から探り出したいところなんだがな」
「じんみゃく?手伝ってくれそうな心当たりの人か?
相談してみないと何とも言えないけど……」
「そうか……。帰りに、食パン一斤持たせてやる。交渉のカードとしての使い方は……多分、イチコちゃんの方が向いているだろうな」
「なッ……!俺だって、交渉ぐらい……」
アルトは、ウタンの頭に手を置き、グシャグシャッと髪の毛を撫で回した。
「良いか、ウタン。世の中を上手に動き回るには、ある程度の計画性と、ある程度の……そうだな、犯罪にならない程度の計算高さが必要なんだ。
ウタン、お前に計算は出来るか?」
「うッ……!確かに、計算はイチコの方が出来る!
でも、兄貴の尊厳が……」
「兄貴の尊厳で飯に困らないのでも無ければ、そんな尊厳、捨ててしまえ!
お前に出来ることは、身体を鍛えることだ。
大きくなった時に、イチコちゃんと店を見守ることが出来る程度には鍛えろ!兄貴の尊厳なんて、その後で勝手に付いてくる!」
「……本当だろうな、アルト?」
「ああ。ウタン、お前が目指すべきは、今日の警護員の、あのオッサンだ」
「えー!あのオッサン、槍を持って突っ立ってて、あとは昼飯喰ってただけじゃん!」
ウタンには、本当に表面しか見えていないのだなと、アルトは気付いた。
「いいか?あのオッサンが居てくれたお陰で、タチの惡い客が寄り付かず、万一トラブルになったら、身体を張って店を護ってくれる。
今のお前に、ソレが出来るか?」
「うー!そりゃ、出来ないけど、いつどう鍛えりゃ良いんだよ!」
「いつ、は手が空いた時だ。
どう、は夕飯前に軽く一通り仕込んでやる!
毎日、最低限やることは決めて、寝る前の時間で良い、キッチリと鍛えろよ?
将来で良いから、ウタンのちょっと良いトコ見せたいだろ?」
「確りとした鍛え方、教えろよな!」
「良しッ!そのやる気に免じて、鍛え方はロハで教えてやろう!」
「……ロハ?」
「金は取らねぇ、って意味だよ!
さ、軽く掃除したら宿に帰るぞ!」
アルトは鍛え方のメニューについて考えながら、掃除も確りして、シャッターを降ろして鍵を掛け、宿へと向かった。
尚、警護員のオッサンは、営業の終了を告げると、翌日の営業開始時間を訊き出し、そのまま帰ってしまっていたのだった。




