客席からの視線と、本当の「中身」
フロアに出て、満席の客席を見渡す。その一番奥の席に、ヨレヨレのTシャツを着て、つまらなそうにコーヒーを飲んでいる男の姿があった。――俺の身体(中身は真鈴)だ。彼女は、自分の身体がフリフリのスカートを揺らし、男たちに「萌え萌えキュン❤️」とポーズを決めさせられている姿を、眉をひそめて睨みつけていた。俺(真鈴の身体)はトレイを抱え、逃げるように俺の身体(真鈴の中身)の席へと向かった。「……世古、助けてくれ。もう恥ずかしすぎて死にそうだし、男どもの視線が胸とスカートに集中してて気が狂いそうだ」真鈴の声で蚊の泣くような声で訴えると、俺の身体をした真鈴は、コーヒーをゴク大雑把に飲み干してフッと笑った。「だらしないわね。でも、まぁ……衣装の着こなしは合格点よ。私の身体を綺麗に見せてくれてる」彼女は俺のゴツゴツした太い手で、俺のメイド服の胸元のリボンを、キュッと少しきつめに結び直した。「リボンが緩んで、さっきから谷間が見えすぎ。男たちの前で、私の身体を安売りしないで」男の低い声で囁かれる、女の子としての注意。「あ、ああ……すまん」自分の本来の顔に見下ろされ、真鈴の身体を持った俺は、股間のむずがゆいような、心許ない感覚を意識しながら、コクコクと頷くことしかできなかった。「ほら、次のお客さん呼んでるわよ。頑張りなさい、看板娘さん」俺の身体で男らしくニヤリと笑う真鈴と、真鈴の身体でメイド服の裾を握りしめて顔を赤らめる俺。大学祭の喧騒の中、俺たちは誰にも言えない秘密を胸に、互いの境界線が溶けていくような奇妙な高揚感の中にいた。




