第17話:商業ギルドと露店
翌日、朝から兄妹は宿にやって来て、ちゃっかり朝食を三人と一柱と一緒にして、イチコはセレスティナとそのまま宿の食堂で勉強会に、ウタンはアルトと一緒に屋台で商業に出掛けた。
アルトは先ず、商業ギルドに手続きをするのにウタンと一緒に向かった。
商業ギルドの受付に行くと、露店出店の窓口に案内された。
「始めまして。露店出店の手続きですか?」
「はい。商材はパンです」
「パンですかぁー……。申し訳無いですが、出直されることをオススメ致します」
「あー、一般に屋台でパンは売られてないのですね」
「逆ですね。パンの屋台が多過ぎて、新規参入店は常連さんを確保するのが難しいから、勧められません」
「ソレでしたら問題ありません。他の店では出すことが難しいパンを扱いますので」
「成る程、商品に自信があると。
食中毒を起こした時の為に保険に入られることをオススメ致します」
「偽りの食中毒でも、対処して頂けますか?」
「取り調べを確りと執り行ないますので、ご心配無く」
「保険料は?あと、補償額は?」
「保険料は、パン屋の露店ですと、月に大銀貨一枚で、補償額は、程度に応じて最大金貨一枚までになります」
この時点で、アルトはこの保険はイマイチだなと思っていた。だが、保険に入ることが露店を出す条件かもと思って、確認することにした。
「因みに、保険に入らなければ、露店は出せませんか?」
「そう云ったお店は、悪質な食中毒詐欺のカモになって潰れることが定例ですから、是非とも、保険に入られることをオススメ致します」
「……判りました。今月分を支払っても?」
「はい、承ります。
では、サンプルを提出して頂くことになりますが……」
「は?商品の全てですか?」
「いえ、主力商品だけで構いません。お持ちになられていないようですが……」
「いえ、一番の主力商品だけで構いませんか?」
「……?はい。ソレをお願いします」
アルトはチャージしていたお金(円)で『あんパン』を1個買い、取り出して差し出した。
「──コチラの『あんパン』になります」
「……!インベントリ持ち!」
「え?……ああ、はい。そうですね」
インベントリでは無かったが、咄嗟にそうしておいた方が良いかと、頷くことにした。
「了解致しました。
空きの露店への案内を致しますので、少々お待ちください」
そう言って、案内嬢がベルを持ち上げ鳴らすと、間もなく屈強なオッサンがやって来て、案内嬢と打ち合わせした。
「待たせたな。案内するぜ」
「お手柔らかにお願いします」
「契約書を用意しておきますので、出店初日の前日には記名・契約をお願いします」
「……は?」
案内嬢の言葉に、アルトは軽く吃驚して、言葉の意味を考えた。
「さては、今日から出店出来ると思って来たな?」
「……何か問題でも?」
「まぁ、露店を見りゃ理解る」
この時点で、アルトは何らかの洗礼があるものだと覚悟した。
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「ココがお前たちに貸し出される露店だ!」
案内されると、予想の想定内で、キチンと清掃しないと使えないような状態の露店が用意されていた。
「じゃあ、清掃が終わったら、商業ギルドに手続きに来てくれ。一週間は俺が警護に見張ることになる」
そう言うと、案内のオッサンは商業ギルドに戻ってしまった。
「うーん……」
「掃除だけで一週間掛かりそうだな」
「その代わり、ちょっとした調理をする設備は整っているが……」
ぶっちゃけ、掃除だけで一週間なぞ、やってられない。だが。
「良しッ! 一気に掃除してしまおう!」
「やるか、おっちゃん!」
「異空間収納!」
露店が丸ごと収納される。そして、汚れだけを分離して──
「召喚!」
再配置する。コレで営業開始と即には行かないが。
「良しッ!ウタン、商業ギルドで契約をして来るぞ!」
「ほぇー……掃除はコレで終わりで良いのか?」
「準備万端では無いが、昼までに出品しないと、売り上げ伸ばせないぞ!」
「判った!行ってくる!」
「お前だけに任せられる訳が無いだろう!」
二人で商業ギルドまで駆けて行き、先ほどの受付に駆け込む。
「掃除は終わった。今日から営業出来るように、手続きをよろしく頼む」
「汚い露店に、客など寄り付きませんよ?」
「汚いかどうかは、お客さんに判定して貰おう。
さぁ、手続きを頼む」
「半端な清掃だと、食中毒の原因を疑われかねませんよ?店側に責任有りと見做されれば、保険金は降りませんよ?」
「問題無い。
さぁ、手続きを頼む」
「……ッ!判りました。
コチラの契約書にサインを」
「その前に、契約書を確り読ませて貰うぞ?」
「……ッ!ご自由にどうぞ」
「ご自由にと云うか……当然の権利と、本来は義務化するレベルの問題だがな」
それから、契約書を熟読する。
……一見、問題は無い。だが。
「この、一週間の警護員を配置すると云うのは、無料のサービスか?」
「ええ。他にも、場合に応じて、依頼があれば警護員を配置致します」
「警護員の飯や居場所は?」
「基本的に、屋台側で提供して頂きます」
「で、その上で利益の30%もの税金?」
「ええ。値段に上乗せしてでも、確保して下さい」
「そうか……半銀貨で売れっかなぁ……?」
「は?先ほどの商品が?半銀貨もの料金で?
ハッ!売れる訳が無いでしょう!」
「うーん……その位の値段付けないと、保険金と税金で全部持って行かれる……」
「でしたら、保険を取り消しますか?今なら、保険料の半額をお返ししますよ?」
「……そうか、そうやって儲けているのか……。
いや、この条件で契約しよう!
ウタン、お前、署名……なんて出来る訳ないよな。
まぁ、覚悟していたことだ。一旦、俺の名義で契約しよう!
ペンとインクを。署名する!」
「一度の貸し出しで、銀貨一枚です。尚、持ち出し厳禁です!」
「……ホントに、ケツの毛まで毟るような根っからの商人気質なんだな。
ホラよ、銀貨一枚だ」
ただ、貸し出しに料金を要求されるだけあって、ペンとインクは上質だった。滑らかに署名を書き込める。
その時、奥の部屋からツカツカと、偉そうな商人がやって来た。何の用事なのか、アルトの相手をする受付嬢へと話し掛ける。
「先ほどの甘いパン、アレを持ち込んだ者は今何処に居る?」
「えっ?あ、はい。今、目の前に」
「……そうか。(コホンッ)あー、先ほどのサンプル商品だが、大量の砂糖が使われていたと思うが、仕入れ先を確認したい」
「あー……商品を直接仕入れているので、砂糖がどの経路で混入しているのか、全く判りません」
「ムッ!商品の仕入れ先は?」
「勘弁してくださいよ〜、仕入れ先は営業機密です」
「開示出来ない、と」
「まぁ……ぶっちゃけると、スキル由来のものですけどね」
「ムッ!……そのスキル、見せては頂けぬか?」
「あー……まぁいいですけど、対価が必要なので、半銀貨一枚お願いします」
「その程度はサービスせぬか!」
「……特別ですよ?」
アルトは仕方無しに『あんパン』を購入して差し出した。紙製の袋付きだ。
「コレが半銀貨一枚?……まぁ、売れるであろうな。
だが!品質を調べさせて貰おうか!」
恐らく商業ギルドの偉い人が、『あんパン』に手を伸ばすが、アルトはそう簡単に渡さず、その手から避けて、偉い人がシビレを切らした。
「ええい!寄越さぬか!」
「……半銀貨一枚」
「何だと?!」
「スキルを見せるのは約束を果たした。
半銀貨一枚で売れる商品を渡すなら、ソレ相応の対価を支払うのが、商人の流儀ではございませんか?」
「クッ……!言えてる。お主、商人の才があるやも知れぬぞ?」
「──で、お支払いは?」
「仕方あるまい。ホレ!」
代金として、金貨が支払われた。
「……釣りは必要で?」
「当然じゃ!」
「なら……半金貨一枚と四半金貨一枚、大銀貨二枚、四半大銀貨一枚に銀貨二枚……で、問題無いでしょう?」
「ムッ!……算術ぐらいは出来るか。
せいぜい稼いで、税金を期待しておるぞ?
……で、商品を渡さぬか!」
「はい、『あんパン』でございます」
偉い人は、上機嫌で部屋に戻って行った。
やはり、この世界で砂糖は人を狂わせる魔力のようなものが宿る程の価値がありそうだった。




