君の名は
プルルル、プルルル。3回目のコールの後、カチリと音がして電話が繋がった。『……もしもし。あの、落ち着いて聞いて』スピーカーから聞こえてきたのは、紛れもない俺自身の低く聞き慣れた声だった。しかし、その口調はあまりにも冷静で、どこか冷徹さすら含んでいる。「世古……なのか? 俺、お前の身体に……!」『そう、世古真鈴。信じられないけど、私、あなたの部屋で、あなたの身体で目が覚めた。……正直、今すぐ叫び出したい。でも、パニックになってる時間はないの』電話の向こうの彼女――俺の姿をした真鈴――は、深くため息をついた。その息遣いが、かつてないほど野太い男の音として響くのが妙に生々しい。『ねえ、確認だけど……あなた、私の身体、変な風に触ってないでしょうね?』その言葉に、俺はビクリと身体を跳ね上げた。今まさに触れていた胸の柔らかい感触と、股間の圧倒的な喪失感の余韻が指先に残っている。顔が一気に火を噴いたように熱くなった。「い、いや! 触ってない! ……いや、ちょっと待て、違和感がすごすぎて、その、確認はした! 減るもんじゃないし……!」『減るわよ! バカ!』俺の声(真鈴の声)で怒鳴る俺自身の声。脳がバグりそうな空間に、彼女の冷たい声が突き刺さる。『いい? 今の私の身体は、今月が締め切りの国際アニメ映画祭(ANIAFF)のメインプロジェクトを抱えてるの。あなたが変な興奮をして脳のキャパシティを使わないで。それより、今すぐやらなきゃいけない現実的な問題があるでしょ』「現実的な問題……?」『トイレよ。あなた、まだ行ってないで書斎の鏡の前にいるでしょ。その身体の構造、男の時とは全然違うんだから』




