境界線を越えたリスペクト
夕方、俺のマンションの部屋。命からがら帰宅し、サニタリーショーツを脱ぎ捨ててベッドに突っ伏す俺の元へ、俺の身体(中身は真鈴)が帰ってきた。「おかえり……。世古、プレゼン、通ったぞ……」「知ってる。佐藤くんから連絡が来たわ」真鈴は(俺の姿で)ベッドの脇に腰掛け、俺の頭を不器用に、けれど優しくポンポンと叩いた。男の大きな手が、今の俺(真鈴の身体)にはとても温かく、安心するものに感じられた。「ありがとね。私の代わりに、あの地獄の2日目を耐えてくれて」「本当に地獄だったよ……。お前、毎月あんな痛みを抱えながら、あんな凄いデザイン描いてたのかよ。信じられないわ。男の俺たちなんて、めちゃくちゃ甘えて生きてたんだな……」真鈴は少し驚いたように目を見開いた後、俺の顔で悪戯っぽく笑った。「ふふっ。分かってくれたなら、身体を貸した甲斐があったわ。……でも、あなたの身体も結構大変よ? 毎日髭は生えてくるし、さっき拓海くんに『お前最近、立ちションの時いつも個室入るの何で?』って怪しまれたんだから」「あ、それ言うの忘れてた……」二人の間に、ドッと笑いが起きた。身体はまだ戻らない。生理の痛みもまだ完全に消えたわけではない。けれど、性別の壁を越え、お互いの「生きる過酷さ」と「凄さ」を一番近くで知った俺たちには、もう恐れるものなど何もなかった。




